国際海洋情報(2022年8月1日号)

1.ブルーカーボンによる炭素吸収率の計算方法は過大

英国のEast Anglia大学の研究者達は、マングローブの木などを植えて沿岸域の植物の生息地を回復することによる環境上の便益は不確定で、ブルーカーボンによるCO₂吸収効果は大幅に誇張されているとする研究を7月28日発表したところその根拠の概要は以下のとおり。①ブルーカーボンによるGHG吸収能力の見積もりには、異なる研究結果の間で大きな幅があり、例えば塩生湿地の場合は、最高と最低の研究結果の間に600倍の差があり、単純に平均値を当てはめるわけにはいかないので、個々の場所で正確なCO₂吸収能力を評価するためには、多大な時間・労力・コストがかかる。②炭素吸収率は、対象地域の異なる深さから土壌を採集することによって、間接的に計算するが、土壌に浸透する生物が新しい地層と古い地層を混ぜてしまい、土壌の年代をより若く、吸収率を高く算定することになる。③沿岸地域の土壌には河川などによって陸上から運ばれた土壌に含まれていた炭素が10%から90%含まれており、ブルーカーボンの炭素吸収率の算定に当たっては、これらの他の地域から運ばれた炭素を計算上除外する必要がある。

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The Conversation (8/1)


2.英国:冬季期間中暫定的に石炭火力発電所の運転許可条件を緩和

7月28日、英国の送電網を管理するNational Grid社は、今年の冬季期間中、電力の需給バランスが厳しくなる時期があるものの必要な電力は供給できる見通しであると発表したが、昨年の実績では、英国においては、天然ガス火力発電所が、同国の発電量の4割以上を発電し、天然ガスは英国の家庭の暖房の約8割を担っている。英国政府は、炭素中立を達成するために、すべての石炭火力発電所を2024年10月までに閉鎖する計画で、石炭火力発電事業者は、石炭の在庫量を減少し、発電所の閉鎖を準備していたが、7月29日、英国環境・食料・地方省は、10月から3月まで、Englandにおける石炭火力発電所の運転許可条件を緩和すると発表した。また、英国政府は、現在制限された運転(limited life derogation)が認められている発電所に対して、エネルギー安全保障の観点から、2024年9月末までの運転延長を今後認める方針であると発表した。

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Reuters (8/1)


3.わかしお座礁事件:被害者が集団訴訟を最高裁に提訴へ

わかしおの所有者であるOkio Maritime Corporationが2021年10月19日に、同社の責任を約1680万ドル(約22億ドル)に制限する申し立てを裁判所に対して行ったが、石油流出事故により損害を受けたモーリシャスの約1700人の漁民と住民は、この責任制限に反対して、集団訴訟の準備を進めている。漁民たちは、最低賃金と同額の補償を受け取る条件として、訴訟は提起しないことを約束する書面に署名させられたと主張している。わかしおの用船者である商船三井は、油濁事故によって損害を受けた地域社会を支援するための基金を立ち上げ、また再生可能エネルギーを得るための海洋熱エネルギー変換に関する事業可能性調査に入ると発表している。7月4日には、日本の交通事故調査委員会の報告書がリークされたが、わかしおにはモーリシャス周辺の正確な海図がなかったにもかかわらず、船長は運航する船員に対して、携帯電話の信号を拾うために予定のコースを外れて、モーリシャスの沿岸に接近することを命じ、船員は目視で監視を行っていた。AISのデータから、このような行為は今回が初めてではなく、過去にも同様な危険運航が繰り返されていたことが分かっている。

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Insurance Maritime News (8/1)


4.欧州の熱波によって地中海の海水温が異常に上昇し海洋性生物の大量死も

海流の変化と暖かい大気によって、地中海沿岸の海水温の平均は通常の24℃から26℃に上昇している。例えば、スペインのバレアレス諸島とイタリア沿岸との間の海水温は前年比で最大5℃上昇し、スペイン気象庁はスペイン沿岸の海水温は少なくとも8月中旬まで平年より3℃から4℃高いと予測している。スペイン港湾庁によれば、同国の南東の隅に位置するCabo de Gataでは過去10年間で最高となる28℃の海水温を記録した。仏のニースでも7月25日に前年より3.5℃高い29.2℃の海水温を記録している。スペイン海事科学研究所が今週発表した研究によれば、2015年から2019年にかけて地中海は海洋性熱波に襲われ、海洋性生物の大量死が発生した。この時の海洋性熱波に比べても、今年の海洋性熱波の方が規模も大きく、期間も長く続いており、8月後半には多くの海洋性生物が死ぬことを海洋科学者は予想している。

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Reuters (8/1)


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