週刊国際海洋情報(2022年3月19日号)
- 1.EDF:気候温暖化により2100年に港湾部門の損害は年間255億ドルに
- 2.SEI:貨物の海上輸送によって実際に排出されるCO₂の量を公表
- 3.米司法省:マースクへ召喚状を発出
- 4.中国政府:原子力発電所の建設推進方針を堅持
- 5.IEA:2021年の全世界のCO₂の排出量は史上最高に
- 6.ウクライナ侵攻によって船員費と船舶の運航コストが上昇
- 7.IEA:石油消費を減らすための10項目を提案
- 8.米国:控訴審の判断で石油ガス掘削リース競売手続きの前進が可能に
- 9.炭素中立計画を持たない石油・ガス事業に対する再保険を停止
- 10.ベルギー:ウクライナ侵攻の影響で原子力発電の廃止期限を10年間延長
- その他のニュース
1.EDF:気候温暖化により2100年に港湾部門の損害は年間255億ドルに
米国の環境NGOの環境防衛基金(EDF)がRTIに委嘱して3月14日に発表した「気候変動対策を取らなかった場合の港湾・海運部門のコスト」と題する報告書によれば、2100年には、地球温暖化による海面上昇や気象条件の悪化によって港湾インフラの受ける損害額が年間180億円に達し、港湾の閉鎖に伴う港湾・荷主・海運会社・消費者が被る経済的損失も年間75億ドルにのぼると試算している。このことから交通部門から排出されるCO₂の20%を排出している海運業界に対して、グリーン海運への転換を急ぐことによって、以上の様な気候変動に伴う将来的な損失を削減すべきと勧告している。具体的には、①パリ協定の目的を達成するため2050年までの海運脱炭素化を約束する。②IMOにおいて市場原則に基づくCO₂削減策を支持する。③ゼロ炭素化に必要な燃料と技術に投資する。④開発途上国が不均衡な損害や適応対策のためのコストを負担しないように、海運の公平なエネルギー転換を支持する。ことを提言している。
原文
EDF (03/14)
2.SEI:貨物の海上輸送によって実際に排出されるCO₂の量を公表
これまでは、信頼できる情報の欠如や、船舶の動きを正確に把握する方法がなかったため、実際の海上輸送から排出されるCO₂の量を把握することは難しかったが、ストックホルム環境研究院所(SEI)はUMAS等と連携して、貨物に関する情報と衛星などによって取得される船舶の運航情報を統合して、実際の海上輸送にあたって、個々の船舶が一定の貨物を輸送するにあたって実際に排出するCO₂の情報を広く荷主・投資家・政府等に公開し、海上輸送から排出されるCO₂を削減するための情報プラットフォームGlobal Shipping Watch(GSW)を開発した。GSWを活用することにより、①製品の海上輸送に伴うCO₂排出量を把握することによって、荷主企業は、より正確なCO₂排出報告書の作成が可能となる。②消費者が製品・サービスを選択するにあたり、当該製品・サービス購入に伴うCO₂排出量に関する情報を把握できる。③商品のサプライチェーンに関わる海運会社・物流事業者等のCO₂排出実績をもとに、これらの企業の格付けすることが可能となる。
原文
ストックホルム環境研究所 (03/14)
3.米司法省:マースクへ召喚状を発出
コンテナ海運の混乱に関係する米国政府の調査活動の一環として、マースクは米司法省から召喚状を受け取ったことを確認した。司法省は召喚状を発出したことを公式に確認していないが、バイデン大統領が一般教書演説で、「パンデミックの期間中、外国の海運会社は最大で運賃を10倍まで引き上げ、記録的な利益を享受している。私は、アメリカの消費者と事業者に対して不当な運賃を課している外国海運会社を打破すると言明する。」としてから、外航海運会社に対する風当たりが強まっている。ホワイトハウスは本件に関連して、司法省と連邦海事委員会(FMC)の連携を強化するとしているが、FMCはコンテナ会社による超過保管料と返却延滞料の課金などについて調査を実施した結果、現在のところ、海運会社が違法行為を行ったとする証拠は見つかっておらず、FMC委員長も米国の荷主から外航海運における運賃の急激な高騰と定時運航率の低下に関して、海運会社を取り締まるよう強い圧力があるが、人為的なコンテナ船腹量の調整などについて証拠がない限り、FMCとしてできることは限られているとコメントしている。
原文
gCaptain (03/15)
4.中国政府:原子力発電所の建設推進方針を堅持
ロシアのウクライナ侵略に伴う原子力発電所に対する保安上の懸念にもかかわらず、中国政府は、石炭火力発電に代替する脱炭素化対策の一環として、原子力発電所の新設を進め、2030年までには、米国とフランスを抜いて、世界最大の原子力発電国となる見込み。ドイツ・ベルギー・スペインといった西欧諸国が原発廃止へ舵を切る中で、中国政府は、第14次発展計画に従い、2025年までに新たに8基の原発を建設する予定。Wood Mackenzieの分析によれば、中国の臨海部で原子力発電所を建設する場合、その発電コストは石炭火力発電と競争できるまで低下し、原子力発電所の建設コストは、米・英・仏などの欧米諸国の半分程度と推測される。中国の李首相は、3月5日、全人代で、原子力発電所を積極的かつ秩序をもって建設していくと表明した。
原文
South China Morning Post (03/15)
5.IEA:2021年の全世界のCO₂の排出量は史上最高に
国際エネルギー機関(IEA)は、3月8日、石炭火力に大きく依存したコロナ経済復興により、2021年における全世界のCO₂排出量は、対前年比20億トン(6.3%)増の363億トンとなり、過去最高となったとの分析を発表した。同年に、石炭の使用から排出されたCO₂の量は過去最高の153億トンとなり、全CO₂排出量の40%以上となった。天然ガスから排出されたCO₂の量も、2019年の水準を超えて、75億トンとなった。石油から発生したCO₂の量は、航空燃料の需要が回復しなかったため、パンデミック以前の水準より低い107億トンとなった。発電量についてみれば、再生可能エネルギーによる発電量は、対前年比500TWh増で、史上最高の8000TWhとなった。個別にみると、風力発電が270TWh、太陽光発電が170TWhそれぞれ増加した一方で、米国とブラジルにおける干ばつの影響で、水力発電は減少した。
原文
IEA (03/16)
6.ウクライナ侵攻によって船員費と船舶の運航コストが上昇
Drewry社によれば、外航船の船舶職員はロシア人が46500人、ウクライナ人が41000人で、部員はロシア人が41200人、ウクライナ人の32400人がそれぞれ働いている。全世界で働く船舶職員は65万人、部員は92万として、両国の船員の合計割合は、船舶職員が13%、部員が8%を占めている。両国の船舶職員の多くは原油・LNGの輸送船の分野で働いており、タンカー部門では侵攻の前から経験が豊富な船舶職員の供給が厳しい状況にあったので、侵攻により最も影響の大きい分野になる。短期的には、コロナの時と同様に、船舶乗務中の船員については、契約期間を超える乗務で対応できるが、中期的には交代が不可避だが、侵攻時にウクライナにいた船員については、乗務に復帰することは難しい。ロシア人船員についても今後は査証の取得が困難となるほか、対ロシア制裁の影響で賃金の支払いも難しく、雇用しづらい状況となる。当面両国の船員と同じ給与水準のインド人船員が代替要員として最も可能性があるが、船舶職員については、以前から需給状況がタイトで、簡単に交代要員を見つけられる状況にはない。
原文
Hellenic Shipping News (Drewry) (03/16)
7.IEA:石油消費を減らすための10項目を提案
国際エネルギー機関(IEA)は、ウクライナ侵攻に伴う世界的なエネルギー危機に対応するために、1日当たり世界で270万バレル石油消費を節約するためにすぐできる10項目の行動計画を提案したところ以下のとおり。①高速道路の速度制限を最低10km/h引き下げる。②可能な限り週3日間を在宅勤務とする。③大都市において、日曜日は自動車を使用しない日にする。④公共交通の運賃を引き下げ、マイクロモビリティ・ウォーキング・サイクリングを奨励する。⑤大都市において、マイカーの使用を、ナンバープレートの番号によって使用できる日を制限する。⑥燃料を節約するためカーシェアリングを奨励する。⑦物流・配送車両の運行の効率化を図る。⑧航空機を使用しないで、新幹線や夜行列車の活用を図る。⑨オンライン会議などの利用により出張を減らす。⑩電気自動車などエネルギー効率の良い自動車の導入を促進する。
原文
IEA (03/17)
8.米国:控訴審の判断で石油ガス掘削リース競売手続きの前進が可能に
米国政府が、石油ガス掘削のためのリース権の競売手続きなどを進めるための前提として、当該行為が環境に与えるコストを算出する必要があるが、バイデン政権はこれまでオバマ政権時代の算出方法を採用していたため、トランプ政権が採用していた方法に比べて、環境コストが高く計算されることに対して、共和党の州から裁判が提訴され、先日連邦地裁の仮処分で、オバマ政権時代の算出方法を政府が使用することを差し止められたが、この仮処分の効力の停止が、先日の控訴審で認められ、内務省がリース権の競売手続きを進めることができるようになったと発表した。米国石油ガス団体は、今回の内務省の発表を歓迎し、内務省がMineral Leasing Actに従い、十分に広い大陸棚の区域について、公正な手続きでリース権の入札を実施することを求めた。
原文
The Hill (03/17)
9.炭素中立計画を持たない石油・ガス事業に対する再保険を停止
2021年に、国際エネルギー機関(IEA)は、地球の気温上昇を産業革命以前と比べて1.5℃以内に抑制するためには、新規の石油・ガス田の開発を停止すべきと発表したが、世界第2位の再保険事業者であるSwiss Re社は、3月17日、持続可能性年次報告書を発表して、①2025年までに、再保険を引き受ける石油・ガス事業の半分は、2050年までに炭素中立を実現する科学的な計画を持つ企業の事業とし、2030年までには、炭素中立計画を持たない石油・ガス事業については、再保険を引き受けない。②ノルウェーの事業者を除き、北極海における生産比率が10%を超える企業の事業についても再保険を引き受けない。③特約再保険(元受け保険会社の引き受けた保険を自動的に再保険する契約)については、石油・ガス事業については、2023年に終了し、同社が独自に科学的に審査して、炭素中立計画がない事業の再保険は引き受けないと発表した。
原文
Reuters (03/18)
10.ベルギー:ウクライナ侵攻の影響で原子力発電の廃止期限を10年間延長
ベルギーにおいては、2025年までに既存の電子力発電所を段階的に廃止する計画であったが、ウクライナ侵攻によってエネルギー価格が高騰していることと外国産エネルギーへの依存率をさげるため、同国首相は、現在まだ稼働中の合計で7基の原子炉を持つ相対的に新しい2か所の原子力発電所の運用期間を10年間延長するために、同原発を運用している仏のEngie社と交渉に入ると3月18日発表した。同国は2003年から法律によって、原子力発電の段階的廃止を定めており、現在与党のGreenの党は、2025年までに原子力発電所を全廃することを連立参加の条件としている。政府の方針転換に対して、Engie社は同日夕方会見を開き、要請を受けた2か所の原子力発電所の運用期間の延長は、周辺の他の原発の解体作業が始まろうとする矢先でもあり、安全上・規制上の検証を行う必要があり、一民間企業が負えるリスクを超えるとして、要請を受けることについて強い留保を表明した。独政府も原子力発電所の廃止政策を見直すべきではないかとの強い政治的圧力を受けているが、独政府はまだ廃止政策を変更していない。
原文
euronews (AFP) (03/18)
その他のニュース
1.再生可能エネルギー
(ア)洋上風力発電
①安全対策
蘭:洋上風力発電施設と船舶が衝突するのを防ぐ方法を実験 原文3/17
(イ)グリーン水素
①デンマーク
デンマーク政府:Power-to-Xの推進へ1.61億ユーロの支援へ 原文3/15
2.エネルギー転換
(ア)石炭の取り扱い
①メタン排出
石炭採掘から発生するメタンは石油・天然ガス生産時の量より多い 原文3/18
(イ)ブルー水素の取り扱い
①ノルウェー
ノルウェーから独に至る水素輸送パイプラインの建設を検討 原文3/16
3.気候変動
(ア)山火事
①気温上昇
山火事で発生するbrown carbonが北極圏の温暖化を促進 原文3/17
②オゾン層の破壊
大規模山火事の煙によってオゾン層を破壊 原文3/18
(イ)人間の健康への影響
①花粉症
地球温暖化により花粉の量が増大し、花粉が飛散する期間も長期化 原文3/14
4.気候変動緩和対策
(ア)カーボンオフセット
①海洋の炭素シンク機能
海洋の炭素吸収を促進する単細胞生物を発見 原文3/16
(イ)炭素国境調整課税
①EU
EU財務大臣:炭素国境調整課税に関する交渉の基本方針に合意 原文3/14
5.海洋環境
(ア)海洋プラスチックごみ
①北極海
欧州の河川から流出したマイクロプラスチックが北極海に 日本語要約3/15