週刊国際海洋情報(2022年8月15日号)

1.独政府:気候変動・エネルギー転換対策に1775億ユーロを予算計上

7月23日、独政府は、連邦予算案として「気候変動・エネルギー転換特別基金」を創設して、2023年から2026年にかけて1775億ユーロ(約24.5兆円)を計上し、エネルギー転換と地球環境保全を促進するとともに、国民の負担を軽減すると発表した。主たる基金の使途としては、①建設部門への連邦政府の投融資。②電気自動車の充電施設の拡充をはじめとする電動交通システムの開発。③水素関連産業の育成。④エネルギー効率の向上。⑤事業者や家庭の電気料金高騰対策として、2022年7月から、電力利用者は、再生可能エネルギー整備のための付加料金の支払いを免除され、今回創設された特別基金が代わりに負担する。特別基金の財源としては、ドイツ国内の排出権取引制度や炭素税の収入が当てられ、連邦政府の財源に依存しない。

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Bundesregierung (8/10)


2.コンテナ海運業界:昨年の最高益をさらに7割以上、上積みへ

コンテナ各社の第2四半期の営業成績の上方修正を受けて、Blue Alpha Capital社の予測によれば、大手コンテナ海運会社11社の2022年のnet incomeの合計は、ポーランドのGDPに匹敵する2560億ドル(約35兆円)に達する見込みで、利益額も昨年の史上最高額1480億ドル(約20兆円)をさらに73%上回る見込みと発表した。Drewry社も本年のコンテナ海運会社の利益総額は2700億ドル(約36兆円)に達すると見込む一方で、来年は半減して1500億ドル(約20兆円)と2021年の水準に戻ると予測している。個別にみると、マースクは、本年は史上最高の310億ドル(約4.2兆円)となる見込みと発表し、Hapag-Lloydも高収益を続け、独最大の優良企業であるフォルクスワーゲンの利益を抜く勢いとなっている。

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Splash247 (8/10)


3.ウクライナから穀物を海上輸送するための課題

世界的な食糧不足問題を回避するために、ウクライナから出港するために保護された回廊が設定されたが、これまでに輸出された約37万トンの穀物の大部分が家畜のえさとなるトウモロコシである。現在同国の港湾には、約300万トンの穀物が滞貨しており、9月中旬までにまずはこの滞貨を一掃する必要がある。ウクライナ政府によれば、昨年収穫された穀物2000万トンと今年収穫される2000万トンの併せて4000万トンを輸出する必要があるが、現在開港されている3港湾の積み出し能力は合計で、月間300万トンのみである。ロシア軍とウクライナ軍が敷設した機雷は、ウクライナ沿岸から黒海沿いのルーマニア・ブルガリア・トルコの海域にまで拡散しており、各国の海軍が機雷処理をしているが、完全処理まではまだ長い期間を要する。イスタンブールに拠点を置くJoint Coordination Centreは、ウクライナから穀物を海上輸送するためにとるべき手続きを8月8日発表した結果、ウクライナから出港する航海については、1航海あたり、5000万ドルの保険が提供されるようになったが、ウクライナに入港する船舶に関する保険については、保険料が依然として高止まりしている。

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Reuters (8/11)


4.欧州委員会:Consortiaに対する競争法一括適用除外規定に対する意見照会を開始

7月に、Global Shippers Forum(GSF)を含む荷主・フォワーダー等の団体が、欧州委員会の競争政策担当コミッショナーに共同書簡を送り、2024年4月まで有効なConsortia Block Exemption Regulation (CBER)について、即時に再検討を進めるよう要求したのを受けて、欧州委員会は定期船のサプライチェーンの利害関係者に対して、CBERの機能について意見を求める質問書を発送した。欧州委員会は今後、2020年に更新された後のCBERの影響について評価を行い、2024年にCBERを延長するか否か、延長するとして単純延長か、見直しを加えたうえで延長するかを決定する。利害関係者は、10月3日までに意見の提出を求められている。GSFの事務局長は、競争法の一括適用除外をしなくても、船舶共有協定を認める方法はあるはずと語っている。欧州のフォワーダー等の団体であるClecatの事務局長も、無条件の適用除外ではなく、明確な一定の条件を定めたうえで、限定的に適用除外を認めるべきであるとしている。

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The Loadstar (8/11)


5.米下院が民主党の医療保険・温暖化対策法案を承認

米下院は民主党が主導する医療保険・温暖対策法案を8月12日、220対207で可決し、後はバイデン大統領が署名するだけとなり、中間選挙を前に、民主党の大きな政治的な勝利となった。同法案に対して野党共和党は、税金の無駄遣いだとし、特に内国歳入庁の体制強化に対して反対した。この法案は、当初バイデン大統領が目指したBuild Back Better法案と比較すると、大幅に縮減された妥協案ではあるが、気候変動対策には3690億ドルが予算化され、再生可能エネルギーの拡大などにより、対2005年実績比で、2030年までにCO₂排出量の40%が削減できる見込み。承認された法案には、医療保険や温暖化対策の支出増を賄うための法人税等の増税が盛り込まれており、差し引き約7000億ドル(93兆円)以上の税収増加となり、財政再建健全化も同時に達成している。

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The Guardian (8/13)


6.欧州の大規模な熱波と干ばつで山火事が広がり、河川では多くの魚が死亡

欧州は厳しい熱波と干ばつに襲われ、農業や生態系に大きな影響が出ている。ロシアによるウクライナ侵攻によって既に食糧不足やインフレに苦しんでいるのに加えて、大規模干ばつによって、農作物等に大きな損害が発生している。フランスでは、史上最悪の干ばつに加えて、ジロンド県では、松林の山火事で、夜も空が真っ赤に染まり、9日から11日までの3日間で、隣接するランデ県も併せて68㎢が消失した。仏国内の山火事で、これまでに約1万人が避難し、16軒以上の家屋が消失している。チェコを源流とし、ポーランドとドイツの国境沿いをバルト海に流れるオデール川では、ポーランドとドイツの岸辺に打ち上げられた死んだ魚をボランティアが回収している。WWFポーランドの代表によれば、工場から有害な化学物質が流されたが、干ばつの影響で水位が下がった川で、魚により強い悪影響を与えたのが原因としている。流域の住民に対しては、川で泳がないように警告が発せられた。

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AP (8/12)


7.韓国海洋水産部長官:HMMの民営化を表明

韓国のHMMは80万TEU以上の輸送力を持つ世界第8位のコンテナ海運会社で、7月に発表した野心的な拡大計画によれば、2026年までにコンテナ船隊の輸送能力を80万TEUから120万TEUに、VLCCを10隻から25隻に、ばら積み船隊を19隻から30隻に拡大するとしている。同社は2020年の第1四半期まで20四半期連続で経常損失を計上し続けたような状況で、2016年に破産しかけていた同社を救済するために、国営韓国産業銀行と韓国海洋事業公社が同社の株式の40%を引き受けたうえに、新株引受権と転換社債も保有し、すべての社債を株式に転換した場合、同社の株式の70%を国営金融機関が持つ状態となったため、民営化が非常に難しい状況となっていた。今週(8月8日)同社は、2022年上半期の経営成績を発表し、純利益が46.5億ドルと前年の2.9億ドルから大幅に拡大した。これを受けて、海洋水産部長官は、高収益を上げている企業を国有とする必要はなく、海運会社の経営が再び下降する前に、民営化を進めると表明した。

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The Maritime Executive (8/14)


8.米Inflation Reduction Actで再生可能エネルギー発電の拡大に大きな弾み

米国の洋上/陸上風力・太陽光発電のロビー団体であるThe American Clean Power Associationによれば、8月12日に下院で承認されたInflation Reduction Actによって、再生可能発電量が3倍となり、2030年までに全米の家庭に供給する電力をすべて再生可能発電で供給することが可能となり、この結果、国民一人当たり平均で年間1000ドル(約13.3万円)の光熱費を節約し、新たに55万人の新規就業機会を創設し、合計で約100万人を雇用し、CO₂の排出量を対2005年実績比で40%削減できるとしている。特に、洋上風力発電投資に関する投資額に対する30%の税額控除制度を2025年まで延長するのをはじめ、洋上風力発電設備に米国製部品を採用した際の追加控除制度や労働者に対する技能育成制度(apprenticeship)が導入されている。さらに、先進的な工業製品に認められる30%の税額控除制度であるadvanced manufacturing production creditが洋上風力発電支援船舶を含む広範囲な米国製の再生可能エネルギー関連製品に認められる結果、製品価格を10%値引きして販売することができる。

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The Maritime Executive (8/14)


9.スウェーデンが仏を抜いて欧州最大の電力輸出国に

国際エネルギー機関が欧州各国の2022年上半期の電力の輸出入を発表したところその概要は以下のとおり。①フランスはこれまで欧州最大の電力輸出国で、2021年上半期は、21.5Twhを輸出していたが、2022年上半期は、原子力発電の構造的問題で、輸出電力が半減して16.4Twhになった一方で、電力の輸入量が2倍の18.9Twhとなり、差し引き2.5Twhの電力輸入国に転落した。②スウェーデンの主要発電源は、原子力・水力・バイオ燃料で、風力発電が増加し、石油火力発電が減少しているが、フィンランドに7Twh、デンマークに4Twh輸出したのをはじめ、合計で16Twhを輸出し、欧州最大の電力輸出国となった。③ドイツはフランスへの電力輸出量が増えたため、対前年比2倍の15.4Twhを輸出し、欧州第2位の電力輸出国となった。④ロシアが天然ガスの供給をさらに制限し、冬の電力のピークシーズンに独が仏からの支援を必要としても、仏が原子力発電の発電量を増やせない限り支援することは難しい。

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Euractiv (8/15)


10.世界資源研究所:Inflation Reduction Actの6つの利点

World Resource Instituteが、8月12日に下院で承認されたInflation Reduction Act(IRA)について6つの利点を挙げているところ、その概要は以下のとおり。①IRAによって、2780億ドル(約37兆円)の電力コスト、平均的な1家庭当たり年間220ドル(約2.9万円)の電力料金が節約できる。②燃料代と維持費の削減を図るために、IRAは電気自動車の普及を促進するための、税額控除制度や、新車は7500ドル、中古車は4000ドルの価格引き下げを実施。③IRAによる気候変動・clean energy関連の投資で、向こう10年間で新たに900万人以上の新たな雇用を創出する。④IRAによってclean energyが導入され、大気汚染が改善されることにより、2030年までに、最大で3900人のpremature deathと10万人の喘息患者を救うことができる。⑤気候変動は、その原因に関与していない、低所得者層・黒人/ラテン系の民族・先住民などの有色人種に対してより深刻な影響をもたらすが、IRAはこうした気候変動に伴う不平等と不公正を是正する。⑥IRAによってCO₂を2005年実績比で40%削減することが可能で、2030年までに同50-52%削減するというバイデン政権の目標達成可能性が高くる。

原文

World Resource Institute (8/15)


その他のニュース

1.エネルギー転換
 (ア)石炭の取り扱い
  ①米国
   連邦地裁:連邦管理地における石炭開発の一時停止を復活 原文 (8/15)
 (イ)新たな化石燃料開発
  ①機関投資家
   10の機関投資家が世界の化石燃料埋蔵量の半分を支配 原文 (8/11)
2.気候変動
 (ア)異常高温
  ①南極・北極
   北極海の気温は地球の平均の4倍の速度で上昇 原文 (8/13)
 (イ)氷河・海氷の減少
  ①南極・北極
   南極の棚氷がこれまでより早く融解している可能性 原文 (8/15)
 (ウ)干ばつ
  ①経済活動への影響
   欧州の歴史的な干ばつの影響で河川水運がマヒ状態に 原文 (8/11)
   ライン川の水位低下によって水運に大きな打撃 原文 (8/14)
3.海運経済
 (ア)鉄道輸送との競合
  ①港湾ストライキの影響
   欧州港湾ストライキの影響で中国=欧州間の鉄道貨物輸送が増加 原文  (8/14)
4.北極
 (ア)資源開発
  ①希少金属
   世界の億万長者達がグリーンランドで希少鉱物資源の探索競争 原文 (8/10)
5.エネルギー安全保障
 (ア)対ロシア
  ①ドイツ
   独:LNG調達の迅速化のために米国産と豪産LNGを交換 原文 (8/13)
 (イ)エネルギー価格高騰対策
  ①小売り上限価格の引き上げ
   英:エネルギー上限価格を来年から前年比230%引き上げへ 原文 (8/10)