週刊国際海洋情報(2022年4月9日号)
- 1.IMO:下水汚泥の海洋投棄禁止へ
- 2.米上院:外航海運改革法案を承認
- 3.GWEC:Global Wind Report 2022を発表
- 4.シンガポールが世界的なグリーン海運回廊に参加
- 5.IPCC:第3作業部会報告書「気候変動の緩和」を公表
- 6.海事保険業界:ロシア領海全域を「危険度が高い海域」に指定
- 7.IMO:燃油のサンプリング方法などに関するMARPOLの改正などが発効
- 8.Zero-Emission Shipping Mission:脱炭素化のためのロードマップを発表
- 9.Global Maritime Forum:EUが世界的な海運の脱炭素化を促進する方法
- 10.国連:イエメン沖の放棄されたタンカーからの油抜き取り作業
- その他のニュース
1.IMO:下水汚泥の海洋投棄禁止へ
下水汚泥は、1996年のロンドン議定書とその前身の1972年条約でも、海洋投棄が認められており、多くの加盟国が過去において海洋投棄を実施してきた。ロンドン条約の下では、原則としてすべての廃棄物の海洋投棄が禁止されているが、例外的に海洋投棄が認められる廃棄物のリストがAnnex 1に列挙されている。このリストから下水汚泥を削除する提案が韓国とメキシコから共同提案されており、この提案が合意されれば、下水汚泥の海洋投棄が世界的に禁止されることとなる。下水汚泥の海洋投棄の現状について、世界的に調査した結果では、過去数十年間に海洋投棄を実施する慣行は大幅に減少し、既に多くの地域協定や国内法制によって禁止されていることから、議定書の加盟国は昨年10月の会合で、下水汚泥をリストから除外する十分な証拠と根拠があることに加盟国は合意している。次回10月の会合で正式に改正案が採択されれば、100日後に発効することとなる。
原文
IMO (04/04)
2.米上院:外航海運改革法案を承認
米国上院は、3月31日、全会一致で、連邦海事委員会(FMC)の海運会社に対する調査権限を強化し、外航海運会社の実務の透明性の確保を目的とする外航海運改革法(The Ocean Shipping Reform Act)を承認した。提案者であるシューマー上院議員は、「同法によって、米国の輸出と米国民に悪影響を与えている不公正な海運会社の業務方法を改革し、米国民の負担を減らすことができる。サプライチェーンの混乱によって、米国からの輸出品が港湾で滞貨し、米国の農民などの輸出事業者の負担を増している。」とコメントしている。同法では、海運会社が米国の輸出品を正当な理由なく輸送を拒否することを禁止し、海運会社に対して四半期ごとに、米国関連で輸送した輸出品・輸入品の数量をFMCに報告することも義務付けている。
原文
Reuters (04/04)
3.GWEC:Global Wind Report 2022を発表
世界風力エネルギー理事会(GWEC)は、標記報告書を発表したところその概要は以下のとおり。①世界の風力発電事業は、2021年中に約94GWの発電力を増加し、2020年に次いで史上2番目の成長を記録した。②欧州・ラ米・アフリカ・中東で洋上風力発電の増加量が過去最高となった一方で、陸上風力発電の増設量は、世界の2大風力発電市場である中国と米国における成長の鈍化によって、対前年比18%の減少となった。③2021年に、全世界で21.1GWの洋上風力発電建設計画が承認され、2020年に承認された電力の3倍となり過去最高となった。④国別にみると、2021年中に追加された世界の洋上風力発電施設の8割が中国で建設され、同国国内の洋上発電能力の合計は27.7GWとなった。中国国内の拡大のペースは驚異的で、欧州では同様の成長を果たすために30年かかった。⑤世界の風力発電量の合計は837GWとなり、この結果、南米諸国が排出するのと同量の年間12億トンのCO₂の排出量を削減できた。
原文
GWEC (04/05)
4.シンガポールが世界的なグリーン海運回廊に参加
4月4日、シンガポール海事週間の開会式典で、同国の交通大臣は、日・豪・NZ・米など世界の22か国が既に参加し、脱炭素燃料船に、脱炭素燃料を供給することができる港湾のネットワークであるClydebank宣言に、シンガポールも参加すると表明し、少なくとも6本の炭素中立コンテナ航路をシンガポールの拠点に構築すると発表した。シンガポール港は世界の海運クラスターで、2021年には、世界第2位となる3750万teuのコンテナを取り扱うとともに、世界最大の船舶燃料供給港でもあり、2021年には約5000万トンの舶用燃料を供給している。同国海事港湾庁(MPA)は、2021年にはIMOと連携して、海運の脱炭素化を推進する関係者のためのポータルであるNextGEN (Green and Efficient Navigation)事業を立ち上げるとともに、2022年初めには、脱炭素化燃料の一つであるグリーンアンモニアを安全に船舶に供給するための研究を目的として、DNVと共同でGlobal Centre for Maritime Decarbonizationを創設した。
原文
The Loadstar (04/05)
5.IPCC:第3作業部会報告書「気候変動の緩和」を公表
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、4月4日標記報告書を発表したところその概要は以下のとおり。①2010年以降、太陽光発電・風力発電・バッテリーについて、85%のコスト削減が実現し、エネルギー使用の効率化・森林伐採の減少・再生可能エネルギーの整備に関する様々な政策・法制の整備が進んできた。②地球気温の上昇を抑制するためには、エネルギー転換が不可欠で、化石燃料使用の大幅削減・広範な分野におけるエネルギーの電化・エネルギー効率の向上・水素のような代替エネの利用が必要となる。③地球の気温上昇を1.5℃以内に抑制するためには、遅くとも2025年までにGHGの排出をピークアウトさせ、2030年までに43%削減し、2050年までに炭素中立化を実現する必要がある。④仮に、気温の抑制目標を2℃以内に引き下げた場合でも、2025年までのCO₂排出ピークアウトの必要性は変わらず、2030年までに25%削減し、炭素中立を2070年までに実現しなくてはならない。
原文
IPCC (04/06)
6.海事保険業界:ロシア領海全域を「危険度が高い海域」に指定
ロイズ市場協会のメンバーを中心にロンドンの保険会社の代表から構成される共同戦争委員会は、ロシアのウクライナ侵攻に伴い、3月に黒海とアゾフ海のウクライナ・ロシア領海とルーマニアとジョージアの領海の一部をHigh-Risk Areas (HRAs)に指定したが、4月4日、すべてのロシア領海をHRAsに加えると発表した。HRAsに入域する船舶は、保険引受人にその都度告知し、追加の保険料を7日分支払う必要がある。追加保険料は保険会社と海運会社を代理するブローカーの個別交渉に委ねられる。ロシアのバルト海・黒海沿岸の港湾は、ロシアの石油・穀物輸出港として、外貨獲得のため同国にとっては重要な存在。ロシアの海運業界は、制裁措置に伴う外国の船級協会の船級業務からの撤退や、船舶機関メーカーによるサービスの停止などによって既に数々の困難に直面している。
原文
Reuters (04/06)
7.IMO:燃油のサンプリング方法などに関するMARPOLの改正などが発効
2020年のMEPC 75で採択された燃油のサンプリングと試験方法に関するMARPOL条約第VI付属書が発効し、船舶燃料の硫黄分濃度を0.5%以下に抑制するIMO2020年規制が各国のPSC当局等によって適切に適用され、世界的な競争条件の均衡化がはかられる。4月から発効した同付属書の他の改正点としては、新造船のエネルギー効率化基準であるEEDIが大幅に強化されたフェーズ3の開始が、LNG輸送船や一般貨物船などのいくつかの船種について、2025年から2022年に繰り上げられた。
原文
IMO (04/07)
8.Zero-Emission Shipping Mission:脱炭素化のためのロードマップを発表
Zero-Emission Shipping Mission (ZESM)はデンマーク・米国・ノルウェー・Global Maritime Forum等によって創設され、海運の脱炭素化の早期促進のための公民連携組織だが、目標達成のためのロードマップを4月4日発表したところその概要は以下のとおり。①2050年までの海運脱炭素化を達成するためには2030年までに、㋐船舶については、主たる外航海運航路において、ゼロエミ燃料を主たる燃料とする外航船を200隻以上。㋑燃料については、再生可能エネを使用して製造された水素・アンモニア・メタノールなどのゼロエミ燃料と改良されたバイオ燃料が、消費量ベースで舶用燃料の5%以上となり、㋒燃料供給基地としては、少なくも3大陸の10以上の港湾でゼロエミ燃料の供給を可能とすることが必要。②同時に、㋐新燃料の取扱・保管に関する安全・運用面でのリスク管理。㋑関連する政策・法規制の整備。㋒新燃料に対する財政支援を含む経済性の確保などが必要になってくる。
原文
Zero-Emission Shipping Mission (04/07)
9.Global Maritime Forum:EUが世界的な海運の脱炭素化を促進する方法
世界海事フォーラム(GMF)、BHPなどの世界的な鉱業会社、Oldendorf Carriersなどの世界的なドライバルク船社が、豪と東アジア諸国の間に、鉄鉱石輸送のためのグリーン回廊を創設する事業可能性を実施することで、4月6日基本合意した。2021年にGMFは今回対象となる航路について、事前事業可能性調査を実施し、The Next Waveという報告書を発表したが、ゼロエミ燃料の生産条件や。関係国の法規制などにかんがみ、再生可能電力から生産されるグリーンアンモニアが最も適した燃料として選択されている。今回の基本合意に基づき、グリーンアンモニアの生産・船舶への供給・最初に事業に参加する事業者に対する支援措置などについて、より具体的な検討を実施する。
原文
Global Maritime Forum (04/08)
10.国連:イエメン沖の放棄されたタンカーからの油抜き取り作業
国連の人道調整官がイエメン沖に係留されている放置タンカーからの油抜き取り作業について、4月8日NYで発表したところその概要は以下のとおり。①浮体式の石油の貯蔵施設(FSO)として使用されている船齢45年のタンカーには、現在も110万バレルの原油が貯蔵されたまま、イエメン西岸のRas Issa半島の沖合4.8マイル沖に、30年以上係留されているが、石油の貯蔵施設としての機能を2015年に停止して以来、イエメン内戦の影響で、船舶に対する必要な保守管理はされていないまま放置され、いつ油濁汚染や爆発事故が発生してもおかしくない状況となっている。②こうした事故が発生した場合には、周辺の海水・サンゴ礁・マングローブ等に環境被害を与えるだけでなく、バブエルマンデブ海峡を通じてスエズ運河に至る海運活動にも大きな影響を与え、油濁除去作業費だけでも200億ドル以上の経費が発生すると考えられる。③国連安全保障理事会で、内戦の当事者間で2か月間の休戦が合意され、同船が係留されている海域を掌握している事実上の政府からも油抜き取り作業を実施することについて合意が取れたため、約8000万ドルと18か月間をかけて、同船から代替船への石油の積み替え作業を実施することを国連は提案している。
原文
国連 (04/08)
その他のニュース
1.海運の脱炭素化
(ア)代替燃料
①アンモニア
Yara:北欧でグリーンアンモニアの舶用燃料供給ネットワークを展開 原文4/4
2.再生可能エネルギー
(ア)風力発電一般
①環境規制との兼ね合い
独:陸上風力発電拡大のため野鳥保護に関する規制を緩和 原文4/7
3.エネルギー転換
(ア)原子力の扱い
①英国
英国政府:原子力を大幅に強化するエネルギー安全保障戦略を発表 原文4/8
(イ)石炭の取り扱い
①中国
中国:内モンゴルで97年間操業可能な大規模石炭鉱山の開発を承認 原文4/8
②海外における石炭火力発電支援
中国:海外の建設・計画中の石炭火力発電100GW分をいまだ支援 原文4/5
4.気候変動
(ア)経済的影響
①政府予算
米国:気候変動により今世紀末には連邦政府予算に年間2兆ドル影響 原文4/5
5.気候変動緩和対策
(ア)金融・投資機関
①気候変動リスクの開示
投資家集団が欧州の大企業17社の環境政策に対して警告 原文4/6
(イ)炭素回収貯留(CCS)
①貯留事業
ノルウェー政府:北海とバルト海でCO₂貯蔵事業を許可 原文4/7
6.環境問題一般
(ア)プラスチック
①リサイクル率の向上
欧州:プラスチックのリサイクルのため1600億ユーロの投資が必要 原文4/6
(イ)循環経済
①EU
欧州委員会:日用品の使い捨てを抑制する規則を提案 原文4/4