
国際海洋情報の内容については、有料メールニュースなど営利目的での転載はご遠慮頂くとともに、二次使用の際は国際海洋情報からの転載である旨を明示していただきますよう、お願いいたします。
週刊国際海洋情報(2022年11月4日号)
- 1.EU気候変動問題担当大臣:CO₂削減目標を来年引き上げることに合意
- 2.国連:「黒海穀物輸出合意」の遅延解消を働きかける
- 3.ICS:IMO Maritime Sustainability Fund & Rewardの修正案を提出
- 4.デンマーク海事庁長官寄稿:海運脱炭素化、行動を起こすための課題
- 5.UNFCCC:現在のNDCsのままでは今世紀末に気温は2.5℃上昇
- 6.European Green Deal:欧州委員会が大気汚染・水質・下水処理基準を強化
- 7.UNEP:Emissions Gap Report 2022:The Closing Window
- 8.欧州委員会:2023年にCCUS戦略を作成
- 9.Wood Mackenzie:How will oil and gas companies get to Scope 3 net zero ?
- 10.2021年のG20諸国の化石燃料に対する政府支援の額は2014年以来最大に
- その他のニュース
1.EU気候変動問題担当大臣:CO₂削減目標を来年引き上げることに合意
EUの気候変動問題担当大臣は、COP27を目前に控えて、10月24日、EUとしての対処方針を承認するとともに、国連に提出するEUとしてのCO₂削減目標(NDC)を来年引き上げることで合意した。大臣会合では、2035年までに化石燃料を使用する新車の販売を禁止する法案やETSの改正法案など気候変動対策に関する多くの関連法案に関する交渉を年内までに完了することを目指すことについても合意した。EUの現在のCO₂削減目標は、2030年までに1990年実績比で55%排出を削減することだが、この目標は2021年7月に合意されたが、その後、ロシアへのエネルギー依存を引き下げるために、再生可能エネルギーの拡大目標やエネルギー節約目標を引き上げることに合意しており、その結果としてCO₂削減目標のさらなる引き上げは可能であると欧州委員会の担当者は考えている。また、会合では、COP27において、発展途上国が強く主張する、途上国において気候温暖化によって発生したloss and damageについて先進国が「補償」する制度を議題とすることを受け入れることについても合意した。
原文
Reuters (10/26)
2.国連:「黒海穀物輸出合意」の遅延解消を働きかける
世界的な食糧危機を回避するために、国連とトルコが仲介にあたり、7月にウクライナ・ロシアも含めて「黒海穀物輸出合意」が合意されたが、ウクライナ政府は、ロシアが合意の完全履行を妨害しているとして、ロシア政府を非難している。穀物や食品の輸送のために、ウクライナの港湾を入出港する船舶は、トルコ国内の錨泊地で、4者から構成される「共同調整センター」の検査を受けなくてはならないが、現在イスタンブールの周辺には150隻を超す貨物船が検査待ちで滞船しており、国連の広報担当官によれば、この滞船によって、食料供給チェーンと港湾の運用に混乱を及ぼす恐れがあると指摘している。現在の合意は11月19日までの期限だが、こうした状況を解消するために、4者間で協定期間の延長や協定範囲の拡大について協議が行われている。この合意によって、ロシアの侵攻以降停止されていたウクライナの3港湾からの穀物輸出が再開され、ロシアも同国産の穀物と肥料の輸出が安全に実施できるようになっている。
原文
Reuters (10/26)
3.ICS:IMO Maritime Sustainability Fund & Rewardの修正案を提出
国際海運会議所(ICS)がIMO/ISWG GHG(GHG排出に関する中間作業部会)に提出したIMO Maritime Sustainability Fund (IMSF) & Reward修正提案の概要は以下のとおり。①IMSFの収入は、Eligible Alternative Fuels(EAF)と既存燃料の価格差を埋めるためと、途上国における代替燃料の生産と供給インフラの整備の支援に充てられる。②市場原則に基づく措置による市場の混乱を避けるため、当初5年間は、tank -to-wake ベースで船舶から排出されるCO₂の量に応じて一律の課金を課す簡素なものとするが、5年おきの見直しの一環として、制度が実施されてから3年以内に当初の制度は再検討される。③IMSF&R制度は2024年までの設立を政治的に目指す。④LNGやメタノールなどCO₂排出量が少ない燃料を使用する船舶に対する課金は、通常の重油燃料を使用する船舶より少なくなり、EASを使用する船舶に対しては、削減されたCO₂の排出量に応じて報酬が支払われ、課金はされない。EAFの範囲と報酬率の決定はフェーズIIIに先送りする。⑤加盟国の行政的な負担を軽減するため、各船舶が排出するCO₂の量の測定は、既存のIMO Fuel Data Collection System (DCS)の情報を活用する。
原文
Offshore Energy (10/27)
4.デンマーク海事庁長官寄稿:海運脱炭素化、行動を起こすための課題
Economist Impactへの標記寄稿の概要は以下のとおり。①海運脱炭素化をやるか否かではなくて、今やどのレベルまで、いかに早く実施するかが課題。②IMOにおいては、2023年に戦略目標が改訂される見通しだが、IMO加盟国は、迅速に行動し、海運業界全体で2050年脱炭素化に向かって取り組んでいることを世間に明確に示す必要。③海運脱炭素化に必要な新技術、特に新たな代替燃料の導入に、各国政府・国際機関・NGOs・企業・研究者たちが分野横断的に連携する必要。④海運業界は厳しい競争にさらされているので、これまで情報の開示は難しかったが、新技術への投資を促進するためにも、事業者は情報や経験を共有し、現実的な解決策があることを広く明らかにすべき。⑤これまでは、政府の規制が新たな技術導入に先行して制定されてきたが、今回の脱炭素化技術の導入については、この手順を踏まない初めてのケースとなり、海事当局は船舶の運航の安全性を確保しつつ、海運脱炭素化の進展の阻害要因となる既存の規制を発見し改正していく作業を、技術革新の先頭に立って実施していく必要があり、このためには海事当局間の連携を直ちに始めなくてはならない。
原文
Economist (10/27)
5.UNFCCC:現在のNDCsのままでは今世紀末に気温は2.5℃上昇
10月26日、国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)事務局は、各国のNDCsと長期戦略をまとめた報告書を発表したが、その概要は以下のとおり。①同条約加盟の193国の現在の自主的CO₂削減目標(NDCs)に従えば、世界のGHG排出量は2030年までに対2010年実績比で10.6%増加し、今世紀末には産業革命以前と比べて地球の気温は2.5℃上昇する見込み。②IPCCの最新の報告書では、気温の上昇を1.5℃以内に抑制するためには、2019年実績比で、GHGの排出量を2030年までに43%削減する必要がある。③COP 26では、各国がNDCsを再検討しCOP 27に再提出することに合意したが、9月23日現在、24か国だけがNDCsを見直し、国連に再提出している。④世界のGDPの83%を占める62か国は、長期的削減戦略も発表しているが、すべての戦略が適切なタイミングで完全に実施された場合、2019年実績比で2050年までにGHG排出を最大で68%削減できる可能性がある。
原文
UNFCCC (10/28)
6.European Green Deal:欧州委員会が大気汚染・水質・下水処理基準を強化
10月26日、欧州委員会は、大気・水(地下水も含む)・都市下水処理に関する規制を強化するために、Ambient Air Quality Directives等の改正案を発表した。大気汚染により、毎年約30万人が欧州で早死(premature death)し、心臓病・肺病・ガンを患っているが、大気汚染の主たる原因であるPM2.5の基準を10年以内に、WHOのガイドラインより75%厳しい基準とすることにより、早死する人数を減少させる。欧州委員会は汚染物質の許容基準を引き上げるだけでなく、汚染減少目標が現実的に達成されるよう規制の適用についても改善を図る。今回の提案は、2050年までに有害汚染物質による汚染をゼロにするというEuropean Green Dealの中のzero pollution ambitionを実現するための基本施策となる。同改正案に従い、欧州委員会はWHOのガイドラインに準拠し、PM2.5を半分以下に削減する2030年までの中間目標を今後設定する予定。
原文
欧州委員会 (10/28)
7.UNEP:Emissions Gap Report 2022:The Closing Window
10月27日発表された標記報告書の概要は以下のとおり。①COP26で各国が2030年に向けたNDCsを強化することを約束したにもかかわらず、それ以降今までに追加約束されたCO₂の削減量は全体の1%以下の0.5GTにすぎない。②現在の政策を強化せずにこのまま継続した場合、産業革命以前と比べ、今世紀末には気温が2.8℃上昇し、すべてのNDCsが実施されれば2.4℃上昇し 、これに加えて、炭素中立を宣言した国が目標実現に取り組めば気温上昇を1.8℃に抑制することができる。③気温上昇を2℃以内に抑制するためには、現在の政策を単純継続する際の排出量より30%多く、1.5℃以内に抑制するためには、同45%多く排出量を削減する必要がある。④世界全体で低炭素経済に移行するためには、最低年間4-6兆ドル(約592-888兆円)の投資が必要となる。⑤金融部門は、taxonomiesの導入などによる効率化、炭素税や排出権取引などcarbon pricingの導入などによって、変革を図る必要がある。
原文
UNEP (10/31)
8.欧州委員会:2023年にCCUS戦略を作成
10月27日、欧州委員会のエネルギー担当のシムソン委員は、オスロで開催されたCCUS Forumで、炭素回収利用貯留(CCUS)に関する規制を明確にし、投資を促進するために、欧州委員会は2023年にCCUSに関するstrategic visionを提案すると発表した。欧州委員会の試算によれば、完全な電化が難しいエネルギー多消費型の産業や農業分野から2050年まで継続的にCO₂が排出されるため、EUが炭素中立を達成するためには、毎年3億から6.4億トンのCO₂を回収して、利用・貯留する必要がある。石油・ガス産業は化石燃料の延命のためにCCSの活用に積極的で、EUとして、2050年までに年間最低0.5から1ギガトンの回収したCO₂を貯留するためのスペースの確保を求めている。数週間以内に、欧州委員会は、EU のInnovation Fundから30億ユーロ(約4400億円)を支出して、CCUSに関する技術に対する補助金の公募を始める。EUの加盟国レベルでも、ベルギー・スウェーデン・クロアチアなどはCCUSに関する投資を既に各国の復興計画に盛り込んでいるし、デンマークとオランダもCCUS技術の開発に力を入れている。
原文
Euractiv (10/31)
9.Wood Mackenzie:How will oil and gas companies get to Scope 3 net zero ?
標記報告書の概要は以下のとおり。①脱炭素化は石油ガス業界にとっては、必須の戦略となる一方、投資家は企業の脱炭素化の進捗状況を厳しく精査するようになっている。②企業の直接的な活動に基づく排出(Scope 1)と消費する電力の発電に伴う排出(Scope 2)に関して脱炭素化を宣言している企業の割合は約65%に達し、業界の標準となっている。③しかし、サプライチェーン全体に関する排出(Scope 3)について脱炭素宣言をしている石油ガス企業は、調査対象となった企業の中で10社に過ぎないが、Scope 3の排出量は、各社の排出量の80-95%を占めており、この分野の脱炭素化を進めるためには、大胆な構造改革が必要となるだけではなく、石油ガス生産量の大幅な減少も伴うこととなる。④石油ガスの生産は2050年までに60%から70%縮減する見込みであり、欧州の石油メジャーはこの分を埋め合わせるために、再生可能エネルギー・低炭素燃料・電気自動車の充電インフラへの投資を進めている。⑤さらに、石油ガスの延命のために炭素回収貯留(CCS)技術開発を進めるとともに、大気中から直接炭素を回収する(DAC)技術や植林等のカーボンオフセット分野への投資も進めている。
原文
Wood Mackenzie (11/3)
10.2021年のG20諸国の化石燃料に対する政府支援の額は2014年以来最大に
11月1日、Bloomberg NEFが発表したClimate Policy Factbookは、G20の加盟国における、化石燃料に対する政府支援の撤廃、carbon-pricing、気候変動リスクに関する情報開示の義務付けの3点について、それぞれの国の進捗状況を調査し、G20首脳会合とCOP27の前に、気候変動政策に関する透明性を向上させ、政策の優先順位を明らかにするために作成されたが、その概要は以下のとおり。①G20諸国のうち19か国が2021年中に石炭・石油・天然ガス・化石燃料発電所などの化石燃料事業に対して実施した政府支援の額は6930億ドル(約102兆円)となって、対前年比16%増加して、2014年以来最大の額となり、COP 26において各国政府が掲げた目標の達成を阻害し、気候変動による悪影響を回避することを難しくした。②各国政府の化石燃料に対する支援のうち、石炭の占めるシェアは2016年の4.1%から2021年の2.9%まで微減したが、昨年のG20やCOP 26で各国が石炭に対する政府支援の撤廃を約束したにもかかわらず、政府支援の総額は2021年に依然として200億ドル(約2.9兆円)に達している。③政府の化石燃料に対する支援額を国別で比較すると、2020年に最大であったのが中国で全体の26%となったが、人口一人当たりの支援額でみると、サウジアラビアが1433ドルと最大で、アルゼンチン(734ドル)、カナダ(512ドル)といった国々が上位を占めている。
原文
Bloomberg NEF (11/3)
その他のニュース
1.エネルギー転換
(ア)新たな化石燃料開発
①反対意見
IISD:NavigatingEnergyTransitions/MappingtheRoadto1.5℃ 原文(11/3)
(イ)提言・見通し
①IEA
事務局長:世界は現在本当のエネルギー危機に直面 原文(10/27)
WorldEnergyOutlook2022 原文(10/31)
②BP
EnergyOutlook2022 原文(10/26)
2.気候変動
(ア)異常高温
①影響の分析
全世界の多くの人が食料不足・労働時間の喪失など深刻な影響 原文(10/27)
(イ)GHG排出量の実績
①WMO
2021年におけるCO₂・メタン・N₂Oの排出量が全て過去最大に 原文(10/28)
3.気候変動緩和対策
(ア)金融・投資機関
①実施状況
1.5℃目標に沿った脱炭素を進めているのは世界の大企業の半分 原文(10/28)
②GFANZ
FinancialInstitutionNet-ZeroTransitionPlanを発表 原文(11/3)
(イ)産業別脱炭素化
①交通事業
WorldBenchmarkingAlliance:交通事業者の脱炭素化強化が必要 原文(10/24)
4.生物多様性
(ア)洋上風力発電との両立
①WWF
Orstedと洋上風力発電による生物多様性への悪影響防止で連携 原文(10/31)
5.海洋科学
(ア)海洋観測
①英国
自律沿岸環境観測NationalCentreforCoastalAutonomyを発足 原文(10/26)