週刊国際海洋情報(2022年7月31日号)

1.IRENA:Global Hydrogen Trade to Meet the 1.5℃ Climate Goal

国際再生エネルギー機関(IRENA)が7月7日に発表した標記報告書の概要は以下のとおり。①現状では、世界で消費されるエネルギーの約74%は国際的な貿易によって供給されているが、地球温暖化を産業革命以前と比較して1.5℃以内に抑制するためにIRENAが作成したシナリオによれば、2050年の時点で、世界で消費される水素の量の約1/4は、国際的な貿易によって供給される。これは、現在天然ガスの全世界の総需要量の1/3が貿易に依存しているのに近い状況になる。②2050年で国際的に取引される水素のうち、55%は既存の天然ガスパイプラインを改修して輸送されるので輸送コストを大幅に削減できるが、この方法は欧州とラ米に限られる。③残りの45%の水素は海上輸送されるが、圧倒的にアンモニアとして輸送され、輸入先でも水素に再還元されずそのままアンモニアとして使用される。④水素の貿易は基本的に地域内で実施され、欧州は北アフリカと中東から輸入し、豪はアジア諸国に輸出する。⑤2050年の時点で全世界のアンモニアの生産量の約8割は、化学工業の原料または船舶・発電の燃料として使用され、水素キャリアとして使用されるのは約2割と見込まれる。

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IRENA (6/16)


2.米下院:Clean Shipping Act 2022が提案される

7月12日、米西岸のLong Beach港とLos Angeles港をそれぞれ選挙区とする下院議員が2040年までの海運脱炭素化を達成するためのClean Shipping Act 2022を提案したところ法案の概要は以下のとおり。①気温上昇を1.5℃以内に抑制するために、船舶から排出されるCO₂のlifecycle排出量を、2024年実績比で、2027年までに20%、2030年までに45%、2035年までに80%、2040年までに100%削減する。②米国の港湾に着岸または錨泊する船舶は、2030年までに、港湾内におけるGHGと他の大気汚染物質の排出をゼロとする。

原文

gCaptain (6/16)


3.VLSFO-HSFO価格差拡大によりスクラバー装備船の収益が倍以上に

2020年にIMOの規制が始まって以来、船主は硫黄分0.5%以下の規制適合油(VLSFO)を使うか、1船あたり、200万から300万ドルの投資をしてスクラバーを搭載して、従来の重油燃料(HSFO)の燃料を使用するという二つの選択肢があった。二つの燃料の間の価格差は、規制開始当時は300ドルを超える高水準にあったが、コロナロックダウンによって、価格差は100ドル以下に大きく減少し、コロナ復興後の石油価格上昇に伴い、格差は徐々に拡大し、ロシアのウクライナ侵攻後は、世界的に400ドル以上に拡大し、7月に入るとシンガポールでは500ドル以上を記録した。この結果、船主は既にスクラバーに対する投資を回収しただけでなく、船種にもよるが、スクラバー装備船は非装備船と比べて、1日当たり2倍以上の収益を上げている。

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American Shipper (6/17)


4.欧州委員会:天然ガスの使用の15%節減を提案

欧州委員会は、ロシアによる天然ガスの供給の完全停止に備え、冬季の天然ガスの供給を確保するため、8月から来年の3月まで、天然ガスの使用を15%さらに節減することを7月20日加盟国に提案した。EU諸国はこの提案に基づき、9月末までに各国の緊急計画を改定しなくてはならないが、事態がさらに悪化すれば、15%の節減目標を法律的に拘束力のある目標とすることも考えられると欧州委員会は発言している。EUはこの冬のエネルギーの確保に備えて、11月までにエネルギーの備蓄率を80%までに引き上げることを目標としているが、現段階の備蓄率は65%を割り込んでいる。国際エネルギー機関も、7月18日、欧州各国が協力して、天然ガスの安定供給に取り組むべきとして、①製造業者が契約上供給されるエネルギーを節約した場合は、節約分を市場で売却できるようなプラットフォームの創設や、②暫定的に石炭・石油発電所の稼働を増やし、原子力を含む再生可能エネルギーによる発電を増やすことによって、天然ガス発電を減らすなどの5つの具体的な対策を提案している。

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Euractiv (6/17)


5.欧州物流関連団体がコンテナ海運に対する競争法の一括適用除外の再検討を要望

CLECAT/FEPORT/欧州荷主協議会/UIRR/FIATAなど、欧州の港湾・海運・物流などの10の業界団体は、欧州委員会の競争担当コミッショナーに対して、コンテナ海運会社に対するEU競争の一括適用除外を直ちに再検討することを求める意見書を連名で提出した。一括適用除外規定は、最近は2020年4月に再延長されたが、署名した団体は、コンテナ船社による欠航・行き先の変更・抜港・一部の航路における運賃の4倍もの引き上げなど、サプライチェーンは大混乱をきたしていると主張している。意見書では、米国においても、コンテナ海運会社の行動について調査が実施され、外航海運改革法が成立したことにも言及している。署名団体は、現在の一括除外規定が期限を迎える2024年4月までに、一括除外規定の在り方について、すべてのコンテナ海運に関連する関係者が証拠に基づく意見を提出して、コンテナ外航海運が、すべての関係者にとって公正かつ透明に運用されることを担保するための新たな手段とメカニズムについて、十分な時間的余裕をもって再検討されるべきであると主張している。

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Seatrade Maritime News (7/27)


6.英国水路部:2026年末までに紙の海図の発行を終了

7月26日、英国水路部は、近年、商船・海軍・プレジャー分野の海事従事者が、航海の支援情報としてデジタル化した情報に依拠する傾向が強まってきたため、2026年後半までに、これまでADMIRALITY Standard Nautical Charts (SNCs)とThematic Chartsとして世界的に使用されてきた紙の海図の発行を停止すると発表した。一方、同部が提供しているデジタル版のThe ADMIRALTY Maritime Data Solution digital navigation portfolioは、リアルタイムで情報を更新できるので、船舶の安全運航をより強固に支援することが可能で、今後はデジタルを通じたサービスの強化を図っていく。紙の海図からの撤退は、現在でも紙の海図を使用している海事沿岸警備庁・その他の官公庁・水路事務所・業務提携先や海図販売事業者と連携しながら、代替のデジタル化した情報を整備しつつ、慎重かつ段階的に進めていく。

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UKHO (7/27)


7.EUエネルギー大臣:天然ガス節約に合意

7月18日の週に、欧州委員会は今年と来年の冬を越すのに十分な天然ガスを備蓄するため、8月から来年の3月まで、天然ガスの消費を15%削減することを提案したが、同提案の中で、事態がさらに悪化した際には、欧州理事会との協議なしに、欧州委員会は、15%の削減目標を自主的な目標から、法的強制力を持った目標に引き上げられることができるとされている点を中心に、加盟国の強い反発にあった。これを受けて、理事会議長国のチェコが省エネ目標を強制化するためには、理事会の承認を要件とし、EUの天然ガス供給網から孤立しているアイルランドやマルタを強制化の対象から適用除外するなどのいくつかの例外措置を含む改正案を作成した結果、ハンガリーを除く26か国が議長案を7月26日、支持した。前日の25日には、ロシア国営のガスプロムが独への天然ガスの供給をさらに削減する可能性があると発表したため、欧州のエネルギー安全保障への懸念が新たに高まっていた。

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Euractiv (7/30)


8.米国:3690億ドルの気候変動対策を含む予算法が成立へ

バイデン政権は、2030年までに対2005年実績比でCO₂の排出量を50-52%削減することを目標として掲げているが、7月27日、これまで反対を続けていた民主党のマンチン上院議員が賛成に回ったため、成立の見通しが立った予算が成立すれば、気候変動・エネルギー変換対策に3690億ドルが支出されることとなり、CO₂を40%削減するのに必要な予算が確保されることとなると上院民主党幹部は語った。具体的には①政府による補助金と借款によって、港湾・学校・廃棄物処理・郵便関係などの現業を担当する組織・企業が業務に使用する車両を電気自動車に買い替え、②太陽光パネルや風力発電のタービンなどを製造する環境関連製造事業者は、投資額の30%を税額控除することができ、③エネルギー多消費型の製鉄・セメント事業者は、CO₂削減のため、60億ドルの補助金と税額控除が受けられ、④マイホームの所有者は、家屋のエネルギー効率の向上のために、投資コストの一部払い戻し(予算:90億ドル)や補助金(予算:10億ドル)を受け取ることができる。

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Climate Change News (7/30)


9.国連総会:クリーンで健康で持続可能な環境を基本的な人権と認定

7月28日、国連総会は161か国の賛成で、クリーン・健康・持続可能な環境にアクセスできることは普遍的な人権であるとする決議を採択した。今回採択された決議は、昨年人権理事会で採択された決議とほぼ同様の内容で、加盟国・国際機関・企業に対して、すべての人類のために、健康な環境を保証するための努力を拡大することを求めるもの。国連事務総長は、今回の決議を歴史的な決定と評価したうえで、気候変動・生物多様性の保全・環境汚染といった3つの地球レベルでの危機に対して加盟国が共同で取り組む姿勢を示したと評価した。今回の決議によって、環境問題が社会的な弱者に対してより大きな影響を与える「環境問題の不公正」や「環境面での保護格差」などの問題が改善に向かい、社会的に脆弱な立場にある先住民などの人々に力を与える機会となることを期待するとともに、加盟国が既に約束している環境面・人権面での義務の着実な履行を加速することを期待すると述べた。

原文

UN (7/31)


10.米連邦海事委員会:外航海運改革法2022関連規則作業状況を説明

7月28日、米国連邦海事委員会(FMC)は外航海運改革法2022の実施状況について公開説明会を開催したところその概要は以下のとおり。①同法上、FMCが最も早く実施しなくてはならないのは、船舶の積載スペースに関する交渉を海運会社が正当な理由なく拒否した場合に関する規則の制定作業を開始・完了することである。②FMCは同法施行日からすぐに作業を開始し、規則案は近日中にパブコメにかけられる予定。③FMCは同法に定められている制定期限である12月までに規則を最終化する予定で、この規則を遵守しない海運会社は、FMCの聴聞を受けたうえで、同法の違反行為として罰則を受けることとなる。④同法がFMCに対して実施することを義務付けているその他の作業としては、海運会社が課する各種料金について、荷主等が不服を申し立てる(Charge Complaints)暫定的な手続規定の制定や、同法の中で、実施規則なしに直ちに発効する規定について告示することなどがあげられる。

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FMC (7/31)


その他のニュース

1.エネルギー転換
 (ア)転換の阻害要因
  ①銅
   銅の供給不足が炭素中立実現の隘路に 原文 (6/17)
 (イ)水素ハブ
  ①米国
   Infrastructure Investment and Jobs Act:地域水素ハブの効果 原文 (7/31)
2.気候変動
 (ア)異常高温
  ①欧州
   7月の英国の猛暑は地球温暖化の影響 原文 (7/30)
3.気候変動緩和対策
 (ア)省エネ
  ①EU
   議会:エネルギー節約率と再エネ比率について野心的目標を承認 原文 (6/17)
 (イ)産業別脱炭素化
  ①電力部門
   米EPA:既存の法制を駆使して石炭火力発電所の撤廃を促進 原文 (7/30)
 (ウ) メタン排出削減
  ①メタン漏出源の把握
   米国Permian盆地で多量のメタンが大気中に放出 原文 (7/31)
4.海賊
 (ア) 世界全体
  ①ICC/IMB
   IMB:2022年上半期の海賊等の事件数過去最低に 原文 (6/16)