週刊国際海洋情報(2022年4月16日号)
- 1.Getting to Zero Coalition:欧州は海運脱炭素化のリーダーに
- 2.マースクが独自の航空会社を設立し航空機も保有
- 3.マースク:2050年までに調達する鉄鋼を100%炭素中立化へ
- 4.CMA CGM:プラスチックごみの輸送を4月15日より停止
- 5.IMO:黒海とアゾフ海における海上保安・安全情報
- 6.交通と環境:LNG燃料船から多くのメタンが漏出
- 7.露海軍:アゾフ海でトルコのばら積み船を砲撃
- 8.EMSA:ドローンを使用してバルト海SECAの排気調査を実施
- 9.世界銀行:How can shipping implement carbon pricing ?
- 10.COP 27:海運代替燃料に関する船員の教育・訓練について報告
- その他のニュース
1.Getting to Zero Coalition:欧州は海運脱炭素化のリーダーに
Getting to Zero Coalitionに参加する企業は、EUが世界のリーダーとして数か月以内にFit for 55 packageをまとめ上げて、欧州・世界の海運脱炭素化を先導することを期待するが、2030年までのCO₂排出55%削減と2050年までの炭素中立を実現するためには、現在の欧州委員会による提案内容を直ちに改善する必要がある。第1に、IMOにおいてEU加盟国は2050年までの外航海運の脱炭素化を既に表明しており、EU議会において、2050年までの海運脱炭素化に必要な明確な目標を設定すべきである。第2に、グリーン水素から大規模に生産されるゼロエミッション燃料(SZEFs)の使用比率を2030年までに5%以上とする目標を掲げ、同燃料のコストダウンと迅速な規模の拡大を図るべきである。第3に、海運がEUの排出権取引制度(ETS)の対象となったとしても、SZEFsと化石燃料との価格差は依然大きいので、海運分野から得られるETSの収入のうち、年間50億ユーロ(約6750億円)を、SZEFsと化石燃料の価格差を埋めるための財源とし、さらに、ゼロエミ船舶とSZEFsの供給インフラのための投資に使うべきである。
原文
Euractiv (04/11)
2.マースクが独自の航空会社を設立し航空機も保有
マースクはデンマークのビルン空港を拠点として、現在活用している複合物流事業者のStar Airの事業を継承する形で、マースク航空貨物を創設し、2機の777Fsと3機の767-300Fsを保有し、さらに新しい3機の767-300Fsを米国=中国路線に投入する予定。マースク社は自社の航空貨物の1/3以上を自社の航空ネットワークで輸送する予定。マースクはDP World社などとともにインドのデリー郊外の空港建設の入札にも参加することを検討している。このほかにも最近、マースクは幅広い種類の物流会社に投資を行っている。
原文
The Loadstar (04/11)
3.マースク:2050年までに調達する鉄鋼を100%炭素中立化へ
製鉄業は、世界全体のGHGの約7%を排出する産業界の中でも最大級のCO₂排出産業だが、製鉄業の低炭素化を図ることは、地球の気温上昇を1.5℃以内に抑制するには不可欠である。SteelZeroは製鉄業の炭素中立化を促進するための前向き企業が集まった世界的なイニシアティブで、参加企業は2050年までに調達する鉄鋼の100%を炭素中立の鉄鋼とすることを公に表明している。参加企業の購買力を結集することによって、世界の鉄鋼市場と鉄鋼生産に関する政策責任者に対して、炭素中立の鉄鋼に対する強い需要があることを示すことを目的としている。またResponsibleSteelは、鉄鋼の製造から流通まで、すべての段階の鉄鋼のサプライチェーンの関係者が参加して、鉄鋼の需要家や消費者に対して、炭素中立な鉄鋼の基準と認証を提供するNPOである。マースクはResponsible Steelと連携して、SteelZeroに参加することを4月7日決定した。マースクは管理する船舶・コンテナ・ターミナル・倉庫のために多くの鉄鋼を調達しているほか、同社が運航する700隻を超す船舶を10年以内にリサイクルする予定で、解撤された船舶から調達できる鉄鋼の活用は鉄鋼の炭素中立化に大きく寄与することが考えられる。
原文
Maersk (04/12)
4.CMA CGM:プラスチックごみの輸送を4月15日より停止
2月に開催されたOne Ocean SummitでCMA CGM Groupは、海洋とその生態系を守るため、同グループに属するすべての船舶は、6月1日よりプラスチックごみを輸送しないと発表したが、同グループはさらにこの目標を前倒しして、4月15日より、輸出統計品目標(HSコード)の3915番に該当するプラスチックごみの引き受けを停止し、予約システムでも輸送予約できないこととすると、4月11日発表した。コンテナの積み荷の不正申告をする企業は、不正行為をする企業としてブラックリストされることもある。
原文
CMA CGM (04/12)
5.IMO:黒海とアゾフ海における海上保安・安全情報
IMO事務局長は、緊急タスクフォースを設置し、船舶・港湾・船員に対する保安・安全上のリスクを軽減するための施策の調整を実施。黒海・アゾフ海に取り残された船舶に関する情報の報告制度を設け、当該船舶の旗国に最新の状況に関するガイダンスと助言を提供。3月30日現在で、ウクライナの港湾・水域に取り残された商船は86隻で、約1000人の船員が乗り組んでいる。IMOとILOの事務局長は、国際赤十字委員会・国境なき医師団・国連高等難民弁務官事務所(UNHCR)に対して、船舶に取り残された船員に対し、食料・燃料・飲料水などの生活必需品の供給を連名で要請。IMO理事会の要請を受けて、IMO事務局長は黒海とアゾフ海にブルー安全海事回廊を設定するために関係者と調整しているが、船舶の出港に伴う保安上のリスクが解決されず、前進していない。
原文
IMO (04/13)
6.交通と環境:LNG燃料船から多くのメタンが漏出
天然ガスのサプライチェーンにおける天然ガスの漏出問題については、LNGを舶用燃料として使用する場合には、IMOの調査によれば、機関の種類に応じ、機関より0.2%から3%の天然ガスが漏出し、大気中に放出されている。結果として、LNGを燃料とする機関から排出されるGHGの総量は、既存の重油燃料船の機関から排出されるGHGの排出量より、全体の8割のケースで多いことがわかった。「交通と環境」は実際の2隻のLNG燃料船についてどれだけメタンが排出されているか光学ガスイメージで観測したところ、燃焼しなかった炭化水素(メタン)が3か所の排気口から高濃度で排出されていることが観測された。世界的に、2021年に発注されたLNG燃料船の総数は、過去4年に発注されたLNG燃料船の合計隻数を超えており、天然ガス業界は、独自のデータに基づいて、メタン漏出量が少ない海運低炭素化の手段としてロビー活動を続けており、2025年以降、新造船の2/3以上はLNG燃料船となる見込みで、舶用燃料に占めるLNGの割合も現在の6%から2030年には20%以上に拡大するものと考えられる。
原文
Transport & Environment (04/13)
7.露海軍:アゾフ海でトルコのばら積み船を砲撃
露防衛省広報官によれば、露黒海艦隊の哨戒艦が、アゾフ海でばら積み船の進路に砲撃を加え、船尾に命中し火災が発生したと発表した。露によるウクライナ侵攻以降、露海軍により攻撃された商船はこれで7隻目となる。攻撃を受けたばら積み船はトルコが保有するマルタ籍船で、3月にトルコを出港後、通常の航海として、4月2日ロシアのロストフ・ナ・ドヌー港に到着したのちに、8日に同港から出港していた。同船のAIS信号は断続的にしか発信されておらず、最後に発信されたのが出港日の8日で、同船がマウリポリ港に入港しようとしていたか不明だが、黒海に戻るためには、マウリポリ港の20海里沖を通過しなくてはならなかった。露防衛省によれば同船は、マウリポリ港に入港してマウリポリを1か月以上死守しているウクライナのアゾフ軍団の退却を支援する予定だったと主張している。
原文
The Maritime Executive (04/14)
8.EMSA:ドローンを使用してバルト海SECAの排気調査を実施
欧州海事安全庁(EMSA)は独連邦海事水路庁と協力して、今月末から3か月間バルト海で遠隔操縦ドローンを活用して、バルト海排出規制海域における船舶燃料に含まれる硫黄酸化物に関する規制(0.1%以下)を順守しているか否か、上空から特殊なセンサーで観測しつつ、水路学的な観測も実施する。具体的には、遠隔操縦ドローンは、バルト海のフェーマルン島にある独軍の基地を拠点として、フェールマン・ベルト海峡やデンマークのKadetrinnen海峡を航行する船舶の排気中に含まれるSOx濃度を検出する。ドローンが検出した異常データは、EUのすべての監視当局に同時に共有され、対象船舶は、次の寄港地で、燃料のサンプル採取など適切なPSCを受けることとなる。ドローンはEMSAから受託契約を受けたノルウェーの企業が運用し、特殊センサーや排気の分析はデンマークの企業が担当する。
原文
EMSA (04/14)
9.世界銀行:How can shipping implement carbon pricing ?
世界銀行(WB)が標記報告書を発表したところ、その概要は以下のとおり。①市場原理に基づく措置(MBM)は、海運会社に既存の燃料から低・ゼロ炭素燃料へ転換する経済的なインセンティブを与えるだけでなく、途上国における気候変動対策を支援するなど、他の気候変動対策に利用できる十分な収入を上げることが可能となる。②WBの試算では、海運活動を対象としたMBMにより、2050年までに1―3.7兆ドル(年間では400―600億ドル)の収入を上げることが可能である。③開発途上国は、先進国以上にMBM導入に伴う経済的悪影響を受けやすい一方で、海運脱炭素化のために必要な投資を行う余力が少ないので、MBMによる財政収入を途上国に分配することは、炭素中立社会への公平な転換を促すこととなる。④MBMによる収入の使途としては、第一に脱炭素代替燃料や当該燃料を使用できる船舶の技術開発や代替燃料の生産設備の整備に、第二に、こうした代替燃料や陸上電力を船舶に供給するための港湾インフラの整備に、さらには、気候変動に伴う港湾の防災機能の強化など幅広い目的に利用することが可能。
原文
世界銀行(04/15)
10.COP 27:海運代替燃料に関する船員の教育・訓練について報告
Maritime Just Transition Task ForceはCOP26で、国際海運会議所・国際運輸労連・国連Global Compact/IMO/ILOによって、官労使が協力して、海運における炭素中立化を公正・平等に進めるために創設されたタスクフォースで、より具体的には、海運脱炭素化に関する政策決定において、船員の権利を尊重し、途上国が脱炭素船舶・燃料に関する技術開発にアクセスできることを担保することを目的とする。同タスクフォースは、COP 27において、海運の脱炭素化のために必要な船員のスキルについて報告する予定で、より具体的には、脱炭素化に必要な代替燃料を船員が安全に取り扱えるようにするためにどれだけの規模の教育訓練が船員に対して必要か数量化し、その結果を加盟国の政策に反映させ、海運業界が教育・訓練を実施するための明確な手順を示す予定。
ICS (04/15)
その他のニュース
1.海運の脱炭素化
(ア)環境団体の考え方
①UMAS
米国船の使用するエネルギーの40%以上を2030年までに脱炭素化 原文4/12
2.再生可能エネルギー
(ア)洋上風力発電
①フランス
仏:最初の洋上風力発電タービンを設置 原文4/15
(イ)グリーン水素
①水素漏出による温暖化効果
輸送に伴う水素の漏出によりメタンより強い地球温暖化効果 原文4/15
3.エネルギー転換
(ア)エネルギー構成比率
①米国
米国で3/29に風力発電が2番目の電源に 原文4/14
4.気候変動
(ア)2021年の気象分析
①NOAA
NOAA:2021年の大気中のメタン・CO₂の濃度がともに史上最高に 原文4/11
5.気候変動緩和対策
(ア)交通分野におけるエネルギー消費の節約
①IEA
COP 26の約束が全部達成されれば気温上昇を2℃以内に抑制可能 原文4/14
6.海賊
(ア)世界全体
①ICC/IMB
ICC IMB:2022年第1四半期の海賊等の件数は37件 原文4/13
7.生物多様性
(ア)天然資源の過剰利用
①国別の責任
生態系の破壊に対する各国の責任割合 原文4/11
8.港湾
(ア)再生可能エネルギー輸入ターミナル
①オランダ
ロッテルダム港:グリーンアンモニアの輸入ターミナルを整備へ 原文4/12
9.環境問題一般
(ア)プラスチック
①人体への影響
人間の血液中にマイクロプラスチックを初めて発見 原文4/13