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週刊国際海洋情報(2022年11月10日号)

1.COP27:欧州諸国を除き主要G20諸国首脳は欠席

11月7日から8日までエジプトで開催されるCOP27首脳会合には、100か国以上の国家元首が参加し、国際的な気候変動対策について各国が連携していくことが期待されていたが、10月31日の時点で主要CO₂排出国である中国の習近平主席やインドのモディ首相は出席せず、米国のバイデン大統領も、11月8日が投票日である米国中間選挙と日程が重なり、首脳会合ではなく11日にCOP27に出席する予定。G20諸国の中では、豪・加・アルゼンチン・日・韓・墨・土・露も首脳出席を見送る見込み。一方、欧州諸国は、独・仏・伊・英の首脳が参加を表明しているほか、アフリカ諸国も33か国から首脳が出席する予定。今回のCOPでは、首脳の演説だけでなく、議長国のエジプトは、首脳が参加する6つの円卓会議を設定し、just transition(エネルギー転換に伴い、衰退する産業・失職する労働者対策)・食料安全保障・気候変動対策と開発に対するinnovative finance・グリーン水素・水資源の確保・気候変動と気候変動に対して脆弱な共同体の持続可能性について首脳レベルの協議を実施する予定。

原文

Climate Change News (11/6)


2.独首相:2045年脱炭素化目標堅持を表明

独の気候変動専門家理事会は報告書を提出し、同国は2020年から2021年の間に、CO₂排出量を27%削減したが、同国が2045年炭素中立を実現するためには、2030年までに1990年実績比で65%排出量を削減する必要があり、今後の経済成長も勘案すると、現状のままでは2030年までの中期目標の達成は難しいとした。この報告書に対し、11月6日、独首相は、ロシアによる天然ガス供給の遮断の結果、現状では石炭と石油への依存度を上げざるを得ないが、2045年までに炭素中立を実現するという目標を堅持するために脱炭素投資を進めると社会民主党主催の会議で表明した。欧州では季節外れの暖かな気温が続いており、同国の天然ガス備蓄率は99.3%を維持しているため、露からの天然ガス供給停止にもかかわらず、この冬を乗り切る見通しが立っている。

原文

Bloomberg (11/6)


3.英国:上限価格を超えるロシア産原油を輸送する船舶に対する保険販売を禁止

本年9月に、G7財務大臣会合は、第3国への石油供給を確保しつつも、高騰を続ける石油価格を背景に、ロシア政府がウクライナ侵略のための戦費を調達するのを阻害するため、ロシア産石油価格の上限を定めることに合意し、さらに英国とその同盟国はロシア産石油の輸入を停止した。英国政府は、この合意の履行を支援するため、11月3日、新たに規則を発表し、12月5日から、G7と豪政府によるPrice Cap Coalitionが設定する石油上限価格を超える価格のロシア産原油を輸送するタンカーに対して、英国企業による保険・ブローカー業務等の船舶運航支援業務の提供を禁止する。保険業務のうちでも、原油を輸送するタンカーによる油濁事故に伴う第3者賠償責任を補償するP&I保険については、英国の保険会社が世界の60%のシェアを持っている。さらに2023年2月5日からは、同様の禁止措置が、石油精製品の輸送にも適用される。

原文

英国政府 (11/7)


4.DNV:The SAFE Maritime Autonomous Technology (SAFEMATE)研究事業

標記事業の概要は以下のとおり。①船橋の自動化が進む中で、SAFEMATEは船舶に設置されたカメラ・センサー・レーダー・AISから得られたイメージと情報をもとに、障害物を発見し、衝突を回避するための周辺状況認知能力の強化を図るのが目的。②試作品はKongsberg Maritimeによって開発され、比較的船舶の運航が輻輳しているノルウェーのオスロフィヨルドで、決まった二地点間を運航するフェリーを用いて、ノルウェー工科大学(NTNU)と連携して、3年間の試験運航がされている。③システムは、船舶周辺の障害物の検知・航海システム運用者に対し衝突回避のためのアドバイスの提供・船員に対し視覚的に船舶の周辺状況と推奨航路を提供することの3つの要素から構成され、完全自動化船を目指すというよりは、船舶の自律運航技術のいくつかのポイントに絞って、システムの信頼性を検証することを目的としている。

本文

DNV (11/7)


5.バイオ燃料業界が先進バイオ燃料のSAFとしての使用義務付けを求める

現在EUで最終協議中の航空機のグリーン燃料に関するReFuelEU規則においては、EU域内の空港から離陸するすべての航空機は、一定割合の持続可能な航空燃料(SAF)を含む燃料の使用を義務付けられ、SAFの含有割合は5年ごとに引き上げられることとなっている。欧州委員会は、穀物や食料油の廃油から製造された伝統的なバイオ燃料に比べて、農業・林業廃棄物を原料とする先進バイオ燃料の方が割高なことから、ReFuelEU規則の中に、先進バイオ燃料の一定割合についてSAFの一部として使用を義務付けることについて慎重な姿勢を取ってきたが、バイオ燃料業界は、欧州委員会の気候・交通・エネルギー・農業等担当の複数の委員に対して、10月26日、書簡を共同で発出し、ReFuelEU規則の中に先進バイオ燃料に関する強制力を持った導入目標を盛り込むように求めた。強制的な目標が盛り込まれれば、長期的な投資が可能となり、先進バイオ燃料の生産が拡大し、既存の航空燃料であるケロシンへの依存度を削減できるとしている。

原文

Euractiv (11/8)


6.英首相:ロシアのウクライナ侵攻を再生可能エネ促進の契機に

11月7日、COP27における英国首相の演説の概要は以下のとおり。①ロシアのウクライナ侵攻によって、エネルギー価格が上昇しているが、これによって脱炭素化のペースを鈍化させるのではなく、エネルギー自給率の向上の観点から、再生可能エネルギーへの投資を加速すべきである。②発展途上国の経済発展を促進しつつ、世界の各国は公的・民間の資金を地球温暖化対策に投資し、新たな雇用を創出すべきである。③先進国が途上国に対してClimate Finance を供与するのは倫理的に正しいだけではなく、経済的にも合理的な選択である。④発展途上国に対して、先進国が過去に排出したGHGの責任を負わせることなく、また、先進国が(化石燃料を活用しながら)成長した同じ過程をたどることなく、再生可能エネルギーを活用したクリーンな成長を発展途上国は目指すべきである。⑤英国は、発展途上国における適応対策の支援額を2025年までに3倍の15億ポンド(約2500億円)とするとともに、ケニアとエジプトにおける再生可能エネルギー事業に6500万ポンド(約110億円)投資する。

原文

The Hill (11/8)


7.国連事務総長:Climate Solidarity Pactの採択と石油企業への課税を求める

11月7日、COP27における国連事務総長のスピーチの概要は以下のとおり。①今回の会合で提案されているClimate Solidarity Pactは、全ての国連加盟国がGHG排出削減のため追加の努力をし、先進国と国際金融機関が発展途上国に金融支援し、化石燃料への依存と石炭火力発電所の新規建設を停止し、すべての人々に持続可能なエネルギーを提供し、人類のために各国が戦略と能力を統合することを求めるもの。②米国と中国の2大経済大国はこの合意の実現のため協力すべき。③ウクライナ紛争は深刻なものだが、だからと言って、緊急な対応が必要な気候変動問題から目をそらすことはできず、ウクライナ紛争によって、気候変動問題を後退させ、greenwashすることはできないし、むしろこの危機を乗り越えるために、迅速で強力な地球温暖化対策が必要。④パンデミックによって巨万の利益を上げた化石燃料企業から徴税して、その資金で食料・エネルギー価格上昇に苦しむ人々を救い、気候変動によってloss and damageを被った発展途上国を支援すべきである。

原文

国連 (11/9)


8.G7/V20が気候変動リスクをカバーするためのGlobal Shieldの創設に合意

気候変動によって、大規模な洪水や干ばつといった異常気象の発生頻度が増加しているため、貧しく脆弱な国とその国民は、これらの異常気象リスクを担保する措置が必要となっている。G7諸国は議長国である独が中心となって、気候変動のリスクに特にさらされているV20諸国のこうした要請に応えて、気候変動リスクを担保するためのGlobal Shield(GS)をCOP27で11月14日に正式に発足させることに合意した。GSはV20諸国と連携しながら気候変動リスクに関する金融・保険に関する活動と、予防的な活動を一体的に統括し、気候変動による損害が発生した時に、発展途上国の緊急計画 と連動して、直ちに被災者を保護できるように工夫される。独首相はCOP27で、同国としてGSに対し、1.7億ユーロ(約250億円)を拠出することを表明し、そのうち8400万ユーロ(約123億円)は、GSの中心的な金融機能に充てられる。

原文

独経済協力開発省 (11/09)


9.国際海底機構:多くの加盟国が早期採掘許可に反対へ

現在開催中の国際海底機構(ISA)の理事会においては、海底資源開発を早ければ2024年にも可能にするMining Code(MC)の審議が行われているが、第1週の審議が11月4日に終了した時点で、昨年の合意に従って、MCの審議を2023年7月までに終了するのには無理があり、開発が行われる予定の深海底の生態系に与える開発の影響について科学的な影響評価が出るまで、開発の開始を認めるべきでないという理事国が多数を占めている。COP27においても仏の大統領が深海底開発を直ちに禁止すべきと主張した。一方で、英国・ノルウェーなどの少数国は、予定通り来年の7月までにMCの審議を終えることは可能とし、中国も環境保護にばかり焦点を置くべきでないと主張している。3月に発表された学識経験者による、採鉱予定海域に関する既存研究の包括的な再検討結果によれば、該当海域の生態系に関する科学的知見を欠いたままでは、採鉱活動の効果的な管理が不可能と結論付けている。

原文

gCaptain/Bloomberg (11/10)


10.米国:COP27で海運・港湾の脱炭素化政策Green Shipping Challengeを発表

標記会合で表明された施策の概要は以下のとおり。①米環境保護庁(EPA)が港湾の脱炭素化に関するインフラ整備と電化を技術支援するために、30億ドル(約4400億円)を支援。②運輸省が海事庁の港湾インフラ開発計画を通じて、22の州の41事業の港湾機能・防災能力の拡大に7億ドル(約1000億円)を支援。③IMOにおいて他の諸国と連携して、IMOのGHG削減目標を2050年炭素中立に引き上げ。④韓国政府と連携して、韓国と米国の間にGreen Shipping Corridorを創設するための事業可能性調査を実施。⑤カナダ政府と連携して、Great Lakes Green Shipping Corridor Networkの創設を促進。⑥英国政府と連携して、米英Green Shipping Corridor Task Forceを設置。⑦米国内の関係省庁が連携して、来年早々にTransport Sector Decarbonization Blueprintを作成し、これに基づきMaritime Decarbonization Strategyの制定作業を開始。⑧Zero-Emission Shipping Missionと連携して、オンラインプラットフォームであるGreen Shipping Corridor Hubを創設。

原文

米国務省 (11/10)


その他のニュース

1.海運の脱炭素化
 (ア)代替燃料
  ①CleanMaritimeEnergyHub
   COP27:CleanEnergyMarineHubsに新たに3か国が参加 原文(11/10)
 (イ)市場原理に基づく措置:MBMs
  ①EUETS
   MSC:EUETS適用に伴う追加コストは最大で500ユーロ/feuに 原文(11/6)
2.気候変動
 (ア)人間の健康への影響
  ①WHO
   WHO:気候変動問題は人間の健康にも大きな影響 原文(11/7)
3.気候変動緩和対策
 (ア)メタン排出削減
  ①排出実績
   2021年にメタン排出量が史上最高の増加 原文(11/9)
 (イ)CarbonPricing
  ①IMF
   2030年までにCO₂1トン当たり75ドルの炭素課税が必要 原文(11/08)
4.気候変動適応対策
 (ア)COP27
  ①LossandDamage
   COP27:LossandDamageが初めて正式議題として合意 原文(11/7)
  ②ClimateFinance
   解説COP27:ClimateFinanceをめぐる論点 原文(11/06)
   米・加・豪は本来負担すべきClimateFinanceのシェアを未達成 原文(11/8)
  ③国連
   AdaptationAgenda:2030年までに30の適応対策事業を実施 原文(11/10)
 (イ)途上国支援
  ①必要支援規模
   途上国の気候変動対策に2030年まで毎年2兆ドルの資金が必要 原文(11/9)