週刊国際海洋情報(2022年2月26日号)
- 1.黒海を運航する船舶に対する保険料が急騰
- 2.IPCC:気候変動の影響と適応策に関する第2WG報告書を発表
- 3.世界の約半分のコンテナ会社がロシアへの運航を停止
- 4.英国:ロシア籍船・ロシア関係者が所有/運航する船舶の英国港湾寄港を禁止
- 5.米大統領:一般教書演説でコンテナ海運アライアンスを名指しで非難
- 6.EU:ロシア関係船舶のEU港湾入港禁止を検討
- 7.国連環境総会:プラスチック汚染に関する国際条約交渉開始を決議
- 8.ICS:ILOの声明を受け、各国に船員に対する適切な医療行為の提供を要請
- 9.ウクライナ問題が欧州の航空会社に追い打ち
- 10.IMO:ウクライナ問題で緊急理事会を招集
- その他のニュース
1.黒海を運航する船舶に対する保険料が急騰
船主は年間の戦争保険料に加えて、「リスクが高い」と指定された海域において船舶を運航する際には、「違反保険料」を支払う必要がある。この違反保険料金は、7日間ごとに、船舶の価値などを用いて算定される。ロシアによる侵攻が始まる前は、この1週間分の違反保険料は船価(保険も補償額)の0.025%程度だったが、侵攻後は1%から2%、場合によっては5%まで上昇し、船舶の行き先にもよるが、船主は莫大な違反保険料を支払うこととなる。2月25日には、オデッサ港のそばでモルドバ籍の化学タンカーがミサイル攻撃を受けて、2名の乗務員が重傷を負い、24日は、オデッサ沖でトルコ籍の船舶が爆撃されたが、けが人はなく、ルーマニア領海に避難した。ウクライナ政府はトルコ政府に対して、ダーダネルス・ボスポラス海峡を通過して、黒海に入るロシアの軍艦の通行を止めてほしいと要請しているが、トルコはこれに応じていない。ウクライナ軍は同国内の港湾の商船の活動の停止を命じているが、ロシアの黒海沿岸のノヴォロシースクなどの港湾は現在も商船に対して開港している。
原文
Reuters (02/21)
2.IPCC:気候変動の影響と適応策に関する第2WG報告書を発表
2月28日、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、標記報告書を発表したところその概要は以下のとおり。①気候変動による大規模な被害は既に発生しており、我々の食料・エネルギー・交通・政治・社会など広範な変革が必要。②産業革命以前と比較して、気温が1.5℃以上上昇すると、影響が急拡大するが、地球の気温は既に1.1℃上昇しており、20年以内に、1.5℃以上上昇する見込みである。③気温が1.5℃上昇すると、陸上の生物の3-14%は絶滅するが、海面上昇によって沿岸部の生態系が最も影響を受ける。④国連生物多様性条約は世界の30%を保護区にする必要があるとしているが、現状では、陸上の15%以下、平水域の21%、海洋に至っては8%しか保護区に指定されていない。⑤猛暑や他の異常気象に伴う直接的な健康被害に加えて、水の汚染や蚊の増加による伝染病の蔓延、途上国における栄養不足、海面上昇や破壊的な天候による食糧生産の減少に見舞われる。⑥異常気象の影響は予測していたのより早くやってくるので、これまでとおり人々が同じ土地で持続可能な生活を続けるためには迅速な対応が必要で、残された時間は少ない。
原文
Reuters (02/21)
3.世界の約半分のコンテナ会社がロシアへの運航を停止
マースク・MSC・Hapag Lloyd・ONEの大手コンテナ海運4社はロシアへのコンテナ船の運航を中止すると発表した。この結果、ロシアからの重要な輸出物であるアルミニウムなどの価格がさらに高騰する可能性があるが、ロシアを経済的な孤立に追い込み、ロシアの企業は食料・金属・衣料品・電化製品などを輸入する新たな方法を見つけ、輸出品を運ぶ船舶を見つけなくてはならず、高い運賃を支払うなどロシアの消費者物価を押し上げることとなる。今回輸送を停止したコンテナ海運会社4社合計の世界のコンテナ輸送シェアは47%にのぼり、ロシア発着のコンテナ貨物の量は世界全体のコンテナ貨物の約3%となる。コンテナ海運会社の決断は、ウクライナの港湾が全て閉鎖されたことにもよるが、現在の情勢にかんがみ、多くの貿易が控えられていることにもよる。ルーブルの価値の下落と併せて、いくつかの電化製品などはロシア国内ですでに約30%値上がりしている。
原文
Yahoo Finance (Bloomberg)(02/21)
4.英国:ロシア籍船・ロシア関係者が所有/運航する船舶の英国港湾寄港を禁止
英国政府は追加制裁措置として、ロシア船籍・ロシアと関係する人間/企業等が所有/運航する船舶の英国港湾への寄港を禁止した。また取り締まり当局に、ロシア船を拘束する権限も新たに与えた。その他の追加措置としては、英国人・英国の企業に対し、ロシア中央銀行・ロシア財務省・国家年金基金に金融サービスを提供することを禁じた。
原文
英国政府 (02/22)
5.米大統領:一般教書演説でコンテナ海運アライアンスを名指しで非難
バイデン大統領は、大手の海運会社が、相互に輸送スペースを融通しあうことによって、運賃を吊り上げ、物価上昇の元凶となっているとして、コンテナ海運会社に対する政府の監督権限を強化すると3月1日発表した。演説では、「会社が競争をしなければ、会社の利益は積みあがる一方で、中小企業や家族経営の農家・牧場主が割を食うことになる。アメリカ発着の外航海運でまさにこれが起こっている。すべて外国船社によって構成される3つの世界的な海運アライアンスが、殆どの外航海運貨物を支配し、米国の事業者や消費者に対し、運賃を引き上げる力を持ち、米国の国家安全保障と競争力を脅かしている。」と述べた。昨年7月に出された競争振興を目的とする大統領令によって、連邦海事局と司法省競争当局は、既に情報共有協定を締結しているが、2月28日に、ホワイトハウスが発表した声明によれば、海運会社が海運法などの米国内法に違反していないか調査をするタスクフォースを近日中に両者で設置する見込み。
原文
S&P Global (02/24)
6.EU:ロシア関係船舶のEU港湾入港禁止を検討
英国は既に2月28日、ロシアが保有・運航・支配・用船・登録する船舶の英国港湾への入港を禁止した結果、ロシアのソブコムフロトが運航するマーシャル諸島籍のタンカーが英国に入港するのを断念して、デンマークに行き先を変更した。さらに、同社とヤマルLNGが運航するLNG運搬船が現在仏に向かっている。
デンマーク外務省によれば、EUの外務大臣は2月27日、EUの港湾をロシア船に対して閉鎖する可能性について議論を行った。仏政府の職員は、さらなる制裁措置の追加を検討する中で、EUの港湾の閉鎖も選択肢の一つだが、追加制裁措置は、EU諸国に対する影響よりロシアに対する影響の方がはるかに大きい措置を選ぶべきとコメントしている。ギリシャ政府の関係者は、制裁問題についてEUが決定したことについて従うとコメントしている。欧州議会は、3月1日、法的拘束力はないが、ロシア船のEU寄港を原則として禁ずる決議の採決を実施して、政府に圧力をかける見込み。
原文
Reuters (02/24)
7.国連環境総会:プラスチック汚染に関する国際条約交渉開始を決議
ナイロビで開催された第5回国連環境総会は、175か国から首脳・大臣等が参加し、プラスチックの生産・再使用/リサイクル可能なデザイン・処分を含めたプラスチックのライフサイクル全般を規制する新たな国際的に法的拘束力のある国際条約案を2024年までにまとめるため、政府間交渉委員会(INC)を設置する「プラスチック汚染停止」決議を3月2日採択した。国連環境計画(UNEP)は本年末までに、第1回INCとともに、世界のすべての関係者がプラスチック問題に関する知識とベストプラクティスを共有するためのフォーラムを開催する。UNEP事務局長は、2年間の条約交渉と並行して、積極的な政府や業界の代表と協力して、使い捨てプラスチックの削減・民間投資の促進・新たな循環経済への投資の促進を図っていくと表明した。
原文
UNEP (02/24)
8.ICS:ILOの声明を受け、各国に船員に対する適切な医療行為の提供を要請
国際労働機関(ILO)の海事労働条約(MLC)の適用に関する専門家委員会は、寄港地における船員に対する医療提供・病気の船員の下船・死亡した船員の遺体の積み下ろしと本国送還を拒否するといった条約に反する事例について報告を行い、これを受けて、労使官を代表する特別第3者委員会は、パンデミックを不可抗力(force majeure)として、MLC上の船員の権利を認めないことは許されないとして、条約に基づいた適切な医療行為の提供等を求める声明を2月11日発表した。国際海運界会議所(ICS)は、この声明を全面的に支持し、全政府に対して、船員を基幹労働者として認定し、適切な医療を提供し、船員に対しワクチンを優先接種するよう要請する。ICSは今週、船舶の運航会社向けに、改訂された最新の船員の健康福祉、ワクチン接種に関するベストプラクティスを解説した医療ガイダンスを発表する。
原文
ICS (02/25)
9.ウクライナ問題が欧州の航空会社に追い打ち
2月27日、欧州委員会の委員長は、ロシアが保有または運航している航空機のEU上空の飛行を禁じた報復措置として、ロシアはEU加盟国の航空機がロシア上空を飛行することを禁じた。この結果、EU諸国とロシアの間のフライトが約50便キャンセルされるとともに、ロシア上空を通常通過する航空機についても、約90フライトがキャンセルまたは飛行ルートの変更を余儀なくされている。紛争ぼっ発後EU諸国とウクライナの間を結ぶ約230のフライトについても運航が停止している。ロシア・ウクライナ上空を回避して飛行することによって、欧州の航空会社は追加の所要時間と燃料コストの負担を強いられている。例えば、ヘルシンキから東京までのフライトでは、追加で2137マイルも長く飛行しなくてはならなくなった。北部欧州から中国・日本に避航する場合4時間、南部欧州からは2時間の追加飛行時間が必要となっている。
原文
Euractiv (02/25)
10.IMO:ウクライナ問題で緊急理事会を招集
2月24日のロシアによるウクライナ侵攻を機に、多くの海運会社がウクライナの黒海沿岸の港湾への運航を停止し、運航を続ける船舶に対する船舶保険料も急騰している。すでに何隻かの商船が攻撃をうけ、3月3日にはオデッサ港でエストニア籍の貨物船が撃沈され、他の港湾でもバングラデシュ籍の船舶がミサイルまたは爆弾で攻撃を受けた。こうした状況をうけて、15か国を超すIMOの加盟国が、黒海の船舶の運航と船員の安全確保について討議するために、緊急理事会を開催することをIMOに対して要請したため、IMOは急遽10日と11日に緊急理事会を開催することを3月4日発表した。マーシャル諸島は、3月3日にアゾフ海と黒海北西部を最も危険な海域に引き上げ、自国籍船に対して同海域に侵入しないように警告を発出し、国際運輸労連も3月2日、黒海とアゾフ海を「疑似戦闘海域」に指定したため、船員は同海域に航海するのを拒否することができるようになった。
原文
Reuters (02/25)
その他のニュース
1.再生可能エネルギー
(ア)グリーン水素
①洋上生産
ABS白書:再生可能なグリーン水素の洋上生産 原文2/21
(イ)電力消費量に占める再生可能エネルギーの割合
①ドイツ
独:2035年までに全電力を再生可能エネから発電する計画を発表 原文2/22
②米国
米国の再生可能エネルギー発電比率が13%に上昇(2021年実績) 原文2/25
2.気候変動
(ア)IPCC
①第2WG報告書
IPCC 第2WG 報告書の中のショッキングな数字 原文2/24
3.パンデミック
(ア)船員交代
①国際機関の対応
IMO/ILO/UNCTAD/WHOが船員交代問題で声明を発表 原文2/21
4.安全保障
(ア)ウクライナ
①石油ガス
世界の大手石油メジャーがロシアの事業から撤退・新規投資の中止 原文2/22