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週刊国際海洋情報(2022年10月18日号)

1.ABS:現代重工の4分野の自律運航船技術に対し基本承認を与える

米国船級協会(ABS)は、現代重工グループのAvikusが開発した船舶自律運航システム(HiNAS2.0)、同グループの中核の韓国造船海洋が開発した機器のCondition Management System(HiCBM)・船上統合安全管理システム(HiCAMS)・自律運航船統合プラットフォーム(Pont.OS)の4システムについて基本承認(AIP)を与えた。HiNAS2.0は来年以降、現代重工グループで建造されるすべての新造船の標準アプリケーションとなる見込み。人工知能を駆使したHiCBMは自動で船舶機器の状況を診断し、HiCAMSも乗組員の関与なしに火災などを検知し自動的に対処できる。統合プラットフォームのPont.OSは船舶の様々な自律機能を統合・管理する開放されたプラットフォームで、安全な自律運航や遠隔操縦を可能とするインフラとして機能する。

原文

ABS (10/7)


2.Bloomberg NEF:Power Transition Trends 2022

標記報告書の概要は以下のとおり。①2021年に世界の石炭火力発電所で発電された電力は対前年比8.5%増加したため、発電部門全体のCO₂排出量も対前年比7%増加した。②経済復興に伴うピーク時電力需要量の増加、干ばつに伴う水力発電の減少、天然ガス価格の高騰が石炭火力発電増加の主要因。COP26で石炭火力発電の段階的廃止を宣言した国の半分以上で石炭火力発電が増加。③コロナ経済復興に伴い、アジア諸国が牽引して、2021年に世界の総発電量は対前年比5.6%増加。④太陽光と風力を併せた再生可能エネルギーによる発電比率は10.5%となり、炭素を排出しない発電量は世界全体で10000TWhを超え、総発電量の約40%となった。⑤2021年に新たに発電を開始した発電所の電力の3/4が風力と太陽光発電で364GWに達し、特に太陽光発電だけで新規発電量の半分を占め、年間増加量も対前年比25%増えた。一方で、石炭火力発電所の新設は、過去15年間で最低水準となり、化石燃料火力発電所全体で見ても、新規発電所全体の14%にとどまった。

原文

Bloomberg NEF (10/7)


3.ICAO:2050年炭素中立に合意

10月7日、国際民間航空機関(ICAO)は、第41回総会において、2050年までに炭素中立を達成するためのLong-Term global Aspirational Goal (LTAG)に合意した。CO₂削減のための具体的な手段としては、革新的な航空機に関する技術開発の促進・運航管理の合理化・持続可能な航空燃料(SAF)の生産と普及など多元的な方法が考えられる。総会では、SAFに関する人材開発・訓練に関する新たな技術協力(ACT-SAF)プログラムの創設が一致して支持され、また2023年に第3回ICAO「航空と代替燃料」に関する会議を開催することが合意された。また同総会では、国際民間航空のための炭素相殺・削減制度(CORSIA)の最初の定期的な見直しを実施し、2024年以降に適用される新たなCORSIAの基準値を2019年の85%の水準とすることで合意し、2030年以降に相殺することが求められる排出量の計算に用いられる分野ごと及び個別の成長率の改訂された割合についても合意した。

原文

ICAO (10/12)


4.欧州石油メジャーが積極的に英国の洋上風力事業に進出

イングランドとウェールズの海底を所管する英国のCrown Estateはケルト海に2035年までに合計で新たに4GWの洋上風力発電施設を建設するために、海域の使用権の入札を2023年中ごろに実施すると10日発表した。今回の入札は、水深が深い海域で浮体式洋上風力発電施設を建設するためのCrown Estateにとって初めての入札となる。BPは、洋上構造物の建設ノウハウを生かして、再生可能発電分野の事業を拡大するためこの入札に参加する準備を進めているし、Shellはスコットランド沖で大規模な浮体式洋上風力発電施設を建造する権利を、今年の初めに既に取得している。石油メジャーは、最近の莫大な利益を活用して、再生可能エネルギー事業を拡大しており、昨年実施された入札では、BPとTotalが独占的に落札した。

原文

gCaptain (Bloomberg) (10/12)


5.T&E:CORSIA改正案では2030年までに総排気量の22%しかオフセットされず

国際航空から排出されるCO₂の量は、現在の成長率をもとに試算すると、2030年までに7億トンとなる見通しだが、10月7日、環境NGOの「交通と環境(T&E)」は、国際民間航空機関(ICAO)が、第41回総会において、2050年までに炭素中立を達成するためのLong-Term global Aspirational Goal (LTAG)に合意した内容等について批判的なコメントを発表したところその概要は以下のとおり。①今回合意されたLTAGは法的拘束力のないもので、2050年炭素中立を担保するものではない。②非EU加盟国は、EUが排出権取引制度(ETS)を見直して、EU域外に出発する飛行についてETSの対象とすることに反対すべきでない。③ICAOは、併せて、国際民間航空のための炭素相殺・削減制度(CORSIA)の最初の定期的な見直しを実施し、2024年以降に適用される新たなCORSIAの基準値を2019年実績の85%の水準とすることで合意したが、これでは2030年までに全体CO₂排出量のわずか22%しかオフセットできないことが、T&Eの試算で判明し、このオフセットのための経済的なコストも、例えば、欧州から米国への直行便における乗客一人当たりの追加的負担額がわずかに1.7ユーロ(約240円)と極めて低いため、CO₂排出量の少ないSAFに転換する経済的なインセンティブが発生しない。

原文

交通と環境 (10/14)


6.欧州理事会:再生可能エネルギー目標引き上げに反対へ

欧州委員会が本年5月にロシアへのエネルギー依存から脱却するために提案したREPowerEU提案には、全エネルギーに占める再生可能エネルギーの比率を45%に引き上げる提案が盛り込まれ、欧州議会もこれを支持することを決めているが、欧州理事会は6月に目標を40%に据え置くことに合意しており、欧州委員会と欧州議会の提案に反対する見通しであることがわかった。さらに、欧州委員会の提案には、再生可能エネルギー施設の拡大を「最優先すべき公共の利益」と位置づけ、新たな再生可能エネルギー開発事業に反対する法廷闘争から守ることも含まれていたが、この提案についても欧州理事会は拒否する見込み。一方で、欧州委員会の提案の中にある再生可能エネルギーを優先的に整備できる区域を設定し、事業承認するプロセスを合理化する提案には同意する見込みで、優先区域内では、承認手続きに要する期間を原則1年とし、それ以外の区域では2年以内という原則は維持される見込み。

原文

Euractiv (10/14)


7.仏Totalがヤマルから大量のLNGを継続的に輸入

世間的な関心は、Nord Stream 1や2などのパイプライン経由によるロシアからのLNGの欧州への輸出の減少に関心が集まっているが、ロシアから欧州へのLNGの輸出量は、1月から8月までに、対前年比15%増のペースで継続的に増加している。その大部分がロシア北極圏のヤマルからTotalがArc7船級のLNG輸送船で輸送を続けている。米国コロンビア大学の世界エネルギー政策センターによれば、9月末の時点でロシアから輸出されるLNGの40%は欧州に向けて出荷されている。英国とリトアニアだけがロシアからのLNGの輸入を完全停止している一方で、仏の輸入量は急増している。今年前半には、ロシアからのLNG最大輸入国である日本を抜いて、フランスが世界最大の輸入国となり、スペイン・オランダ・ベルギーもロシアからの輸入量を増加させている。ノルウェーの北極圏物流センターによれば、3月から5月の間、欧州全体で月間30隻のLNG輸送船をロシアから受け入れており、このペースは夏の間も衰えていない。

原文

High North News (10/17)


8.ロッテルダム港とGothenburg港がGreen Corridor結成に向け覚書締結

オランダのロッテルダム港とスウェーデンのGothenburg港は、海運脱炭素化に必要な新たな代替燃料を供給することができるGreen Corridorを両港の間で形成するため、10月13日、オランダの女王がスウェーデンを公式訪問した際に、Gothenburgで開催されていたchainPORTS サミットの場で、両国王立会いの下、覚書を締結した。両港は本年3月にMaersk Mc-Kinney Møller Center for Zero-Carbon Shippingによって立ち上げられたより大きなネットワークであるEuropean Green Corridor Networkにも両港を連結させる予定。ロッテルダム港は、最近シンガポール海事港湾庁ともGreen Corridorの形成について覚書を締結している。両港は、LNGの先のSZEFの供給体制の整備を進めており、Gothenburg港では、2015年から小規模ながらRoPaxフェリーに対してメタノール燃料を供給しており、ロッテルダム港においても2021年5月から世界で初めて、バージから船舶にメタノールを供給できる体制を整えている。

原文

ロッテルダム港 (10/17)


9.サハリン1:西欧の制裁で原油の出荷積み出しがほぼ停止

対ロシア制裁の結果、西側の保険会社は露の国営会社であるSovcomflotの石油タンカーに対して付保することを拒否したため、同社は同国の保険会社の保険で代替しようとしたが、サハリン1の開発事業者であるエクソンはこれを拒否したため、同事業からの原油の積み出しが停止している。同事業の共同事業者である露最大の国営石油業者のロスネフチは、エクソンのせいで5月半ばから原油の積み出しがほぼ止まっていると同社を非難している。サハリン1の原油生産量はウクライナ侵攻以前の一日あたり22万バレルから、現在は1万バレルに激減しているため、露大統領は10月に入って、同事業の運営会社をロスネフチの子会社に変える大統領令に署名し、外国の出資事業者に対しては1か月以内に、引き続き新しい運営会社に出資するかしないか決断することを求めている。サハリン1事業はエクソンが30%、日本のサハリン石油ガス開発が30%、ロスネフチが20%、インドの国営会社が20%ずつ出資しているが、エクソンは同事業から撤退し、持ち分を譲渡すると表明している。

原文

Reuters (10/18)


10.COSCOによるハンブルグ港のコンテナターミナル投資の可否

ロシアによるウクライナ侵攻の結果、独断的・権威主義的な国家に依存することに対する国民的な懸念が広まり、独の最大貿易相手国である中国に対する依存をどのように減らすか、独国内では大きな論争になっている。独国内では独の「緑の党」が大臣を務める経済省は、ハンブルグ港における3つのコンテナターミナルのうちのひとつに対するCOSCOによる投資提案に対し、拒否権を行使する見通しだが、社会民主党が大臣を務める財務省はCOSCOの投資を支持する意向を示している。中国政府は独政府に対し、両国の経済的な関係を政治化しないこと、国家安全保障の名目で保護主義に走らないように警告している。独政府の情報機関のBNDの長官は、議会における証言で、本件に対する具体的なコメントを避けつつ、ハンブルグ港は同国にとってとても重要なインフラなので、極めて慎重に検討する必要があり、ロシアは嵐のような影響を与えるが、中国の影響は認知が難しい地球温暖化のようなものだと語った。

原文

Reuters (10/18)


その他のニュース

1.海運の脱炭素化
 (ア)代替燃料
  ①アンモニア
   EMSA:Potential of Ammonia as Fuel in Shipping 原文 (10/12)
 (イ)官公庁船
  ①カナダ沿岸警備隊
   バイオディーゼルの導入試験とハイブリッド電動船を導入 原文 (10/7)
2.再生可能エネルギー
 (ア)洋上風力発電
  ①北海
   欧州6か国の港湾が洋上風力発電施設建設促進のために連携 原文 (10/2)
  ②ベルギー
   北海に欧州の洋上風力発電のハブとなる人工島を建設へ 原文 (10/06)
3.エネルギー転換
 (ア)提言・見通し
  ①DNV
   Energy Transition Outlook 2022 原文 (10/17)
4.気候変動緩和対策
 (ア)金融・投資機関
  ①気候変動リスクの開示
   UNEP:Scaling Blended Finance 原文 (10/3)
 (イ)家庭におけるエネルギー節約・効率化
  ①住宅の断熱性の改善
   英国:家庭のエネルギー効率向上のために15億ポンドを支援 原文(9/30)
5.安全保障
 (ア)バルト海
  ①Nord Streamに対する攻撃
   デンマークがガス漏れ周辺海域に航行禁止区域を設定 原文 (9/29)
6.海洋環境
 (ア)深海底開発
  ①国際海底機構
   国際海底機構が深海底鉱物の試験的採取を許可 原文 (10/5)
 (イ)喪失・投棄された漁具
  ①汚染規模
   毎年大量の漁具が海洋に流出 原文 (10/18)
7.エネルギー安全保障
 (ア)エネルギー価格高騰対策
  ①EU
   欧州委員会委員長:新たな緊急エネルギー対策を各国首脳に提案 原文 (10/7)
   欧州エネルギー大臣会合:天然ガス上限価格制度に合意できず 原文 (10/12)
 (イ)エネルギー供給国
  ①IEA:OPEC+の原油減産合意を批判 原文 (10/14)
8.気候変動適応対策
 (ア)途上国支援
  ①世界銀行
   米英独が環境問題を重視するよう世界銀行に改革を要求 原文 (10/18)
9.海運政策
 (ア)概況報告
  ①ICS
   ICS:Trade Policy Review 2022 原文  (9/28)
10.循環経済
 (ア)船舶の解撤
  ①EU承認リスト
   BIMCO:European List of Ship Recycling Facilities 原文 (10/17)
11.SDGs
 (ア)持続可能な開発のための投資
  ①GISD
   持続可能な開発のための世界投資家アライアンス 原文(10/14)