週刊国際海洋情報(2022年5月18日号)

1.Poseidon Principles for Marine Insuranceが発足

世界海事フォーラムは、世界の海運活動が環境に与える影響の透明性を高め、海運業界全体としての脱炭素化を促進し、海運業界と社会のより良い将来を支援するため、海運企業が、気候変動の目標に従って実際に行動しているか、その行動が妥当かを評価し、行動が実際に実行されることを担保し、海運企業の行動の透明性を向上するため、今回発足した海上保険事業者のためのポセイドン原則(PPMI)だけではなく、金融機関のためのポセイドン原則・荷主と船主が参加するSea Cargo Charterの3つの組織によって、金融・保険・用船者の観点から、海運会社が責任をもって、海運の脱炭素化を実施することを担保している。PPMIのメンバーとして、新たに2社が参加したことによって、PPMIの発効要件(加盟会社数が8社以上)を満たし、4月27日、設立総会が開 催された。参加保険会社は、今年末までに、自社が保険を引き受けている海運会社のうち、ポセイドン原則に従って、海運脱炭素化を実施している会社の比率を報告するとともに、今後この比率を継続して引き上げる義務を負う。
 
原文

Poseidon Principles (05/21)


2.急速に進む新造船の代替燃料化:過半数が代替燃料対応可能に

Clarkson Research Serviceの統計によれば、過去2年間に発注された新造船のうち、重油燃料以外の燃料にも対応できる船舶は約30%だったが、2022年に入ってこれまでに発注された船舶の過半数に当たる63%(gtベース)に当たる船舶が代替燃料も燃料として利用できることが分かった。LNGも燃料として使用できる船舶の発注は、昨年は全体の28%にとどまっていたが、今年は59%とシェア的にも倍増以上している。その他の代替燃料船としては、過去1年間に、4隻のメタノール対応コンテナ船、多くのLPG/エタン対応LPG輸送船が発注された。バッテリーとのハイブリッド船も今年に入ってから26隻発注されている。さらに、LNGを燃料として使用できるうえに、将来的にはアンモニア・メタノール燃料にも対応できるように改造可能な船舶も本年に入ってから20隻以上発注されている。しかし、新造船の過半数がLNGにも対応できるように発注されているとはいえ、価格的に割高なLNGを実際に燃料として用いるか否かは現段階では未定である。
 
原文

Splash247 (05/12)


3.Getting to Zero Coalition:代替燃料支援策として差額補填制度を提案

世界海事フォーラムのなかで、海運脱炭素化を目指すGetting to Zero Coalition(GZC)は5月9日標記提言を発表したところその概要は以下のとおり。①海運をEU排出権取引制度(ETS)に取り込むだけでは、量産可能なゼロエミッション燃料(SZEFs)と化石燃料との価格差を埋めることはできない。②SZEFに関する技術開発を進め、量産化と価格の低下を促すためには、差額補填制度(CfDs)の活用が有用である。③EU CfD計画を効率的に運用するためには、様々な好条件に恵まれたGreen Corridorsに集中投資する必要がある。④GZCは2030年までにSZEFsのシェアを5%以上にすることを提唱しているが、この目標の実現のためには、年間12億ユーロ(約1700億円)の投資が必要と概算されるが、海運分野からのEU ETSの収入は年間50-90億ユーロ(約6900億円から1.2兆円)と見込まれることから、必要投資額を十分賄うことが可能。
 
原文

世界海事フォーラム (5/13)


4.EU対露制裁案からEU籍タンカーによる露原油の輸送禁止が外れる

欧州委員会は、現在提案中の第6次対露経済制裁案において、露産原油・石油製品の輸入禁止と併せて、EU籍タンカーによる露から第3国への原油・石油製品の海上輸送の禁止も当初提案していた。これに対し、世界の石油タンカーの26%を所有するギリシャとマルタ・キプロスなどが猛反対をした結果、海上輸送の禁止規定は、最新の改訂された提案からは削除された。しかし、露産原油・石油製品を輸送するタンカーに対する保険引き受けの禁止規定はそのまま残っており、International Group of P&Iは油濁汚染補償などタンカーの保険市場の95%を握っているため、露産原油を輸送するにあたって、他に保険を引き受ける保険会社を手配することは容易でない。露産原油の禁輸については、欧州委員会はハンガリーやスロバキアなど露産原油・石油製品に深く依存している国に対しては、輸入停止の期限を2024年末まで特例的に延期することを妥協案として提示している。
 
原文

gCaptain (Bloomberg) (5/13)


5.国連:イエメン沖のタンカーから原油を抜き取る作業に8000万ドル必要

フーシ派とサウジに支援された政府との間で、所有権と責任をめぐって行き詰まり、フーシ派が支配するイエメンの西岸沖8kmの地点に6年間も114万バレルの石油を積んだまま放置されている船齢45年の老朽化タンカーから、油が紅海に漏出すれば、1989年のエクソン・バルディス号による油濁事故の4倍の環境被害が発生し、20万人を超える漁民が職を失い、油濁汚染の清掃費用に200億ドルかかると国連の専門家は警告している。国連は6か月以上にわたって、フーシ派と交渉した結果、国連が老朽化したタンカーから110万バレルの石油を抜き取って、他のタンカーに積み替え、老朽化タンカーの代わりに18か月以内にフーシ派のために新しいタンカーを代替として購入して与え、老朽化したタンカーは曳船されて、鉄くずとしてスクラップされることについてフーシ派が同意した。合意された内容を実施するための費用として、国連は8000万ドルの資金を集めたうえで、海が荒れる10月前までに石油の抜き取り作業を完了する必要がある。
 
原文

The Guardian (5/16)


6.ロッテルダム港:2030年までに年間460万トンの水素を供給へ

2030年までに露産天然ガスからの依存から脱却することを目的としたREPowerEU戦略に従って、ロッテルダム港は、約70の企業と水素を輸出する国と共同で、2030年までに年間460万トンの水素を供給し、4600万トンのCO₂排出を削減するという水素経済に関する計画を立てて、欧州委員会のエネルギー・環境担当の副委員長に報告した。同港から供給される水素は、自動車などの交通機関の燃料として、エネルギー多消費型の産業における燃料として利用される。この計画の実現のためには、第1に、非EU諸国から輸入されるグリーン水素については、本当に再生化可能電力から生産されたことを認証する制度が必要であること。第2に、再生可能(低炭素)水素とグリーンアンモニアなどの水素派生燃料と化石燃料或いは化石燃料を原料として生産された水素・アンモニアなどとの価格差を埋める必要がある。北西欧州諸国・南米諸国・豪では再生可能エネルギーからグリーン水素を生産する事業が進められているが、これらの国からアンモニアなどの水素キャリアをロッテルダム港に輸入し、ロッテルダム港で水素に再加工して、パイプラインなどを活用して近隣諸国に供給することを目標としている。
 
原文

Offshore Energy (5/16)


7.RMI:EUにとってグリーン水素を輸入することの戦略的優位性

標記報告書の概要は以下のとおり。①EU域内においても太陽光・風力・地熱などの再生可能エネルギーの生産はできるが、より迅速に価格変動の激しい輸入化石燃料への依存から脱却し、炭素中立を実現させるために、欧州域内でグリーン水素やグリーンアンモニアの普及を図るためには、より安いコストでグリーン水素を生産できる外国からグリーン水素を購入することが重要である。②鉄鋼や海運などすべてのエネルギーを電化することが困難な産業に、今後8年間で2000万トンのグリーン水素を供給すれば、これらの産業の脱炭素化を促進することができる。③天然ガスの将来性やEU域内の今後の炭素価格を考慮すれば、EU域内で化石燃料からブルーやブラウンの水素を生産するより、グリーン水素を輸入する方が経済的にも安くつくようになる。④したがって、グリーン水素を安く生産することが可能なアルジェリア・豪・ブラジル・チリなどの国々と早急に、グリーン水素供給に関する協定を締結すれば、早ければ2024年にも輸入グリーン水素の供給が可能となる。
 
原文

RMI (5/17)


8.EU ETSの見直し案について欧州議会多数派で暫定妥協が成立

欧州議会の環境委員会の多数派の間で、EU ETSの見直し案について暫定的な妥協案に合意したと、5月11日、取りまとめ責任者が明らかにしたところその概要は以下のとおり。①欧州委員会の原案よりETSの適用範囲の拡大の規模を限定し、建物と交通に関しては、2025年から企業に対してのみ適用し、個人(家庭)に対しては、一定の条件に合致した消費者に対して2029年から適用する。②排出権取引額についてはCO₂1トン当たり50ユーロ(約6700円)を上限とする。③海運については欧州委員会の原案を2年先倒しして、2024年から完全に適用する。④今回の妥協案によると、ETSの対象となる分野におけるCO₂排気量を2030年までに61%削減できる見込み。⑤環境委員会で、この妥協案について、来週(5/16の週)に採決を行い、欧州議会総会での全体採決は6月か7月に行われる見込みで、その後欧州議会の案を欧州理事会と調整することとなる。

原文

Reuters (5/17)


9.英MCA:「洋上風力発電施設等が海運に与える影響」に関するガイダンス

英国政府による再生可能エネルギーの拡大政策によって、英国の海域における洋上風力・波力・潮力などの洋上再生可能エネルギー施設(OREIs)の数が増加している。OREIsの設置場所・大きさ・不規則な形によって、船舶の安全運航・船舶との通信・救難活動に新たな制約要因が発生し、結果として、海上の船員や沿岸住民に対する人的損害や物質的損害を発生させる恐れがある。こうした被害を予防するために、海事沿岸警備庁(MCA)はOREIsによる船舶の安全運航や救難活動に対する影響を分析し、OREIs開発事業者やOREIs周辺で船舶を運航する者のために、2012年にガイダンスを作成し、逐次改訂している。この度、建設中のOREIs周辺に暫定的に設定される「安全海域」に関する部分などが追加され、5月12日に改訂版が発表された。
 
原文

英国政府 (5/18)

10.北米西岸の港湾がクルーズ船のためにグリーン回廊の設置を検討へ

2021年に、米国・カナダを含む24か国が参加して、代替燃料を燃料とする船舶に対して、低・ゼロ炭素燃料を供給できる複数の港湾を結んだネットワーク(グリーン回廊)を2025年までに、世界で最低でも6航路作ることを約束したClydebank宣言が採択されたが、バンクーバーで開催された国際港湾協会の会議で、シアトル港・アラスカのジュノー市・バンクーバーのフレーザー港湾管理庁・多くの主要クルーズ船事業者が世界海事フォーラムなどと連携して、クルーズ船が主導する最初のグリーン回廊を設立するためのFirst Mover Commitmentに合意した。今後、アラスカ州・British Columbia州・ワシントン州の間で、ゼロエミッションクルーズ船の運航を加速化するためのグリーン回廊設立の可能性を調査していく。
 
原文

gCaptain (5/18)


その他のニュース

1.再生可能エネルギー
 (ア)太陽光発電
  ①屋上太陽光パネル
   EU:欧州屋上太陽光イニシアティブを提案へ  原文(5/16)
 (イ)潮力発電
  ①英国
   英国ウェールズで潮力発電事業を始動  原文(5/12)
 (ウ)発電実績と今後の予測
  ①IEA
   IEA:Renewable Energy Market Update (2022年5月)を発表 原文(5/17)
2.エネルギー転換
 (ア)新たな化石燃料の開発
  ①米国
   アラスカ・メキシコ湾での石油ガス田開発のリース入札を中止  原文 (5/18)
  ②今後の見通し
   石油・ガス業界は化石燃料に対し引き続き大規模投資を計画  原文(5/17)
 (イ)必要投資額
  ①EU
   露へのエネ依存から脱出するために8000億ユーロの投資が必要  原文(5/18)
3.気候変動
 (ア)今後の気象予測
  ①WMO
   今後5年間の気象予想報告書を発表  原文(5/13)
4.安全保障
 (ア)ウクライナ
  ①石油・ガス
   独政府:露が天然ガスの供給を停止した際の緊急対処計画を用意  原文(5/13)
   RePwerEU:2027年までに露への依存脱却に1950億ユーロを支出 原文(5/16)
5.環境問題一般
 (ア)Environmental Justice
  ①米国
   米司法省:Environmental Justiceを担保する専門組織を創設 原文(5/12)