週刊国際海洋情報(2022年5月25日号)

1.WSC:欧州議会環境委員会のEU ETS改正案に対するコメント

コンテナ船社の業界団体である世界海運評議会(WSC)の標記コメントの概要は以下のとおり。①今回の改正案では、再生可能・低炭素燃料の生産から流通までのライフサイクル(well to tank)でGHG排出量を評価する視点が欠けており、先頭に立って、ゼロエミ燃料の開発に取り組もうとする者(first-mover)の投資意欲をそぎ、ライフサイクルで見れば大量のGHGを排出する燃料(LNGのこと)の生産を促進することとなる。②適用範囲の広いGHG削減対策の方が優れているという思い込みを廃することが大切で、EU域内の対策を作ったからと言って、世界的な貿易をゆがめるものではなく、また第3国からの報復措置を招く恐れもない。③海運の脱炭素化を迅速に進めるため、船舶の設計や運航について影響力を持つ船舶の所有者と運航者がEU ETSのコストを用船契約上シェアするようにすべきで、どちらかを費用負担者から除外することは、新しい機関や代替燃料に対する必要な投資を阻害する。

原文

World Shipping Council (5/19)


2.BIMCO:船内機器のソフトウェア更新に関する業界基準発表

BIMCOは、船内の機器のソフトウェアの更新に起因して、レーダーなどの重要機器が停止し、誤作動することによって発生した事故をこれまで何件も確認してきた。今回BIMCOが国際海事通信委員会(CIRM)と協力して作成したStandard on Software Maintenance of Shipboard Equipmentの目的は、ソフトウェアの更新が安定・整合的に実施されることを担保することであり、機器にインストールされているソフトウェアの一覧性を高め、保守管理の効率性を担保し、異なるソフトウェアを保守管理するグループの間の効果的な連携を担保するものである。今回作成された基準によれば、システム管理者は船内の機器でどのソフトウェアのどのバージョンが使用されているか完全に把握するため、すべての機器が使用しているソフトウェアのバージョンを正確に表示し、さらに、あるソフトウェアの更新によって、船内のシステムに問題が発生したときに、問題を修復するために、更新前のバージョンにきちんと戻れることが要求されている。

原文

BIMCO (5/19)


3.中国人民解放軍が中国人船員の海上民兵化訓練を組織的に進める

米国の海軍大学校が発表した報告書は、台湾侵攻計画における中国の商船隊(他国籍船を含む)とそれに乗り組む中国人船員と人民解放軍海軍(PLAN)の統合的運用について検討を行ったが、同報告書によれば、PLAは中国人船員を組織・訓練・管理するために、官僚組織と関連法制の整備を20年以上にわたって整備してきている。中国人船員は、中国国家戦争準備庁の指導の下に、定期的に軍事教練に参加することが義務付けられており、以下のような事項について訓練が実施されている。①船舶を船隊として集結・運航する方法。②軍事用通信設備の使用方法と手順。③自己防衛・相互防衛・救難・初期手当の方法。④軍用車両/物資の積み込み・積み下ろし方法。⑤軍事的に見た運用環境に関する基礎知識。⑥指令を受けた支援業務の遂行に必要な機器の操作方法。

原文

米海軍大学校 (5/20)


4.ICS:海運脱炭素化に必要な再生可能エネの量は3000TWh

国際海運会議所(ICS)が独の応用化学大学に委嘱し、バンクバーで開催された世界港湾会議で発表した「第4次推進力革命」報告書の概要は以下のとおり。①2050年までに世界の海運について炭素中立化を実現するためには、現在世界で発電されている再生可能エネルギーの総量と同じ規模の最大3000TWhの再生可能発電量が必要となる。②国際エネルギー機関(IEA)が描いている2050年までの炭素中立シナリオを実現するためには、世界で、再生可能エネルギーの発電量を18倍に拡大する必要がある。③水素については、2050年の段階で、水素生産コストは1MWhあたり72.6ユーロから156.4ユーロと倍以上の格差が世界の地域間で発生するが、多くのアフリカ・ラ米諸国といったGlobal Southと呼ばれる諸国では、水素を生産するのに必要な太陽光や風力発電のコストが、他の地域に比べて安くすむので、これらの国における生産インフラの迅速な整備が肝要。④ドイツ・アルゼンチン・チリは水素燃料の生産について、複数の二か国間協力協定を既に締結しており、水素燃料生産の先進国と言える。
 
原文

ICS (05/20)


5.FAL 46:港湾single windowが2024年から義務化

5月9日からIMOで開催されていたFAL 46で、FAL条約の改正が承認され、2024年1月から、世界中の港湾において、船舶入出港時等に電子情報を交換する際の窓口の1本化(single window for data exchange)が強制化され、海運のデジタル化が一層促進されることとなった。船舶の入出港に関与する各行政当局は船舶から提出された電子情報を統合して共有し、船舶からの情報届け出が1回で済み、当該情報を何回も再利用することが求められる。同委員会は、海事single windowを設定する際のガイドラインも改正し、交換される情報の秘密保持などに関連するガイドラインなども承認した。またCOVID-19の教訓を踏まえて、各国政府は、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態下においても、可能な限り世界的なサプライチェーンを維持するため、海運・港湾機能を停止させないことなどがFAL条約付属書に盛り込まれた。
 
原文

IMO (5/23)


6.英国政府:Clean Maritime Demonstration Competition Round 2を開始

英国運輸省は、本年発表された「国家造船戦略」の一環として、2.06億ポンド(約327億円)の予算で、同省の海事脱炭素計画(Clean Maritime Plan)の目的に従い、海運脱炭素化のための専門組織であるUK Shipping Office for Reducing Emission (UK SHORE)を設立した。同省は、昨年Clean Maritime Demonstration Competition(CMDC)を成功裏に実施したが、UK SHOREは、英国発の海事脱炭素化技術開発を促進し、産業主導型の脱炭素への移行を促すため、総額1200万ポンド(約19億円)のCMDCの第2次募集を、①革新的な事業可能性調査と②連携研究開発事業について、5月25日開始した。
 
原文

英国政府 (5/23)


7.IMO第12回GHG中間作業部会の結果概要

IMOはオンラインで5月16日から20日まで標記会合を開催したところその概要は以下のとおり。①2023年から適用が開始される就航船へのエネルギー効率指標(EEXI)・燃費実績の格付け制度(CII)に関するガイドライン案について合意。②中期GHG削減手法の策定に関する作業計画に従い、多くの中期的対策に関する提案とその影響評価について検討。③GHG燃料基準やEEXI等のエネルギー効率化基準の強化などの技術的な対策や炭素課税制度などの市場原理に基づく措置を含めた中期的なGHG削減対策の選択肢をまとめて、さらに議論していくことに合意。④6月に開催されるMEPC 78においては、第11回と12回の中間作業部会の報告が検討される予定で、Well-to-Wakeといったライフサイクルを通した船舶燃料に関するGHG排出評価に関するガイドラインや今後実施される中期的なGHG削減対策がIMO加盟国に対して与える影響可能性評価について検討される予定。
 
原文

IMO (5/24)


8.ECSA/T&E:FuelEU Maritimeの改正を求め共同宣言

欧州船主協会(ECSA)とNGO「交通と環境」は、欧州委員会が提案しているFuelEU Maritime規則案に対し、以下の改正が必要と、EU加盟国と欧州議会議員向けに共同声明を5月31日に発表した。①パリ協定の目標とEU気候法の目標とする海運脱炭素化目標に整合させるため同規則の目標をより野心的なものとすることを支持すること。②燃料供給事業者は「再生可能エネルギー指令」の下、再生可能エネの普及についてより明確な責任を負い、海運の脱炭素化目標が達成するために、船舶に十分な量の低・ゼロ炭素燃料の供給をEUの港湾において行うことを、EU加盟国は同規則上明確に義務付けること。③海運をEU ETSの対象とすることと、同規則から得られる収入については、海運のエネルギー転換を促進するために使用し、具体的には、既存の重油燃料と大量に供給が可能な代替燃料との間の価格差を、差額補填契約などを活用して、是正するために使用すること。
 
原文

ECSA (5/24)


9.FMC:荷主支援とサプライチェーンの効率改善のため新たな3施策を発表

6月8日、米国連邦海事委員会(FMC)は、米国の荷主への支援を強化し、海運会社等に法規制を遵守させる体制を改善し、サプライチェーン上の問題の救済を重点化するために新たに以下の3施策を実施すると発表した。①米国の海上貿易を支えるネットワークと施設に関する長年にわたる制度的な問題点と欠点を克服するため、FMCに対し、サプライチェーンのどこに問題があるのか特定し、円滑な海上貿易を妨げる問題点を改善するための手順を提案する権限を付与する「国際外航海運サプライチェーンプログラム」を新設する。②輸出に関する問題に迅速に対応するためのExport Rapid Response Teamを再導入する。③海運会社・ターミナル運営会社・港湾管理者は、社内にFMCの規則が順守されているか管理する、上級役員直属のFMC Compliance Officerを任命する。
 
原文

FMC (5/25)


10.IMO:Just in Time Arrivalによって燃費とCO₂を最大14%削減することが可能

IMOとノルウェー政府の共同事業であるGreen Voyage 2050’s Global Industry Alliance to Support Low Carbon Shipping (Low Carbon GIA)は、6月7日、Just in Time Arrival (JIT)/ Emission Reduction Potential in Global Container Shippingと題する報告書を発表したところその概要は以下のとおり。①本年後半に発効するIMOによる海運GHG排出削減短期対策としてのCarbon Intensity Indicator (CII)の格付けを良くするために、船舶エネルギー効率管理計画(SEEMP)とともに、JITを採用することは有効な手段である。②本調査は、Marine Traffic and Energy and Environmental Research Associates (EERA)が、パンデミック以前の2019年における世界のコンテナ船のAIS運航情報をもとに、JITによる運航最適化による燃費・排気削減効果を検証した。③JITを全行程に適用した場合に14.2%、到着24時間前から適用した場合に5.9%、到着12時間前から適用した場合に4.2%、それぞれ燃費を節約できることが判明した。
 
原文

IMO (5/25)


その他のニュース

1.再生可能エネルギー
 (ア)洋上風力発電
  ①北海
   北海沿岸諸国首脳が洋上風力発電の開発協力に関し共同宣言  原文 (5/19)
 (イ)太陽光発電
  ①中国
   太陽光発電事業への投資を今年に入ってから3倍増  原文 (5/20)
2.海運の脱炭素化
 (ア)港湾
  ①Green Shipping Corridor
   ロイズ船級協会:Silk Alliance/ グリーン回廊事業を発足  原文 (5/24)
3.気候変動
 (ア)異常高温
  ①インド・パキスタン
   熱波が起きる確率が100倍以上に  原文 (5/20)
4.安全保障
 (ア)ウクライナ
  ①石油・ガス
   EU対ロ制裁:海上輸送される石油の禁輸で妥協  原文 (5/24)
 (イ)南シナ海
  ①フィリピン
   比が南沙諸島にあらたに3つの沿岸警備隊の監視所を設置  原文 (5/23)
5.気候変動対策
 (ア)排出権取引制度
  ①EU
   欧州議会で排出権取引制度の改革案などが否決  原文 Politico (5/25)
 (イ)産業別脱炭素化
  ①石油化学
   2050年までに炭素中立にするために7590億ドルが必要  原文 (5/23)
6.環境問題一般
 (ア)プラスチック
  ①マイクロプラスチック
   農薬・肥料のプラスチックコーティングによる土壌汚染の実態  原文 (5/25)
7.航空機・航空燃料の環境問題
 (ア) 排出権取引制度
  ① EU ETSの適用範囲拡大
   欧州議会環境委員会:EU域外との間の航空輸送もETSの対象  原文 (5/19)