週刊国際海洋情報(2022年6月15日号)

1.世界海運評議会:EU ETSのコスト負担者を法定することに反対

コンテナ船社の業界団体である世界海運評議会(WSC)は、EU ETSの改正に関する欧州議会の最終交渉方針において、排出権を購入する経済的な負担を用船者が負うことを規定する条項を用船契約に入れることを義務付ける案について反対し、EU ETSに関するコストは、船主と用船者の間の交渉で決めるべきと表明し、今後開催される予定の欧州委員会・欧州議会・欧州理事会の3者協議において、見直されるべきであると表明した。WSCのCEOは「ゼロエミッション船舶や燃料の導入に必要なコストは、船舶の運航会社・用船者・船主のすべてが負担すべきであり、用船者に負担を義務付けることをEUの規則によって強制することは、市場原則を歪曲し、GHG削減の速度を鈍化させる。」と警告している。

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World Shipping Council (6/9)


2.IACS:Safe Decarbonization Panelを設置

国際船級協会連合(IACS)は今週(6/27の週)、第85回理事会を開催して、海運の脱炭素化が迅速かつ安全に実施されることを担保し、新たな代替燃料など脱炭素化のための先行投資を技術的に支援するため「安全脱炭素化パネル(SDP)」を設置することを決定した。SDPは先行している脱炭素化燃料と関連技術について検討するため、アンモニア・水素・CCS・電池に関する4つのプロジェクトチームを早急に開催する予定で、さらに、IMOにおけるメチル・エチルアルコールに関する作業状況も評価したうえで、必要に応じて作業項目に加え、他の代替燃料についても順次検討を行っていく予定。以上のSDPの作業については、燃料製造事業者・技術提供事業者・船主・造船事業者・海上保険事業者と、戦略面・運用面・技術面で多層的に連携していく必要があるため、関係者間の制度的協議システムを構築していく。

原文

IACS (6/9)


3.世界の大手海運会社の中で脱炭素・炭素半減宣言をしているのは35%のみ

Maersk Mc-Kinney Moller Center for Zero Carbon Shippingが6月30日に発表した分析の概要は以下のとおり。①世界の大手海運会社94社中、2050年までの脱炭素化またはIMOの目標(対2008年実績比で2050年までにCO₂排出を半減)の実施を明確に宣言しているのは33社(35%)にとどまっている。②これを世界52か国の収入が上位100社と比較すると、自動車会社では66%、石油・ガス会社は56%、運輸・観光会社の45%が、CO₂削減目標を表明しているところから、海運会社は見劣りがする。③エネルギー転換のためには情報の公開が重要で、船主や船舶の運航会社は、監督官庁に対してだけではなく、顧客(荷主)・投資家・保険事業者・消費者・従業員の期待に応えて、CO₂削減目標と具体的な対策を開示する必要がある。④監督官庁も、海運事業者に対して、各事業者の活動が気候変動に与える影響について、第3者機関の認証を得た情報の開示義務を強化する必要がある。⑤このような情報公開義務は、国際的な統一基準に従って課されるべきで、複数の様式で報告を求めることによって、海運事業者の負担を増すべきでない。

原文

Maersk Mc-Kinney Moller Center for Zero Carbon Shipping (6/10)


4.ウクライナ・マリウポリ港に停泊中の外国籍商船2隻が接収される

マウウポリは5月にロシアによって占領されたが、自称「ドネツク人民共和国」の外務省は、同港に停泊中の2隻の船舶を管理する2つの海運会社に対して、2隻の商船を補償なしに接収して国有化したと6月30日通告した。1隻はイベリア籍のばら積み船で、2月21日に鉄鋼製品を積載するために同港に入港したが、3月20日にロケット砲で攻撃され、船橋が大きく損傷していた。19人の乗組員はロシア軍に拉致され、ドネツクに強制連行されたが、1か月後に開放された。もう1隻はパナマ籍船が接収された。IMOによれば、80隻を超える外国の商船が、ウクライナの港湾に依然として足止めされているが、その一部はロシア軍の支配下の港に停泊している。ウクライナ外務省によれば、ドネツクのロシア占領軍は、マウリポリで接収した船舶で、国有船隊を形成すると宣言している。

原文

Reuters (6/10)


5.北極海LNG2事業:ソヴコムフロトが発注した2隻目の運搬船も契約破棄

ロシア国営の海運会社であるソヴコムフロトは、2020年10月に韓国の大宇造船海洋(DSME)に対して、北極海第2LNG事業向けに、Arc7船級のLNG輸送船3隻を総額1.137兆ウォン(約1137億円)で発注したが、本年5月中旬に建造費未払いで1隻目の契約が破棄され、2隻目の仮払い期日までに建造費の支払いが無かったので、2隻目も契約を破棄したとDSMEが発表した。DSMEは商船三井からも、同型のArc7船級のLNG輸送船3隻を受注している。6隻の砕氷輸送船とも北極海第2LNG事業のために30年間定期用船される予定であった。韓国の三星重工・現代重工もノヴァテクが運営する天然ガス液化事業向けのLNG輸送船を受注している。

原文

Upstream (6/13)


6.IEA:中国によって寡占されている太陽光パネルの供給の多元化が必要

国際エネルギー機関(IEA)は、7月7日、「太陽光パネルの国際サプライチェーン」と題する特別報告書を発表したところその概要は以下のとおり。①中国は太陽光パネルの製造コストの削減に成功した結果、過去10年間で世界の太陽光パネルの生産は欧米諸国と日本から中国に移転し、中国が太陽光パネルの生産・供給を寡占している。②太陽光パネル全体としての中国のシェアは80%程度だが、基幹部位であるポリシリコンやウエハーの寡占率は95%以上に達している。③IEAが策定した2050年までのゼロエミッションシナリオを達成するためには、年間に新設される太陽光パネル発電量の量を、2030年までに4倍以上に引き上げ、太陽光パネルの基幹部位であるポリシリコン等の生産量を2030年までに倍増し、さらに既存の生産設備を近代化する必要がある。④太陽光パネルの価格は、2021年には、商品価格の上昇とサプライチェーンのボトルネックによって、約20%上昇しており、世界の政府や関係者は、太陽光パネル生産のサプライチェーンについて懸念を抱くようになってきた。⑤2030年までに、世界で太陽光パネルの生産のために投資される累計金額は1200億ドル(約16.3兆円)にのぼり、太陽光パネル製造によって雇用される労働者数も倍増して100万人に達する見込み。

原文

IEA (6/13)


7.マースク:国際海運会議所の理事会メンバーを辞退

マースクはデンマーク船主協会を代表して、国際海運会議所の理事会メンバーを過去約10年間務めてきたが、6月22日に開催されたICSの総会で、理事会メンバーをやめることを表明した。同社は、理事会メンバーから外れる理由について直接的にはコメントしていないが、同社は2040年までに海運脱炭素化を達成するために、First Moverとして活躍してきており、ICSのこれまでの海運脱炭素化に対する取り組みに不満を持ったものと考えられ、今後は同社が主導権を握るコンテナ船社の団体である世界海運評議会(WSC)の活動に専念すると表明した。

原文

Reuters (6/14)


8.米連邦航空局:大型航空機が排出するGHG削減のための新規則を提案

米連邦航空局は、今後型式認証され、或いは2028年1月1日以降に生産される亜音速のジェット・ターボプロップエンジンを使用する大型航空機が排出するGHGを削減するための新規則を、6月15日に発表した。新たな規則が適用されるのは、Boeing 777-Xや787 Dreamliner、Airbus A330-neoなどが想定されている。米国内の航空輸送から排出されるCO₂は、国内の交通機関から排出される総CO₂の10%、全米で排出される総CO₂(パンデミック以前)の約3%を占めている。新規則は2050年までに米国内の航空輸送を炭素中立化するという目的に従って作成されたUS Aviation Climate Action Planの一環として作成された。バイデン政権になってから、昨年には、Sustainable Aviation Fuels Grand Challengeも発表され、航空機の燃費効率の向上、航空機から排出される騒音と排気の減少などの研究開発に、米国政府は1億ドル(約137億円)の支援を行っている。

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FAA (6/14)


9.欧州議会:天然ガスと原子力に対する投資を持続可能と認定

欧州議会は7月6日、天然ガスと原子力をEU Taxonomy上、持続可能な投資先に条件付きで2023年から認めるという欧州委員会の提案に反対する決議案を否決し、欧州委員会の原案を承認した。欧州委員会の提案は、欧州理事会の承認も得る必要があるが、欧州理事会が欧州委員会の提案を拒否するためには、27か国中20か国以上が賛成する必要があり、理事会が反対決議する可能性は極めて低い。天然ガスは化石燃料ではあるが、石炭に比べて、GHGの排出量は少ないので、旧東欧諸国は、石炭火力から転換するための暫定的な代替燃料として、持続可能なエネルギーと認めるべきと主張していた。原子力はゼロ炭素燃料だが、核燃料廃棄物の処理を巡って、独等が持続可能燃料に認定することに反対していた。ルクセンブルグとオーストリアも原子力発電には反対で、今回の決定に対して、欧州裁判所で争うと言明している。環境団体も一斉に今回の欧州議会の決定に反発している。

原文

Reuters (6/15)


10.再生可能エネルギーへの迅速な転換は国家・経済安全保障上不可欠

7月12日、シドニーで開催されたエネルギー関連の大臣級の国際会議で、豪のエネルギー大臣は、欧州のロシア産天然ガス・石油への依存とロシアの戦略について触れ、再生可能エネルギーによる強靭なclean energy supply chainsを構築することにより、外国の干渉を受けることが無くなると発言した。米のエネルギー大臣も、再生可能エネルギーへの転換は国家安全保障上の問題であり、バイデン政権は2035年までに再生可能エネルギーの拡大によって米国内の発電の炭素中立化を実現すると語った。IEAの事務局長は、ロシアのウクライナ侵攻によって、エネルギー価格が高騰するとともに、供給が不足するといった重大な前例のない世界的なエネルギー危機に、世界は既に襲われているが、今年の冬は、ロシアが天然ガスの供給を政治的に利用しようとするため、北半球にとっては厳しい冬になると警告した。さらに、中国による太陽光パネルの製造の独占は、将来的に世界的に大きなリスクとなるとも指摘した。

原文

ABC (6/15)


その他のニュース

1.海運の脱炭素化
 (ア)港湾
  ①陸上電源
   ESPO:ターミナル・バースごとの陸上電源設置基準の適用を要求 原文 (6/10)
2.再生可能エネルギー
 (ア)各国の支援策
  ①英国
   再エネのCfD第4回競争入札の結果約11GWの発電量を確保 原文 (6/13)
3.エネルギー転換
 (ア)石炭の取り扱い
  ①ドイツ
   露のガス供給削減に対応して休止中の石炭火力発電の再開を承認 原文 (6/15)
 (イ)天然ガスの取り扱い
  ①将来需給見通し
   国際エネルギー機関:今後数年間は天然ガス需要の伸びは低調に 原文 (6/14)
 (ウ)各国の政策
  ①英国
   Energy Security Billを議会に提出 原文 (6/14)
  ②中国
   IRENA:China’s route to carbon neutrality 原文 (6/15)
4.気候変動
 (ア)海水温の上昇
  ①海洋性熱波
   記録的な海洋性熱波が地中海を襲う 原文 (6/9)
 (イ)異常高温
  ①南極・北極
   北極海の気温が地球の平均気温の4倍以上の速度で上昇 原文 (6/10)
 (ウ)今後の気象予測
  ①米国
   エネルギー省:気候変動の予測のために1400万ドルを支援 原文 (6/13)
5.気候変動緩和対策
 (ア) 各国の政策
  ①EU
   EUエネルギー担当閣僚会議:環境政策のパッケージに合意 原文 (6/9)