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週刊国際海洋情報(2022年9月24日号)

1.White House:Climate Mapping for Resilience and Adaptation portalを立ち上げ

9月8日、米国政府は、地域社会向けに、地域社会が直面している異常気象など気候変動によってもたらされる災害について現在の状況を提供し、将来的にどのような気候変動による影響を受けるか予測した地図情報を提供するClimate Mapping for Resilience and Adaptation portalを立ち上げた。この新たなwebsiteによって、様々なレベルの地方自治体やその首長が、リアルタイムで、自然災害による被害状況などを確認することができ、各地方自治体が長期的な自然災害防止対策を立てるために必要な連邦政府の情報にもアクセスすることができる。2021年には、規模の大きい20の気候変動災害だけで、多くの住民が無くなり、1500億ドル(約21兆円)以上の損害が発生している。新しいwebsiteでは、各地域の気候変動災害に関するリスク情報を提供するだけではなく、地域社会が気候変動の影響に対して、より良く準備・対応するために必要な連邦政府各機関の情報や補助制度の概要も知ることができる。

原文

White House (9/20)


2.EU:パリ協定に基づく自主的CO₂削減目標をさらに引き上げへ

EUはパリ協定に基づく自主的CO₂削減目標(NDC)においては、2030年までに対1990年実績比55%削減するとしているが、11月に開催されるCOP27におけるEUとしての共通対処方針案によれば、この目標をさらに引き上げることが検討されていることが判明した。現在のNDCは2021年7月に決定されているが、現在、EU内で調整が最終段階に入っているFit for 55パッケージの結果に合わせて、NDCも見直されることとなる。欧州委員会は、本年5月にロシアに対するエネルギーの依存を減らすために、再生可能エネルギー拡大の目標を引き上げ、省エネのペースも加速すると発表しているが、Fit for 55のパッケージの内容の最終決定は来年にずれ込む予定で、NDCを引き上げるにしても、11月のCOP27には間に合わない見込みだが、目標の引き上げを検討している姿勢を見せることで、他の諸国に対してもNDC引き上げへの圧力を与えることができるとしている。

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Reuters (9/20)


3.蘭:洋上風力発電を2040年までに50GW、2050年までに70GWまでに増設

北海の沿岸9か国から構成されるNorth Seas Energy Cooperationが2050年までに合計で260GWの洋上風力発電能力を持つことを目指すことで合意したが、これを受けてオランダ政府は、9月16日、洋上風力発電能力を2040年までに50GW、2050年までに70GWまでに増設し、併せて大規模なグリーン水素の生産施設も建設するとの計画を発表した。蘭政府は、現在、同国の総消費電力の75%に相当する21GWの洋上風力発電能力を2030年までに増設することを目標としているが、2030年以降に建設される洋上風力発電施設は、海岸から何百kmも離れた北海の沖合に建設されるため、沖合に大規模なエネルギーハブを建設して、周辺の洋上風力発電施設で発電された電力をまとめたうえで、電気または水素として陸上に送ることを計画している。またこのハブを経由して、他の北海沿岸国と電力を融通しあうことで、エネルギー安全保障も向上させる。

原文

Offshore Energy (9/21)


4.国連事務総長:化石燃料産業の超過利潤に対する課税を先進国に要請

本年第2四半期の利益として、Exxon Mobilが179億ドル、Chevronが116億ドル、Shellが115億ドルなど、各社とも記録的な利益を上げたことを7月に発表しているが、国連事務総長(UNSG)は国連総会冒頭の演説で、「気候温暖化に大きな責任を持つ石油業界が記録的な収益を上げる一方で、家庭の家計が苦しくなり、地球温暖化が進んでいる。」と指摘し、先進国に対して、「石油企業の超過利潤に課税をし、その資金をもとに、気候変動の悪影響を被っている国々や、物価の上昇に苦しむ家計の支援を実施する。」ことを要請した。11月のCOP27では、先進国から途上国への資金支援が主要テーマとなる見込みで、事務総長は支援の財源を「世界共通の敵」である石油企業から徴収することを示唆した。ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギーの供給不足から、石油業界が巨大な利益を得ているEUでは、エネルギー価格の高騰に苦しむ家庭を救済するために、石油業界に対して1400億ドル(約20兆円)を課税することがすでに検討されている。

原文

AP (9/21)


5.欧州エネルギー危機:ロシアによる一部徴兵によりさらに価格上昇

露大統領による軍の一部動員命令によって、欧州の天然ガス価格は1年前に比べて3倍以上の212ユーロ(約3万円)/MWhまで上昇し、石油価格も2%上昇した。英国では、政府が電力価格の上限規制を実施しているため、エネルギー価格の上昇を電力料金に十分に転嫁できずに既に20社以上の電力小売事業者が経営破綻している。独政府は、この冬にエネルギー不足で、エネルギーの配給制になるのを避けるため、できることは何でもやるとしており、同国国営の天然ガス輸入事業者のUniperに対して、追加で80億ユーロ(約1.1兆円)の資金注入を行うと表明し、これまでの同社に対する政府の支援額の合計は290億ユーロ(約4.1兆円)に達している。独政府は独国内にあるGazpromとRosneftの子会社を事実上国有化している。ロシアからウクライナを経由した欧州への天然ガスの輸送は継続しているが、一日当たり4240万㎥と低い水準にとどまっている。

原文

Reuters (9/22)


6.WSC:ライフサイクルで排気量を評価しないEU ETSはグリーン燃料に不利

コンテナ海運会社の業界団体であるWSCが標記意見表明をしているところその概要は以下のとおり。①海運の脱炭素化のためには、燃料が排出するCO₂の量をwell-to-wakeのlife cycleで評価する必要がある。②EU ETSの海運への適用に当たって、船舶の運航によって排出されるGHGだけを対象にすれば、使用する燃料が化石燃料から生産されるか再生可能エネルギーから生産されるかを問わないので、生産コストが安い化石燃料から生産されるブラウン燃料が有利となり、結果として、再生可能エネルギーから生産されたグリーン燃料の普及が妨げられることとなる。③他のEU Green Dealに関する施策においては、life cycle評価が取り入れられており、EU ETSにも取り入れることは可能である。④例えば、船舶から排出されるCO₂を測定検証するEU MRV規則を見直すことも可能だし、グリーン燃料を使用した場合は、排出権購入の価格を割り引くことも考えられる。

原文

WSC (9/22)


7.UMAS:Climate Action in Shipping/ Progress towards Shipping’s 2030 Breakthrough

UMASとUN Climate Change High Level Championsが共同で発表した標記報告書の概要は以下のとおり。①Scalable Zero Emission Fuels (SZEF)が外航海運の燃料として使用されるシェアを5%にするという目標の達成のためにはさらなる行動が必要。②SZEF開発の技術面では、世界で203件以上の海運脱炭素化試験/実証事業が、現在、実施・計画中だが、SZEF生産の決定・投資・供給インフラの整備が必要。②金融面では、28の船舶金融事業者からなるPoseidon PrincipleやClydebank Declarationなどのイニシアティブが進んでいるが、SZEF供給インフラのための更なる財源が必要なほか、SZEFと化石燃料との価格差を補う固定価格買取制度(CFD)などの財政措置が必要。③船舶から排出されるCO₂削減のための市場原理に基づく対策(MBMs)については、IMOにおける更なる議論の進捗が必要。

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UMAS (9/23)


8.T&E:EU ETSの適用範囲を5000GT以上ではなく400GT以上とすべきと提言

標記要請文書の概要は以下のとおり。①EU MRV/ETS/FuelEU Maritimeが適用される船舶を5000GT以上ではなく、400GT以上とすること。②欧州理事会は、総トン数が400GT以上5000GT以上の新造船をMRVとETSの適用対象とするか否かの決断を先送りしようとしているが、将来的な規制方針が明らかになるまでは、海運会社や金融機関は、投資の判断ができず、既に平均船齢が39年と老朽化している400-5000GTの船舶の更新を妨げることとなる。③小型船・フェリー・オフショア作業船をEU ETSの適用除外とすることは、化石燃料への事実上の補助であり、環境汚染を継続することとなる。5000GT以下の船舶を対象外とすれば、海運会社が船舶を改造して4999GTとして、引き続き化石燃料の使用を続け、5000GT以上の船舶との公正な競争を妨げることとなる。④海運会社は経営上の必要性から保有船舶の燃費性能を把握しており、400GT以上の小型船を適用対象としても欧州議会が懸念しているように過度の事務的な負担を船社に与えることはない。⑤欧州委員会の適用除外案に従えば、CO₂の排出量が2580万トン増加し、さらに400GT以上の小型船は大型外航船に比べて沿岸に近いところを航行するため、船舶の排気が沿岸住民の健康に与える影響も大きく、400GT以上の小型船を適用対象にすれば住民の健康改善に大きく寄与する。

原文

Transport & Environment (9/23)


9.Global Clean Energy Action Forum (GCEAF)が米主導で開催

9月21日から23日にかけて、米エネルギー大臣が主催し、各国の大臣・CEOs等が参加して、第1回世界クリーンエネルギー行動フォーラム が開催されたが、主要合意事項の概要は以下のとおり。①日本を含む16か国は、今年中にGCEAFに対し、Clean Energy Technology Demonstrationsのために、940億ドル(約13兆円)を供出することに合意。米国は219億ドル(約3.1兆円)を負担。②米国を含み日本を含まない6か国は、政府の公用車を2035年までにすべて電気自動車とし、中・大型車についても努力するZero-Emissions Government Fleet 宣言を採択。③米国エネルギー省は新たに Industrial Heat Shotを開始し、2035年までに、日用品生産に使用される熱源から排出されるGHGの量を85%以上削減する。④米国エネルギー省は、全米に4か所以上のクリーン水素の生産・加工・配送・貯蔵・利用のための拠点ハブを建設するとするRegional Clean Hydrogen Hubs Programを発表。

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米エネルギー省 (9/24)


10.北海におけるCO₂貯蔵:2023年に免許、2027年から貯蔵開始

North Sea Transition Authority (NSTA)は、北海のAberdeen/ Teesside/ Liverpool/ Lincolnshire沖の13のCO₂貯蔵海域の入札に19社から26件の応札があったと発表した。NSTAは応札内容を審査したうえで、2023年前半にも落札企業を決定する見込み。2027年から実際にCO₂の貯蔵が始まれば、2030年までに年間2000-3000万トンのCO₂の貯蔵が可能となる見込み。貯蔵候補地は、地質学的に適しており、既存のインフラに近く、CO₂貯蔵場所が必要な工業クラスターのそばにあるという観点から選択されている。2050年までの炭素中立を達成するためには、炭素回収貯蔵(CCS)技術の活用が不可欠で、最大で100か所のCO₂貯蔵場所が必要とされることから、今後の同様の入札が実施される見込み。

原文

NSTA (9/24)


その他のニュース

1.海運の脱炭素化
 (ア)代替燃料
  ①LNG
   UCL:LNG燃料船への投資で8500億ドルの評価損 原文 (9/21)
   ICCT:EU市場におけるLNGと再生可能LNGの将来的可能性 原文 (9/22)
 (イ)港湾
  ①LA/LB港
   船舶からの排ガス増加とzero-emissionへの取組み 原文 (9/23)
2.再生可能エネルギー
 (ア)グリーン水素
  ①豪
   韓国:2032年までに年間100万トンのグリーンアンモニアを輸入 原文 (9/22)
3.エネルギー転換
 (ア)天然ガスの取り扱い
  ①Frackingの可否
   英新政権:シェールガス採掘のためのfrackingの凍結を解除 原文 (9/25)
 (イ)提言
  ①IEA
   IEA/IRENA:Breakthrough Agenda Report 2022を発表 原文 (9/21)
4.安全保障
 (ア)中国
  ①一帯一路
   ハンブルグ港:COSCOによるターミナルの一部買収を支持 原文  (9/25)
5.環境問題一般
 (ア)環境と経済成長
  ①英国
   英国新政権:新たな「成長計画」の中で環境政策が後退 原文 (9/23)
6.海賊
 (ア)ギニア湾
  ①EU海軍の派遣
   EU:ギニア湾における海軍派遣を2024年2月まで 原文 (9/20)
7.海運政策
 (ア)カボタージュ
  ①米国
   US MARAD:貨物留保政策を支援する新たな施策を発表 原文 (9/20)