週刊国際海洋情報(2022年3月5日号)
- 1.海運・船員をめぐるウクライナの情勢
- 2.海洋に流れ込んだ人間の医薬品で魚が汚染
- 3.海事反汚職ネットワークが10年間の事例をまとめた報告書を発表
- 4.BIMCO:ウクライナ侵略は海運業界全般に大きな影響
- 5.EU:年末までにロシアの天然ガスへの依存を2/3削減
- 6.ウクライナ侵攻:海事保険業界が「ハイリスク海域」の範囲を拡大
- 7.マースク:年間73万トンのメタノール燃料の供給を2025年末までに確保
- 8.英国政府:海運脱炭素化のための技術開発専門組織を立ち上げ
- 9.EU NAVFOR ATALANTA:国連安保理決議なしでも活動を継続
- 10.IMO:ウクライナ対策特別理事会の概要
- その他のニュース
1.海運・船員をめぐるウクライナの情勢
原文
2.海洋に流れ込んだ人間の医薬品で魚が汚染
フロリダ国際大学の沿岸漁業研究所が発表した研究によれば、過去3年間、南フロリダの約320kmの沿岸を対象に、人間の医薬品によるソトイワシの汚染状況を調査したところ、93匹のソトイワシから58種類の異なる医薬品成分が検出され、顕著な例では1匹のソトイワシから16種類の異なる薬品が同時に検出された。フロリダ州では、1/3の過程で浄化槽が整備され、2/3の過程の排水は下水道に接続されているが、既存の下水処理方法では医薬品を取り除くことができないので、住民の飲料水も食用の魚も医薬品によって汚染されているが、含まれている医薬品の量が微量なため、直ちに健康への影響はないが、生涯これだけ多くの医薬品を意図せず取り込んで人体にどういう影響が出るかは現段階では不明である。現在医薬品は汚染物質としてみなされていないので、薬品の製造や使用後の処理に関する環境上の規制はない。
原文
Inside Climate News (02/28)
3.海事反汚職ネットワークが10年間の事例をまとめた報告書を発表
海事反汚職ネットワーク(MACN)は、海上貿易に関する関係官署の職員による賄賂の要求など汚職行為について、匿名汚職報告プラットフォームを通じて、過去10年間で、世界の149か国の1000以上の港湾で発生した約5万件の不正事例を収集してきた。こうした情報を共有することにより、不正行為の規模・種類・量などを把握することが可能となり、不正行為を減らすことが可能となる。不正行為の多くは、たばこ・酒・わいろの要求という形で行われ、要求を拒むと、船舶が足止めされ出港が遅れ、大きな経済的な損失を被ることとなる。コロナの期間中は、感染予防のために、港湾管理者等との物理的な接触がへり、電子的に連絡を取って、出港許可を得るため、不当要求の件数は減少した。情報の収集は、不正行為の摘発を目的とするものではないが、いくつかの国では、MACNの情報をもとに、当局が独自の調査を実施し、港湾関係職員の教育・訓練に役立てることによって、港湾管理の質の向上につながっている。
原文
MACN (03/01)
4.BIMCO:ウクライナ侵略は海運業界全般に大きな影響
ウクライナとロシアはそれぞれ世界の穀物輸出の10%を担い、ロシアは海上輸送される原油・石油製品の10%を担っているが、ロシアによるウクライナ侵略の結果、金属・小麦・石油・天然ガスなどの商品価格が高騰して、世界的なインフレを惹起し、商品の需要が減ることによって、海運業界全体に大きな影響が出るとする報告書をBIMCOは3月7日発表した。EUも米国政府も石油産業に対する制裁を発動していないにもかかわらず、大幅な値引きをしても、ロシア産の原油の70%は買い手が見つからない状況で、タンカーの船主も、タンカーの運航を継続するリスクを考慮しているため、3月7日の時点で、黒海・バルト海などからロシア産原油を積みだすタンカーの隻数は減少している。中国が余剰ロシア産原油を引き取り、その分、欧州諸国が中近東からの原油輸入を増やすことができれば、供給面での不安は緩和でき、海上輸送距離が延びるので、トンキロベースでのタンカー輸送需要は伸びるものの、長期的には原油に対する需要が減るのは避けられない。
原文
Lloyds List (03/01)
5.EU:年末までにロシアの天然ガスへの依存を2/3削減
ロシアは現在EU加盟国が使用する天然ガスの約40%(1550億㎥)を供給しているが、ロシアによるウクライナ侵攻を踏まえ、欧州委員会は、加盟各国が天然ガスの輸入を米国やカタールなどの代替的な供給先に切り替えるとともに、再生可能エネルギーへの転換を進めることによって、ロシアの天然ガスへの依存を年末までに2/3削減し、さらにバイオメタンや水素等の活用によって、遅くとも2030年までに完全にロシアへの依存から脱するとする計画を、3月8日発表した。具体的には、代替的な供給国からの輸入切り替えにより600億㎥、新たな風力・太陽光発電施設の整備で、年末までに200億㎥の天然ガス消費を削減し、2030年までに再生可能エネルギーの発電量を3倍とし、新たに風力発電を480GW、太陽光発電を420GWそれぞれ追加することによって、1700億㎥の天然ガス消費を削減するとしている。加えて、暖房の設定温度を1℃下げることによって100億㎥、既存のガスボイラーを3000万台ヒートポンプに切り替えることによって、350億㎥の天然ガスを節約できる。
原文
Reuters (03/02)
6.ウクライナ侵攻:海事保険業界が「ハイリスク海域」の範囲を拡大
国際的な海事保険業界による「共同戦争委員会」は、2月15日に、黒海とアゾフ海のウクライナ領海を「ハイリスク海域」に指定したが、2月24日のウクライナ侵攻以降、少なくても5隻の商船が飛翔体で攻撃され、1隻が沈没、1隻で船員が死亡した。こうした戦闘状況の悪化を受けて、同委員会は3月7日、同海域の範囲をルーマニアとジョージアの沖合や内水・公海上の一部まで拡大すると発表した。2月24日以降、同海域を航行する船舶の保険料は高騰しており、多くの海運会社は同海域への運航を停止しており、ウクライナ・ロシアの黒海沿岸からの主要輸出物である小麦やトウモロコシの輸出に大きな影響が出ている。
原文
Reuters (03/02)
7.マースク:年間73万トンのメタノール燃料の供給を2025年末までに確保
マースクは現在発注している、メタノールを燃料とする12隻のグリーンコンテナ船の燃料を確保するために、6社のグリーンエタノール供給メーカーと戦略的パートナーシップを締結し、遅くとも2025年末までに、年間73万トンのバイオ/再生可能メタノール燃料の供給を世界中の寄港地で確保すると発表した。具体的な供給先は、CIMC ENRIC(中国)・European Energy(デンマーク)・Green Technology Bank(中国)・Orsted(デンマーク)・Proman(スイス)・WasteFuel(米国)の6社。
原文
Maersk (03/03)
8.英国政府:海運脱炭素化のための技術開発専門組織を立ち上げ
英国政府は2050年までに海運を炭素中立とする目標実現のために、2.06億ポンド(約315億円)の予算をかけて、英国運輸省の中に新たに海運脱炭素化のための研究開発を専門に担当するUK Shipping Office for Reducing Emissions (UK SHORE)を創設した。英国政府は海運脱炭素化の推進のために、昨年からClean Maritime Demonstration Competition (CMDC)を成功裏に実施してきたが、UK SHOREは引き続き複数年度にまたがるCMDCを実施していく。研究開発の対象は船舶ばかりでなく、船舶に代替燃料を供給する港湾インフラも対象とし、代替燃料としては、水素・電力・アンモニアなどを対象とし、この分野で英国が世界で指導的な役割を果たすとともに、英国内各地に、新技術に対応した新たな製造業と雇用を興し、地域経済の向上に貢献する。
原文
英国政府 (03/03)
9.EU NAVFOR ATALANTA:国連安保理決議なしでも活動を継続
ソマリアの領海内で、外国の海軍が海賊や武装強盗を取り締まる法的根拠を与えていた国連安全保障理事会決議(UNSCR 2608/2021)が国連において延長されないことが決定された。この決定により、EU NAVFOR ATALANTAはソマリア領海での取り締まり活動はできなくなったが、領海外の西インド洋における海上保安活動については、今後とも継続する。ATALANTA作戦は、国連海洋法を遵守し、海賊に襲われる危険性のある世界食糧計画(WFP)などが運航する船舶を保護し、麻薬の密輸・ソマリアに対する武器の違法輸出・木炭の違法輸出を取り締まり、IUU漁業を監視するなど、公海上における海上保安活動を続ける。これまでのATALANTA作戦の功績としては、①171人の海賊の被疑者を、刑事訴追するために沿岸国に引き渡し、②WFPによる合計230万トン以上の人道支援物資の海上輸送の護衛・警戒に当たり、③アデン湾を航行する商船の約90%が、EUNAVFORが運用する海事保安センターに、自主的に運航情報を提供している。
原文
EUNAVFOR (03/04)
10.IMO:ウクライナ対策特別理事会の概要
3月10日・11日に、IMOはウクライナ問題に関する特別理事会を開催し、黒海とアゾフ海のハイリスク海域から、足止めされている船舶や船員を安全に退避させるための「ブルー海事安全回廊」を設定するために、事務局長に対して、関係者と至急調整するよう要請した。足止めされている船員の支援のための以下の提案についてもwelcomeされた。(合意でないことに注意)①船舶は、攻撃されることなく、直ちにウクライナの港湾から出港することを許可されること。②機雷の敷設などにより、安全に出港できない船舶については、船員が紛争地域を脱して帰国するために必要な人道的回廊を設定すること。③船員の国籍に基づくいかなるハラスメントも行われるべきでないこと。④紛争地域に足止めされている船員は、家族と自由に通信することが許可されること。⑤船員が(制裁の影響で)賃金を受け取ることができないようなことが無いよう関係国は保証すること。等
原文
IMO (03/04)
その他のニュース
1.再生可能エネルギー
(ア)洋上風力発電
①米国
NY: コンテナターミナルを大規模洋上風力発電の支援施設に改造 原文2/28
②浮体式
2030年までに世界で1300基(14.5GW)の浮体式洋上風力発電が稼働 原文3/4
(イ)グリーン水素
①EU
EU: 官民連携で再生可能水素の研究開発に6億ユーロを投資 原文3/3
2.エネルギー転換
(ア)天然ガスの取り扱い
①ロシア依存の削減
IEA: EUに対し、露へのエネルギー依存を削減する方法を提案 原文2/28
3.海運の脱炭素化
(ア)代替燃料
①アルコール
ノルウェー:アンモニア燃料のAframax タンカーの開発を進める 原文3/1
4.気候変動緩和対策
(ア)大気中からのCO₂の回収
①回収手法
気温上昇を1.5℃以内に抑制するには大気中からのCO₂回収が不可欠 原文3/2
5.安全保障
(ア)ウクライナ
①海運
ウクライナで足止めされている船舶から船員が退避を開始 原文3/4
②石油ガス
Shell: ロシアとの全ての石油・天然ガス事業からの撤退を表明 原文3/2
6.海洋環境
(ア)油濁汚染
①イエメン沖の放置タンカー
フーシ派:油濁汚染の高いタンカーから油を抜き取ることに同意 原文3/1
7.海運経済
(ア)ウクライナ侵攻
①露・ウクライナ船員への影響
何千人ものウクライナ人・ロシア人船員が世界の港湾で足止め 原文3/3