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週刊国際海洋情報(2022年9月17日号)

1.WMO:Air Quality and Climate Bulletin 2022を発表

9月7日のInternational Day of Clean Airに合わせて発表された標記報告書は、大規模に世界的に発生した山火事から発生した煙の影響について、特に着目して分析しており、2020年には、北米西部やシベリアにおいて気温が上昇し大気が乾燥して、人類の健康に悪影響を与えるPM2.5が大気中に大量・広範に拡散した。仮に今後CO₂の排出量を低く抑える低排出シナリオを実行できたとしても、PM2.5は人類の健康に悪影響を与えるだけでなく、地表面に堆積することによって、生態系にも悪影響を与える。2022年に欧州と中国で発生した熱波の下では、安定した高気圧の下で太陽光が強く風力が弱いとPM2.5による環境被害が顕著に表れた。気候変動によるこうした悪影響はclimate penaltyと呼ばれるが、世界の人口の約1/4を占めるアジア地域で、PM2.5ばかりではなく、地上のオゾン濃度が高くなることによって、破壊的な健康被害を与えることが懸念されている。

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WMO (9/8)


2.Tokyo MoU:2021年遠隔検査の実績

パンデミックを受けて、Tokyo MoUは2021年4月から同年末まで遠隔検査を実施したが、その概要は以下のとおり。①当該期間中の総検査数27899件の約21%に当たる5898件が遠隔で実施された。②1検査あたりに発見された問題点の件数は、遠隔の場合1.88件で、従来通りの訪船検査が1.55件だったので、遠隔検査の方が多くの問題点を発見し、遠隔検査で発見された問題点の果、出港禁止(detention)命令を受けた件数が61件もあった。③国別にみると、中国が最も積極的に、4704件の遠隔検査を実施し、遠隔検査だけで出港禁止命令をかけたのは中国だけだった。④確認(follow up)検査については、豪・露・チリなどの諸国も遠隔検査だけで対応した。⑤中国のほとんどの港湾では遠隔検査のみ実施された。⑥遠隔検査で指摘された問題点で多いものは、救命設備の不備(22%)、安全運航関連(21%)、緊急システム(12%)などだった。

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Safety4Sea (9/8)


3.英国新政権:各家庭の光熱費上限額を2年間凍結

9月8日、英国の新首相は新たなエネルギー政策を表明したところその概要は以下のとおり。①前政権の方針では、10月から各家庭の年間光熱費の上限額が1年前の約3倍に匹敵する3500ポンド(約58万円)に引き上げられる予定であったが、今後2年間、上限額を2500ポンド(約42万円)に据え置く。②事業者や病院・学校なども光熱費上限額抑制の対象となりうるが、据え置き期間は2年ではなく半年のみ。③インフレ率は7月に10.1%を記録し、年末には13%に達すると見込まれていたが、今回の光熱費上限額の抑制によって、インフレ率を4-5%引き下げる効果が見込まれる。④光熱費上限額の抑制に必要な財政規模は1000億ポンド(約17兆円)を超すものと見込まれるが、エネルギー価格の高騰から石油ガス事業者は今後2年間で1700億ポンド(約28兆円)の利益を上げる見込みであり、野党労働党は、超過利潤を謳歌しているエネルギー産業に対して課税して財源を賄うべきと主張しているが、新首相はこれを拒否し、財源は一般会計と公債によって賄われる見込み。

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AP (9/9)


4.足踏みするウクライナからの穀物海上輸送の多くの問題点

海上輸送回廊は、7月に国連とトルコの仲介で設定され、国連の共同調整センター(JCC)によれば、8月1日以降、トウモロコシを主体として、約200万トンの穀物が輸送された。露のプーチン大統領は、ウクライナから輸出されている穀物が、食糧危機に瀕しているアフリカ諸国にではなく、EUやトルコに輸出されているとして、海上輸送回廊に関する合意から露が離脱することも検討すると、9月7日表明した。合意が継続されたとしても、依然として黒海には多くの機雷が浮遊し、大型船舶が寄港せず、大規模港湾除外されているなどの理由から、10月までに最低でも600万トンの穀物を輸出するとするウクライナ政府の目標達成は難しい状況となっている。ロシアによる侵攻以前に、ウクライナの穀物海上輸送を行っていた海運会社は、自社の船舶をウクライナに配船できるほど、いまだ安全が確保されておらず、地上の戦闘状況も活発で、船員の生命の安全を確保できず、船舶が港湾に閉じ込められるリスクもあると指摘している。

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Reuters (9/9)


5.IEA:World Energy Employment Reportを発表

国際エネルギー機関が9月8日、標記報告書を新たに発表したところその概要は以下のとおり。①世界のエネルギー関係産業で就労している労働者数は、再生可能エネルギーへの転換とロシアによるウクライナ侵攻後のエネルギー供給網のシフトに対応して、全労働者数の約2%に当たる6500万人以上となり、パンデミック以前の水準を超えた。②石油ガス関連産業で働く労働者数はパンデミック開始後急減したのち、いまだ完全に回復していない一方で、再生可能エネルギー産業で働く労働者の割合は、全エネルギー関連産業で働く労働者数の過半数を超え、そのうち約2/3は再生化可能エネルギー発電施設の建設や再生可能エネルギー発電装置の製造にあたっている。③石油ガス関連産業で働く労働者数も回復しているが、中でも新たなLNG関連インフラの建設で労働者数が増えている。④2022年に入って、エネルギー分野で働く労働者数は記録的な速度で増加する一方で、インフレに伴うコストの増加が、太陽光・風力・石油ガスといった広い範囲で影響を及ぼしている。

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IEA (9/12)


6.EUエネルギー大臣会合:発電・エネルギー事業者の超過利潤を課税

9月9日、緊急に開催されたEUエネルギー大臣会合の概要は以下のとおり。①欧州委員会に対して、数日以内に、天然ガス以外を燃料として発電している事業者の利益に上限を設け、電力会社の与信問題を改善するための提案をするように要請。②ロシア産の天然ガスの上限を設けることについては、各国が合意できず。③代わりに、ロシア産に限らない天然ガス価格一般について、上限価格を導入する案の作成を欧州委員会に指示。④欧州委員会の提案はまだ公表されていないが、天然ガス価格の高騰によって上昇した電力価格から、利益を得ている再生可能エネルギー・原子力・石炭火力発電事業者の超過利潤を徴収して、電力価格引き下げの財源とすることが検討されている。④石油・ガス価格の高騰によって高い利潤を得ている化石燃料供給事業者からもsolidarity contributionを徴収する予定。⑤欧州委員会の提案は13日にも発表される予定で、これを受けてエネルギー大臣は今月後半にも再度会合を開催し、最終案について交渉・合意する見込み。

原文

Reuters (9/12)


7.米財務省:露産石油上限価格規制に関する海事関係者向けsafe harborを示す

9月2日、G7は財務大臣会合で、石油価格の高騰を防ぎ、ロシア政府の収入を減らすために、ロシア産原油に上限価格を設定し、上限価格を超える石油製品に対しては、保険・金融・brokering・輸送などのサービスを提供しないことに合意した。9月9日、米国財務省はG7合意を受けて、ロシアから輸出される石油価格の上限設定に関するガイドラインを発表し、上限価格を超過するロシア産原油の輸送に善意で関与した保険・金融・海運などのサービス提供事業者に対しては、制裁破りの責任を問わないとするsafe harbor基準を発表した。一方で、ロシア産原油を上限以上の価格で購入しながら、上限価格以内であることを示す虚偽の文書を故意に関係者に交付した者について、制裁違反者として処罰の対象になるだけでなく、上限価格の設定に合意したG7諸国に違反情報が共有されることとなる。

原文

Reuters (9/13)


8.欧州委員会:化石燃料事業者への超過利潤課税を提案

パンデミック後の迅速な経済の回復と、ロシアによるウクライナ侵攻によって、石油ガス価格が高騰し、エネルギー関連産業は巨額の利益を得ており、TotalやShellのような欧州の大手エネルギー企業が発表した本年第2四半期の収益は、それぞれ、115億ドルと98億ドルで記録的な水準に達している。これを受けて、今週公表される予定の欧州委員会の提案によれば、EU加盟国は、エネルギー価格の高騰によって、超過利潤を得ている石油・ガス・石炭・石油精製事業者に対して課税をし、徴収したsolidarity contributionを財源として、エネルギー危機を緩和するために、エネルギー料金の高騰に苦しむ家庭や企業を支援し、エネルギー多消費型の産業を支援し、エネルギーの消費を節約し、エネルギーの自給率を挙げるための事業を実施する。具体的な課税方法としては、2019年1月以降の3年間の予算年度の平均収益を上回る2022年からの超過利潤に対して課税される見込み。

原文

Reuters (9/13)


9.欧州議会:交通分野における2030年までのCO₂削減比率を16%に引き上げ

9月14日、欧州議会は再生可能エネルギー指令の改正案の投票を行い、7月に議会の産業委員会で合意された案に従い、ロシアへの化石燃料依存削減の一環として、交通分野における2030年までのCO₂削減比率をこれまでの13%から16%に引き上げることに合意した。具体的には、再生可能エネルギーから製造される合成燃料の比率を2030年までに5.7%に引き上げ、海運分野については、合成燃料の比率を1.2%に引き上げる。また欧州委員会が5月に採択したロシアからのエネルギー依存から脱するための施策を示したRePowerEUに従い、再生可能エネルギーの比率を2030年までに45%に引き上げることも合意された。今後、年末までに欧州理事会との調整・合意が行われたのちに正式に法律となる。

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Euractiv (9/16)


10.White House:15GWの浮体式洋上風力発電の整備を発表

9月15日、米White Houseは、エネルギー省・内務省・商工省・運輸省が協力して、2035年までに洋上浮体式発電の発電コストを70%削減して45ドル/MWhとし、500万戸の家庭の電力を供給できる15GW分の浮体式洋上風力発電施設を整備すると発表した。固定式洋上風力発電を併せれば、2030年までに、1000万戸の家庭に電力が可能な30GW分の洋上風力発電施設を整備し、これによって、7.7万人の雇用を創出し、民間投資を活性化する。米国東岸やメキシコ湾の沿岸は水深が浅いので、固定式の洋上風力発電施設の整備が可能だが、米国西岸とメイン湾沿岸のように水深が深いところでは、浮体式の洋上風力発電施設を整備する必要がある。世界全体で見れば、現時点で固定式の風力発電施設は50GW分既に整備されているが、浮体式洋上風力発電は0.1GWにすぎない。

原文

White House (9/16)


その他のニュース

1.エネルギー転換
 (ア)天然ガスの取り扱い
  ①Frackingの可否
   英国新政権:シェールガス開発再開を容認へ  原文 (9/16)
2.気候変動
 (ア)異常気象に伴う損害
  ①アフリカ
   WMO:The State of the Climate in Africa 2021 原文 (9/9)
3.再生可能エネルギー
 (ア) 洋上風力発電
  ①オランダ
   47億ユーロの復興事業の約半分をエネルギー転換事業へ 原文 (9/13)
 (イ) 太陽光発電
  ①EU
   記録的な太陽光発電量で290億ユーロ分の天然ガスの輸入を削減 原文 (9/8)
 (ウ)バイオ燃料
  ①木材バイオ燃料
   欧州議会:木材バイオマス発電に対する補助金を禁止へ 原文 (9/13)
  ②食料を原料とするバイオ燃料の制限
   欧州議会:食料を原料とするバイオ燃料の規制強化に合意できず 原文 (9/16)
4.エネルギー安全保障
 (ア)エネルギー価格高騰対策
  ①EU
   欧州委員会:5つのエネルギー価格高騰抑止対策を提案 原文 (9/8)
5.船舶の安全性
 (ア)火災事故
  ①リチウムイオン電池
   Allianz:リチウムイオン電池による火災リスクに対する予防措置 原文 (9/12)
6.気候変動適応対策
 (ア)COP27
  ①Climate Finance
   アフリカ諸国:COP 27を前にClimate Financingの増加を要求 原文 (9/12)