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週刊国際海洋情報(2022年10月25日号)
- 1.2022年第3四半期中に米国の洋上風力発電の長期目標が58%増加
- 2.ベルギー政府:アントワープ港を欧州のグリーン水素輸入・中継ハブ港に
- 3.EU:風力・太陽光発電の記録的な増加で110億ユーロ分の天然ガスの輸入を削減
- 4.Global Maritime Forum:欧州議会に積極的な海運脱炭素化を求める
- 5.欧州議会:GHG Intensity削減比率を引き上げ、e燃料の使用義務を新設
- 6.Arctic LNG 2:西側企業が抜けた穴をUAEで埋める
- 7.中国潮州市:43.3GWの洋上風力発電施設の整備計画を発表
- 8.欧州港湾協会:EU ETS Maritimeに対するコメント
- 9.欧州委員会:独政府にCOSCOによるハンブルグ港への投資を認めないよう要請
- 10.ABS:Global Shipping Corridors/ Leveraging Synergies
- その他のニュース
1.2022年第3四半期中に米国の洋上風力発電の長期目標が58%増加
Business Network for Offshore Windによれば、インフレ削減法(IRA)が成立した結果、米国における長期的な洋上風力発電の目標が、2022年第3四半期に、四半期としては過去最高の58%増加した。バイデン政権は、2035年までに浮体式洋上風力発電量の合計を15GWとし、併せて、Floating Offshore Wind Shot戦略によれば、浮体式洋上風力発電施設の建設コストを70%以上削減することを目的としており、固定式洋上風力発電と併せて、2030年までに合計で洋上風力発電能力を30GWに拡大することを目標としている。さらに、California州をはじめとする海岸に面する各州も洋上風力発電の建設目標を設定しており、同州は2045年までに同州沖に25GWの洋上風力発電施設を建設することを目標としている。米国東海岸のMassachusetts/New Jersey/New York/Road Islandも意欲的な建設目標を掲げている。
原文
Offshore Wind (10/19)
2.ベルギー政府:アントワープ港を欧州のグリーン水素輸入・中継ハブ港に
ベルギーの連邦水素戦略は、同国のエネルギーミクスの100%を再生可能エネルギーとして炭素中立を達成するための転換期の戦略として、2021年後半に策定されたが、同国が炭素中立を達成するためには、再生可能電力ばかりでなく、国産水素に加え、大量の外国から輸入される再生可能水素も必要とする。10月18日、同国の首相はアントワープ・ブルージュ(AB)港を訪問し、Boston Consulting Groupの勧告に従い、同国の水素戦略の改正を発表した。改正の内容としては、欧州の炭素中立目標に従った同国政府のエネルギー関連の広範な目的の実現のために、連邦水素理事会を設立するものだが、同国をグリーン水素の欧州における輸入・中継ハブにするという野心的な目標達成のために、グリーン水素とアンモニアやメタノールなどの水素派生品を輸入・製造・加工処理するという同港の戦略が中心的な役割を担う。同港は2026年からの水素等の輸入開始を目標として、DEME/Engie/ Exmarなどの民間企業と連携して受け入れインフラの整備を図るとともに、水素サプライチェーンを構築するためにいくつかの輸出国とも連携する。
原文
アントワープ港 (10/19)
3.EU:風力・太陽光発電の記録的な増加で110億ユーロ分の天然ガスの輸入を削減
E3GとEmberの新たな報告書によれば、ウクライナ紛争が始まって以来(今年の3月から9月の期間)、風力・太陽光発電量が対前年同期比39TWh増の345TWhを発電した結果、EU内の発電量の24%がこれらの再生可能エネルギーで発電され、結果として110億ユーロ(約1.6兆円)分の天然ガスの輸入が節約できた。スペイン(対前年比35%増)、イタリア(同20%)、ポーランド(同17%)を含む 19のEU加盟国でこれまで最高の風力・太陽光発電量を記録した。しかしながら、当該期間中、EU全体として、820億ユーロ(約12兆円)分、シェアにして総発電量の20%を依然として化石燃料に依存しており、これが現在欧州で進行している記録的なインフレの主たる要因となっている。
原文
Ember (10/20)
4.Global Maritime Forum:欧州議会に積極的な海運脱炭素化を求める
欧州議会本会議におけるFuelEU MaritimeとEU排出権取引制度に関する最終投票を控えて、Global Maritime Forumが意見書を発表したところその概要は以下のとおり。①バイオ燃料以外の再生可能燃料(RFNBOs)を含む大規模な供給が可能なゼロエミ燃料(SZEF)と化石燃料の間の基本的な価格差を埋めることにより、SZEFの生産・供給・利用を促進することができるが、このためにFuelEU Maritimeと海運への排出権取引制度(ETS)の適用拡大が果たす役割は大きい。②FuelEU Maritimeは欧州議会の運輸観光委員会が提案しているように、sub-targetとmultiplierをさらに導入することによって、SZEFの導入を動機づけることが可能。③海運にEU ETSを適用することによって得られる収入については、再生可能エネルギーに関するETSの収入は一般税収としないという原則(zero-rating principle)と同様に、一般税収とせず、海運脱炭素化の促進のために使用されるべきである。④当該収入の使い道として、欧州委員会と加盟国は、洋上風力発電施設建設促進に用いられている差額補填契約(Contracts for Deference:CfD)の導入を検討すべきである。海運から得られる収入の約15-20%をCfDの財源とすれば、2030年までにSZEFのシェアを5%に引き上げることが可能と、Getting to Zero Coalitionが試算している。
原文
Global Maritime Forum (10/20)
5.欧州議会:GHG Intensity削減比率を引き上げ、e燃料の使用義務を新設
10月19日、欧州議会は本会議で、FuelEU Maritime法を承認したが、欧州委員会の提案と異なる点は以下のとおり。①舶用燃料のGHG intensity削減比率については、欧州委員会の提案が2035年までに13%、2050年までに75%の削減だったのを、欧州議会の承認しあたんでは、2025年までに2%、2035年までに20%、2050年までに80%の削減に目標を引き上げた。②グリーン水素から生産されるe燃料について、2030年までに使用比率を2%以上に引き上げることを新たに義務付けた。③EU域外国との外航航路については、使用燃料の半分について、今回の規制が適用される。④適用の対象となる船舶の大きさを引き下げる議論があったが、原案とおり5000GT以上の船舶を適用対象とした。
原文
Euractiv (10/21)
6.Arctic LNG 2:西側企業が抜けた穴をUAEで埋める
露の天然ガス製造事業者のNovatekが北極海で開発を進めているArctic LNG 2事業については、同国のウクライナ侵攻に伴い、当初技術協力をする予定であった西側の企業が、制裁措置の一環で撤退したため、同社は同事業を完成するために必要な西側技術を提供してくれる提携先を探していたが、このほどUAEのGreen Energy Solutions社が技術協力することが決定した。同社は、EUの制裁を実行する義務はないので、同事業の完成に必要な機器を購入・供給することが可能となる。Arctic LNG 2事業は、3つのLNG製造ラインを建設する予定だが、西側の制裁措置のおかげで、2022年末に操業を開始する予定であった最初の生産ラインの生産開始も最低で1年以上遅れて、早くても2023年末にずれ込む見込みで、残りの2つの製造ラインの建設も危ぶまれている。
原文
High North News (10/21)
7.中国潮州市:43.3GWの洋上風力発電施設の整備計画を発表
中国は2021年に、これまでの最高となる16.9GW分の洋上風力発電施設を新設し、世界で最大の洋上風力発電国となったが、割高な石炭や天然ガスに比べて洋上風力発電のコストの低下が続いているので、電力会社や地方政府は引き続き洋上風力発電施設の野心的な新設を続けている。2022年の始めには、福建省が1兆元(約20兆円)を投資して、50GWの洋上風力発電施設を建設する計画を発表したが、このほど広東州の潮州市は、洋上風力発電施設整備の5か年計画を発表し、台湾海峡に面する同市の75kmから185km沖合に、合計で現在ノルウェーが保有する洋上発電能力の合計より大きい、発電能力合計で43.3GWの洋上風力発電施設の建設を2025年より前に開始すると発表した。建設が計画されている海域の地形が恵まれており、年間3800時間から4300時間の強い風が吹き、洋上風力発電施設の稼働率を43%から49%に引き上げることが可能とされている。
原文
IEEFA (10/24)
8.欧州港湾協会:EU ETS Maritimeに対するコメント
10月21日に発表された標記コメントの概要は以下のとおり。①海運会社がETSのコストを逃れるために、EU域外の近隣港湾を代替ハブとして使用することについて、今回の改正案が一定の配慮をしたことについて評価するが、こうした脱法行為が行われるリスクはあるので、欧州委員会はETS適用に当たっては、監視体制を強化すべきである。②EU ETS Maritimeの収入によってOcean Fundが運営されることを歓迎するが、港湾における代替燃料の供給・充電インフラの整備や電力gridを港湾に延伸するための投資がOcean Fundの対象となることを求める。③対象となる船舶の範囲を5000GT以上に限ることについては、海運から発生するCO₂の約90%を削減できること、CO₂排出量についてはEU MRVに依存することになるが、同制度も5000GT以上の船舶を対象とすることから合理的であり、400GT以上に適用対象を拡大するのは、港湾において莫大な追加投資が必要となり、非生産的なので反対する。
原文
ESPO (10/24)
9.欧州委員会:独政府にCOSCOによるハンブルグ港への投資を認めないよう要請
COSCOは2021年、独最大の港湾であるハンブルグ港にある3つのコンテナターミナルのうちの一つのターミナルの持ち分の35%を取得する意向を示したが、昨年の春に、欧州委員会は、ビジネスに関する機密情報が中国政府にわたる恐れがあるとして、独政府に対して、投資申請の許可をしないように要請していたことが判明した。独の連立政権の中では、緑の党が大臣を握る経済省は投資の許可に反対で、社会民主党が大臣を握る財務省は投資の承認に前向きとされている。中国政府は、本件を政治問題化しないように独政府に要請する一方、ハンブルグ港湾当局は、この申請が不承認になることによる経済的な打撃に懸念を示している。独首相府は、本件の今後の取り進めぶりについて、関係省庁と未だ調整中であるとコメントしている。
原文
Reuters (10/25)
10.ABS:Global Shipping Corridors/ Leveraging Synergies
標記報告書の概要は以下のとおり。①米国務省は、Green Shipping Corridors (GSC)に関するハイレベルのガイダンスを既に提供しているが、米国政府は、いくつかの気候変動対策に関する法律を公布し、海運業界が今後10年間、脱炭素化を進めるのを支援するための規制や政策を発表している。②GSCの形成は、技術面・政策面・経済性からの包括的な専門性を必要とする。事業可能性に関する事前調査をもとに、コンソーシアムを結成し、value chainの部門ごとにトップダウンで分析を実施することによって、きちんとした量的な裏付けに基づいた意思決定が可能となる。③代替燃料については、脱炭素化の程度と技術的な面からは、LNG・アンモニア・水素・メタノールが当面先行するが、短距離の運航については、バッテリー動力や燃料電池で動く船舶も実用化される。船上CCUSは、既存燃料継続使用のための暫定的対策として有効で、原子力船も可能性はあるが、技術的には安全性が確立されたとしても、社会的に受け入れられない可能性もある。④ABSの予測では、代替燃料は2030年以降普及を始めるので、2-3年以内には、代替燃料を燃料とできる船舶の建造を始めなくてはならないが、2050年の時点でも、まだ多くの船舶が既存化石燃料で運航しているものと考えられる。⑤代替燃料で運航する船舶にとっては、当面はGSCが活動の拠点となる。
原文
ABS (10/25)
その他のニュース
1.再生可能エネルギー
(ア)洋上風力発電
①米国
BOEM:太平洋岸で初めての洋上風力発電のLeaseSaleを発表 原文(10/19)
2.エネルギー転換
(ア)水素全体政策
①政策提言
DNV:HygrogenForecastto2050 原文(10/20)
3.気候変動
(ア)海水温の上昇
①異常気象の原因
海洋の温暖化が加速し異常気象を惹起 原文(10/24)
(イ)氷河・海氷の減少
①欧州アルプス
スイスアルプスの氷河が過去最大の6.2%減少 原文(10/20)
4.気候変動緩和対策
(ア)産業別脱炭素化
①交通事業
WorldBenchmarkingAlliance:交通事業者の脱炭素化強化が必要 原文(10/24)
5.海洋環境
(ア)スクラバー洗浄水
①バルト海
スクラバー排水と船底防汚塗料により金属・PAHによって汚染 原文(10/21)
6.エネルギー安全保障
(ア)エネルギー価格高騰対策
①EU
欧州首脳会合:天然ガスの上限価格制の導入について継続協議 原文(10/21)
②英国
光熱費の上限規制を来年4月に縮小・重点化の方向で再検討 原文(10/19)
7.環境問題一般
(ア)プラスチック
①今後の予測
OECD:GlobalPlasticsOutlook/PolicyScenariosto2060 原文(10/25)
8.気候変動適応対策
(ア)COP27
①LossandDamage
EUが先進国から途上国に対する「補償」について協議を容認へ 原文(10/25)