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週刊国際海洋情報(2022年12月3日号)
- 1.WSC:EU ETSが適用されるCO₂排出量の算定にwell-to wake方式の採用を要求
- 2.MEPC 79:炭素回収貯留(CCS)の取り扱いについて議論へ
- 3.露:西側諸国の露産原油上限価格規制を回避するためにはより多くのタンカーが必要
- 4.DNV:コンテナ船の代替燃料としてのメタノール
- 5.BIMCO:船上における使い捨てペットボトル減量キャンペーンを開始
- 6.DSME:遠隔無人操縦で自律運航船の運航試験を実施
- 7.EU:米国に対抗して再エネ発電機器に対するローカルコンテント導入を検討
- 8.欧州議会:海運に関するEU ETS適用の概要に大筋合意
- 9.米仏両大統領がIRA法によってEU諸国が不利益を受けないことを確認
- 10.IEA:2022年はエネルギー価格高騰の影響でエネルギー効率が上昇
- その他のニュース
1.WSC:EU ETSが適用されるCO₂排出量の算定にwell-to wake方式の採用を要求
世界海運評議会(WSC)・デンマーク/オランダ/スウェーデン船主協会などは、現在、EU排出権取引制度(ETS)の最終改正案を3者協議中の欧州理事会・議会・委員会あてに標記公開書簡を、11月21日送付したところその概要は以下のとおり。①Renewable Fuels of Non-Biological Origins(RFNBOs)については、再生可能電力から生産されたeメタノールを燃料とするエンジンは既に実在し、再生可能電力から生産されたeアンモニアを燃料とするエンジンも試験段階にあるが、これらの燃料の生産と供給体制を大幅に拡充するための投資が必要であり、この投資を促進するためにも政策当事者が、ETSの適用にあたっては、燃料の生産・輸送・燃焼といったすべての段階から排出されるGHGの排出量を総体的に把握するライフサイクルアプローチをとることを明確にする必要がある。②EU ETSを海運分野に拡大する現在の案では、船上で燃料が燃焼するときのGHG排出量のみ算定されることになっているが、この結果、燃料生産時には多量のGHGを排出するが、船上では排出量が少ない燃料の使用を促進してしまうことになる。
原文
WSC (11/23)
2.MEPC 79:炭素回収貯留(CCS)の取り扱いについて議論へ
12月12日から開催されるMEPC 79に、韓国政府は船上に炭素回収貯留(CCS)装置が設置される場合、EEDI/EEXI/CIIに関する既存の計算方法を変更することを求めることを提案した。韓国政府はゼロエミ船技術が経済的に利用可能になるまで、GHGを大幅に削減する持続可能な技術的手法を認めるべきで、CCSはコスト的に見ても既存の化石燃料を使用しながらGHG排出量を削減する効率的な手段であるとしている。中国・リベリア・ICSも共同で、CCS技術の導入を認めるべきと提案している。Waltsillaによれば、初期投資と運用コストを含めCO₂1トン当たり50-70ユーロ(約7300-10200円)で回収できる船上のCCS装置の導入は可能としている。但し、船上で回収されたCO₂を貯留するスペースが必要となるため、CCSの利用は長距離の航海に導入するには限界がある。
原文
Ship & Bunker (11/23)
3.露:西側諸国の露産原油上限価格規制を回避するためにはより多くのタンカーが必要
現在、ロシアは一日当たり350万バレルの石油を輸出しているが、EU/G7/豪が12月5日からロシア産原油に、来年2月5日からは、ロシア産の石油製品に上限価格制を導入する結果、一日当たり100万バレルの石油が輸出できなくなる見込みで、さらなる石油・燃料価格の上昇と世界のインフレが加速化されることが予測される。西側の金融制裁とロシア産原油の買い控えは、これまでのところ、中国・インド・その他アジア諸国の輸入増加によってカバーされてきたが、上限価格制の導入によって、石油価格が上昇すれば、ロシアにとって輸出量は減っても手取り収入は変わらないことも予測される。現在の350万バレルの原油を輸送するためには、ロシア自体がコントロールできるタンカーの船腹量の3倍が必要とされ、ロシアはタンカー船隊を増やそうとしているものの、現在の輸出量を西側の制裁の対象とならないタンカーで輸送するためには、あと110隻のタンカーが必要となる。
原文
Reuters (11/26)
4.DNV:コンテナ船の代替燃料としてのメタノール
メタノールをバンカーとして使用する船舶には、IMOのメチル・エチルアルコールを燃料として使用する船舶に関する新暫定ガイドライン(MSC.1/Circ.1621)と国際ガス燃料安全(IGF)コードが適用され、設計・建造・運航に関する準拠規則が既に明らかになっている。メタノールは液化するために極低温で保存する必要はなく、特殊で高価な素材をタンクやパイプに使用する必要はない。メタノールのタンクは船体に組み込むことはできるが、LNGや重油に比べて、大きな体積のタンクが必要となり、殆どの既存の機関では、メタノールを効率よく燃焼させるために、ディーゼル油などのパイロット燃料も積み込む必要がある。メタノールは海上輸送される化学製品のトップ5に入る製品で、多くの国において化石燃料から工業用途のために生産されているが、GHG削減のためには、十分な量のグリーンメタノールを最終的には生産する必要がある。
原文
DNV (11/26)
5.BIMCO:船上における使い捨てペットボトル減量キャンペーンを開始
1年間に船上で消費されるペットボトルの数は最大で17.5億本に上るとBIMCOは推定しており、仮にそれらのボトルが船上で分類・管理されて、着岸した時に適切にごみ処理されるとしても、陸上におけるごみ処理が適正になされなければ、結局一部は海洋プラスチックごみとなることから、船上で消費される使い捨てのペットボトルの総量を減らすことが、海運業界として最善の選択肢であると考えて減量キャンペーンを開始した。BIMCOは手始めにOcean Bottleと提携して、再使用可能なボトルの配布と、船上における給水装置の設置を開始した。BIMCOの試算によれば、船員に対する給水を使い捨てのペットボトルから、給水システムに切り替えることにより、給水コストが1/4となるので、わずか1年足らずで、給水設備の設置費用が回収可能で、この結果、年間で1隻当たり2355kgのCO₂の排出を削減することもできる。
原文
BIMCO (11/27)
6.DSME:遠隔無人操縦で自律運航船の運航試験を実施
大宇造船海洋(DSME)は、完全自律運航を目指して、DS4 smart ship platformの開発を続けてきたが、2021年10月に米国船級協会(ABS)から暫定認証(initial certification)を受け、実証船については韓国船級協会とも協力してきた。DSMEは大型船と同じ運航システムを持つ実証小型艇DAN-Vを使用して、華城市沖合の海域で2日間、遠隔運航センターからの指示のもとに、決められた航路の運航や、障害物との衝突回避などの試験運航を無人で実施した。この結果、DSMEは、無人の船舶を遠隔運航するというLevel 3の認証をロイズ船級協会から得ることに成功した。DSMEは2023年には実際の商船にこの自律運航システムを搭載して実験を続け、2024年には、人間が運航に関与せずに、船上の運航システムが自律的に運航の判断を決定できるLevel 4の完全自律運航の認証を取得し、2025年には大型の自律運航商船の運航開始を目指している。今年6月には、ライバルの現代重工業の子会社のAvikusは同社の自律運航システムHiNASを97500dwtのLNG運搬船に搭載して、太平洋を横断する実験を実施し、運航経路の半分を自律運航することに成功している。
原文
The Maritime Executive (11/27)
7.EU:米国に対抗して再エネ発電機器に対するローカルコンテント導入を検討
WTOによる伝統的な自由貿易の原則では、各国政府が補助金の支給要件として、一定割合以上の国産原料・部品等を使用するlocal-contentを義務付けることは、保護貿易主義を助長するとして禁止しているが、米国が成立させたInflation Reduction Actにおいては、local-contentを条件として、3690億ドル(約51兆円)の補助金・減税が付与されることから、米国内においてEU製品が米国製品に対して不利となることによって、再生可能エネルギー関連の投資が欧州から米国に大きく逃避するのではないかという懸念を仏大統領は表明し、米国に対抗してEUもBuy Europeanの名のもとにlocal-contentを導入することを提案している。これに対して、欧州最大の工業国であり、自由貿易を志向してきた独は対抗措置をとることに慎重だったが、同国の経済大臣は、11月29日、同国も欧州委員会と仏と連携を取って、WTOの規則上、例外が認められる「環境上の配慮」や「国家安全保障上の理由」を援用して、WTO規則と整合性を持たせながら、早急に米国への対抗策を準備していく意向を示した。
原文
Politico (12/1)
8.欧州議会:海運に関するEU ETS適用の概要に大筋合意
標記合意の概要は以下のとおり。①海運をEUの排出権取引制度(EU ETS)の適用対象にすることによって、自動車の電動化による排出削減量の2倍に当たる約1.2億トンのCO₂排出が削減される。②EU域内の海運活動の100%、EUとEU域外との間の海運活動の50%に適用される。③排気量全体に対するETSの適用率は、2025年に40%、2026年に70%、2027年に100%と段階的に引き上げられるが、この数字は今後の交渉で変更される可能性がある。④メタンや亜酸化窒素などのCO₂以外のGHGの排出に対しては、2026年から適用される。⑤海運分野からのETS収入のうち、2000万ユーロ(約28億円)は、港湾・海運分野の脱炭素化対策の資金として確保される。⑥適用の対象となる船舶は5000GT以上とするが、脱法行為として4999GTの船舶が増えないかなどを含め、数年後に、適用対象船舶の大きさについては再検討を実施する。
原文
Euractiv (12/1)
9.米仏両大統領がIRA法によってEU諸国が不利益を受けないことを確認
米国を公式訪問中の仏大統領は、米国のInflation Reduction Act (IRA)による米国製品優先政策によって、computer chipsや再生可能エネルギー発電施設の部品の分野において、米国製品が優遇される結果、欧州製品が不利益を被ることについて、強く改善を申し入れた。米国大統領は12月1日実施された共同記者会見において、欧州諸国が不利益を被らないような微調整を実施することが可能であると表明した。中間選挙で下院は共和党が支配していることから、IRA自体の改正は困難だが、大統領令によって、EU諸国が不利益を受けない方法を手当てする見込み。両国はIRAによって発生したセミコンダクター・バッテリー・水素などの再生エネルギー関連分野における貿易紛争を処理するための、共同タスクフォースを米国とEUで立ち上げることに合意した。
原文
Reuters (12/3)
10.IEA:2022年はエネルギー価格高騰の影響でエネルギー効率が上昇
12月2日、国際エネルギー機関(IEA)が発表した2022年エネルギー効率年次報告書の概要は以下のとおり。①建物断熱改修・公共交通機関や電気自動車の充電インフラなどエネルギー効率向上のための投資は、2022年に世界で対前年比16%増の5600億ドル(約75兆円)となった。②エネルギー効率で見ると、2022年は2021年より2%改善し、過去5年間の平均改善率の約2倍となった。③2020年からの建物の断熱化などのエネルギー効率改善行動によって、IEA加盟国における電気料金の総計は、エネルギー効率化をしなかった場合と比べて、6800億ドル(約91兆円)の節約となった。④具体的なエネルギー効率事例としては、世界で販売される新車の1/8が電気自動車となり、欧州だけでも2022年に300万台のヒートポンプが販売された。⑤各国の政策で見れば、米国のインフレ削減法(IRA)、EUのREPowerEU、日本のGX戦略などによって、今後、建物・自動車・製造業のエネルギー効率の向上が進められる見込み。
原文
IEA (12/3)
その他のニュース
1.海運の脱炭素化
(ア)代替燃料
①船員に対する教育訓練
DNV:海運の脱炭素化に必要な船員数とその技能訓練について 原文(11/27)
2.エネルギー転換
(ア)石炭の取り扱い
①金融機関の取引停止
石炭産業:燃料炭が高騰するも増産のための資金確保が困難に 原文(11/25)
3.気候変動
(ア)異常高温
①超過死亡者数
この夏の猛暑によって西欧諸国で2万人以上が超過死亡 原文(11/27)
4.気候変動緩和対策
(ア)排出権取引制度
①EU
排出権販売収入より多額の価値にある無料排出枠を供与 原文(12/1)
(イ)炭素回収貯留
①大気中からの回収
欧州委員会:大気中からのCO₂回収を認証する関連規則を提案へ 原文(11/23)
(ウ)エネルギー節約・効率化
①住宅の断熱性の改善
英国:住居の断熱性能を高めるための補助制度を導入 原文(12/01)
②ヒートポンプ
IEA:世界エネルギー危機によってヒートポンプの普及が拡大 原文(12/3)
5.エネルギー安全保障
(ア)対ロシア
①独仏連携
独・仏:エネルギー問題に連帯する共同宣言を発出 原文(11/26)
6.生物多様性
(ア)自然を基盤とした解決策(NbS)
①必要資金
UNEP:NbSに対する投資を2025年までに倍増する必要 原文(12/3)