週刊国際海洋情報(2022年5月11日号)

1.メイフラワー自律運航船:2回目の大西洋横断に挑戦

メイフラワー自律運航船MAS400は、全長15m、船体重量5トンで、プリマス大学・IBMなどが、人工知能によって、大西洋を自律運航して横断する間に、海洋研究に必要な情報を取集することを目的として、4年以上の開発期間と、100万ドル以上の開発費をかけて建造した。MASは、6台のAIによって管理されたカメラを装備して、画像をコンピューターに送り、コンピューターは100万を超える画像を分析して、海岸の地形や他の船舶などの運航の障害となりうるものについて学習する。船舶にはこのほかにも30のセンサーと15の端末機器が装備されている。MASはこれらの機器によって収集した情報の衛星通信を介して陸上の運航支援チームや研究者等にも送ることができる。MASにはあらかじめ計画された航路がプログラムされているが、気象条件・潮流などの可変条件を分析し、障害物との衝突を回避しながら、目的に向かって最適航路をAIが随時決定していく。MASは約2.5海里先の船舶や障害物を認識し、風力・太陽光・バックアップのディーゼル発電機で、必要な電力を発電し推進力を得る。同船は4月27日にプリマスを出港し、5-6ノットの速度ですでに350海里以上航行したが、米国のヴァージニア州まで約3週間かかり到着する予定。成功すれば、大西洋を自律運航した最大の船舶となる。

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The Maritime Executive (05/02)


2.ICS:ウクライナに残されている約500名の船員の安全退避を要請

国際海運会議所によれば、2月24日のロシアのウクライナ侵攻以来、6隻の商船がロケット弾などで攻撃され、2隻が沈没し、2名の船員が死亡したが、これまでの6週間で、陸上と海上の人道支援回廊を通じて約1500名の船員が退避に成功した。しかし、現在でも、ウクライナの港湾には、109隻の商船と500名弱の船員が取り残されており、これらの残存船員が安全に退避することが認められるべきとしている。最も多くの約25隻の船舶が取り残されているのがミコライフで、5隻がマリウポリに取り残されている。109隻の大部分はばら積み貨物船か一般貨物船で、一部石油タンカーも含まれている。取り残されている船員の国籍は27か国にわたり、フィリピンとインド人の船員が最も多い。

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Reuters (05/02)


3.プラスチック条約には総生産量の段階的縮減を盛り込むべき

(論説)世界の科学者が共同でScience誌に標記意見投稿をしたところその概要は以下のとおり。①3月の国連総会で、2024年までに法的拘束力を持ったプラスチック条約案文を作成することが合意されたが、条約にはプラスチック生産量の制限を盛り込むべきである。②現在世界の年間総プラスチック生産量は、4.5億トンだが、このままでは2045年までに生産量は倍増する見込みで、プラスチックのライフサイクルCO₂排出量は、全GHGの4.5%を占め、2050年までに排出されることが許容されているCO₂総量(CO₂ budget)の10-13%を消費してしまうことになる。③プラスチックのリサイクルなどあらゆる対策をとっても、プラスチック生産に伴うCO₂排出量は、2040年までに79%しか削減できず、2040年以降も年間1.7億トンのプラスチックごみが海洋を含む自然界に放出されることとなるので、プラスチックによる環境汚染を止めるためには、2040年までに新たな(virgin)プラスチックの生産を段階的に停止する必要がある。

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Science (05/06)


4.独政府:グリーン水素をインドから輸入するための連携協定を締結

2021年にインドのモディ首相は同国を世界のグリーン水素のハブにすると宣言したが、独政府は、ロシアへのエネルギー依存から脱し、豊富な再生可能エネルギーを生産することが可能なインドからグリーン水素を輸入するため、両国の政府・業界・研究機関からなる水素タスクフォースを設立することで、5月2日印政府と基本合意し、印の電力・再生可能エネルギー大臣と独の経済・気候変動大臣は連携協定に署名した。同タスクフォースは、グリーン水素の市場拡大を支援するための、具体的な共同事業についてロードマップを作成する。さらに、グリーン水素に必要な法規制・定義の確立・安全確保手続・持続可能性の基準などについて、両国政府の間で知見を共有する。独首相は4月末に、日本を訪問した際にも、日本政府に対し水素の開発について連携することを提案した。中国ともメルケル政権時代からエネルギー連携協定を締結しているが、2020年に独が水素戦略を発表してから具体的な進展はない。

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Euractiv (05/06)


5.英国:船舶・遠隔運航センター・港湾運用システム間のインターフェイスを強化

英国海事研究開発(MarRI-UK)は、英国の運輸省の財政支援を受けて、同国の産業界と研究組織が協力して、海事分野の試験・研究段階を終えた技術を商業化するのを支援する組織で、2020年11月に、陸上と船舶の間の連携作業を、運用・インフラ両面で自動化する技術の公募を開始し、2021年には、ロンドン港湾管理庁が主導する陸上・海上・港湾の間を水素のHighway Networkで結ぶSmart Hydrogen Highway事業を支援の対象に選定した。2022年度は、エネルギーと船舶の自律運航の視点から、船舶・遠隔運航センター・港湾運用システム・エネルギー供給インフラとの間のインターフェイスを確立して、船舶と陸上の統合を目指すShipping and Port Interfaces in New Era (SPINE)事業を支援事業として認定した。SPINE事業は、海上輸送全体のバリューチェーンの課題・Maritime 2050に掲げられた主要課題・英国海事ルートマップ中の技術開発に関する課題・Clean Maritime Plan/UK Ports and Futureに掲げられた課題などすべての政策的な課題を包括的にまとめて対処することを目的としている。

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MarRI-UK (05/09)


6.MEPC 78:日本政府が最も野心的な炭素課税案を提出

日本政府は、船舶から排出されるCO₂に対して段階的に課税を強化する野心的な提案をMEPC 78で行うことを明らかにした。具体的には、2025年から船舶から排出されるCO₂1トン当たり56ドルの課税を開始し、2030年からは135ドルに、2035年からは324ドル、2040年には673ドルと、5年ごとに炭素課税額が2倍前後に強化される。日本の提案の当初課税水準は、マースクが提案している150ドルや、マーシャル諸島が提案している100ドルよりは低いが、これまでIMOに提案された案の中では最も野心的なもの。日本政府関係者は、Financial Timesに対し、今回の炭素課税の提案は、化石燃料の負担を増やして、課税収入をゼロエミ船の普及の支援に回して、競争条件の均衡化を図り、再生可能エネ技術の市場競争力を増やすことを目的とすると説明している。Trafiguraは炭素課税の適正水準は250から300ドルと評価している。

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The Maritime Executive (05/09)


7.EU企業による露産石油の海上輸送関連サービスの提供を停止へ

欧州委員会は、ロシア産の石油の禁輸と関連して、同国産石油の海上輸送に関し、EUの企業が提供している船舶ブローカー業務・保険業務・金融などすべての海運関連業務を6か月以内に停止することを提案した。提案されている措置はロシア産石油の全世界における海上輸送に適用されるため、EUに代わる同国産石油の輸入先を探そうとするロシアの動向を大きく制限することになる。欧州委員会の提案が欧州理事会で承認されれば、経過措置なしに、スポット市場の新たな契約ばかりでなく、既存の長期輸送契約にも適用されることとなる。既に発動されている石炭の禁輸については、同様の措置がスポット契約については直ちに、長期契約については4か月の猶予期間以内に適用されている。この禁止措置は、EUの企業にだけ適用されるので、海運・ブローカー業務などは非EU企業でカバーできるが、International GroupによるP&I再保険が適用されなくなると、ロシアにとって最も大きな痛手となる。

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gCaptain (Reuters) (05/10)


8.Sovcomflot:制裁を受けて保有タンカーの1/3を緊急売却へ

Lloyds Listによれば、133隻(合計1160万dwt)の船舶を保有するロシア最大のタンカー海運会社のSovcomflotは、自社とロシアの石油産業に対する西側の制裁措置がさらに厳しくなるのを前に、今後10日以内に、保有するタンカーの約1/3を駆け込みで売却する作業を進めている。同社は、3月15日のEUによる制裁と、3月24日の英国の制裁によって、同社のユーロ債の約830万ドルの利払いができなくなり、1週間前にデフォルトしている。また、制裁措置に従えば、西側金融機関は同社を含む制裁対象企業との金融取引を5月15日までに停止することになっており、またInternational P&I Groupからは同社のタンカーへの付保を停止すると通告されている。同社が保有する船舶のうち約80隻は氷海クラスで、ロシア北極圏の石油ガス田事業に投入されており、その半数以上が原油タンカーとされている。

原文

The Maritime Executive (05/10)


9.米国におけるプラスチックごみのリサイクル率はわずかに5%

米国の国民一人当たりが排出するプラスチックごみの量は、1980年と比較すると3倍以上に増加しているが、米国エネルギー省が5月初めに発表した調査研究によれば、2019年において、同国内ではわずかに5%のプラスチックごみしかリサイクルされず、埋め立てられるプラスチックごみの量が毎年増えている。その原因として、低いリサイクル率・人口増加・消費者が使い捨てプラスチックを好むこと・安いごみ処理費用などの要因が考えられるとしている。さらに、2017年以前は中国が米国からのプラスチックごみを大量輸入していたが、2017年以降、輸入を停止したものの、米国内には代替となるプラスチックリサイクル施設が少ないので、埋め立てられるごみの量が増えている。米国内では、プラスチックごみの85%が埋め立てられ、10%が焼却処理され、リサイクルに回されるペットボトルについても、リサイクルの工程で、総量の1/3は廃棄されている。

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The Guardian (05/11)


10.FMC:アライアンス参加海運会社に対する情報提供義務を強化

米国連邦海事委員会(FMC)は、2M/OCEAN/THEの3つの世界的なアライアンスとアライアンスに参加する各海運会社に対して、FMCの貿易分析局(BTA)が、海運会社の行動と市場競争力を分析するため、価格設定や輸送容量に関するより詳細な情報を要求することになると、5月5日、明らかにした。BTAはおよそ1年間かかり、どのような情報を提出させるか吟味していたが、今回の新たな要請の下で、アライアンスに参加する企業は、主要航路における運賃に関する情報や、輸送容量管理に関する包括的な情報を提供することとなる。BTAはアライアンスや船社の行動が承認されたアライアンス協定の内容に反していないか、アライアンス協定が、市場に対して競争抑制的になっていないか継続的に確認する。3つのアライアンスは現在すでにFMCの厳しい監視下にあって、頻繁に船舶の運航情報や加盟船社間の会合の議事録などの提出を求められている。

原文

FMC (05/11)


その他のニュース

1.再生可能エネルギー
 (ア)グリーン水素
  ①英国
   英国政府:「水素投資家のためのロードマップ」を発表 原文 (5/6)
   Renewable UK:英国政府にグリーン水素政策について提言 原文 (5/11)
 (イ)太陽光発電
  ①米国
   東南アジア諸国からのパネル輸入停止で混乱 原文 (5/11)
2.エネルギー転換
 (ア)石炭の取り扱い
  ①インド
   猛暑と石炭・電力不足にあえぐ 原文 AP (5/9)
3.気候変動
 (ア)氷河・海氷の減少
  ①北極海
   北極海の海氷の減少は将来の地球の気温・降水量に大きく影響 原文 (05/02)
4.安全保障
 (ア)ウクライナ
  ①石油・ガス
   EU:ロシアの天然ガスの支払い方法について緊急協議 原文 (5/6)
   EC:露産原油・石油製品の禁輸を提案するも旧東欧諸国が反対 原文 (5/10)
5.海賊
 (ア)アジア地域
  ①ReCAAP
   2022年第1四半期は武装強盗の事件数が対前年比35%増加 原文 (5/9)
6.船舶の安全性
 (ア) サイバー攻撃
  ① IACS
   サイバー安全性確保のために新たな統一要件を採択 原文, IACS (5/10)