週刊国際海洋情報(2022年6月1日号)

1.IATA:欧州議会におけるEU ETSの拡大適用承認に対し反対を表明

国際航空運送協会(IATA)がEU ETSの拡大適用に反対を表明したところその概要は以下のとおり。①IATAは欧州議会が欧州経済領域(EEA)を起点とするすべての国際航空輸送に対して、2024年からEU ETSを拡大適用することを決定したことに驚き懸念を表明する。②EU/EEAを出発する国際航空輸送については、既にCarbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation (CORSIA)が適用される一方で、現状ではEU ETSはEU域内の航空輸送にのみ適用されている。③EUが一方的に、EU域外国に向かう国際航空輸送にETSを適用することにより、本年後半に第41回ICAO総会で審議される予定のLong-Term Aspirational Goal (LTAG)の採択を困難とし、国際航空に適用される唯一の国際的な市場原理に基づく協定であるCORSIAを弱体化し、分裂させることになりかねない。④EUから出発するすべての国際航空輸送をETSの対象とすることは、EUの航空会社とEUの空港の国際航空輸送ハブとしての競争力を損なうことになる。

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IATA (5/26)


2.米大統領:太平洋航路のコンテナ海運をインフレの元凶として名指しで批判

ホワイトハウスはバイデン大統領と米国の農業団体の代表等との会話を録画した1分半のビデオメッセージを公表したところ、その概要は以下のとおり。①米国が現在直面しているインフレの大きな原因は、外航海運、特に太平洋航路を運航しているコンテナ海運会社である。②太平洋航路の運賃上昇はoutrageousで、議会は外航海運会社を厳しく取り締まる法律を制定する必要がある。③太平洋航路を運航しているのはわずかに9社であり、運賃を最大で1000%も引き上げた。バイデン大統領が名指しで、コンテナ海運会社を批判するのは、本年2月に続き2回目で、2月には、3つの海運アライアンスによる独占禁止法違反を視野に新たな監視強化を表明し、司法省に対して、連邦海事委員会(FMC)と連携して、海運分野の競争を促進するために独占禁止法を厳格に適用するよう指示するとともに、議会に対しては外航海運改革法の改正を要請した。今回のメッセージでは、議会において外航海運改革法の改正が承認され次第、早ければ来週(6/13の週)にも、法案に署名を行うと明言した。

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The Maritime Executive (5/26)


3.ロシア産原油を輸送するタンカーに対する再保険の禁止のEU域外への影響

理論的には、ロシアはイランが実施しているように、制裁対象のタンカーを利用して、EUと英国以外の保険会社から保険を買って、ロシア産原油の輸送を行うことは可能だが、EU域外の保険会社を含む世界の保険会社の大部分は、リスクを分散させるため、ロンドンとEUの再保険事業者を利用している。ロシア産原油を引き続き輸入しようとする国は、EU域外の保険会社に依存しようとするだろうが、これら非EUの保険会社もリスクをヘッジするためには、再保険を購入する必要があり、EUによる再保険の禁止は、保険会社にとって保険を引き受けることを困難にしている。現在のEUの制裁によれば、EUの金融・保険会社は、ロシア産石油の輸送に関わる新たな融資や保険契約を締結することは直ちに禁止され、制裁措置が決定された6月4日以前に契約された保険についても、6か月の猶予期間、すなわち12月5日までに終了することが求められている。

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Argus (5/27)


4.MEPC78:ほとんど進展なしで終了

多くの代表が、IMOのGHG削減目標を引き上げることを表明したにもかかわらず、今週(6月6日の週)開催されたMEPC 78ではほとんど進展が見られなかった。国際海運会議所(ICS)が提案していた脱炭素研究促進のための燃料1トン当たり2ドルを徴収する限定的な燃料課税案は、日本が提案したはるかに野心的な市場原理に基づいた措置(MBMs)に関する提案などの前で、支持を得ることができず、ICSは今後の現実的な海運脱炭素戦略を議論するための会合を6月21日に開催する予定。MEPC 78は燃料から発生するGHGの量を燃料のライフサイクルで評価するためのガイドラインの作成作業を進めることを決議したが、もし、燃料の生産時や輸送時に発生するwell-to-tankのGHG排出量が評価に含まれることになれば、LNGの法的取り扱いに大きな影響を与えることとなる。さらにMEPC 78は、炭素課税や排出権取引制度のようなMBMsをIMOの中期的なGHG削減対策の候補の一つとして初めて認めた。以上のような課題は、最終的に2023年夏のMEPC 80における決定を目指して、検討が進められていくこととなっている。

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The Maritime Executive (5/27)


5.Clean Arctic Alliance:IMOが迅速な気候変動対策を取るのに失敗

Clean Arctic Allianceが10日、MEPC 78の結果についてコメントを発表したところその概要は以下のとおり。①IPCCの報告書を受けて、多くの国がIMOのGHG削減目標を引き上げて、パリ協定の目標を達成するため、2050年までの海運の炭素中立の実現、さらには、2030年までのGHGの半減に賛成を表明したにもかかわらず、迅速な進展がなかったのは残念。②同様に、北極海におけBlack Carbon(BC)の排出規制についても、何ら進展がなかったのは残念。③地中海全体についてSOxに関する排出規制海域(MedECA)に指定し、地中海を航行する船舶が硫黄分0.1%以下の燃料を使用することが合意されたのは前進。この措置により、SOxだけではなくBCの排出も大幅に削減されることとなる。④また、スクラバー排水による環境へのリスクと影響を評価するためのガイドラインが承認されたのも、重油燃料の延命を助長するスクラバーの使用禁止に向けての正しい方向と評価。

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Clean Arctic Alliance (5/30)


6.ロングビーチ港がGreen Shipping Corridorに参加

地球温暖化に迅速に対応するために世界の40都市の市長が結成したC 40 Citiesが本年1月に発表したGreen Shipping Corridor (GSC)構想に従い、ロングビーチ港は、上海―ロサンゼルスGCS協定に署名した。上海港・LB港は、海運会社・荷主などの関係者とともに、2022年末までに、成果物・最終目標・中間目標・各参加者の役割などを含むGSC実施計画を策定する予定。LB港は既にWorld Ports Climate Action Planなどのパリ協定の目標を実現するための国際的な取り組みに参加しているが、GSCはこれらの既存の国際的な取り組みを踏まえる一方で、同港が取り組んでいるClean Air Action Planを補完するものとなる。LB港は、2030年までにターミナル運営の脱炭素化、2035年までに同港に出入りするトラックの脱炭素化を図る目標を立てている。GSCは、2030年までに低炭素・超低炭素・脱炭素燃料を燃料として使用できる船舶を段階的に導入し、最終的には、世界で最初の太平洋航路を運航するゼロエミッションコンテナ船の就航を目標とする。

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Port of Long Beach (5/30)


7.英国洋上風力発電:2030年までに約10万人を雇用

英国政府は、Green Industrial Revolutionとして、2030年までに洋上風力発電量を現在の5倍の50GWに引き上げることを目指しているが、洋上風力産業理事会の報告書によれば、英国では洋上風力発電分野における雇用は、直接・間接を含めて現在3.1万人だが、2030年までに9.7万人以上が雇用され、うち洋上風力発電事業の直接雇用数だけで6.1万人が見込まれる。2021年の英国における洋上風力発電事業に対する年間投資額は約100億ポンド(約1.64兆円)だったが、2030年までの年間平均投資額は170億ポンド(約2.8兆円)まで拡大する見込み。このような投資額の増加は、イングランドのCrown Estateが8GW分の、スコットランドのCrown Estateが25GW分の開発権のリースを新たに認めたことによるもので、現在計画・建設中の洋上風力発電事業の総発電量は86GWに達している。さらに、差額補填契約(CfD)の入札を従来は2年に一度行っていたのを、毎年行うことに変更したことによっても投資が促進されている。

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Offshore Wind Biz (5/31)


8.WTO閣僚会合:気候変動問題に関する貿易大臣会合が創設

世界貿易機関(WTO)は5年ぶりに貿易大臣会合を開催したが、環境問題が重要議題に浮上した。EUは6月13日、エクアドル・ケニア・NZとともに、気候変動に関する新たな貿易大臣の連合を結成し、他の諸国の参加を期待している。このほかにも、環境面で持続可能な貿易やプラスチック汚染の追跡などのテーマを議論するグループが結成された。気候変動に関する貿易大臣会合の第1回目の会合は7月に予定され、持続可能な開発やパリ協定の目的達成に必要な貿易政策の確立を目指す。化石燃料への政府補助金の総額は、再生可能エネルギー開発のための補助金総額を超えており、化石燃料への依存から脱却しなくてはいけないときに、化石燃料への政府補助を継続するのは矛盾しているとNZの貿易大臣は指摘している。

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Euractiv (5/31)


9.スコットランドと独最大のバイエルン州がグリーン水素で連携

6月13日、独最大の州であるバイエルン州の経済・エネルギー大臣とスコットランドの経済貿易観光大臣は、グリーン水素に関する商業的・科学的な既存の連携を拡大し、スコットランドからグリーン水素をバイエルン州に輸出することについて基本合意した。さらに、必要なインフラを含む適切な水素の物流ルートの構築、共同実証事業に対する支援などを両者が実施することが計画されている。スコットランドは北海に新たにパイプラインを建設して、グリーン水素を独のニーダーザクセン州まで輸送し、そこから現在天然ガスの輸送に使用されている独国内のパイプラインに接続することを計画している。両者は水素の生産・貯蔵・輸送・他のエネルギーへの転換などに関する研究開発を連携して進めることについても合意した。

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Offshore Energy (6/1)


10.パリMoU:Polar Codeの順守状況について検査キャンペーンを開始

有力なPort State Control (PSC)実施機関であるパリMoUは、6月13日から7月1日まで(前期)と、8月1日から8月19日(後期)の2つの期間にわたって、IMOのPolar Codeの順守状況について確認する検査キャンペーンを実施すると6月3日発表した。船舶はどちらかの期間に1回検査を受ければよく、PSC検査官は事前に決められた質問票に基づき、船上における情報と機器がPolar Codeの規定に合致しているか確認を行う。極海には、船舶の運航などの人間の活動の影響に脆弱な特別な生態系が存在すること。また、極海では、通常の海域で必要とされる航海上の注意事項以上の注意が必要なことを踏まえて、今回の検査キャンペーンが実施される。今回の検査キャンペーンによって、①Polar Codeの順守状況を把握し、②Polar Codeの規定を順守することの重要性や、極海において航海する船舶が直面する付加的なリスクや、極海の脆弱な環境を保護する必要性について、船舶の乗組員や船主の認識向上を図ること等を目的としている。

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Paris MoU (6/1)


その他のニュース

1.海運の脱炭素化
 (ア)市場原理に基づく措置:MBMs
  ①IMRF
   ICS:MEPC 78の結果に強い不満を表明 原文 (5/30)
2.エネルギー転換
 (ア)経済的影響
  ①全体分析
   McKinsey:The net-zero transition:What it would cost 原文 (5/30)
3.気候変動
 (ア)CO₂濃度
  ①大気中
   大気中のCO₂濃度最高値を更新 原文 (5/31)
4.気候変動対策
 (ア)金融投資機関
  ①Green Bond
   中国企業が試験的に「低炭素移行債券」を発行 原文 (5/26)
 (イ)国際的な連携
  ①Race to Zero
   参加基準を厳格化 原文 (6/1)
 (ウ)GHG排出削減量の排出基準
  ①再生可能エネルギー証明書(RECs)
   再生可能エネルギー証明書(RECs)に基づくGHG削減量が水増し 原文 (6/1)
5.航空機・航空燃料の環境問題
 (ア)持続可能な航空燃料
  ①英国
   1年以内に100%SAFの大西洋横断炭素中立フライト実現を支援 原文 (5/27)
6.生物多様性
 (ア)達成目標
  ①EU
   法的拘束力のある生物多様性回復目標を提案へ 原文 (5/27)
7.北極
 (ア) 北極評議会
  ①露抜きの活動
   露抜きの7か国で活動を限定的に再開 原文 (5/26)