国際海洋情報(2022年3月14日号)

1.EU財務大臣会合:炭素国境調整課税制度に関する交渉の基本方針に合意

EUは対1990年実績比でCO₂の排出量を2030年までに55%削減するという目標を掲げているが、この目標を達成するために、EU域内の鉄鋼・セメント・肥料などのエネルギー多消費型の生産事業者は、グリーン水素の導入などに多額の投資が必要で、EUのような厳しい規制がない国で製造された輸入品に対して、競争上不利な立場に置かれる。このため、こうした環境コストの差を、製品の輸入時に調整するための炭素国境調整制度を、2023年からの準備期間を経て、2026年より本格導入するためには、欧州理事会と欧州議会との間で今年中に交渉・合意される必要がある。この交渉に備えて、3月15日、EU財務大臣会合が開催され、交渉にあたっての欧州理事会の基本的な立場について合意された。欧州議会は7月までに、議会としての基本的な交渉方針を固める予定で、欧州理事会と欧州議会の間の交渉は夏休み後に開始される予定。炭素国境調整課税の導入に伴い、現在EU ETSの下で、各業界に認められている無料排出枠を段階的に撤廃する必要があるが、難しい議論が予想されるので、この点については、EU ETS改革の議論の中で行われる見込み。

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Reuters (03/14)


2.地球温暖化により花粉の量が増大し、花粉が飛散する期間も長期化

ミシガン大学の研究者達は、米国内で花粉を発生させる15種類の植物について、2100年までに花粉症をどのように悪化させるかシュミレイションを行い、3月15日、Nature Communications誌に研究成果を発表した。地球温暖化によって、花粉の飛散が開始される時期が早まる一方で、花粉が収まる時期は遅くなり、花粉が飛散する期間が長期化することに加え、大気中のCO₂濃度が高まると花粉の生産量が増えることによる相乗効果によって、場所によっては花粉の飛散量が最大で3倍になることが分かった。他の科学者の研究でも、1990年から2018年の期間の花粉症の期間を調査したところ、気温上昇に伴い期間も長期化していた。米国内の花粉症は、以前はSt. Patrick’s Day(3月17日)頃に始まっていたが、最近は気温の上昇によってバレンタインデーの頃から始まるようになっている。

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AP (03/14)


3.EDF:気候温暖化により2100年に港湾部門の損害は年間255億ドルに

米国の環境NGOの環境防衛基金(EDF)がRTIに委嘱して3月14日に発表した「気候変動対策を取らなかった場合の港湾・海運部門のコスト」と題する報告書によれば、2100年には、地球温暖化による海面上昇や気象条件の悪化によって港湾インフラの受ける損害額が年間180億円に達し、港湾の閉鎖に伴う港湾・荷主・海運会社・消費者が被る経済的損失も年間75億ドルにのぼると試算している。このことから交通部門から排出されるCO₂の20%を排出している海運業界に対して、グリーン海運への転換を急ぐことによって、以上の様な気候変動に伴う将来的な損失を削減すべきと勧告している。具体的には、①パリ協定の目的を達成するため2050年までの海運脱炭素化を約束する。②IMOにおいて市場原則に基づくCO₂削減策を支持する。③ゼロ炭素化に必要な燃料と技術に投資する。④開発途上国が不均衡な損害や適応対策のためのコストを負担しないように、海運の公平なエネルギー転換を支持する。ことを提言している。

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EDF (03/14)


4.SEI:貨物の海上輸送によって実際に排出されるCO₂の量を公表

これまでは、信頼できる情報の欠如や、船舶の動きを正確に把握する方法がなかったため、実際の海上輸送から排出されるCO₂の量を把握することは難しかったが、ストックホルム環境研究院所(SEI)はUMAS等と連携して、貨物に関する情報と衛星などによって取得される船舶の運航情報を統合して、実際の海上輸送にあたって、個々の船舶が一定の貨物を輸送するにあたって実際に排出するCO₂の情報を広く荷主・投資家・政府等に公開し、海上輸送から排出されるCO₂を削減するための情報プラットフォームGlobal Shipping Watch(GSW)を開発した。GSWを活用することにより、①製品の海上輸送に伴うCO₂排出量を把握することによって、荷主企業は、より正確なCO₂排出報告書の作成が可能となる。②消費者が製品・サービスを選択するにあたり、当該製品・サービス購入に伴うCO₂排出量に関する情報を把握できる。③商品のサプライチェーンに関わる海運会社・物流事業者等のCO₂排出実績をもとに、これらの企業の格付けすることが可能となる。

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ストックホルム環境研究所 (03/14)


国内ニュース

1.日本海洋科学:無人運航船の実運用を模擬した実証実験実施
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3月1日、日本海洋科学


2.日本海事協会:日本郵船、MTI、日本海洋科学が開発を進める完全自律船フレームワ ーク「APExS-auto」に対し、基本承認(AiP)を発行
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3月15日、日本海事協会


3.日本海事協会:世界初となるメタン酸化触媒システムへの基本承認(AiP)を発行
原文

3月16日、日本海事協会


Webinar情報

1.Transport & Environment:
Green shipping- Nordic actions foster European and global zero emission
March 17
リンク詳細

2.Economist Impact: 7th Annual Sustainability Week
March 21-24
https://eventsregistration.economist.com/event/794ae119-be9a-4185-b2cd-83bad6be3146/regProcessStep1?rt=2doYuLJDI0mALmn_Ydi3Dg

3.Reuters: Transition Trends 2022
March 24, 14:00 GMT
https://events.reutersevents.com/energytransition/trends2022?utm_campaign=5426-08MAR22-WK14-TA-ASIAPAC&utm_medium=email&utm_source=Eloqua