週刊国際海洋情報(2022年4月2日号)
- 1.ICCT:LNG燃料船から漏出するメタンの実際量を計測する調査を開始
- 2.マースク:北米で300台の大型電動トラックを導入
- 3.英国政府:内航海運を排出権取引制度の対象にすることを提案
- 4.マースク:エジプト政府と大規模グリーン船舶燃料生産で連携覚書を締結
- 5.IMF:2021年の海運運賃上昇により2022年の世界の物価が1.5%上昇
- 6.EU:英国政府の再生可能発電の補助要件についてWTO協議を要請
- 7.IRENA:World Energy Transitions Outlook 2022を発表
- 8.Ember:Global Electricity Review 2022
- 9.Global Maritime Forum:EUが世界的な海運の脱炭素化を促進する方法
- 10.マースク:米国の洋上風力発電事業の建設に参加
- その他のニュース
1.ICCT:LNG燃料船から漏出するメタンの実際量を計測する調査を開始
LNGが舶用燃料として、使用される量は2012年から2018年にかけて、全世界で約30%増加し、新造船の燃料として採用されることが多くなったが、LNGを燃料とした際に漏出されるメタンの量については、船上或いは実験室で計測されたわずかな研究しか存在しない。このためInternational Council on Clean Transportation (ICCT)は、デンマークのExplicit ApSとオランダの応用化学研究所と共同で、ドローンやヘリコプターなどを使用して、実際にいろいろな条件下で運航しているLNG燃料船から排出されているメタンの排出量を、大規模に測定し検討するためのFugitive Methane Emissions from Ships (FUMES)研究調査事業を開始した。調査では、機関から排出されるメタンだけでなく、燃料タンクと貨物タンクから漏出するメタンの量も計測する。機関から漏出するメタンは、機関の種類によって異なるので、本調査は、低圧デュアル機関(LPDF)と高圧デュアル機関(HPDF)機関に絞って調査を実施する。
原文
ICCT (03/28)
2.マースク:北米で300台の大型電動トラックを導入
マースクは自社のサプライチェーンの脱炭素化の一環として、同社が出資する物流テクノロジー会社のEinrideと連携して、マースクの北米における陸上物流事業Performance Teamに使用される大型トラックの300台を電気自動車としては最大のトラックに2023年から2025年に置き換えると3月24日発表した。電気トラックはEinride社のデジタル陸上貨物輸送システムと充電施設を用いて運行される。
原文
Maersk (03/28)
3.英国政府:内航海運を排出権取引制度の対象にすることを提案
英国では、EUからの離脱に伴い、2021年5月から独自の排出権取引制度(ETS)を開始し、英国から排出されるCO₂の約1/3をカバーする約1000の発電所・工場・航空会社を対象としているが、海運はこれまで英国或いはEUのETSの対象とされてこなかった。欧州委員会は現在、海運もETSに対象にすることを提案しており、海運業界の一部から反対意見が表明されている。英国政府のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は、同国のETSの改革案を3月25日に公表し、パブコメを開始したが、その中で、同国の内航海運について2020年代半ばからETSの対象とすることを提案しており、具体的な適用時期や適用方法については、本年後半に発表するとしている。現在英国のETS制度の対象となっている業界からは、英国のETSとEU ETSをリンクさせて、英国とEUの間で炭素排出権の相互購入を可能として、炭素排出権の市場性の向上を図ることが要望されている。
原文
Reuters (03/29)
4.マースク:エジプト政府と大規模グリーン船舶燃料生産で連携覚書を締結
3月28日、マースクとエジプト政府首相は、同国内で大規模にグリーン船舶燃料を生産するための覚書に署名した。エジプト政府側は、スエズ運河経済区総務庁(SCZone)・エジプト新再生可能エネルギー庁(NREA)・エジプト送電会社(EETC)・エジプト年金投資開発基金(TSFE)が参画する。同国内での水素とグリーン舶用燃料の生産に関し、両者は2022年末までに事業可能性調査を実施する。マースクは、3月に入って、全世界の6社とグリーンメタノールの供給について契約を締結したが、地球の気温上昇を1.5℃以内に抑制するためには、グリーン船舶燃料の供給能力の更なる拡大が必要との観点から、エジプト政府との連携協定を締結した。同社では、他の地域の政府とも同様な連携の可能性を探っていく。
原文
Maersk (03/29)
5.IMF:2021年の海運運賃上昇により2022年の世界の物価が1.5%上昇
IMFは3月25日「海運コストとインフレ」と題する作業報告書を発表したところその概要は以下のとおり。①2020年3月からの18か月間で、太平洋航路・大西洋航路におけるコンテナ輸送運賃は7倍に、ばら積み貨物の運賃はそれ以上に上昇している。②この運賃上昇による物価への影響は本年末まで影響が継続すると見込まれる。③ウクライナ侵攻は、世界的なインフレをさらに悪化させる見込み。④世界の143か国の過去30年間のデータを見ると、海上運賃の高騰は物価上昇の重要な要因となっており、一般的に運賃が倍になれば、物価が0.7%上昇し、影響は最長で18か月間継続する。⑤したがって、2021年に発生した海上輸送運賃の値上げによって、2022年の世界の物価は1.5%上昇することが見込まれる。⑥海上運賃は、石油や食料の価格の上昇に比べて量的な影響は小さいが、上昇率が激しいので、海上運賃の上昇は石油や食料価格の上昇と同程度の影響を持つ。
原文
IMF (03/30)
6.EU:英国政府の再生可能発電の補助要件についてWTO協議を要請
再生可能エネルギー事業者(ほとんどは洋上風力発電事業者)が、英国政府と差額決済契約(CFD)を締結する際の競争入札に応札する際に、契約対象者の資格要件として、英国製品の使用に関するローカルコンテントを英国政府が評価基準としていることに対して、輸入製品が不当に扱われているとして、EUは英国政府に対し、国際貿易機関(WTO)における協議を行うことを3月28日要請した。英国政府の差別的な取り扱いは、WTOの基本的な原則である輸入製品が国内製品と同等に競争できるという内国民待遇原則に反し、多くの中小企業を含むEUの製造事業者を害するとともに、結果として製品コストが上昇することによって、再生可能エネルギーへの転換をより困難かつ割高なものとしているとEUは主張している。
原文
欧州委員会(03/30)
7.IRENA:World Energy Transitions Outlook 2022を発表
3月29日発表された標記報告書の概要は以下のとおり。①地球の気温上昇を1.5℃以内に抑制するというパリ協定の目的を達成するためには、2030年までに、世界で毎年5.7兆ドルを再生可能エネルギーに投資する必要がある一方で、将来的に不要となる化石燃料関連インフラへの年間9000億ドルの投資を停止する必要がある。②この結果2030年までに、化石燃料関連産業で現在雇用され転職が必要となる1200万人を大きく上回る世界で新たに8500万人の新規雇用を再生可能エネルギーとエネルギー転換関連の事業で生み出すことができる。③現在世界のエネルギーの中で、再生可能エネルギーが占める比率は、14%だが、この比率を2030年までに40%に引き上げるため、年間に増設される再生可能エネルギーの発電能力は、全世界で現在の3倍に引き上げる必要がある。④同時に、石炭火力発電を停止し、その他の化石燃料発電も段階的に縮小する必要がある。⑤炭素中立実現のためには、再生可能エネルギー・水素・持続可能なバイオマスを活用した、エネルギーの電化とエネルギー効率の向上が主たる手法となる。
原文
IRENA (03/31)
8.Ember:Global Electricity Review 2022
シンクタンクのEmberが標記報告書を発表したところその概要は以下のとおり。①2021年に太陽光発電は23%、風力発電は14%、それぞれ発電量が増加して合計で、世界の発電量の10%を超えた。②原子力と水力を加えたクリーンな発電量の合計シェアは38%となり、石炭火力発電の36%を上回った。③地球の気温上昇を1.5℃以内に抑制するためには、太陽光と風力発電の合計量を2030年まで、過去10年間と同じ成長率である年間20%以上増加させなくてはいけない。④発電施設の建設から償却までのコストを含めた均等化発電原価でみれば、太陽光や風力による再生可能エネルギーの発電コストは一番安くなり、世界の50か国で、再生可能エネルギーによる発電シェアは10%を超え、3か国では40%を超えている。⑤米・独・英・加の各政府は今後15年以内に、電力の脱炭素化を図るとしている。⑥しかし、電力需要の増加に応じて、全世界でみると石炭火力発電量も伸びており、化石燃料に依然として依存する政府の政策転換が必要とされる。
原文
Ember (03/31)
9.Global Maritime Forum:EUが世界的な海運の脱炭素化を促進する方法
Global Maritime Forumが、3月24日標記Insight Briefを発表したところその概要は以下のとおり。①昨年11月のIMO/MEPCでは、全EU加盟国を含む多くの国が2050年までの海運脱炭素化を支持したが、この目標実現のためにはScalable Zero-Emission Fuels(SZEFs)・船舶・燃料供給インフラへの投資を含む、目的達成のための政策的枠組み作りが必要。②欧州委員会が提案している2030年までのCO₂削減対策であるFit for 55には海運脱炭素化に関連する部分もあるが、提案では船舶燃料のLNGへの転換を進めるなど完全な海運脱炭素化を阻害する内容となっている。③世界の海運活動から排出されるCO₂の総量のうち、EUに関連する排出量は18%にすぎず、世界的に海運脱炭素化を進めるためには、IMOの場などを活用して世界的な規制が必要。④したがって、IMOにおいて世界的な規制ができた場合に備えて、EU ETSやFuelEU Maritimeの中には見直し条項を入れるべきであるが、EU諸国はIMOにおけるInitial IMO GHG Strategyの見直し作業などを通じて、野心的な解決策がIMOにおいて合意されるよう引き続き働きかける必要がある。⑤欧州議会においては、海運からのETSの収入を利用して、SZEFsの生産と普及を進めるために、欧州委員会のFit for 55提案を見直すべきである。
原文
Global Maritime Forum (04/01)
10.マースク:米国の洋上風力発電事業の建設に参加
マースクの子会社のMaersk Supply Serviceは、2019年から洋上風力発電施設建設作業船(Wind Installation Vessel)の開発を進めてきたが、エクイノールとbpの米国のニューヨーク州における洋上風力発電のための共同事業会社であるEmpire Offshore Windから、同州の洋上風力発電ファームであるEmpire 1とEmpire 2における洋上風力タービンの据え付け作業を正式に受注した。米国のカボタージュ法であるJones Actを遵守するため、米国最大の外洋艀と曳船運航会社であるKirbyの子会社であるKirby Offshoreと事業提携して、本事業のために、Jones Actに従い、2隻の艀と曳船を建造する。Jones Actの適用対象とならない建設作業船はシンガポールのSembCorp Marineで建造し、2025年に米国に移送される見込み。
原文
Maersk Supply Service (04/01)
その他のニュース
1.再生可能エネルギー
(ア)グリーン水素
①中国
中国政府:2035年までのグリーン水素生産目標を発表 原文3/28
2.エネルギー転換
(ア)技術開発支援
①英国
英国政府:エネルギー起業家基金第9次支援の募集を開始 原文3/31
3.気候変動
(ア)氷河・海氷の減少
①南極海
南極東部で過去最大級の氷床が崩壊分離 原文3/29
(イ)メタン
①化石燃料生産に伴う漏出
米国の石油生産地からこれまでの予想より2倍以上のメタンが排出 原文3/30
(ウ)異常気象に伴う損害
①早期警報システム
WMO:全世界で5年以内に異常気象の早期警報システムを整備 原文3/28
4.気候変動緩和対策
(ア)排出権取引制度
①EU
欧州証券市場監督局:排出権取引市場に不正操作の形跡なし 原文3/30
(イ)気候変動対策の検証
①国連高級専門家グループ
UNSG:国家以外の組織による炭素中立活動を検証する組織を設置 原文4/1
②Climate Action 100+
Climate Action 100+:第2回目の評価報告書を発表 原文4/1
5.持続可能な開発目標
(ア)ESACAP
①APFSD
APFSD:第9回アジア太平洋持続可能開発会議が開催 原文3/29
(イ)UN Global Compact
①CFO Coalition
国連Global Compact:SDGs投資促進のためのCFO連合を結成 原文3/31