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週刊国際海洋情報(2023年1月20日号)

1.欧州と極圏が2022年中に気候温暖化の影響を最も激しく受ける

欧州の気候衛星観測システムであるコペルニクスによれば、全地球で見ると2022年は史上5番目に気温が高い年となった。欧州は、過去30年間の気温上昇が、地球の他の大陸に比べて、2倍以上のペースで進み、欧州の2022年の夏はこれまでで最も暑い夏となった。ラニーニャ現象が3年目に入り、海水温を下げるのに寄与したにもかかわらず、2022年の世界の気温は、1991年から2020年までの30年間の平均気温と比較すると、約0.3℃高くなり、産業革命以前の1850年から1900年までの50年間の減金気温と比べると既に約1.2℃高くなっている。英国を含む多くの欧州諸国は、猛暑と干ばつで、史上最高気温を更新した。欧州では10月に入ればふつう涼しくなるが、2022年の10月は平均気温より2℃気温が高い状態が続いた。北極圏・南極圏も記録的な高温を記録し、いくつかの場所では、1991年から2020年までの30年間の平均気温より2℃以上高温となり、シベリア北西部では3℃以上高温となった。

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BBC (1/13)


2.Decarbonising Transport:A Better, Greener Britain

1月13日、英国政府が標記報告書を発表したところ、海運関係の目標については以下のとおり。①内航海運については、炭素中立実現のため、2030年までの削減率を定め、実現可能な限り早急に炭素中立化を図る。②CO₂を排出する新造船の販売を禁止するタイミングについて協議を開始する。③内航海運の脱炭素化を進めるため、どのような経済的な手法が有効か検討を実施する。④海運脱炭素化のための技術開発とインフラの整備を加速化する。⑤国内港湾における陸上電源の整備を支援・義務付けるための段階的な手法について2023年中に協議する。⑥他の輸送モードに適用されている「再生可能交通燃料使用義務(Renewable Transport Fuel Obligation:RTFO)」を海運にも適用し、海運において非バイオ再生可能燃料の利用を支援する。⑦外航海運については、2023年に実施されるIMOのGHG削減のための暫定戦略の見直しにあたり、海運の脱炭素化が加速されるよう要請する。⑧海運のGHG排出を規制し、英国内とIMOで実施される対策の有効性を検証するために必要な正しい情報の確保に努める。

原文

英国政府 (1/13)


3.スウェーデンの鉱山会社が欧州最大のレアアースの鉱脈を発見

1月12日、スウェーデンの国営鉄鉱石採掘会社のLKABが、電気自動車や風力発電のタービンの生産に不可欠なレアアース元素の鉱脈を発見したと発表した。この発見によって、EUのエネルギー転換のために中国に依存する比率を減らすことができる可能性がある。鉱脈は同国北極圏の北端のKirunaで発見され、100万トン以上のレアアースの酸化物が含まれている。米地質調査所によれば、この新たな鉱山は欧州最大ではあるが、全世界で発見されているレアアースの量は1.2億トンなので、全体の1%にも満たない量ではある。発見されたレアアースはプラセオジムとネオジウムの酸化物で、電気自動車生産に使用される特殊な磁石の原料となる。LKABによれば、この発見によって、欧州で生産される電気自動車の磁石の原料の大部分を賄うことができる。しかし、採掘許可が迅速に出されても、実際の生産開始までには、10年から15年かかると同社は予測している。

原文

Euronews (1/15)


4.キプロス:露産原油上限価格制支持の見返りにトン数標準税制の自動更新を要求

ウクライナ戦争遂行のための露の資金調達力を抑制する一方で、世界の原油取引市場の安定性を維持するため、G7・豪・EU加盟国は、12月5日に、海上輸送される露産原油に対して、60ドル(約7700円)の上限価格制度を導入したが、この際に欧州委員会は、ギリシャ・マルタ・キプロスなどのEUの海運国に対して、これらの国の海運産業が制裁措置に参加することによって被る損害に対する何らかの見返りを2月5日までに決定することを約束している。この約束を受けて、キプロスはEUの中で3番目の海運国だが、商船隊に占めるタンカーの割合は約10%と多くないものの、上限価格制度の導入について協議が行われた昨年の10月から12月の間において、管理するタンカー船隊の20%を既に喪失しており、同国は今週(1月9日の週)欧州委員会による見返りの案としていくつかの案を同委員会に提出した。トン数標準税制は、EU域内の加盟国の競争条件の均衡化の観点から、10年ごとに欧州委員会から延長の承認を受ける必要があり、キプロスについては、2019年に10年間の延長を認められているが、2029年の次回延長審査の際に、欧州委員会が自動的に10年間の延長を認めることが提案の一つとして盛り込まれた。

原文

Reuters (1/15)


5.DNV:Ship Managerソフトがサイバー攻撃を受け約1000隻の船舶に影響

1月7日、DNVのShipManagerシステムがランサムウェアの攻撃を受け、同システムのITサーバーを閉鎖したと発表した。同ソフトウェアを使用している船舶は同システムのオフラインの部分は引き続き利用ができる。DNVの他のソフトウェアやデータは今回の攻撃の影響を受けていない。同社は世界のITセキュリティ専門家とともに、攻撃を分析し、システムの復旧を急いでいる。同社は同ソフトウェアを採用している顧客70社と連絡を取り、最新の情報を提供しているが、同ソフトウェアを採用している約1000隻の船舶に影響が出ている。

原文

DNV (1/17)


6.欧州委員会:企業に温暖化対策が実効的なものである立証を要求へ

「炭素中立」とか「リサイクルされた原料を使用」などと、企業が自社製品に対して環境上の利点を強調する150の実例について、欧州委員会は2020年に調査を実施したところ、53%の表示が曖昧だったり、誤解を招きやすいものだったり、科学的根拠のないものであることが判明した。この結果を受けて、消費者が偽りの宣伝に惑わされることを防ぐため、企業に対して環境上の利点が事実に基づくことを科学的に証明することを求める規則案を欧州委員会は作成した。大気汚染や地球温暖化への影響など16の基準に従い、環境上の影響を測る「製品による環境上の影響(product environmental footprint)」枠組みなど科学的な方法によって、企業が主張する環境上のメリットについて、EU加盟国は検証する義務を負わされることとなる。環境上の虚偽の主張(green washing)を防止することによって、商品の環境上の性能について公正な競争を担保することが目的とされている。

原文

Reuters (1/17)


7.ダボス会議がはじまり、活動家からGreen Washingの懸念が表明される

50か国以上の首脳と国際機関のトップ、経済界首脳が集まって、16日からダボス会議(世界経済フォーラム:WEF)が始まった。今年のテーマは「分裂した世界の協調」で、気候変動問題が中心となるが、多くの石油ガス業界のCEOによって世界のリーダーが懐柔されないか活動家は懸念を表明している。先週(1月9日の週)にScience誌に発表された報告によれば、Exxon Mobileは自社の科学者が1970年代から現在の地球温暖化を正確に予測していたにもかかわらず、同社は意識的に気候変動を過小評価するキャンペーンを続けてきた。環境活動家のNakateやGretaもダボス会議に参加し、石油ガス産業のCEO達に新たな石油ガス田の開発を中止するように求める予定。環境活動家は先進国に対しても、途上国に対するclimate financeの強化に向けて圧力を強める見込み。WEFは1月11日に年次報告書を発表し、気候変動は長期的課題になかで中心的な存在であるが、各国政府はまだ真剣に取り組んでいないと指摘している。

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Euractiv (1/18)


8.欧州委員会委員長:米中に対抗して新たに多様なクリーンエネ支援を表明

1月17日、ダボスで開催中の世界経済フォーラムで、欧州委員会委員長は、炭素中立への転換に伴い、欧州の企業が中国や米国に流出しないようにEUはGreen Dealに従い、広範なclean energyに関する助成制度を創設する一方で、企業に対しては規制の強化も図り、2050年炭素中立に向けて、エネルギー転換を主導すると表明した。米国は昨年の夏に、インフレ削減法を成立させ、エネルギー・環境関連産業に対し、3690億ドル(約48兆円)の支援を準備しており、欧州の環境関係企業が米国に移転することを欧州委員会は懸念している。一方で、中国も安いエネルギー・労働コストとより緩い環境規制を活用して、電気自動車や太陽光パネルの生産について世界的に支配しているとして、警戒感を表明した。欧州委員会としては、新たなclean energy事業の許可手続きを短期間・単純なものとするため、暫定的にEUの国家助成に関する規則を柔軟に運用し、ロシアとの関係では、EUは既にロシアからのエネルギー供給の約8割について、他の代替エネルギーに切り替えており、1年以内にロシアへの危険な依存は克服されるとも表明した。

原文

The Hill (1/18)


9.IEA:クリーンエネ関連の市場は2030年までに3倍、雇用も2倍以上に拡大

国際エネルギー機関(IEA)がEnergy Technology Prospective 2023を発表したところその概要は以下のとおり。①世界の各国が現在発表しているエネルギー転換・気候変動に関する目標を実行すれば、clean energy技術に関する主要な製造業の市場規模は、2030年までに6500億ドル(約83兆円)と現在の3倍の規模に達し、これに関連する雇用人口も現在の600万人から1400万人へ2倍以上に拡大し、その後もエネルギー転換に従い、順調に拡大することが予測される。②一方で、 clean energy技術に関するsupply chainsについては、原料の生産・加工拠点が、地域的に集中しているというリスクがあり、具体的には、太陽光パネル・風力発電のタービン・電気自動車のバッテリー・グリーン水素生産のための電解槽・ヒートポンプについては、3大生産国が、各品目とも少なくとも70%以上のシェアを握っており、特に中国が全ての品目について独占的な地位を築いている。以上の製品の生産に不可欠な希少金属の生産国は少数国に限定されており、例えば、コンゴ民主共和国はコバルトの生産量の70%以上を、豪・中・チリの3か国で、世界のリチウム生産の90%以上を握っている。

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IEA (1/20)


10.欧州の航空会社:短距離航空路線の休止に対し「移動の自由」を盾に反論へ

航空輸送から排出されるCO₂削減を目的として、仏政府はCDGを発着する短距離国内3路線の3年間の休止を提案し、昨年12月に欧州委員会の承認を得たが、欧州の航空業界としては今回の事例が悪しき前例となって、欧州全域の短距離航空路線の廃止につながるとして、正式な訴訟は提起しないものの、仏政府の決定は、欧州基本法に定める「移動の自由」を侵害するとして、反論していくと表明した。さらに、仏空港組合によれば、今回休止の対象になる3路線から排出されるCO₂の量は、仏の航空輸送全体から排出されるCO₂の量の0.23%にすぎず実質的なCO₂削減効果が無いと指摘している。一方、環境団体は仏政府の決定を、航空分野から排出されるCO₂を削減するための貴重な第1歩であると評価しつつ、今回の措置では不十分として、これまで主張してきた「飛行時間6時間以内」の航空路線の廃止を引き続き求めていく構え。

原文

Reuters (1/20)


その他のニュース

1.海運の脱炭素化
 (ア)港湾
  ①GreenFreePort
   英国:新たに2港をGreenFreeportに指定 原文(1/17)
2.エネルギー転換
 (ア)石炭の取り扱い
  ①ブルガリア
   議会が政府に脱炭素化計画の後退を圧倒的多数で求める 原文(1/15)
 (イ)化石燃料資産価値の下落
  ①金融危機
   金融機関は脱炭素化に伴う化石燃料資産価値の下落に備えるべき 原文(1/13)
3.気候変動
 (ア)異常高温
  ①2022年の分析
   WMO:2022年の世界の平均気温は産業革命以前より1.15℃上昇 原文(1/15)
 (イ)火山噴火の影響
  ①トンガの海底火山
   火山の爆発によって地球温暖化が一時的に1.5℃を超える見込み 原文(1/16)
 (ウ)リスク情報の開示
  ①金融機関
   米大手銀:7月までに気候変動が経営に与える影響をFedに報告 原文(1/18)
4.気候変動緩和対策
 (ア)カーボンクレジット
  ①カーボンクレジットの信用性
   アマゾン熱帯雨林carbonoffsets事業の90%は炭素削減効果無し 原文(1/20)
 (イ)森林の保全
  ①アマゾン
   人工的に開発された地域ではGHGの吸収量より排出量が上回る 原文(1/18)
5.海洋環境
 (ア)海洋プラスチックごみ
  ①輸出の停止
   欧州議会:プラスチックごみの輸出を原則禁止へ 原文(1/20)
6.環境問題一般
 (ア)オゾン層の破壊
  ①モントリオール議定書
   オゾン層が40年以内にオゾンホールができる前の状態に回復 原文(1/10)
7.海賊
 (ア)世界全体
  ①ICC/IMB
   2022年に発生した海賊・武装強盗件数は過去最低に 原文(1/13)