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週刊国際海洋情報(2022年8月22日号)

1.米連邦海事委員会:外航海運改革法の実施状況を伝える専用Webページを作成

連邦海事委員会は2022年外航海運改革法に関する同委員会の実施状況について、一般国民が容易かつ迅速に同法の実施状況を把握するためにすべての情報を閲覧し、同法の下で同委員会に与えられた責任に関する進捗状況をすべての利害関係者に伝えるために、新たに専用Webページを設置した。このページには、同法関係規則・業界に対する勧告・プレスリリース資料などが掲載され、適宜情報が更新される。同ページに掲載されるこれまでの同委員会の活動としては、①海運会社とターミナル運営事業者に対して、荷主・トラック運送事業者・鉄道事業者に重要な情報を開示することを命じる緊急命令を発出する必要性に関するパブコメの募集。②米国に寄港するVOCCから輸出入に関する情報を収集する計画に対するパブコメの募集。③貨物の積載や積載に関する交渉を不当に拒否する行為に関する規制案の告知に関する進捗状況。④海運会社等が課す料金に関して荷主等が不服申し立てをするための暫定手続きの作成。⑤Bureau of Enforcement, Investigations and Complianceの新設に伴う、優先的な法の執行活動などが挙げられる。

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FMC (8/16)


2.歴史的な高収益を謳歌する海運会社に対する増税圧力

今月は、マースクが86億ドル(約1.2兆円)、Hapag-Lloydが87億ユーロ(約1.2兆円)と各海運会社の第2四半期の記録的な高収益が次々と発表され、政治家の一部から海運会社はもっと税金を納めるべきという問題提起がされ、海運会社は今後数か月政治的な向かい風が強まることを覚悟しなくてはならない。Sea-Intelligence社によれば、マースクに対する税率は1.8%で納税見込み額が1.6億ドル(約214億円)、Hapag-Lloydに対する実効税率は0.5%で納税見込み額が2100万ユーロ(約29億円)となる見込み。こうした過少納税額に加え、コンテナ運賃の高騰がインフレを促進し、サプライチェーンが危機に瀕しているときに、まったくあてにならないサービスを提供しておきながら巨万の富を得ているというように感情的に非難される可能性が強い。米大統領は、コンテナ海運会社をぶんなぐってやりたい(take a pop)とまで発言している。仏の政治家の多くは、巨利を得ているCMA CGMやTotalEnergiesなどの海運会社・エネルギー会社に対する税率を一気に25%まで急増させるべきと主張している。

原文

Splash247 (8/16)


3.ABS/DOE:原子力推進の商船への導入に関する問題点を研究

米国エネルギー省(DOE)の原子力庁は、昨年米国船級協会(ABS)に対して、80万ドル(約1億円)を助成して、新型の原子炉を商船に搭載するにあたっての課題の調査を委託したが、ABSは舶用の新型の原子炉に関する異なるモデルを開発して、新型の原子炉を商船の動力として活用するにあたっての船級協会としての助言を作成するため、DOEの国立原子炉開発センターから最新の原子炉に関する技術的枠組みに関する情報を得て、商船による原子力運航の実証実験をどのように進めるかについて提案を行う予定。DOEはABSに対して、テキサス大学が開発中の溶融塩原子炉についても検討を進めるよう別途助成を行っている。ABSは最初の原子力推進商船であるNSサバンナ号の開発時から、舶用原子力炉の開発に関与してきている。

原文

ABS (8/18)


4.Jones Actの制約回避のためにバハマ経由で湾岸から東岸に石油製品を輸送

通常メキシコ湾岸の石油事業者はHoustonとNew Jerseyの間を結ぶColonial パイプラインを通じて、1日当たり約250万バレルのガソリンや他の石油製品を東海岸に送っているが、米国経済の好調を受けて、パイプラインによる輸送だけでは、需要に応じられなくなってきている。しかし、メキシコ湾から東海岸まで、内航タンカーで石油製品を輸送した場合、カボタージュ法であるJones Actに従い、米国で建造され、米国人船員を配乗した米国籍タンカーを使用しなくてはならず、輸送費用が割高になるだけでなく、同法対応のタンカーの隻数がそもそも限られている。こうした制約をさらにかわすために、湾岸地域からガソリンの原料となる石油製品をバハマに輸送して、同地でガソリンにブレンドした後に、東海岸に輸送するという迂回ルートが編み出され、今年の3月以来少なくともバハマにガソリンの原料となる石油製品を輸送し、バハマでブレンドされたガソリンが東海岸に送られているが、これらはすべてBPが用船している。エネルギー情報庁によれば、2021年に米国からバハマに輸出されたガソリンの原料は14.6万バレルだったが、今年に入って急増し、5月1か月だけで49.8万バレルに達している。

原文

Reuters (8/18)


5.EMSA:欧州海事Single Windowの相互運用に関する技術報告書

欧州海事安全庁(EMSA)が7月29日、表記報告書を発表したところその概要は以下のとおり。①2018年9月に欧州委員会(DG MARE)とEMSAは欧州海事Single Window (EMSW)について関連事業者と関係官庁の間の相互運用性の促進について試験事業を実施することに合意し、同事業は2022年5月に終了した。②本事業の目的は、加盟国における海事Single Window(NMSW)の改善を支援し、NMSWとEMSAが運用する船舶交通監視システムであるSafeSeaNet(SSN)との間の情報の整合性とinterfaceの改善を図ることである。②14の加盟国の協力を得て、各国の担当官署による海上状況認識能力を高め、船舶から官署に対する報告を減らすために、各国がNMSWを通じて、統合されたSSNによる情報を自動的に共有する方法の開発に取り組んだ。③本事業によって、複数のNMSW間の整合性のとれた相互運用可能な情報を統合するEMSWの創設に貢献し、安全で効率的な入出港にかかわる書類の交換や船舶から陸上官署への情報伝達のデジタル化など加盟国に対するSSNサービスの向上につながった。

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EMSA (8/19)


6.IRA:CO₂削減の1/5を炭素回収貯留技術に依存するのは実現可能性低い

Inflation Reduction Act (IRA)の成立によって、CO₂の排出量が対2005年実績比で、2030年までに40%削減されるのは大きな一歩だが、IRAの成功のカギは、炭素回収貯留(CCS)技術の拡大の成否である。これまでの技術では、CO₂の回収コストは高いうえに、回収したCO₂を貯蔵地まで輸送するためのパイプラインの建設と、巨大な地下の貯蔵スペースを確保する必要があり、これらの施設の建設には地元住民との難しい交渉が待っている。最近の研究では、米国が2050年までに炭素中立を達成するためには、現在のパイプラインの総延長の13倍である6.5万マイル(約10.5万km)のパイプラインを新たに建設する必要がある。プリンストン大学による予測では、IRAの実現には、2030年までに、現在回収されているCO₂の13倍を回収しなくてはならず、2030年までのCO₂総削減量の1/6から1/5をCCSによって回収することが求められている。

原文

Climate Change News (8/19)


7.韓国政府:韓国造船業界向けに外国人労働者の雇用制限をさらに緩和へ

韓国造船業界は、過去3か月、中国造船業界をわずかにリードして、世界第1位の地位を守ってきたが、この地位を維持するため、韓国大手3大造船会社の社長は、8月19日、政府の産業通商資源部長官と会談して、今後の政府との協力関係について協議した。報道によれば、この場で話された課題のうち、最も重要なのは労働力不足問題で、2010年代に韓国造船業界が事業規模を縮小した際に大幅な人員削減をしたため、受注が拡大した今では、熟練労働者の不足に悩んでいる。韓国政府は最近こうした労働力不足を解消するために一定の種類の外国人労働者の受け入れ可能人数を拡大したが、造船各社はさらなる制限の緩和を要望し、長官は政府としての更なる労働力確保対策を近日中に発表すると言明した。政府支援と引き換えに、政府は造船各社に対して、1.76億ドル(約241億円)を投資して、韓国造船業界が高付加価値な船舶の分野で引き続き世界をけん引できるように、アンモニア燃料船の開発・デジタル化・自動化の分野などの先進的な分野への投資を強化するように要請した。

原文

The Maritime Executive (8/21)


8.ウクライナの穀物輸出回廊が順調に機能し、食糧市場も安定化

7月末に締結された合意に基づいて、8月前半に、ウクライナの黒海沿岸の主要3港から21隻の船舶で輸出された食品の総量は50万トンを超えた。この量はもちろん平年の輸送量に比べれば少ないが、穀物の生産者・輸出事業者はほっとし、世界の食料市場も安定化に向かっていると8月18日、国連事務総長はコメントした。一方で、ウクライナに入港する船舶も継続しているが、今後の課題としては、いまだに残るロシアの脅威にかかわらず、平常時にウクライナの穀物輸送に従事していた大型船舶が戻ってくれば、さらに穀物の輸出を加速することができるが、このためにはこの回廊を特別な追加コストなしに安全に運航できるという確信を船主が持つことが大切である。国連事務総長は18日にオデッサを訪問するとともに、ウクライナ・トルコ両大統領と3者会談を行った。ロシアによる侵略以前は、ウクライナから毎月500-600万トンの穀物が輸出されていたが、2022-2023年のシーズンは合計で3040万トンの輸出が実行できる見込み。

原文

gCaptain (Bloomberg) (8/21)


9.需要主導のコンテナ運賃の上昇は終焉するも2022年も最高益を継続更新

Sea-Intelligence社によれば、コンテナ輸送の需給関係は、2020年11月から2022年の1月まで、輸送需要量は供給量を継続的に10%上回っていたが、この需給ギャップが今年の6月には2%まで減少しており、これに伴って、コンテナ船運航ダイヤの乱れも改善され、コンテナ船運航の正常化が進んでいる。今後も需給ギャップの減少傾向は続き、運賃引き下げ圧力が強まる見込みで、例えば、通常は運賃が高含みで推移する第3四半期の運賃についても、対前期で、上海SCFIで8%下落した一方、中国コンテナ運賃指標(CCFI)は1%わずかに上昇している。欧州の港湾では、依然として港湾の混雑や港湾ストライキなどによって、港湾荷役効率が下がっているものの、米国も含め、インフレの進行と在庫の積み上げによって、輸入意欲が減少している。Drewry社のWorld Container Indexは、スポット運賃の下落によって、対前年比35%低下したが、5年平均と比べると依然として71%も高い水準にあり、海運会社の利益は2022年も最高益を更新する見込み。

原文

Splash 247 (8/22)


10.ICS:2023年からインド洋の海賊危険海域撤廃をIMOに提案

国際海運会議所(ICS)は、インド洋に設定されている海賊警戒のための高度危険海域(HRA)を来年から撤廃することを決定し、8月22日にIMOに提案した。提案は10月31日から開催されるIMOの海上安全委員会で審議される。HRAの撤廃は、約15年間にわたる地域的・国際的な関係者の海賊取り締まり対策の賜物で、2018年以来、ソマリア沖では、民間商船に対する海賊の攻撃は発生していない。今回の決定はICS/BIMCO/IMCA/ INTERCARGO/INERTANKO/OCIMFといった民間海運関係業界団体による共同決定だが、英国海上貿易運用センター(UKMTO)が設定している「自主的報告海域(VRA)」の運用は継続されるので、VRAに入域する船舶は、これまでとおり、海運業界が作ったBest Management Practice 5 (BMP5)に従い、UKMTOに報告するとともにMaritime Security Center for the Horn of Africa (MSCHOA)に登録することが求められる。

原文

ICS (8/22)


その他のニュース

1.エネルギー転換
 (ア)新たな化石燃料開発
  ①米国
   IRAは石油ガス生産の増産を通じCO₂排出量の増加を許容 原文 (8/21)
  ②機関投資家
   10の機関投資家が世界の化石燃料埋蔵量の半分を支配 原文 (8/11)
 (イ)経済的影響
  ①エネルギー価格の高騰
   英国の電力価格が他の欧州諸国より急速に上昇している背景 原文 (8/22)
 (ウ)経済的手法
  ①投資に対する税額控除
   脱炭素化には炭素課税より投資に対する税額控除の方が有効 原文 (8/21)
2.気候変動
 (ア)山火事
  ①地球全体
   気候変動によって前例のない規模で山火事が進む 原文 (8/18)
 (イ)干ばつ
  ①経済活動への影響
   ラ川の水位がさらに低下した際エネルギー物資を鉄道で優先輸送 原文 (8/16)
 (ウ)永久凍土の融解
  ①観測方法
   北極圏が炭素の貯留地から炭素の発生源に移行 原文 (8/19)
  ②解凍崩壊
   永久凍土の解凍によってがけ崩れを起こし大量のGHGを放出 原文 (8/22)
3.気候変動緩和対策
 (ア)各国の政策
  ①米国
   バイデン大統領:気候変動対策・増税・医療保険法案に署名 原文 (8/18)
 (イ)外交的な課題
  ①自国製品優先政策
   米大統領の気候変動対策の成功のためには柔軟な外交交渉も必要 原文 (8/19)
4.北極
 (ア)安全運航の担保
  ①海底地形図の作成
   カナダ政府:北極海海底地形図の作成に8400万ドルを予算化 原文 (8/16)