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国際海洋情報(2022年12月26日号)

1.欧州理事会と欧州議会がEU ETSの見直しについて実質合意

EUの排出権取引制度(EU ETS)は、EUが排出するCO₂の約4割をカバーし、2005年の導入以来、EUのCO₂排出量は41%減少した。12月18日、欧州理事会と欧州議会は、EU ETSを見直しについて合意したところその概要は以下のとおり。①ETS適用対象部門から排出されるCO₂の総量を2030年までに62%削減する。②自由排出枠の削減率を2024年から2027年までは年間4.3%とし、2028年から2030年までは同4.4%とする。③炭素国境調整課税制度(CBAM)については、セメント・アルミ・肥料・電力・水素・鉄/鉄鋼などのエネルギー多消費型の製品を対象とし、これらの製品製造に対して現在認容されている無料排出枠は、2036年から2034年まで段階的に廃止し、この期間中CBAMは無料排出枠が削減された割合に応じて適用される。④建物と道路交通については、既存のETSとは別枠のETSを新たに創設し、排出権は、建物・陸上交通に燃料を供給する事業者が購入義務を負い、新ETSは2027年から適用され、無料排出枠の削減率は、2024年から2027年までが5.15%、2028年以降が5.43%となる。

原文

欧州理事会 (12/26)


2.EU ETS Maritime:欧州理事会と欧州議会の実質合意の概要

EU ETSの海運に関する欧州理事会と欧州議会の実質合意内容の概要は以下のとおり。①ETSを経過措置として、海運から排出されるCO₂総量のうち、2024年から40%、2025年から70%、2026年から100%完全適用される。②5000GT以上のほとんどの大型船は以上のスケジュールが適用されるが、5000GT以上の大型洋上作業船については、MRV(Monitor, Reporting and Verification)が2025年から適用され、ETSは2027年から適用される。400から5000GTの一般貨物船と洋上作業船については、MRVについては2025年から適用されるものの、EU ETSの適用については、2026年に検討される。③例外措置として、小島嶼で使用される船舶、Ice classの船級を持つ船舶、海外領土と本土との間の航海に従事する船舶、官庁船などについては、経過措置が提案された。④海運会社を多く保有するいくつかの海運国に対しては、排出権取引収入上限(ceiling of the auctioned allowances)の3.5%が追加的に国内対策として配分される。⑤CO₂以外のGHGであるメタンと一酸化二窒素(N₂O)については、2024年からMRVの2026年からETSの対象に含めることが合意された。

原文

欧州理事会 (12/26)


3.皇帝ペンギンなど南極固有種の2/3が世紀末までに絶滅の危機

12か国の科学者・政府関係者などが共同でPlos Biology誌に発表した最新の報告書によれば、地球温暖化が現在のペースで続けば、今世紀末までに、皇帝ペンギンを含む南極固有種の2/3が絶滅或いは大幅な個体数の激減の危機に直面していることが発表されたところその概要は以下のとおり。①皇帝ペンギンの生息地の最大8割において、今世紀末までに個体数が9割以上激減して、ほとんど絶滅状態になる。②年間2300万ドル(約31億円)かけて、10種類の生態系の保存措置を並行して実施すれば、最大で84%の南極の生態系を保護することが可能。③南極大陸における調査研究と観光活動の増加が、外来性侵略生物が南極に侵入するリスクを増やしており、南極における人間の活動の最小化が、最も経済性の高い生態系保全戦略となるので、絶滅危惧種が生息する地域など観光客が近寄ってはいけない場所の情報を観光事業者や観光客に直接教える必要がある。

原文

The Guardian (12/26)


4.EUエネルギー閣僚会合:天然ガスの上限価格制度の導入に合意

EUは12月19日開催されたエネルギー問題担当閣僚会合で天然ガスの価格を引き下げるために上限価格制度を導入することに合意した。具体的には、来年2月15日以降、欧州の天然ガス価格の指標であるオランダのTTF価格が3日間連続で180ユーロ(約2.5万円)/MWhを上回り、かつ同期間中のLNG価格評価より35ユーロ(約4900円)高くなることによって、上限価格制度が発動され、1か月先、3か月先、1年先の先物取引価格が、LNGの標準取引価格より35ユーロ高い範囲内に抑制される。但し、上限価格制度によって、EU域内で天然ガスの供給が不足した場合、TTF取引量が減少した場合、天然ガス使用量が急増した場合、天然ガス取引市場参加者のmargin callsが急増した場合などには、上限価格制度は停止されるという安全担保機能が付け加えられたことにより、最高価格制度の導入により、世界市場からの天然ガスの購入が制約されるとして当初反対していた独も賛成に回った。

原文

Reuters (12/26)