週刊国際海洋情報(2022年3月26日号)

1.LR:「グリーン海運回廊のための港湾におけるエネルギーの供給」報告書

ロイズ船級協会が、Arup等と連携して標記報告書を発表したところその趣旨は以下のとおり。①大西洋においてブラジル・南ア・モロッコを結ぶグリーン海運トライアングルをケーススタディのモデルとして、代替燃料の生産・供給施設を建設するにあたってのリスクと機会について検討し、どのように必要な投資を獲得することができるかについて検討した。②水素経済についてはArupが、海運脱炭素化についてはロイズ船級協会の海運脱炭素化ハブが、港湾のresilienceについては、The Resilience Shiftが知見を持ち寄って、ブルー水素とグリーン水素から生産されるアンモニアなどの燃料の港湾供給インフラの整備について検討した。③どの代替燃料を選択しようとも、代替燃料の需要については、グリーン海運の脱炭素化のモデルケースとして様々な関係者が連携して構築する「緑の回廊」の概念と本質的に関連する。④多くの「緑の回廊」をめぐって、様々な連合が形成されているが、本研究はこうした連合の関係者やインフラに対する投資家を支援するために、包括的なバリューチェーンとしての視点から、解決すべき問題点や必要となるインフラ整備の規模に関する情報を提供する。
 
原文

ロイズ船級協会 (03/22)


2.RWE:独第2位の電力会社がグリーンアンモニア輸入のためのターミナルを建設

独では、つい最近、ハンブルグ近郊の町のブルンスビュッテルに同国で最初のLNG輸入ターミナルを建設するための、覚書が締結されたばかりだが、同国第2位の電力会社であるRWEはLNGターミナルのそばに、グリーンアンモニアを輸入するターミナルを建設すると3月18日に発表した。連邦政府の経済・気候変動対策担当大臣は、水素キャリアとしてのグリーンアンモニアの輸入ターミナルの建設は、同国にグリーン水素を供給するための重要な貢献となるとコメントしている。本事業は、グリーンアンモニアの輸入・水素への変換・輸送・完全電化が困難なエネルギー多消費型産業への供給を含むバリューチェーン全体をカバーする。2026年から年間約30万トンのグリーンアンモニアが輸入される。第2期の事業としては、輸入ターミナルにアンモニアから水素への大規模な転換装置を建設し、転換された水素を専用のパイプラインで工場に供給する予定。第2期には輸入するアンモニアの量を200万トンまで拡大する予定。
 
原文

RWE (03/22)


3.バンクーバー港で錨泊・停泊中の船舶からのスクラバー洗浄水の放水が禁止

バンクーバー港に錨泊または岸壁に停泊中の船舶は、3月1日よりスクラバー洗浄水の海中への排水が禁止される。International Council on Clean Transportの調査では、2020年末の時点で、同港内で運航する船舶の数は252隻で、港内で1080万トンの洗浄水を港内に排出していたが、今回の規制によって、全体の88%にあたる950万トンの洗浄水の排水が禁止される。規制導入前は、同港は世界で4番目の洗浄水によって汚染された港湾であった。残りの125万トンは港内で運航中の船舶から排出される洗浄水だが、実施時期は未定だが、将来的には港内のすべての船舶からの洗浄水の排水が禁止される予定。
 
原文

ICCT (03/23)


4.オランダ:2030年までに洋上風力発電量を倍増の21GWに

3月18日、オランダ政府は、北海において合計で10.7GW分の新たな洋上風力発電施設の建設のための海域を指定したと発表した。この結果、2030年までに洋上風力発電量は合計で現在の2倍の21GWとなり、同国のエネルギー源として最大のシェアを占めることとなる見通し。具体的な建設場所は、この夏までにRoadmap 2030+の一部として、今回指定された海域の中で決定される。政府は洋上風力発電施設の整備と並行して、最大で16.9億ユーロ(約2230億円)を気候基金から支出して、(洋上風力発電施設建設によって影響を受ける)海上交通の安全の確保・漁業の持続可能性の向上・北海の海洋生態系の保護/強化のための事業を実施する。
 
原文

Offshore Wind Biz (03/23)


5.IMO:GHG削減WGでライフサイクルGHGガイドライン等について討議

3月14日から18日にかけて、オンラインで、IMOは「第11回船舶からのGHG排出に関する中間作業部会(ISWG-GHG11)を開催し、結果を発表したところその概要は以下のとおり。①舶用燃料に関するライフサイクルGHG排出ガイドラインについては、Well-to-Wakeを対象とすることに合意。またガイドラインは代替燃料の候補の間の優劣をつけることを目的としない中立的なものとして作成することで合意。②当面のGHG削減方策がSIDsやLDCsに与える影響について評価することについては、3月上旬に開催された影響評価に関する専門家ワークショップで検討された様々な手続・方法上の課題に関する報告書を検討し、影響評価に関する手続・方法面での追加的な修正案について引き続き次回会合で検討することについて合意。③既存の情報収集制度(DCS)によって収集される情報の対象にEEXIやCIIなどのcarbon intensityに関する情報を追加するためのMARPOL Annex VI Appendix IXの改正案について合意し、MEPC79で採択するために、改正案を回章することを事務局に求めた。
 
原文

IMO (03/24)


6.海運事業におけるサイバーリスク管理の現状

海事サイバーセキュリティ会社のCyberOwlと海事弁護士事務所のHFWが共同で、200人を超える海運経営者・サイバーセキュリティ専門家・船員・陸上管理者を対象に聞き取り調査をし、取りまとめた標記報告書の概要は以下のとおり。①ランサムウェアの攻撃を受けて、船主が支払った身代金の平均は310万ドルとなった。②一方で、殆どの船主はサイバーセキュリティ管理に十分な投資を行っておらず、過半数の船主はサイバーセキュリティに対し年間10万ドル以下の投資しかしていない。③海事関係者の2/3が、サイバー攻撃で受ける損害について、契約している保険でカバーされているか否か知らない。④船主の取引先の55%しか、船主からきちんとサイバーセキュリティ管理していることの確認を求められていない。⑤25%以上の船員が、サイバー攻撃を受けた際にどのように対処してよいか承知していない。⑥海運会社等の組織の中では、上位の管理者になればなるほど、サイバー攻撃の危険性について認知していない。
 
原文

Hellenic Shipping News (03/24)


7.米インド太平洋艦隊長官:中国は南シナ海の人工島を完全軍事化

3月20日、米インド太平洋艦隊長官がAPの単独インタビューに対して、中国の南シナ海戦略について語ったところその概要は以下のとおり。①中国は南シナ海に建設した人工島のうち、少なくとも3か所について、対艦・対空ミサイルシステム、レーザーと通信を混乱させる機器、戦闘機などを配備し、とても攻撃的な軍事化を進め、すべての周辺国の脅威となっている。②習近平主席は、これらの人工島の軍事基地化はしないと、今まで表明してきたが、実際には、過去20年間、第2次世界大戦以降、最大規模の軍事力の強化を全力で行っている。この発言に対して、中国は特段反論していないが、中国政府は、これらの人工島における軍備の整備は、中国の主権を守るための純粋に防衛的なものとの立場を崩していない。中国の軍事予算は、現在米国に次いで世界第2位の規模で、J-20ステルス戦闘機・超音速ミサイル・3隻目の空母の建造など、軍備の急速な近代化を図っている。
 
原文

AP (03/24)


8.PM2.5大気汚染:すべての国でWHOの基準満たせず

世界保健機関(WHO)はPM2.5と呼ばれる大気中の微小粒子に関する健康基準を昨年改正して、年間平均のPM2.5の濃度を5mg/㎥以下とすることを推奨しているが、大気の品質を調査するIQAir社の調査によれば、2021年中に世界の6457都市の大気を調査したところ、すべての国がこの基準を満たすことができず、コロナ後に経済が回復したことに伴い、汚染が悪化したところもあった。都市別にみると、全体の3.4%の都市しか基準を満たすことができず、93の都市ではスモッグの濃度が基準値の10倍を超えていた。例えば、調査開始当初は、中国のスモッグ濃度は非常に悪かったが、時間とともに継続的に改善されている一方で、大幅にスモッグ濃度が悪化している都市もある。インドは、国全体として、2021年は汚染が悪化し、デリーは引き続き世界で最も大気汚染のひどい首都にとどまった。国別では、2年続けてバングラデシュが最も大気汚染がひどい国となり、今年から調査の対象となったチャドが2番目となった。
 
原文

Reuters (03/25)


9.英米の500人以上の科学者が気候変動問題の研究と化石燃料産業の関係を追及

英米の著名な科学者500人以上が、連名で英米のすべての大学に対して公開書簡を送り、気候変動問題に関する研究について、化石燃料産業から資金支援を受け入れることは、根本的な利益相反であり、妥協を通じて、基本的な研究の信頼性を損うと指摘している。書簡では、タバコ産業が行ってきた、タバコによる健康への影響に関する情報操作活動に触れ、多くの公共的な健康問題に関する研究機関がタバコ産業からの資金受け入れを拒否している例を挙げ、気候変動研究についても、同様の行動をとるべきで、科学者たちは、資金受け入れによって、化石燃料業界のgreenwashingに加担すべきではないとしている。化石燃料業界は、資金支援することによって、大規模に実施できることが証明されていない炭素回収技術や極めて危険なgeoengineeringなどの、本質的な問題の解決を先送りするための、解決策を引き出している。大学が化石燃料産業から実際にどれだけ支援されているかは明らかではないが、昨年のthe Observer誌の調査によれば、英国の大学だけでも過去4年間に最低でも8900万ポンド(約143億円)の資金援助を石油企業から受けている。
 
原文

The Guardian (03/25)


10.米SEC:投資家に対する気候変動関係情報の公表義務を強化する規則を提案

米国の上場企業は、投資家と証券取引委員会(SEC)に対して、財務状況や直面するリスクに関する詳細情報を提供しなくてはいけないが、SECは上場企業に対して、GHGの排出量や気候変動が各企業の事業に及ぼすリスクについても報告することを求める新たな規則を3月21日に提案した。今までもアップルの様に自主的に気候変動に関連する情報を公開している企業はあったが、今回のように標準化された情報の提出は求められていなかった。報告しなくてはいけないリスクの例としては、海面上昇のリスクにさらされている地域におけるビジネス活動などが考えられる。報告すべきGHGの範囲は、原則として、Scope 1とScope 2は含まれるものの、Scope 3 についても報告義務を負わせるのは企業に対して過剰な負担をかけるとして米国商工会議所は反対しており、提案では、各企業が重要(material)であると考えられるScope 3のGHGについてのみ報告・開示が求められている。
 
原文

NPR (03/25)


その他のニュース

1.再生可能エネルギー
 (ア)洋上風力発電
  ①英国
   英国で洋上風力発電所の規模(計画中を含む)が86GWに 原文3/25
2.気候変動
 (ア)海水温の上昇
  ①サンゴ礁の白化
   豪Great Barrier Reefでサンゴの白化が進行 原文3/23
 (イ)異常高温
  ①北極・南極
   北極と南極で同時に異常な気温上昇が進行中 原文3/23
3.気候変動緩和対策
 (ア)排出権取引制度
  ①自主的炭素市場
   Integrity Council: 自主的炭素取引市場の基準作りの段取を発表 原文3/22
4.海洋環境
 (ア)医薬品による汚染
  ①カフェイン
   人間が摂取するカフェインによって海洋生物が悪影響 原文3/22
5.生物多様性
 (ア)農薬の使用制限
  ①EU
   EU:生物多様性の保全に関する「自然保護パッケージ」を留保 原文3/24