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週刊国際海洋情報(2022年12月10日号)

1.G7/EU/豪による露産原油に対する上限価格制限が発動

EU・米・加・日・英は既に露から自国への原油の輸入を禁止しているが、それに加えて、露から第三国への1バレル60ドルを超える原油の輸送については、G7とEUのタンカー・保険・金融の供与を禁止することによって、露産原油の取引価格に上限価格を設ける制度の運用を5日から開始した。世界の海運会社や海上保険会社の多くがG7とEUにあることから、上限価格を超える露産原油の海上輸送は困難となる。この制裁措置に対して、世界第2位の石油輸出国である露は、上限価格制度の受け入れを拒否し、たとえ減産しても、制裁参加国には原油を販売しないと発表し、現在、同国の会社・商社に対して、上限価格参加国の企業との取引を禁じる大統領令が準備されている。12月2日の露産原油の市場取引価格は1バレル67ドルで、上限価格と大きな乖離は無く、上限価格で取引を続けても、ロシアには依然メリットがあるものとEUとG7は見ている。

原文

Reuters (12/6)


2.英国の内航海運の炭素中立化に930億ポンドが必要

UMASとロイズ船級協会は、英国の内航海運が脱炭素化を達成するために930億ポンド(約15.4兆円)が必要とする報告書を発表したところその概要は以下のとおり。①930億ポンドの約半分は低・ゼロ炭素の船舶への更新に必要となる投資資金で、残りの半分が、港湾における代替燃料供給施設や陸上給電施設などのインフラの整備に必要となる。②フェリーとRoRo船は隻数ベースでは、内航船全体の10%に過ぎないが、CO₂排出量で見ると全体の50%を排出しており、優先的に脱炭素化を進める分野となる。③洋上リグと同様今後拡大が見込まれる洋上風力発電施設関連の船舶も優先的に脱炭素化を進める対象となる。④資金供給先としては、既存の投資家からではなく機関投資家からの投融資が必要で、投資促進のため、政府は論理的で整合的な戦略を立て統合的な政策を実施する必要がある。

原文

The Maritime Executive (12/6)


3.欧州委員会:「包装と包装廃棄物に関するEU規則」の改正案を提案

11月30日、欧州委員会が発表した標記提案の概要は以下のとおり。①包装材の再利用・リサイクルを通じて、加盟国毎・一人当たりの包装廃棄物を2018年実績比で2040年までに15%削減する。この結果、包装材に関する現行規則を変更しない場合と比較して、包装廃棄物を約37%減少させることが可能となる。②再利用・リフィル可能な包装材の比率は、過去20年間で急減しているが、再利用率を上げるために、持ち帰りの飲食物や通信販売の商品に使用される包装材の一定割合を再利用・リフィル可能なものとすることを生産者に義務付ける。③包装材の標準化を図るとともに、再利用可能な包装材であることを示すわかりやすい表示を義務付ける。④明らかに不必要な包装材の量を減少させるため、レストラン内で飲食する際の使い捨てプラスチック容器・野菜や果物を販売する際の使い捨て包装材・ホテルのアメニティとして提供されるシャンプー等のミニボトルなどの使用を禁止する。⑤包装材を2030年までに完全にリサイクル可能なものとするため、包装材のデザインの基準を設定し、プラスチックボトルとアルミ缶については、飲料販売価格にボトル代金を上乗せして、ボトル返還時に代金を返還するデポジットシステムを強制的に導入する。

原文

欧州委員会 (12/7)


4.デンマーク:最初のCO₂海底貯留事業を時限的に認可

デンマークエネルギー庁は、デンマーク領海内のかつての海底油田採掘跡に、最大で1.5万トンのCO₂を12月から来年の3月末までの4か月間、試験的に注入する事業に対して、同国で初めて認可を与えた。同庁は当該事業が環境に与える影響・申請者が安全に事業を遂行できる能力・申請者の海底の地層に関する知見や環境への影響をモニターする計画などを総合的に審査して認可に至った。今回認可された海域は、Natura2000で指定された海洋保護区で、保護される海洋生物やその生息海域も含まれるが、今回認可された事業によって、保護された海洋生態系に重大な悪影響を与えないと同庁は結論付けている。

原文

Offshore Energy (12/7)


5.IEA:エネルギー危機で再生可能エネルギーの整備が加速

12月6日に国際エネルギー機関(IEA)は、再生可能エネルギーに関する2022年の年次報告書を発表したところその概要は以下のとおり。①世界で2022年から2027年の間に、整備されることが予想される再生可能エネルギー発電能力は、現在世界第1位の再エネ発電国である中国の全再エネ発電量に匹敵する2400GWとなり、1年前の予測と比較して、エネルギー危機の影響で、増加のペースが30%も加速された。②今後5年間に新設される発電施設の90%以上は再生可能エネルギーとなり、2025年初頭までに、石炭を抜いて、発電源として最大となり、過去20年間に建造された再生可能エネルギー発電施設と同じ量が、今後5年間に建設される見込み。③欧州に限定すれば、ウクライナ戦争の影響で、今後5年間に新設される再生可能発電施設の量は、過去5年間に増設された量の2倍となる見込み。④中国政府の最新の14次5年計画によれば、2022年から2027年の間に世界で新設される再生可能エネルギー施設の約半分が中国国内で建設される見込み。⑤発電事業としての太陽光発電と陸上風力の発電コストは、世界のほとんどの国で、化石燃料発電等の他の発電方法と比較して、最も安い選択肢となり、2022年から2027年の間に、太陽光発電量は3倍となり、石炭を抜いて世界で最大の発電源となる。

原文

IEA (12/8)


6.米英政府:Energy Security and Affordability Partnershipを結成

上記パートナーシップの主たる目的は以下のとおり。①過去5年間の平均と比べて、この冬の英国内における天然ガスの最終消費需要を8%減少させるために、エネルギー効率の向上について両国が協力する。②英国政府はエネルギー効率化タスクフォースを立ち上げ、建物と産業におけるエネルギー消費量を2021年実績比で、2030年までに15%削減する。英国政府は低所得層の家庭のエネルギー効率を改善するために、15億ポンド(約2500億円)をかけてHelp to Heat事業を実施し、さらに追加的なエネルギー効率化対策について、2028年までに60億ポンド(約1兆円)を支出する。米国政府も低所得者層が住む地域のエネルギー効率化と再生可能エネルギーの導入のため300億ドル(約4兆円)を支出する。③短期的なエネルギー安全保障に果たす天然ガスの役割を踏まえ、米国から英国と欧州市場へのLNGの供給を強化する。④安全で信頼性のおけるエネルギー源としての民生用原子力の利用を促進し、エネルギー源の安定確保を図る。⑤G7やG20において、またCOP28に向けて、両国は新興国市場や途上国における化石燃料への将来的な依存度を削減し、既存の気候変動対策が後退するのを阻止し、エネルギー部門における炭素中立化目標の強化と早期達成を図る。

原文

The White House (12/8)


7.英国:数十年ぶりに新たな炭鉱開発を認可

英国政府は数十年ぶりに、12月7日、新たな石炭鉱山の開発を認可した。新たな鉱山で生産されるのは製鉄業に必要な原料炭で、発電に用いられる燃料炭ではなく、約500人の新規雇用を生むとされている。この事業は、2014年に計画が発表されたのち、英国政府自身の独立した気候変動員会や野党だけでなくGreenpeaceなどの環境団体から強い反対を受けていた。石炭は炭素中立となる方法で生産され、生産量の80%は欧州市場に輸出される予定。石炭を燃焼させたときに発生するCO₂は、気候温暖化の最大原因で、地球の温暖化抑制目標を達成するためには、各国に石炭の利用をやめさせる必要がある。今回許可された鉱山は、生産開始までに2年間かかり、50年間の操業を予定している。英国には最盛時には約3000の炭鉱があり、120万人の鉱夫が働いていたが、最後の炭鉱は2015年に閉山されていた。

原文

Reuters (12/9)


8.Maersk Mc-Kinney Moller Center :Maritime Decarbonization Strategy 2022

Maersk Mc-Kinney Moller Centerが12月8日、標記報告書を発表したところその概要は以下のとおり。①世界の外航・内航海運合計で年間約3億トンの化石燃料を用いて、12.6EJのエネルギーを消費しているが、地球の気温上昇を1.5℃以内に抑制するためには、2030年までに化石燃料によるエネルギー消費を約6EJ以内に抑制する必要がある。②船舶のエネルギー効率を8%、或いは2030年まで1%ずつ改善すれば、2400万トンの燃料油と0.1GtのCO₂と1EJのエネルギーを節約することができる。③エネルギー転換のためには、世界共通の目標・基準・規制が必要で、IMOはwell-to-wakeベースの野心的で完全なGHG削減目標に合意する必要がある。④海運の脱炭素化が不可避であることを認識して、海運会社は先回りして将来の戦略を立てる必要がある。⑤海運脱炭素化に必要な代替燃料の生産・供給施設に対する投資を促進するため、国や地方自治体は明確な整備計画を作成すべき。⑥先駆者たちは、世界的な基準や規制ができる前に、脱炭素化を進めなくてはならないので、そのコスト・便益・リスクを分散するための公民連携が必要。

原文

Maersk Mc-Kinney Moller Center (12/9)


9.COP15:加首相が先住民主導の生態系保存事業に8億カナダドルを支出表明

12月7日、中国とCOP15を共同主催する加首相は、今後7年間にカナダ国内のほぼエジプトと同じ面積の地域で、先住民が主導で実施する生態系保存活動に8億カナダドル(約800億円)の支援を行うと発表し、中国・ロシア・ブラジル・米国を名指しして、COP15の成功のためにはこれらの巨大な面積と海岸線を持つ国々が保護区域を拡充することが重要で、最終合意文の交渉に当たっては、カナダと同じ高いレベルの支持が必要と発言した。5日に新たな合意文書の案文が提示されたが、22以上の目標と4つのゴールについて討議が行われている。G20において習主席が加首相を公の場で非難し、2019年に実施されたカナダの連邦選挙に中国が干渉したというような疑いが流れる中で、共同主催国の中国とカナダの関係は緊張しているが、加首相は中国の人権問題や法治の問題については引き続き問題としていくが、中国と連携して進めなくてはいけない分野もあると語った。

原文

The Guardian (12/10)


10.米国西岸初の洋上風力発電は欧州勢が独占的に落札

12月6日から7日にかけて実施された、米国の西岸では初めての洋上風力発電の競争入札は、カリフォルニア州北部と中央部の5つの海域(合計約15万ha)について実施されたが、既に米国東岸の洋上風力発電事業で実績のあるノルウェーのEquinorや仏のEngieなど欧州勢が独占的に落札した。1エーカー当たりの落札価格は、2028ドルと、今年、米国東岸のNew YorkとNew Jersey沖の水深が浅い海域で実施された落札価格である9000ドルより大幅に安い価格となったが、水深の深い西岸ではまだ技術的に十分に確立していない浮体式を採用する必要があること、カリフォリニア州は東岸諸州のような電力買い取り保証を提供していないこと、世界経済の減速と資金調達コストの上昇が原因と考えられる。現在世界では、着床式洋上風力発電の合計発電量は50GWに達しているが、浮体式については約100MWの規模しかない。米国政府は2035年までに500万個の家庭に電力が可能な15GWの浮体式洋上風力発電設備を建設することを目指すと発表している。

原文

Reuters (12/10)


その他のニュース

1.海運の脱炭素化
 (ア)港湾
  ①ロッテルダム港
   水素生産のためのアンモニア分解装置建設の事前FS調査を実施 原文(12/7)
 (イ)脱炭素化行動計画
  ①作成のためのステップ
   McKinsey:海運会社が脱炭素化を進めるためのステップ 原文(12/10)
2.再生可能エネルギー
 (ア)洋上風力発電
  ①米国
   西岸で初めての浮体式洋上風力発電のための開発権入札が実施 原文(12/8)
 (イ)グリーン水素
  ①オランダ
   北海の洋上風力で生産するグリーン水素供給ネットワークを構築 原文(12/6)
 (ウ)再生可能エネルギーの割合
  ①仏
   再生可能エネ整備の遅れによって年間60-90億ユーロの損失 原文(12/10)
 (エ)各国の支援策
  ①米=EU間の貿易紛争
   欧州委員会委員長:米IRA法に対抗して国家助成規則を簡素化へ 原文(12/6)
3.航空機・航空燃料の環境問題
 (ア)排出権取引制度
  ①EUETSの適用範囲拡大
   欧州議会:航空への適用範囲を引き続きEEA域内のものに限定 原文(12/9)
 (イ)短距離国内航空路線の廃止
  ①仏
   鉄道で2時間半以内に到達できる地点への国内航空便を禁止 原文(12/8)
4.生物多様性
 (ア)COP15
  ①生物多様性回復目標
   2030年までに生物多様性の減少を止めるのは非現実的 原文(12/7)
  ②生物多様性に与える影響に関する情報の開示義務
   企業活動が生物多様性に与える影響を開示することが重要 原文(12/9)