月刊国際海洋情報(2022年2月28日号)

1.One Ocean Summit:仏 CMA CGM がプラスチックごみの輸送停止へ

仏のコンテナ海運会社の CMA CGM はプラスチックごみを年間約5万個のコンテナで輸送しているが、本年の国連環境総会(UNEA 5.2)においてプラスチックごみ問題に関する条約交渉が始まる見通しの中、2月 11 日、仏で開催された One Ocean Summit において、プラごみの分類やリサイクルが十分に実施されていない国に、プラスチックごみが輸出されるのを防ぐため、本年6月からプラスチックごみの輸送を停止すると発表した。
 
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Reuters (02/03)


2.デンマーク船主協会:EU ETS の適用範囲を GHG 全般に拡大すべき

デンマーク船主協会は、CE Delftに委託して、EUの海運の GHG 排出政策の2本柱である FuelEU Maritime と EU ETS の対象範囲の整合性を取るために、後者の適用範囲を前者に合わせて、EU ETS に対象を CO₂だけではなく、すべての GHG を対象とし、適用の対象も船舶運航に伴い排出される GHG だけでなく、well to wakeベースで燃料の生産時に漏出するメタンなども含むべきとする報告書を発表した。現在のように CO₂の排出だけを規制する ETS では、well to wakeベースで生産時にメタン発生量が多い LNG の使用や、メタン漏出量の多い機関の使用を許すことになると指摘している。
 
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The Maritime Executive (02/04)


3.One Ocean Summit:米仏が海洋プラスチックごみ削減で共同声明

標記共同声明の概要は以下のとおり。①米仏両国は海洋プラスチックごみ問題について国際的に取り組まなくてはいけない課題であり、プラスチックの発生源における取組が重要であることを認識し、来る第 5 回国連環境総会(UNEA)において、プラスチック問題と循環経済に関する新たな国際合意について協議を開始することを支持する。②合意は法的拘束力のあるものも法的拘束力のないものも広く含み、参加国にプラスチック問題に関する野心的な国家行動計画を作成・実行することを求めるとともに、国家の活動を補完するため、プラスチック問題のすべての関係者が、プラスチック問題に熱心に取り組むことを奨励する。③米仏両国は、他の諸国とも協力して、UNEAにおいて、以上のような国際合意の形成が成功裏に達成されるよう期待する。
 
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White House (02/08)


4.NOAA:今世紀末までに米国沿岸の海面が平均60cm上昇

米国国土安全保障省・NASA などの関連する米国政府機関が連携し、米国全土と米国の海外領における 2150年までの海面上昇の見通しを米国海洋大気庁(NOAA)が「2022年海面上昇に関する技術報告書」として取りまとめられたところその概要は以下のとおり。①2020年から 2050年までの間に、米国の海岸においては、過去100年分の海面上昇をしのぐ、平均して 25-30cmの海面上昇が発生する。②この結果、台風や高潮によって発生する中規模の洪水が発生する頻度は、2050年には現在の10倍以上となる。③現在までに排出された CO₂による温暖化効果によって、2100年までには60cmの海面上昇が発生し、もし、今後の CO₂排出削減に失敗すれば、同年までに1.1mから2.1m海面が上昇する。
 
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NOAA (02/10)


5.欧州議会:洋上風力発電のより迅速な整備を勧告

欧州議会は、洋上再生可能エネルギー(ORE)の整備に関する欧州委員会からのcommunication について審議していたが、2月16日、欧州議会としての報告書を採択したところその概要は以下のとおり。①2030年までに CO₂の排出を 55%削減し、2050年までに炭素中立を達成するためには、ORE のより迅速な整備が必要だが、一方で、海洋空間や海岸も持続可能に管理する必要がある。②再生可能エネルギー発電施設の整備は前例のない規模で迅速に進める必要があるが、多くの加盟国において、再生可能エネルギーへの転換が大幅に遅れている。③特に、ORE 整備の申請が出されてから認可されるまでに必要な期間の短縮が重要で、加盟国は審査の透明化と審査期限の設定について検討する必要がある。④EU は ORE 発電機器の製造については、世界を技術的にリードしており、ORE の生産を支援することによって、大きな経済成長が見込まれるので、民間投資に加えて、NextGenerationEU 復興基金などを通じて公的資金支援を行う必要がある。
 
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欧州議会 (02/14)


6.欧州委員会委員長:再生可能エネルギーへの転換が国家安全保障上必要

2月24日、欧州委員会委員長による記者会見のコメントの概要は以下のとおり。①EU が目指している再生可能な水素エネルギーへの転換は、もはや環境上の要請だけでなく、国家安全保障上の要請となった。②ロシアの侵攻を目の当たりにして、今までの様に EU はロシアの天然ガスに依存することはできなくなった。③天然ガスの供給先の多様化と再生可能水素への転換がこの苦境から脱する道である。④EU 諸国はあまりにロシアの化石燃料に依存しすぎたが、ロシア自らロシアが信頼できるエネルギー供給者でないことを示した以上、あらゆる手段を講じて、ロシア産の天然ガス・石油・石炭への依存度を下げなくてはならない。⑤欧州が必要とする天然ガスの最低3割はロシア産だが、今年の冬は、例年よりはるかに少ない契約上の最低限の天然ガスしか供給されていないが、仮にロシアが完全に天然ガスの供給を停止したとしても、欧州委員会はこの冬を越すまで、代替の LNG供給国を確保する。
 
原文

The Maritime Executive (02/17)


7.UNEA:プラスチック汚染に関する国際条約に関する決議案

標記決議案の概要は以下のとおり。①プラスチック汚染問題について法的拘束力を持つ国際条約を作成するための政府間交渉委員会を UNEP に設立し、2年後の第6回国連環境会議までに結論を得る。②循環経済を促進し、プラスチックの生産・消費・再利用可能なデザイン・管理・処理などプラスチックのライフサイクル全体を対象として、マイクロプラスチックを含むプラスチックによる環境汚染を防止・削減することを包括的に取り組むことを条約の目的とする。③加盟国はプラスチックごみの発生を防止し、削減するための国家行動計画を作成する。④各国の国家行動計画の進捗状況を報告し、モニターする制度を制定する。⑤条約の目標を達成するために必要な資金的な手当てをする多国間基金や、科学的・社会経済学的な助言を行う専門組織の設置を検討する。
 
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UNEP (02/17)


8.IPCC:気候変動の影響と適応策に関する第2WG報告書を発表

2月28日、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、標記報告書を発表したところその概要は以下のとおり。①気候変動による大規模な被害は既に発生しており、我々の食料・エネルギー・交通・政治・社会など広範な変革が必要。②産業革命以前と比較して、気温が1.5℃以上上昇すると、影響が急拡大するが、地球の気温は既に 1.1℃上昇しており、20年以内に、1.5℃以上上昇する見込みである。③気温が 1.5℃上昇すると、陸上の生物の 3-14%は絶滅するが、海面上昇によって沿岸部の生態系が最も影響を受ける。④国連生物多様性条約は世界の 30%を保護区にする必要があるとしているが、現状では、陸上の 15%以下、平水域の 21%、海洋に至っては 8%しか保護区に指定されていない。⑤猛暑や他の異常気象に伴う直接的な健康被害に加えて、水の汚染や蚊の増加による伝染病の蔓延、途上
国における栄養不足、海面上昇や破壊的な天候による食糧生産の減少に見舞われる。⑥異常気象の影響は予測していたのより早くやってくるので、これまでとおり人々が同じ土地で持続可能な生活を続けるためには迅速な対応が必要で、残された時間は少ない。
 
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Reuters (02/21)


9.米大統領:一般教書演説でコンテナ海運アライアンスを名指しで非難

バイデン大統領は、大手の海運会社が、相互に輸送スペースを融通しあうことによって、運賃を吊り上げ、物価上昇の元凶となっているとして、コンテナ海運会社に対する政府の監督権限を強化すると3月1日発表した。演説では、「会社が競争をしなければ、会社の利益は積みあがる一方で、中小企業や家族経営の農家・牧場主が割を食うことになる。アメリカ発着の外航海運でまさにこれが起こっている。すべて外国船社によって構成される 3つの世界的な海運アライアンスが、殆どの外航海運貨物を支配し、米国の事業者や消費者に対し、運賃を引き上げる力を持ち、米国の国家安全保障と競争力を脅かしている。」と述べた。昨年7月に出された競争振興を目的とする大統領令によって、連邦海事局と司法省競争当局は、既に情報共有協定を締結しているが、2月28日に、ホワイトハウスが発表した声明によれば、海運会社が海運法などの米国内法に違反していないか調査をするタスクフォースを近日中に両者で設置する見込み。
 
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S&P Global (02/24)


10.国連環境総会:プラスチック汚染に関する国際条約交渉開始を決議

ナイロビで開催された第 5 回国連環境総会は、175か国から首脳・大臣等が参加し、プラスチックの生産・再使用/リサイクル可能なデザイン・処分を含めたプラスチックのライフサイクル全般を規制する新たな国際的に法的拘束力のある国際条約案を2024年までにまとめるため、政府間交渉委員会(INC)を設置する「プラスチック汚染停止」決議を3月2日採択した。国連環境計画(UNEP)は本年末までに、第1回INC とともに、世界のすべての関係者がプラスチック問題に関する知識とベストプラクティスを共有するためのフォーラムを開催する。UNEP 事務局長は、2年間の条約交渉と並行して、積極的な政府や業界の代表と協力して、使い捨てプラスチックの削減・民間投資の促進・新たな循環経済への投資の促進を図っていくと表明した。
 
原文

UNEP (02/24)


その他のニュース

1.再生可能エネルギー
 (ア)洋上風力発電
  ①英国
   英国:差額決済契約の競争入札を2年に1回から毎年に変更 原文 2/2
   英国MCA: 洋上風力発電施設要員の海上輸送に関し規制緩和を実施 原文2/4
  ②中国
   中国の洋上風力発電能力:2021年だけで約2.8倍に急増 原文 2/9
  ③ドイツ
   独:再生可能エネ発電拡充のためには送電網への莫大な投資が必要 原文 2/10
  ④米国
   NY: コンテナターミナルを大規模洋上風力の港湾支援施設に改造 原文 2/28
 (イ)グリーン水素
  ①水素キャリア
   英国:港湾における陸上電源を増やすために高コストの解決が必須 原文 2/2
  ②洋上生産
   ABS 白書:再生可能なグリーン水素の洋上生産 原文 2/21
 (ウ)電力消費量に占める再生可能エネルギーの割合
  ①ドイツ
   独:2035年までに全電力を再生可能エネから発電する計画を発表 原文 2/22
  ②米国
   米国の再生可能エネルギー発電比率が13%に上昇(2021年実績) 原文 2/25
 (エ)バイオ燃料
  ①RFS の環境評価
   米国の再生可能燃料基準によって生産されたバイオ燃料の環境評価 原文 2/14
2.エネルギー転換
 (ア)天然ガスの取り扱い
  ①EU
   EU Taxonomy: 天然ガス・原子力の扱いについて独が提訴を検討 原文 2/1
  ②ロシアへの依存の削減
   IEA: EU に対し露へのエネルギー依存を削減する10の方法を提案 原文 2/28
 (イ)エネルギー価格の高騰
  ①欧州
   欧州のエネルギー価格:2023年まで高水準かつ乱高下が続く見通し 原文 2/9
 (ウ)新たな化石燃料開発
  ①米国
   米:連邦大陸棚の石油ガス採掘のためのリース入札が無期限遅延へ 原文 2/14
 (エ)原子力の取り扱い
  ①EU
   EC が原子力と天然ガスに関する EU Taxonomy の基準を発表 原文 2/15
 (オ)石炭の取り扱い
  ①中国
   中国国家発展改革委:新たに3か所の大規模石炭鉱山の開発を承認 原文 2/16
 (カ)各国のエネルギー戦略
  ①フランス
   仏:新規原子炉6基を含む長期エネルギー計画を発表 原文 2/3
3.海運の脱炭素化
 (ア)市場原理に基づく措置:MBM
  ①EU ETS
   INTERCARGO: EU ETS に関する欧州議会の改正提案を注意深く歓迎 原文2/1
   EU ETS: 欧州議会提案と海運業界の反応についてまとめ 原文 2/3
  ②GHG 排出課税
   マースク:MEPC 78 に向けて海運脱炭素化対策の強化を要求 原文 2/7
 (イ)港湾
  ①陸上電源の整備
   Wood Mackenzie: 2022年の CCUS と水素開発の見通し 原文 2/2
   Our Ocean Summit: 2028年までに主要港湾で陸上電源を整備 原文 2/8
 (ウ)海運企業・業界団体の考え方
  ①英国船主協会
   英国船主協会会長:IMO 事務局長に対し勇気と指導力の発揮を要求 原文 2/7
 (エ)代替燃料
  ①バイオ燃料
   DB Schenker と CMA CGM が連携して脱炭素海運輸送サービスを開始 原文2/18
 (オ)環境団体の考え方
  ①Transport & Environment
   T&E: 2030年までに EU の船舶の1/4がLNG燃料船に 原文 2/8
4.気候変動
 (ア)氷河・海氷の減少
  ①南極海
   南極大陸周辺の海氷が衛星観測が始まって以来最低の水準に 原文 2/17
 (イ) IPCC
  ①第2WG 報告書
   IPCC 第2WG 報告書の中のショッキングな数字 原文 2/24
 (ウ)海面上昇
  ①海岸侵食
   英国における海岸線の17%が海面上昇により深刻な浸食を受ける 原文 2/2
 (エ)山火事
  ①予防対策
   UNEP: 2100年までに山火事が世界で50%増加 原文 2/18
 (オ)メタン
  ①濃度上昇の原因
   NOAA: 大気中のメタン濃度が産業革命前の3倍に 原文 2/4
  ②化石燃料生産に伴う漏出
   石油・ガス・石炭産業から公式発表より70%以上多いメタンが排出 原文 2/18
 (カ)異常高温
  ①発生頻度
   IPCC: 気候変動の影響と適応策に関する第2WG 報告書を発表 原文 2/21
5.気候変動緩和対策
 (ア)戦略
  ①実態調査
   世界を代表する 25 社の炭素中立目標の大半は不誠実 原文 2/1
 (イ)GHG 排出に伴う社会・経済コストの算定
  ①米国
   米連邦裁:オバマ時代の「気候リスク算定方法」の使用を禁止 原文 2/3
   米連邦地裁の判決によって多くの政府事業が停止を余儀なくされる 原文 2/16
 (ウ)製造業のエネルギー効率の促進
  ①中国
   中国の新たなエネ効率化5か年計画によって重工業の寡占化を促進 原文 2/7
6.海洋環境
 (ア)海洋プラスチックごみ
  ①回収技術
   バルチラとグリマルディがスクラバー排水からマイクロプラを除去 原文 2/14
  ②マイクロプラスチック
   カリフォルニア州が全米で初のマイクロプラスチック戦略を発表 原文 2/17
 (イ)海中騒音
  ①海洋生物が発生する音声のデータベース
   海洋生物の音声を収集した世界的なデータベース創設の必要性 原文 2/10
 (ウ)医薬品による汚染
  ①汚染状況調査
   海洋に流れ込んだ人間の医薬品で魚が汚染 原文 2/28
7.安全保障
 (ア)ウクライナ
  ①海運
   黒海を運航する船舶に対する保険料が急騰 原文 2/21
   世界の約半分のコンテナ会社がロシアへの運航を停止 原文 2/22
   英国:ロシア関係船舶の英国港湾寄港を禁止 原文 2/22
   EU:ロシア関係船舶の EU 港湾入港禁止を検討 原文 2/24
   IMO: ウクライナ問題で緊急理事会を招集 原文 2/25
   海運・船員をめぐるウクライナの情勢 原文 2/28
  ②航空
   ウクライナ情勢に伴う民間航空に関する各国・航空会社の対応 原文 2/18
   ウクライナ問題が欧州の航空会社に追い打ち 原文 2/25
  ③石油ガス
   世界の大手石油メジャーがロシアの事業から撤退・新規投資の中止 原文 2/22
8.競争政策
 (ア)コンテナ海運
  ①米国
   米司法省:物流混乱に乗じた反競争的共謀行為に対する取締を強化 原文 2/9
  ②EU
   CLECAT: EC 競争当局にコンテナ海運に対する調査の開始を求める 原文 2/10
9.海賊
 (ア)ソマリア
  ①CGPCS
   国連ソマリア海賊コンタクトグループが役割と名称を変更 原文 2/15
 (イ)シンガポール海峡
  ①ReCAAP
   ReCAAP: シンガポール海峡における窃盗事件について警告 原文 2/15
10.パンデミック
 (ア)船員交代
  ①国際機関の対応
   IMO/ILO/UNCTAD/WHO が船員交代問題で声明を発表 原文 2/21
  ②国際労働条約の順守
   ICS: 各国に船員に対する適切な医療行為の提供を要請 原文 2/25
11.生物多様性
 (ア)沿岸域の保全
  ①保全状況の調査
   世界の沿岸域で良好な環境に保たれているのは16%のみ 原文 2/1
 (イ)BBNJ
  ①High Ambition Coalition on BBNJ
   One Ocean Summit: High Ambition Coalition on BBNJ が結成 原文 2/4
 (ウ)One Ocean Summit
  ①Brest Commitments for Ocean
   One Ocean Summit: 「海洋に関するブレスト誓約」 原文 2/8
12.航空の脱炭素化
 (ア)水素を燃料とする航空機
  ①エアバス
   エアバス:2026年に水素燃料のジェットエンジンを実機試験 原文 2/16
13.環境問題一般
 (ア)プラスチック
  ①使い捨てプラスチック
   世界の 3/4 の消費者が使い捨てプラスチックの禁止を支持 原文 2/16
14.海洋科学
 (ア)海底地形図
  ①UNESCO
   UNESCO: 2030年までに全世界の海底の80%の地図を作製 原文 2/7
15.気候変動適応対策
 (ア)COP27
  ①米国
   米国とエジプトが地球環境問題で共同WGを設置 原文 2/15