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国際海洋情報(2022年8月19日号)

1.EMSA:欧州海事Single Windowの相互運用に関する技術報告書

欧州海事安全庁(EMSA)が7月29日、表記報告書を発表したところその概要は以下のとおり。①2018年9月に欧州委員会(DG MARE)とEMSAは欧州海事Single Window (EMSW)について関連事業者と関係官庁の間の相互運用性の促進について試験事業を実施することに合意し、同事業は2022年5月に終了した。②本事業の目的は、加盟国における海事Single Window(NMSW)の改善を支援し、NMSWとEMSAが運用する船舶交通監視システムであるSafeSeaNet(SSN)との間の情報の整合性とinterfaceの改善を図ることである。③14の加盟国の協力を得て、各国の担当官署による海上状況認識能力を高め、船舶から官署に対する報告を減らすために、各国がNMSWを通じて、統合されたSSNによる情報を自動的に共有する方法の開発に取り組んだ。④本事業によって、複数のNMSW間の整合性のとれた相互運用可能な情報を統合するEMSWの創設に貢献し、安全で効率的な入出港にかかわる書類の交換や船舶から陸上官署への情報伝達のデジタル化など加盟国に対するSSNサービスの向上につながった。

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EMSA (8/19)


2.バイデン大統領の気候変動対策の成功のためには柔軟な外交交渉も必要

米国で予算規模4000億ドル(約55兆円)のInflation Reduction Act(IRA)が成立したが、次の課題は予算に盛り込まれた大規模なClean Energyに対する助成を如何に迅速かつ大規模に実行できるかであり、このためには、関係省庁が同法を施行するための新たな規則やガイドラインを速やかに策定するとともに、大規模な風力・太陽光発電関連施設の建設に必要な許認可手続きの迅速化も必要となる。同時に、太陽光パネルやバッテリーを製造するのに必要なニッケル・コバルト・リチウムなどの希少金属の国際的な獲得競争を勝ち抜くとともに、他の諸国にも米国と同様に速やかなCO₂削減を求めていく必要がある。また、IRAは、米国内のClean Energy産業の育成を図るために、税額控除の要件として、米国内で生産された製品を使用することを求めているが、このような自国製品優先政策は、これらの製品を製造する外国との貿易戦争の引き金となりかねず、欧州委員会は既に、電気自動車に対する税額控除が、北米で生産された電気自動車にしか認められないことを問題視している。このようにIRAの実行のためには、貿易戦争を引き起こさないような、諸外国との柔軟な外交交渉が今後必要となるのである。

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Foreign Policy (8/19)


3.IRA:CO₂削減の1/5を炭素回収貯留技術に依存するのは実現可能性低い

Inflation Reduction Act (IRA)の成立によって、CO₂の排出量が対2005年実績比で、2030年までに40%削減されるのは大きな一歩だが、IRAの成功のカギは、炭素回収貯留(CCS)技術の拡大の成否である。これまでの技術では、CO₂の回収コストは高いうえに、回収したCO₂を貯蔵地まで輸送するためのパイプラインの建設と、巨大な地下の貯蔵スペースを確保する必要があり、これらの施設の建設には地元住民との難しい交渉が待っている。最近の研究では、米国が2050年までに炭素中立を達成するためには、現在のパイプラインの総延長の13倍である6.5万マイル(約10.5万km)のパイプラインを新たに建設する必要がある。プリンストン大学による予測では、IRAの実現には、2030年までに、現在回収されているCO₂の13倍を回収しなくてはならず、2030年までのCO₂総削減量の1/6から1/5をCCSによって回収することが求められている。

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Climate Change News (8/19)


4.北極圏が炭素の貯留地から炭素の発生源に移行

北極圏では、地球温暖化によって、永久凍土が暖められることにより、永久凍土中に蓄えられていたCO₂やメタンなどのGHGが大気中に放出され、さらに地球温暖化が促進されている。北極圏の植生を観察することによって、北極圏の温暖化のメカニズムを解明することができるが、これまでは北極圏が広範囲で、遠隔地で、人もほとんど住んでいない地域で、調査のための遠征費用が高額で、多くの機材も必要としたので、全体の植生の変化を観察するのが困難だった。そこで最近の科学者たちは光の反射をとらえるimaging 分光法と呼ばれるRemote Sensing技術を活用して、ツンドラの植生の変化を観察することによって、北方樹林がツンドラ地帯に拡大し、ツンドラ地帯の多くが緑化されていることが観測され、結果として永久凍土が分解・解凍され、歴史的に炭素の貯留地であった北極圏が、炭素の発生源に移行していることを解明した。NASAは2027年から2028年にかけて,
Imaging分光器を搭載した衛星を含む複数の衛星を打ち上げて、「地球システム観測所」を立ち上げる予定。

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Yale Climate Connections (8/19)


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