週刊国際海洋情報(2022年3月12日号)
- 1.ICS:ロシア人とウクライナ人船員の不足が国際物流の混乱に拍車
- 2.マースクとオーステッドが米国で大規模なpower -to -X事業を実施
- 3.英国:造船戦略を改訂し、40億ポンドを新たに投資
- 4.コンテナ船の欠航による輸送力の減少により世界中の港湾が大きな影響
- 5.世界の投資家グループが気候変動対策に反対する企業への対抗策を発表
- 6.ロシア船級協会が国際船級協会連合から除名
- 7.A Global Goal:2030年までの生物多様性ポジティブ実現を要請
- 8.マースクが海運会社で初めてAmazonのThe Climate Pledgeに参加
- 9.ICS:途上国に配慮したIMRFの改定案をIMOに提出
- 10.マースク:ロシア国内の事業から完全撤退
- その他のニュース
1.ICS:ロシア人とウクライナ人船員の不足が国際物流の混乱に拍車
国際海運会議所(ICS)は、ウクライナ問題に関するIMOの特別理事会の開催に当たり声明を発表したところその概要は以下のとおり。①BIMCOとICSが共同で発表した「2021年版船員労働力報告書」によれば、現在、全世界で74000の船舶で189万人の船員が働いているが、このうちロシア人船員は全体の10.5%の198123人(うち船舶職員は71652人)、ウクライナ人船員は同4%の76442人(うち船舶職員は47058人)となっているが、両国と船員交代が予定されていた国との間の航空便はキャンセルとなり、両国の船員の交代が困難となっている。②ウクライナの港湾で足止めされている船舶・船員を紛争海域から速やかに退出させる必要があり、海事避難回廊の設定を支持する。
原文
ICS (03/07)
2.マースクとオーステッドが米国で大規模なpower -to -X事業を実施
デンマークの電力事業者のオーステッドは、米国のメキシコ湾岸に陸上風力・太陽光による1.2GW規模の再生可能発電施設を建設したうえで、2025年下半期から年間30万トンの再生可能メタノールを生産し、マースクに長期間供給することに基本合意した。本契約はマースクにとって、2025年までに年間73万トン以上の再生可能メタノール燃料を確保するという計画の一部となる。両社は既に、コペンハーゲンにおいても同様の1.3GW規模の再生可能燃料の供給契約を締結している。
原文
Recharge (03/07)
3.英国:造船戦略を改訂し、40億ポンドを新たに投資
英国の造船業は2020年の時点で、42600人を雇用し、28億ポンド(約4280億円)の経済的な付加価値を生んでいるが、2017年に英国政府は国家造船戦略(NSbS)を策定し、海軍関係の造船産業を改革し、英国製の海軍軍用船の輸出・設計契約の獲得を目指し、豪・加などの英連邦諸国への輸出に成功した。今般、この戦略を改訂し、軍需ばかりでなく、英国の造船業全体を再活性化し、生産性や賃金を上げ、新たな雇用を生み、生活水準を上げるために戦略を改訂した。具体的には、政府が40億ポンド(約6120億円)を投資して、英,国の造船所と舶用工業事業者に対して、金融支援・重要な技能訓練・脱炭素化のための船舶と燃料供給施設に関する研究開発を支援する。さらに、英国政府とスコットランドなどの地方政府は、今後30年間に、大きな軍艦・国境警備隊の巡視艇・灯台見回り船など軍用船・官用船を150隻以上発注する予定にしている。
原文
英国政府 (03/08)
4.コンテナ船の欠航による輸送力の減少により世界中の港湾が大きな影響
Global Shippers Forumは、2021年における世界の港湾におけるコンテナ船の欠航・抜港状況と、それに伴う経済的影響について調査報告書を発表したところその概要は以下のとおり。①2021年においては、コンテナ船の欠航・抜港により当初予定されていたコンテナ輸送量が確保できなかった港湾は、全世界の1/3以上にのぼった。②特に大きな影響が出たのが、ギリシャのピレウス港・スリランカのコロンボ港・マレーシアのクラン港で、約4割のコンテナ輸送枠が喪失し、次に英国のフェリクストウ港・UAEのJebel Ali港・豪のメルボルン港・NZのタウランガ港などが、約1/3の輸送枠を失った。③これらの港湾の通常時の欠航率は15%程度なので、2021年の欠航率は2倍以上となったことになる。④こうした欠航・抜港が増えることにより、残された輸送スペースをめぐって、運賃は上昇し、荷主は予定とおり、コンテナ船に積み込めなかったコンテナの保管・取り扱いに関する予期しなかったサーチャージまで払わされることになる。⑤より一般的重大な経済的被害としては、途上国が輸出の機会を失うことによって、コロナからの経済復興の足かせとなっている。
原文
Splash 247 (03/08)
5.世界の投資家グループが気候変動対策に反対する企業への対抗策を発表
スウェーデンの年金基金であるAP7とBNP Paribas Asset Managementと英国国教会年金理事会が中心となり、世界の多くの投資家グループが参加して、合計で130兆ドルの投資資金を持つThe Global Standard on Responsible Climate Lobbyingは3月14日、14項目の行動計画を発表し、各国政府が実施しようとする気候変動対策を遅延・骨抜き・中止にするためのロビー活動を実施している企業に対しては、株主総会で議決権を行使すると宣言した。同グループは、投資している企業に対して、企業が実施しているロビー活動の内容を公表して、パリ協定の目的に合致した気候変動対策を支持するような「責任あるロビー活動」を実施することを改めて求めた。
原文
Reuters (03/09)
6.ロシア船級協会が国際船級協会連合から除名
国際船級協会連合(IACS)理事会は、75%以上の賛成で会員を除名できるという、連合の規定に従って、ロシア船級協会を即日除名することに合意した。個別メンバーの動向としては、DNVがロシア企業との全ての既存の契約を見直し、すべての関連するビジネスから撤退すると発表している。ロイズ船級協会も、DNVに続いて、ロシアが所有・支配・管理するすべての資産と会社に対するサービスを停止すると発表した。米国船級協会は、DNV・ロイズと同様の決定をしたうえで、ジョージア・モルドバ・ウクライナにおける業務を停止すると発表している。
原文
Seatrade Maritime News (03/09)
7.A Global Goal:2030年までの生物多様性ポジティブ実現を要請
世界の代表的な14の環境NGOsが共同で、2030年までに生物多様性の減少を止め増加に転じるa global goalを達成し、2050年までに完全な生物多様性の復活を目指すべきとする提言を発表した。NGOはこの目標を、中国の昆明で開催されるCOP 16国連生物多様性サミットで合意される予定の今後10年間の「地球生物多様性の枠組み(Global Biodiversity Framework: GBF)」の包括的なミッションとすることを求めて、ジュネーブで開催されるCOP 16の前の最後の準備会合に提出した。2週間が予定されている交渉では、昆明で採択される予定のパリ協定の生物多様性版となるGBFの案文を最終化することを目的としている。
原文
The Nature Conservancy (03/10)
8.マースクが海運会社で初めてAmazonのThe Climate Pledgeに参加
2019年にアマゾンは2040年までに炭素中立を目指すThe Climate Pledgeを結成し、この度、新たに海運会社としては初めてのマースクを含む約100社が新規参加して、合計で312社が参加することとなった。マースクは2040年までに炭素中立を達成するために、中期目標として、2030年までに海上輸送の25%についてグリーン燃料を使用し、同社と契約する物流・冷凍保存会社などのオペレーションの90%をグリーン化し、航空輸送については、最低でも30%以上、持続可能な航空燃料(SAF)を使用すると表明している。マースクのCEOは「緊急な気候問題に対応し、お客様のサプライチェーンを脱炭素化することは、マースクにとって極めて重要な戦略であり、アマゾンのThe Climate Pledgeに参加することにより、重要な顧客と連携し、ベストプラクティスと解決策を共有するのは素晴らしい機会となる。」とコメントしている。
原文
Splash 247 (03/10)
9.ICS:途上国に配慮したIMRFの改定案をIMOに提出
国際海運会議所(ICS)と他の8つの国際業界団体及び、デンマーク・ギリシャ・日本・シンガポール・リビア・ナイジェリア・パラオなど30か国は、先回のMEPCにおける議論を踏まえて、途上国に配慮した国際海事研究基金(IMRF)設立に関する改訂案をIMOに提出した。IMRFは舶用燃料1トン当たり、2ドルの課金をして、50億ドルの研究開発基金を創設する構想だが、途上国からの懸念に配慮して、基金の約10%にあたる毎年5000万ドルを、開発途上国におけるGHG削減事業に使用することを提案している。ICSの事務次長は、「欧州委員会が炭素排出課税と絡めて、IMRFの議論を遅らせようとしないか懸念しており、業界として市場原理に基づくCO₂削減対策の必要性について理解するものの、この議論にはさらに5-6年かかるので、まずは緊急な研究開発の必要性に応えるため、IMRFの創設を急ぐべき。」とコメントしている。
原文
ICS (03/11)
10.マースク:ロシア国内の事業から完全撤退
マースクは、ロシアによるウクライナ侵攻に伴い、ロシア発着のコンテナの新たな予約受付を中止しているが、現在同国内に残存する同社の5万個のコンテナ(ほとんどが空)の回収のため、限定的にコンテナ船の運航を続けている。ロシア市場は1992年以来、マースクにとって、大きく重要な市場で、昨年は全収入の約2.5%を同市場から上げていたが、同国の港湾管理会社であり、ロシア国営原子力会社のロスアトムなどが共同出資者となっているGlobal Ports Investmentsの株式30.75%も含め、すべての同国内の資産を売却すると先週発表した。さらに3月15日、同社のCEOは、同社は今後長期間にわたってロシアビジネスに戻ってくることはないだろうと語り、撤退のコストは同社が喜んで払うことができるコストだと語った。
原文
Reuters (03/11)
その他のニュース
1.再生可能エネルギー
(ア)電力消費量に占める再生可能エネルギーの割合
①EU
欧州議会:再生可能エネルギーの目標比率を45%に引き上げへ 原文3/11
2.エネルギー転換
(ア)天然ガスの取り扱い
①ロシアへの依存の削減
ウクライナ侵攻によりCO₂排出量が増える恐れ 原文3/11
(イ)石炭の取り扱い
①中国
中国国家発展改革委員会:石炭の増産を全人代で指示 原文3/8
3.気候変動
(ア)氷河・海氷の減少
①南極海
南極海の海氷の夏季最小面積が衛星観測が始まって以来最小に 原文3/9
②北極海
18年間で冬季の北極海の海氷の体積の1/3が失われる 原文3/7
4.安全保障
(ア)ウクライナ
①海運
NATO: 黒海北西部海域の緊急危険情報 原文3/9
②石油ガス
世界的なエネルギー供給におけるロシアの位置づけ 原文3/7
5.気候変動緩和対策
(ア)カーボンオフセット
①天然資源の活用(NCS)
天然の気候変動解決策(NCS)に対する高品質の投資促進の必要性 原文3/8
6.海洋環境
(ア)海洋プラスチックごみ
①国際条約策定交渉
プラスチックに関する新国際条約の限界 原文3/10
7.生物多様性
(ア)COP15
①多様性ポジティブ
A Global Goal: 2030年までの生物多様性ポジティブ実現を要請 原文3/10