週刊国際海洋情報(2022年6月8日号)

1.COP 27準備会合:先進国による後進国に対する補償について物別れ

昨年のCOP 26においては、先進国が本年中に後進国に対する補償制度を立ち上げることを前提に、小島嶼国と後進国はCO₂排出の削減を優先的に進めることに合意したが、独で2週間にわたって開催されたCOP 27の準備会合においては、後進国において気候変動によってもたらされる損害について、先進国が補償する制度について、loss and damageとしてCOP 27の議題にすることさえ、米国とEU諸国の反対により合意できなかった。気候変動によって、途上国は先進国より大きな被害を受ける一方で、先進国より資金力が弱く、そもそも気候変動は、先進国が経済成長の過程でCO₂を排出したことによって発生しており、米国とEU諸国は途上国に対して保証するのは当然と途上国は考える一方で、米国とEU諸国は、ひとたび過去のCO₂の排出に関する責任を認めれば、今後何十年・何百年も責任を負うことになるのではないかと懸念し反対している。先進国から途上国への補償については、COP 27の正規の議題にはならないものの、途上国が主張を続けるのは確実な見通し。

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BBC (6/2)


2.欧州議会委員会が原子力・天然ガスを持続可能な投資に分類することに反対

欧州議会の環境委員会と経済委員会は、原子力と天然ガスに対する投資をEU Taxonomy上、持続可能な投資に分類するという欧州委員会の案に対して反対する決議を6月14日採択した。今後は、7月初旬に予定される欧州議会本会議における投票によって、原子力と天然ガスの位置づけが決まることになる。欧州委員会は、欧州委員会の原案でも、すべての原子力や天然ガスに対する投資を持続可能な投資と認めるのではなく、厳格な条件に合致したものだけ、持続可能な投資と認められると釈明している。原子力については、仏などの積極推進国が、炭素中立目標の達成には、CO₂を排出しない原子力発電が不可欠とする一方、使用済み核燃料の処分などの問題点を挙げて、独などが反対している。

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The Business Times (6/2)


3.バイデン大統領が外航海運改革法に署名し成立

6月16日、バイデン大統領は議会両院で承認された「外航海運改革法」に署名し、法律として成立した。両院の提案者や農業・小売・製造業の代表者を前にして、大統領は、今回の改革法は24年ぶりの海運法の大改正であり、この法律によって、外航海運事業者が、米国の家庭・農家・酪農家・事業者に対し、優越な地位を乱用することを防止できると語った。9大海運会社が3つのコンソーシアムを結成して、世界の海運活動の大部分を支配し、特にパンデミックの期間中、運賃が最大で10倍に引き上げられ、海運会社が2021年だけでも対前年比7倍の1900億ドル(約26兆円)の利益を上げ、アメリカの消費者物価高騰の一因となったこと、さらに外国の海運会社は米国の輸出品をアジア市場に輸送することを拒否したことを大統領は2022年に入ってから繰り返し批判していた。コンテナ海運会社の業界団体である世界海運理事会は、海運会社だけを悪者にすることは、米国の物流網の根本的な問題点を明らかにし解決することを阻害しかねないと反論している。

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The Maritime Executive (6/3)


4.経産省がEUにサハリン事業を船舶保険の制裁対象から除外するように要請

6月3日、EUは対ロシア第6次制裁の一環として、ロシアからの原油の輸入を6か月以内に、その他の石油製品を8か月以内に停止するとともに、ロシア産原油・石油製品の第3国への海上輸送に対する金融・保険業務も6か月以内に停止すると発表した。一方、日本はサハリン1と2の事業から、出資持ち分に応じて、ロシア産原油を受け取り、市場で売却してきたが、日本の岸田首相は、5月8日のG7首脳会合の合意を受け、日本政府もロシアからの石油の輸入を原則として禁止すると5月9日発表した。これを受けて、日本の石油精製事業者は、4月を最後にロシア産原油・石油製品の輸入を停止しているが、一方で、6月22日、経産省は、EUに対して、日本のサハリン事業からの引き取り分について、ロシア制裁の対象から外して、これまでとおり、欧州企業が金融・保険業務の提供を継続するよう要請していることを認めた。

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S&P Global (6/3)


5.欧州議会:気候変動対策に関する3つの重要法案を採択

6月22日、欧州議会総会は2030年までにGHGの排出量を55%削減するための3つの基本法案を採択したところその概要は以下のとおり。①排出権取引制度(ETS)の範囲を建物と陸上交通に拡大するが、住宅については2029年まで適用しない。②2030年までのGHG削減目標を61%から63%に引き上げる。③炭素国境調整措置(CBAM)の段階的な導入のタイミングを早めるとともに、ETSの無料排出枠を2027年から2032年までに段階的に廃止する。④CBAMの対象範囲を有機化学物質・プラスチック・水素・アンモニアに拡大し、間接的な排気も含める。⑤CBAMから得られた収入と同額を、後発発展途上国におけるエネルギー転換支援のために支出する。⑥エネルギー転換に伴って、影響を受ける人々を救済するために、社会気候基金を創設する。⑦自動車燃料費や暖房燃料費の高騰対策として、エネルギー課税を減額するなど、直接的な家計支援対策を時限的に実施する。⑧建物のエネルギー効率向上のための改修・再生可能エネルギー・公共交通機関利用促進・car-pooling/sharing・自転車の活用などに対し、助成・無利子融資などで支援する。

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欧州議会 (6/6)


6.ICS Shaping the Future of Shipping:Clean Energy Maritime Hubの設立で合意

国際海運会議所(ICS)主催の6月23日ロンドンで開催された2022 Shaping the Future of Shippingには、エネルギー企業・船主・港湾管理者・金融機関・技術開発企業などの企業から100人以上のCEOが参加し、さらに国際的な開発金融機関と、各国政府のエネルギー担当大臣が出席し、以下の事項について合意した。①海運のための将来の代替燃料の問題に取り組む官民連携の業界横断的なプラットフォームであるClean Energy Marine Hubを創設。②2030年までにゼロエミッション船舶の運航を実現するため、世界単一の市場原理に戻づく措置(Market Based Measures:MBMs)を早急に導入するとともに、業界横断的なbest practicesの共有が必要。③世界29か国のエネルギー担当大臣が出席して9月に開催される予定のClean Energy閣僚会合の開催に合わせてClean Energy Maritime Hubを創設するためのtaskforceを立ち上げる。

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ICS (6/6)


7.BIMCO:排出権取引に係る経済的分担に関する規定を定期用船契約に盛り込む

6月上旬に、欧州議会は海運を排出権取引制度の対象とし、EU域内の海運活動については100%のCO₂排出量を、EU とEU域外国との間の海運活動については、当面排出量の50%を取引の対象にしつつ、2027年からは100%を対象とすることが承認された。これに対応して、BIMCOは、排出権取得に関する費用に関し、船主と用船者の間で分担する方法を定期用船契約に規定するモデル条項を新たに発表した。このモデル条項では定期用船契約に従い、船舶燃料を購入・手当する当事者が、排出権を取得しそのコストを負担すると規定され、船主は船舶から排出されるCO₂の量をモニターし、用船者の負担分を計算するために必要な情報を用船者に提供する義務を負うことも定められている。用船者は毎月定められた負担分を船主に払うことや、船主の責任で用船期間中に船舶が使用できなくなった場合(off-hire)の負担金額の調整や、用船者が負担金を期限が到来しても支払わなかった場合の規定が定められている。

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Ship & Bunker (6/7)


8.交通と環境:海運のE燃料の利用を進めても商品の価格上昇はわずか

環境NGOの「交通と環境」が6月28日発表した船舶燃料の脱炭素化が海上輸送される商品の価格上昇に与える影響分析の概要は以下のとおり。①本分析は、FuelEU Maritimeが目標とする輸送単位当たりGHG排出量の削減目標を6%から14%に引き上げ、舶用燃料の6%を再生可能水素派生のE燃料とし、EU排出権取引制度(ETS)でカバーされるCO₂の範囲を燃焼時に排出されるもの(tank-to-wake)から、燃料生産時から燃焼まで(well-to-wake)に拡大した場合に、中国からベルギーまで平均的なコンテナ船で輸送される商品コストの上昇を計算した。②この結果、運動靴1足あたり0.003ユーロ、TV1台あたり0.03ユーロ、冷蔵庫1台当たり0.27ユーロの価格上昇しかもたらさないことが分かった。③1TEUあたりの輸送コストの上昇幅は、8.7-13.4ユーロで、現状の運賃が1TEUあたり、4200-6200ユーロであることを考えると、運賃上昇効果はわずか0.3%にすぎないことがわかる。

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Transport & Environment (6/7)


9.代替燃料の安全性の比較:アンモニアが最も危険で実用化の前に対策が必要

ロイズ船級協会・マースク・OCIMFなど海運会社・石油メジャーなどが参加して設立された業界ベースの海運の安全性を検討する団体であるTogether in Safetyは今週(6月27日の週)、代替燃料としてのLNG・水素・アンモニア・メタノールについて、船舶運航時に安全運航能力に問題が生じた時、衝突したとき、燃料供給時など細かいケースごとに、それぞれの代替燃料が持つリスクを分析した報告書を発表した。大規模に実用化される前に改善が必要な大きなリスクが確認されたのは、アンモニアだけで、様々な理由で、燃料が漏出した際の安全対策が必要であることが指摘されている。他の代替燃料についても様々なリスクが指摘しているが、いずれも許容範囲のものと位置付けられている。

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Together in Safety (6/8)


10.英国気候変動委員会:2021年気候変動対策進捗状況報告書(海運部分)

標記報告書の海運に関する部分の概要は以下のとおり。①海運については、英国政府は内航海運と外航海運の英国分担分のCO₂排気量を対2019年実績比で、2035年までに28%削減することを目標としている。気候変動委員会(CCC)の分析では、パンデミックが発生する前の10年間は年間約2%のペースで排気量が減少し、パンデミックが発生した2020年には16%減少したものの、2021年には上昇に転じたものの、2019年実績に比べると依然として13%低い水準となっているが、低炭素燃料への転換や動力の電化は全く進んでいない。②CCCは英国政府に対し、国内で商業規模のclean maritime clusterを創生するとともに、2023年にIMOにおいて議論される世界ベースでの海運脱炭素化議論において英国が主導権を発揮するよう求めている。

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edie (6/8)


その他のニュース

1.再生可能エネルギー
 (ア)洋上風力発電
  ①投資額
   世界の洋上風力発電に対する資本的支出が2030年までに倍以上に 原文 (6/6)
 (イ)再生可能エネルギーの割合
  ①EU
   欧州理事会:再エネとエネ効率化のさらなる高い目標に合意 原文 (6/8)
2.エネルギー転換
 (ア)石炭の取り扱い
  ①石炭需要の増加
   天然ガスの価格高騰により石炭火力の使用が増加 原文 (6/3)
 (イ)新たな化石燃料の開発
  ①米国
   米バイデン政権:石油ガス開発のためのリース権の入札実施へ 原文 (6/8)
 (ウ)経済的影響
  ①エネルギー投資
   IEA:World Energy Investment Report 2022 原文 (6/3)
 (エ)全体統計
  ①BP
   Statistical Review of World Energy 2022 原文 (6/7)
3.気候変動
 (ア)異常高温
  ①欧州
   欧州熱波:仏とスペインで5月としては今世紀最高気温を記録 原文 (6/2)
4.環境問題一般
 (ア) ESG投資
  ①情報公開基準
   ESG投資に関する異なる情報公開基準の統一化の必要性 原文 (6/2)
5.生物多様性
 (ア)各国の政策
  ①米国
   バイデン政権:絶滅危惧種の生息域の定義をオバマ時代に戻す 原文 (6/6)
6.航空機・航空燃料の環境問題
 (ア)持続可能な航空燃料
  ①EU
   欧州議会交通委員会:2050年までに航空燃料の85%を持続可能に 原文(6/7)