週刊国際海洋情報(2022年4月23日号)

1.欧州港湾協会:欧州議会における港湾陸上電源の整備に関する修正案を支持

欧州議会の交通観光委員会における港湾の陸上電源(Onshore Power Supply:OPS)の整備に関する検討で、超党派で以下のようなコンセンサスができていることについて歓迎する。①OPS整備に関しては、環境改善効果が高いところから優先整備する。②OPS整備の優先順位を決定するにあたっては、利用度が高いターミナルを優先し、使用頻度が低いOPSが整備されるのを避けるため、OPSの整備を求める最低交通量基準は、港湾単位ではなく、ターミナル単位で決められるべき。③陸上電源の未整備を港湾当局の責任にしない。④OPSの利用者に対して、寄港に当たって、OPS使用意思の有無・必要な電力量を事前に港湾管理者に連絡することを義務付けるメカニズムを構築する。⑤OPSの整備に関する代替燃料インフラ規則(AFIR)とOPSの使用に関するFuelEU Maritimeの間の整合性を担保する。
 
原文

ESPO (04/18)


2.マースクが独自の航空会社を設立し航空機も保有

4月14日、EUはパラオで開催されたOur Ocean Conference (OOC)で国際的な海洋統治のための約束を改訂し、これまでのOOCで発表した約束としては最大規模の、2020年から2022年の期間で実施する総額約10億ユーロ(約1390億円)の44の約束を発表した。2022年のOOCのテーマはOur Ocean, Our People, Our Prosperityで、海洋資源の持続可能な管理・気候変動に対する海洋の耐久性の強化・将来の海洋の健康の確保などについて話し合われた。EUは、海洋保護区・海洋汚染の防止・海洋に関する気候変動減少への対策・持続可能な海洋経済の創造・持続可能な小規模漁業/養殖業の推進・安全で確固たる海洋の達成など、OOCで議論されたすべての分野で約束を行った。
 
原文

欧州委員会 (04/18)


3.BIMCO:GHG削減に関するPosition Statementを発表

標記宣言の概要は以下のとおり。①外航海運に関するGHG削減規制については、IMOで合意されるべきで、透明で、調和がとれ、登録国に関わらずすべての船舶に適用されるべき。②合意はGHGの排出規制に絞るべきで、船腹量に関する規制を実施するべきでない。③IMOで合意されている暫定的な対策だけでは不十分であり、2050年までの炭素中立を目指すべき。④同目標を実現するためには、船主・荷主・用船者・燃料製造/供給事業者・造船/舶用工業事業者などすべての関係者が協力し、責任を分担すべき。⑤世界的に共通の市場原理に基づく炭素課税措置(MBM)は、低炭素船舶に対する投資を推進するための重要な施策。⑥世界的なMBMは既に合意された9原則に基づきIMOが運営すべき。⑦MBMは予見可能性が高く、安定した炭素課税とすべきことから用船契約の中で規定すべき。⑧船舶の速度や航路について決定権を持つ者がMBMの経済的な負担を負うべきで、定期用船の場合は用船者が、航海用船の場合は、航海用船に船舶を出す者が負担すべき。
 
原文

BIMCO (04/19)


4.MEPC 78:日米英豪等が2050年までの炭素中立を求める

6月6日から、IMOではMEPC 78が開催される予定だが、日米英豪等は、2050年における海運からのCO₂削減目標を、対2008年実績比50%削減するという現在の目標から、100%削減に引き上げる提案を提出した。提案国は海運についてもパリ協定の目標と整合的な削減を実施する必要があり、CO₂削減のための当面の対策を見直す過程において、2050年に達成すべき目標について解釈の違いができないように、正確な定義づけを行うべきとしている。さらに、EU諸国は、2050年までの炭素中立化に加えて、2030年までの中期削減目標の強化と、さらに2040年までの目標の設定を提案している。中国・ブラジル・南アなどの諸国は、新たな市場原理に基づく措置として「国際海事持続可能基金と報償」メカニズムを提案しており、船舶の積載量と年間実運航距離に応じて、排出可能なCO₂の幅を定めて、許容限度の上限を超えた船舶から課金を徴収し、その課金を原資に、許容限度の下限を下回った船舶に報償を与えることを提案している。
 
原文

Splash247 (04/19)


5.米国FMC:海運11社から「輸出戦略」について聞き取り

米国連邦海事委員会(FMC)のVessel Operating Common Carrier (VOCC)監査プログラムは、海運11社からの1次ヒアリングを4月22日に終了し、どの海運会社が「輸出戦略」を持ち、この戦略がどの程度有効に機能しているかをチェックして、輸出戦略を持っていない海運会社に対しては、輸出戦略を立てるように要請した。ヒアリングにおいては、最近の各海運会社による米国の農産物などの輸出輸送実績を聴取して、FMCが最近の市場動向を把握するとともに、各海運会社に改善を求める余地がないか判断するための情報を収集した。VOCC監査チームの調査は継続するが、1次ヒアリングで得た情報は、FMC本委員会に報告される見込み。コンテナ輸送スペースの確保など米国の輸出荷主が直面している課題を解決するために、FMC委員長は様々な監査権限を行使する予定で、海運会社の輸出戦略の検証はあくまでその一歩にすぎない。
 
原文

FMC (04/20)


6.FuelEU Maritime:LNG燃料の許容はIPCC報告書と矛盾

「交通と環境」の海事分野の責任者の分析は以下のとおり。①IPCCの報告書では、海運脱炭素化の手段として、天然ガス(LNG)の利用が不適切であると明記。一方で、欧州委員会が提案中のFuelEU Maritimeでは、排気単位当たりのCO₂許容値を、最も安価なfuel mixを用いて満たすことを認めているので、2030年までにLNGとバイオディーゼルが船舶燃料全体に占めるシェアが約1/4となる。②IPCC報告書では、海運代替燃料として、グリーンアンモニアなどの水素派生燃料を推奨し、欧州議会の環境委員会や独政府は、水素派生燃料を一定比率以上使用することを義務付けることを検討・提案しているにかかわらず、FuelEU Maritimeでは水素派生燃料の利用を明確に否定している。③最後に、欧州委員会の提案では、海運脱炭素化に関し、2030年までの中間目標を設定しないばかりか、2050年までの削減目標を75%に設定している。④露のウクライナ侵攻を踏まえて、化石燃料への依存から脱却するために、欧州委員会が最近発表したRePowerEUに従えば、海運分野においても2030年までに燃料の6%以上はグリーン水素を原料としたe燃料に代替し、海運からのGHG削減目標を5年前倒しにし、LNGの燃料としての使用を停止する必要がある。
 
原文

Euractiv (04/20)


7.米大統領:露関係船舶の入港禁止を命ずる大統領令を発出

2021年に米国に寄港したロシアの船舶数は約1800隻で、そのうち約9割はロシア産原油を輸送するためであったが、4月21日、米大統領は、ロシアによるウクライナ侵攻に対する制裁措置として、ロシア籍船舶・ロシア企業により運航されている船舶などのロシア関係船舶の同国港湾への寄港を禁止する大統領令を発表した。この大統領令はすべてのロシア産品の輸入を禁止するものではない。カナダは3月1日に既に同様の措置を取っており、英国・イタリア・ブルガリア等の欧州諸国も既に同様の措置をとっている。米国は、国際航空については、カナダや欧州諸国と歩調を合わせて、ロシアの航空機による同国上空の飛行を既に禁止しているほか、ロシア産原油の輸入も禁止している。
 
原文

Reuters (04/21)


8.ウクライナ侵攻が世界の石炭消費量を過去最高に押し上げる

ドイツやイタリアでは、運転が停止されていた石炭火力発電所の再活用が検討され、南アフリカでは欧州向けの石炭輸出が活況を呈している。米国においても石炭火力発電が再活性化し、中国でも閉鎖された石炭鉱山を再開し、新たな石炭鉱山開発を計画中であるように、多くの人がまもなくなくなると思っていた石炭火力発電が、力強く復活している。天然ガスの供給不足やコロナ復興による電力需要の増加で、昨年から石炭への需要が強まっていたが、ロシアによるウクライナ侵攻によって、世界の電力事業者が石炭の買い付けに走り、価格も記録的な水準まで高騰し、インフレの一因となっている。IEAによれば、2021年には、石炭火力発電量が対前年比9%増加し、世界で史上最高となり、2022年には、発電・製鉄などの産業用途を併せて、過去最高の80億トンが消費される予定で、この傾向は最低でも2024年まで継続する見込みで、この結果、2050年までに炭素中立を達成するために抑制することが必要なCO₂排出量より、2024年には30億トン以上多いCO₂が排出される見込み。
 
原文

Yahoo Finance (Bloomberg) (04/21)


9.シンガポールMPA:環境性能の良い同国籍船に対しトン税等を割引

シンガポール海事港湾庁(MPA)は、MARPOL Annex VIのEEDI要件が、4月1日に発効したことに対応して、Green Ship Programmeを見直して、環境性能に応じて、税制の優遇措置を新たに講じる海運通達を4月22日発表したところ税制優遇措置の概要は以下のとおり。①MARPOL Annex VI Phase 3 EEDIの基準を10%以上上回る同国籍船に対し、船舶登録税(IRF)の50%と年間トン税(ATT)の20%を免除。②燃料消費量を二酸化炭素排出量に換算する排出量換算係数(Cf)がLNGより低いバイオLNG・メタノール・エタノールを燃料とできる機関を有する船舶に対し、IRFの75%とATTの50%を免除。③アンモニア・水素などのゼロ炭素燃料を使用できる機関を有する船舶に対し、IRF・ATTともに100%免除。
 
原文

MPA (04/22)


10.カナダ:クルーズ船に対する生活排水・汚水の排出規制を強化

カナダ政府は2022年のクルーズシーズンの開始にあたって、業界と協議のうえ、クルーズ船による生活排水と汚水の排出に関し、以下の規制強化を発表した。①地理的に可能であれば、海岸から3海里以内での海域における生活排水と処理済み汚水の排水を禁止。②海岸から3海里から12海里の海域において、生活排水や汚水を排水する前に、可能な限り事前処理を行う。③海岸から3海里から12海里の海域において処理済み汚水を排水する場合には、承認された汚水処理装置を使用して、汚水処理を徹底する。④カナダ領海内で、生活排水・汚水を排出する場合は、上記の規制の順守状況について、同国運輸省に報告する。以上の規制強化は当面自主規制だが、法改正をして法的拘束力を持つものとし、カナダの海洋保護区を2025年までに全体の25%、2030年までに30%に拡大するという同国政府の海洋保護政策を支援する。
 
原文

カナダ政府 (04/22)


その他のニュース

1.海運の脱炭素化
 (ア)港湾
  ①陸上電源の整備
   EDF:水素生産の脱炭素化事業のため3GWの電解槽を整備 原文4/18
2.再生可能エネルギー
 (ア)グリーン水素
  ①電解層の整備
   EDF:水素生産の脱炭素化事業のため3GWの電解槽を整備 原文4/18
 (イ)再生可能エネルギーの割合
  ①EU
   欧州委員会:2030年までに再生エネ比率を45%に引き上げを検討 原文4/19
3.エネルギー転換
 (ア)石炭の取り扱い
  ①海外新規事業への投資の停止
   中国:海外新規石炭火力発電事業への投資停止約束の履行が不透明 原文4/21
4.気候変動
 (ア)海水温の上昇
  ①サンゴ礁の白化
   UNESCO:途上国の世界遺産のサンゴ礁の保全を緊急支援 原文4/20
  ②海流の速度上昇
   地球温暖化により海流の速さが10年間で15%上昇 原文4/19
 (イ)2021年の気象分析
  ①Copernicus
   2021年の欧州の平均気温は産業革命以前より既に2℃以上上昇 原文4/21
5.気候変動緩和対策
 (ア)家庭におけるエネルギー節約・効率化
  ①IEA
   IEA:EU国民のエネルギー消費の節約の重要性 原文4/22
 (イ)企業に対する義務付け
  ①炭素中立移行計画
   英財務省:「移行計画タスクフォース」を設置 原文4/22
6.パンデミック
 (ア)港湾物流への影響
  ①中国
   全世界のコンテナ船の1/5が全世界の港湾で滞船 原文4/20