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週刊国際海洋情報(2022年11月21日号)
- 1.Fit for 55:EU加盟国ごとのCO₂排出削減目標を強化
- 2.露:砕氷タンカーを利用して北極海航路で原油を中国に輸送
- 3.仏政府:海運の脱炭素化のために3億ユーロを支援
- 4.REPowerEU:再生可能エネ事業の承認手続きを簡素化
- 5.COP27におけるGreen Shipping Corridorsなど海運脱炭素化関連の主要な動き
- 6.IRENA:Accelerating Hydrogen Deployment in G7
- 7.COP27:中国が独自にメタン排出削減計画を作成することを発表
- 8.COP27:国際開発金融機関・国際金融機関の改革に合意へ
- 9.COP27:Loss and Damage基金の創設に合意するもその他の進展なし
- 10.米加州:大気汚染減少に関する5か年計画(Scoping Plan)を発表
- その他のニュース
1.Fit for 55:EU加盟国ごとのCO₂排出削減目標を強化
11月8日、欧州理事会と欧州議会は、effort sharing規定に基づく各国のCO₂削減目標を、陸上輸送・EU域内の海上輸送・建物・農業・廃棄物処理・中小企業など、現在EUの排出権取引制度の対象となっていない分野のCO₂を2005年実績比で40%削減することで合意した。今回の合意では、欧州委員会が各加盟国に割り当てたincreased national targetはそのままとし、各国が目標達成のために利用することができる既存の特例措置の運用方法について見直した。これらのEU ETSが適用されていない分野からEUが排出するGHGの約60%が排出されており、国民の健康に及ぼす影響は大きく、COP27にタイミングを合わせて合意することにより、EUがパリ協定の下で、着実に排出削減を実施することを世界に示した。現時点では予期できないことが発生する場合に備えて、2026年から2030年までの各国への排出枠について、2025年に見直しを実施することも合意された。
原文
欧州理事会 (11/11)
2.露:砕氷タンカーを利用して北極海航路で原油を中国に輸送
AISの情報によれば、露は特殊な砕氷タンカーを用いて、先月ムルマンスクから北極海北航路を経由し、ベーリング海峡を越えて、17日に中国の日照港に到着する予定で比較的少量の原油を輸送している。このルートの所要航海距離は約5300㎞で、スエズ運河経由の既存ルートに比べると所要時間を約半分にすることができる。現在、露の北極海沿岸で生産される原油は小型のシャトルタンカーで、ムルマンスクの貯蔵用タンカーに運搬され、そこから大型タンカーに積み替えて主として欧州市場に輸送されているが、EUが露からの原油の輸入を12月5日から禁止する。今回の航海に使用された砕氷能力を持つタンカーは8隻しかなく、北極海航路を利用した大規模な輸送は来年の夏まで待つ必要がある。欧州市場に輸出できなくなった原油をスエズ運河経由で東アジア市場に運ぶためには、欧州市場に輸送するのに比べて、所要時間が大幅に伸びるので、多くのタンカーが必要となる。
原文
gCaptain/Bloomberg (11/11)
3.仏政府:海運の脱炭素化のために3億ユーロを支援
フランス政府の海事担当大臣は、2030年までに国費を3億ユーロ(約440億円)投入して、海運の脱炭素化を進めるFrance-Mer 2030を11月8日発表した。この3億ユーロとは別に、「海事投資基金」を創設し、補助・出資・債務保証の形で支援を実施する。仏の海事関係企業57社の団体であるThe Armateurs de Franceは政府の施策を支持すると表明した。1980年には仏で運航される船舶の8割は、仏の造船所で建造されていたが、現在では12%にすぎず、ゼロエミ船を梃にして同国で建造される船舶の比率の向上も目指す。さらに、同国内で養成される船舶職員数も2027年までに倍増することを目標としている。政府の発表に合わせて、CMA CGMは、2億ユーロ(約290億円)を仏海洋基金に拠出することを表明し、脱炭素事業を進めるためのプラットフォームを2023年1月に立ち上げると表明した。仏の船主協会は既に15億ユーロ(約2200億円)を拠出し、海運の脱炭素化を進めるエネルギー基金を創設することを表明しているが、今回のCMA CGMの発表はこの一部。
原文
Radio France International (11/14)
4.REPowerEU:再生可能エネ事業の承認手続きを簡素化
10月20日に、欧州理事会は、エネルギー危機が継続していることを踏まえ、再生可能エネルギーの整備を促進するため、事業許可手続きを簡素化することを欧州委員会に求めたが、これに応えて、欧州委員会は11月9日、現在協議中の再生可能エネルギー指令が採択され適用されるまでの1年間、暫定的緊急に適用される規則を理事会規則の形で提案した。具体的には、再生可能エネルギー施設の建設を「優先されるべき公共の利益(overriding public interest)」として位置づけ、環境法規上必要とされる影響評価の簡素化や、EUの野鳥生息域指令上の特例を認めている。さらに、太陽光発電については、低コストで迅速な整備が可能で、住民に直接利益を与えることから、建物などの屋上に整備される太陽光パネルの設置許可を1か月以内に出すこととし、環境影響調査の実施も免除している。また、既存の再エネ発電施設の増強・建て替えは、迅速に再生可能発電量を増大することができるので、環境影響評価も含めて、審査期間を最大で6か月に短縮した。
原文
欧州委員会(11/14)
5.COP27におけるGreen Shipping Corridorsなど海運脱炭素化関連の主要な動き
標記の概要以下のとおり。①米・英・蘭・ノルウェーが4か国の間でGreen Shipping Corridors(GSC)を形成することに合意。②英・米は両国の専門家によるGSC Task Forceを立ち上げ、重要な研究開発や回廊実現を早急に実現するための重要な事業を実施。③英国はZero Emission Shipping Missionとともに、GSCを開設するために必要なclean energy port/ zero-emission vessels/ green energyを進展するための既存の障害を排除するための行動計画を発表。④豪はシンガポールとGreen Economy Agreementを締結し、GSCの開設と、海上や港湾における船舶からCO₂排出の削減・代替燃料供給インフラの基準などの海運脱炭素化技術開発について連携することを合意。⑤米国とノルウェーが主導してGlobal Shipping Challengeを結成し、マースクがスペイン政府と合意した大規模なgreen fuelを生産する事業・DP Worldが今後5年間5億ドル(約700億円)をかけて同社の事業から発生するCO₂排気量を70万トン削減する事業・LA/LB港とシンガポール港との間にgreen & digital shipping corridorを開設する事業など合計で40事業を実施。
原文
Hellenic Shipping News (11/18)
6.IRENA:Accelerating Hydrogen Deployment in G7
11月16日、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)が発表した標記報告書の概要は以下のとおり。①G7諸国が2050年炭素中立を目指す結果として、同年までに水素の消費量が、現在の4倍から7倍に拡大することが可能。②化学・製鉄・長距離航空/海運など完全電化が難しい分野における水素の需要は増え、再生可能エネルギーの発電コストが継続的に減少していくことから、グリーン水素の価格競争力も強まる。③G7諸国は、現在世界のエネルギー需要量の約30%を占めており、2020年における水素需要の合計は2420万トンと、世界の需要量の約28%を占めているが、その多くが化石燃料から生産されている。④2010年から2020年の間に、全世界で登録された水素関連の特許は6.5万件に上るが、その半分がG7諸国から登録されたもので、その中でも日本から出願された特許数が2/3を占める。⑤2021年末の時点で、世界の電解槽製造事業者の約半数が欧州の企業となっている。
原文
IRENA (11/18)
7.COP27:中国が独自にメタン排出削減計画を作成することを発表
COP26において、米国とEUの主導によって、150か国が参加し、2030年までにメタンの排出量を30%削減するGlobal Methane Pledgeが採択されたが、中国はこの宣言に昨年参加していないが、11月17日、COP27における同宣言に関する閣僚会合で、同国は依然として同宣言自体には参加しないものの、中国独自のメタン削減行動計画を既に作成し、現在国内承認手続き中であることを表明し、米国のケリー環境問題特使をはじめ各国が中国の発表を歓迎した。カナダ政府はカリブ海諸国とガイアナがメタン排出を削減するために400万ドル(約5.6億円)を寄付することを発表した。同会議においては、大規模なメタン排出場所を発見し、メタン排出抑制状況を監視するための新たな監視システムであるMethane Alert and Response Systemの導入についても検討された。
原文
Bloomberg (11/19)
8.COP27:国際開発金融機関・国際金融機関の改革に合意へ
開発途上国がインフレの進行・国家債務の増大・ドルに対する通貨価値の下落に悩まされ、先進国は途上国へのClimate Financeに関する合意を履行できない中で、世界銀行などの国際開発金融機関(MDBs)とIMFなどの国際金融機関(IFIs)の改革について長年にわたり議論されてきたが、バルバドスの首相と米国の財務長官の主導で、COP27の最終合意案にMDBsとIFIsを改革してこれらに機関が、後発発展途上国や小島嶼国を支援するために、投融資を炭素中立目標に整合させることが、COP27の最終合意案に盛り込まれた。欧州気候基金のCEOは、世界銀行グループの多国間投資保証機関(MIGA)が、発展途上国における政治的なリスクや為替リスクに対する保険を提供して、発展途上国における投資リスクの軽減を進めるべきとコメントしている。
原文
Bloomberg (11/19)
9.COP27:Loss and Damage基金の創設に合意するもその他の進展なし
11月20日、COP27は途上国が希望していたLoss and Damageに関する基金の設立に合意したものの、どの国がその基金に対して資金を拠出するかも含め具体的な検討は来年に持ち越され、気候変動緩和対策に関しては、インド政府などが求めていた「すべての化石燃料」の使用の段階的な禁止についても盛り込まれず、COP26の合意から新たな進展がなかった。
原文
Reuters (11/21)
10.米加州:大気汚染減少に関する5か年計画(Scoping Plan)を発表
米国カリフォルニア州大気資源理事会(CARB)は、大気汚染の減少の関する5か年計画(Scoping Plan)を発表し、同州として、2045年までに炭素中立を達成するための部門ごとの行動計画を発表した。海運関係では、2027年までに接岸中の船舶の過半数が陸上電源を使用すること、2045年までに同州内の船舶の25%以上がグリーン水素を燃料とする燃料電池を動力として使用することが目標として提示された。港運関係では、2035年までに貨物の横持(drayage)に使用されるトラックをすべてゼロエミ化し、2037年までに港湾荷役機械もすべてゼロエミ化することが義務付けられる。LB/LA港では既にゼロエミ化の投資を進めているが、他の港湾とグリーン回廊協定を締結し、グリーン燃料の使用を促進していく。
原文
Offshore Energy (11/21)
その他のニュース
1.エネルギー転換
(ア)天然ガスの取り扱い
①ロシアへの依存の削減
世界の天然ガス需要の増加が1.5℃目標の達成を危険に 原文(11/14)
2.気候変動
(ア)氷河・海氷の減少
①ヒマラヤ
今世紀末までにヒマラヤの氷河の2/3が融解 原文(11/11)
(イ)GHG排出量の実績
①化石燃料からの排出実績
2022年の化石燃料からのCO₂の排出量が史上最大に 原文(11/18)
(ウ)豪雨・洪水
①西アフリカ
気候変動による西アフリカ諸国の豪雨災害 原文(11/19)
3.気候変動緩和対策
(ア)カーボンオフセット
①EnergyTransitionAccelerator
米国:EnergyTransitionAcceleratorをCOPで提案 原文(11/14)
②パリ協定に基づく取引
COP27:炭素クレジット市場に関する交渉は来年に持ち越し 原文(11/19)
4.安全保障
(ア)ウクライナ
①海運
黒海穀物輸出協定が4か月延長 原文(11/21)
5.気候変動適応対策
(ア)COP27
①LossandDamage
小島嶼途上国:中国・インドにもLossandDamageの補償を要求 原文(11/11)
EUが途上国による化石燃料の使用削減を条件に妥協案を提出 原文(11/18)
COP27:主たる結果の概要 原文(11/21)