国際海洋情報(2022年5月27日号)

1.ロシア産原油を輸送するタンカーに対する再保険の禁止のEU域外への影響

理論的には、ロシアはイランが実施しているように、制裁対象のタンカーを利用して、EUと英国以外の保険会社から保険を買って、ロシア産原油の輸送を行うことは可能だが、EU域外の保険会社を含む世界の保険会社の大部分は、リスクを分散させるため、ロンドンとEUの再保険事業者を利用している。ロシア産原油を引き続き輸入しようとする国は、EU域外の保険会社に依存しようとするだろうが、これら非EUの保険会社もリスクをヘッジするためには、再保険を購入する必要があり、EUによる再保険の禁止は、保険会社にとって保険を引き受けることを困難にしている。現在のEUの制裁によれば、EUの金融・保険会社は、ロシア産石油の輸送に関わる新たな融資や保険契約を締結することは直ちに禁止され、制裁措置が決定された6月4日以前に契約された保険についても、6か月の猶予期間、すなわち12月5日までに終了することが求められている。

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Argus (5/27)


2.英国政府:1年以内に100%SAFの大西洋横断炭素中立フライト実現を支援

英国政府は、今後1年以内に、100%持続可能航空燃料(SAF)を使用した最初の炭素中立大西洋横断フライトを実現するために、100万ポンド(約1.7億円)の支援金を用意して、航空会社・航空燃料製造事業者・航空機/エンジン製造事業者・燃料供給事業者に対して、暫定的な関心の表明(EOI)の提出を求める募集を開始した。政府からの補助金は、試験・研究と必要な人件費に使用することができる。EOIの結果、第1次選考に残った事業者は、第2次選考に応募することが求められる。

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英国政府 (5/27)


3.EU:法的拘束力のある生物多様性回復目標を提案へ

欧州環境庁(EEA)によれば、EUは過去30年間で生物多様性喪失のペースの鈍化に成功しているが、生物多様性を回復に転じるという公約を達成するに至っていない。2021年現在、わずかに15%の生物しか好ましい保護環境に置かれておらず、81%の生物は改善が必要か、劣悪な保護環境に置かれている。EUは30年前に野鳥の生息地に関する指令を出して以降、生物多様性の保全に関する法令は制定されておらず、都市部・農村地域・海洋などすべての地域をカバーする新たな法制ができれば、久々の大型法制となる。生物多様性の回復は、気温上昇抑制目標の達成のためにも重要で、健康な生態系は、気温の上昇を緩和し、自然災害の発生を防止し、食料安全保障に貢献することにより、欧州経済にとっても重要である。

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Euractiv (5/27)


4.MEPC78:ほとんど進展なしで終了

多くの代表が、IMOのGHG削減目標を引き上げることを表明したにもかかわらず、今週(6月6日の週)開催されたMEPC 78ではほとんど進展が見られなかった。国際海運会議所(ICS)が提案していた脱炭素研究促進のための燃料1トン当たり2ドルを徴収する限定的な燃料課税案は、日本が提案したはるかに野心的な市場原理に基づいた措置(MBMs)に関する提案などの前で、支持を得ることができず、ICSは今後の現実的な海運脱炭素戦略を議論するための会合を6月21日に開催する予定。MEPC 78は燃料から発生するGHGの量を燃料のライフサイクルで評価するためのガイドラインの作成作業を進めることを決議したが、もし、燃料の生産時や輸送時に発生するwell-to-tankのGHG排出量が評価に含まれることになれば、LNGの法的取り扱いに大きな影響を与えることとなる。さらにMEPC 78は、炭素課税や排出権取引制度のようなMBMsをIMOの中期的なGHG削減対策の候補の一つとして初めて認めた。以上のような課題は、最終的に2023年夏のMEPC 80における決定を目指して、検討が進められていくこととなっている。

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The Maritime Executive (5/27)