週刊国際海洋情報(2022年2月12日号)
- 1.マースク:MEPC 78に向けて海運脱炭素化対策の強化を要求
- 2.英国船主協会会長:IMO事務局長に対し勇気と指導力の発揮を要求
- 3.One Ocean Summit:米仏が海洋プラスチックごみ削減で共同声明
- 4.One Ocean Summit:「海洋に関するブレスト誓約」
- 5.中国の洋上風力発電能力:2021年だけで約2.8倍に急増
- 6.IPCC:気候変動の影響・適応・脆弱性に関する第2WG報告書の審議を開始
- 7.米司法省:物流の混乱に乗じた反競争的共謀行為に対する取締を強化
- 8.NOAA:今世紀末までに米国沿岸の海面が平均60cm上昇
- 9.独:再生可能エネ発電の拡充のためには送電網への莫大な投資が必要
- 10.CLECAT:欧州委員会競争当局にコンテナ海運に対する調査の開始を求める
- その他のニュース
1.マースク:MEPC 78に向けて海運脱炭素化対策の強化を要求
マースクは、2月10日、世界海運協議会(WSC)によるMEPC78提出文書として以下の事項について、IMO加盟国の対応を求めた。①再生可能代替燃料は化石燃料を原料とした燃料と比較して、2-3倍価格が高いので、炭素中立燃料に価格競争力を持たせるため、(化石燃料から排出される)GHGに対して十分な課金をすべき。②化石燃料から排出されるGHGの算定に当たってはライフサイクル評価(LCA)が重要であり、IMOにおいて適正なLCAガイドラインについて合意されることが重要。③化石燃料のみを燃料とする新船の建造を禁止すべき。④COP 26においてClydebank Declarationが宣言されたとおり、定期船のエネルギー転換のためには、低炭素燃料の供給を受けられる港湾のgreen corridorsの整備が必要で、IMOにおいて「低GHG燃料に関する基準」を早期に設定することが重要。
原文
Maersk(02/07)
2.英国船主協会会長:IMO事務局長に対し勇気と指導力の発揮を要求
2月7日に行われた英国船主協会会長の年次晩餐会におけるスピーチの概要は以下のとおり。①IMOにおいてはGHGの排出を技術的に抑制することに努めてきたが、今や目標は、技術的排出抑制から2050年までのGHG排出の撤廃に変わった。②この目標を達成するためには、直ちに市場原則に基づく措置(MBM)が必要。③(IMO事務局長に対し)SGは勇気と指導力を発揮して、IMO加盟国を含む関係者に直ちにMBMを導入する必要性を理解させるべきである。④MBMは収入を上げるために必要なのではなく、変化を促すために必要であり、各国や業界は己の利害を捨て、IMOがMBMを創設するのを支援すべき。⑤(英国の海運大臣に対し)IMOにおいて進展が見られないため、加盟国はIMOが世界共通のGHG削減策を創設・実施する能力がないのではないかと、IMOに対する信頼を捨てつつあり、英国もEUの例に倣って、地域的なETS制度を創設したくなるのは理解できるが、そのような地域的な制度は英国の海運業界に重い負担を課し、貿易を縮減させ、不平等な結果を生むことを忘れてはいけない。
原文
英国船主協会 (02/07)
3.One Ocean Summit:米仏が海洋プラスチックごみ削減で共同声明
標記共同声明の概要は以下のとおり。①米仏両国は海洋プラスチックごみ問題について国際的に取り組まなくてはいけない課題であり、プラスチックの発生源における取組が重要であることを認識し、来る第5回国連環境総会(UNEA)において、プラスチック問題と循環経済に関する新たな国際合意について協議を開始することを支持する。②合意は法的拘束力のあるものも法的拘束力のないものも広く含み、参加国にプラスチック問題に関する野心的な国家行動計画を作成・実行することを求めるとともに、国家の活動を補完するため、プラスチック問題のすべての関係者が、プラスチック問題に熱心に取り組むことを奨励する。③米仏両国は、他の諸国とも協力して、UNEAにおいて、以上のような国際合意の形成が成功裏に達成されるよう期待する。
原文
White House (02/08)
4.One Ocean Summit:「海洋に関するブレスト誓約」
世界の過半数のEEZを所管する100を超える諸国の代表と、国連事務総長・UNESCO/IMOの事務局長などが参加して、「海洋に関するブレスト誓約(Brest Commitments for the Oceans)」が採択されたところその概要は以下のとおり。①生物多様性と海洋資源の保全:世界の陸上と海洋の30%以上を保護区に指定することを目指すHigh Ambition Coalition for Nature and Peopleに新たに30か国以上が参加し、合計参加国数が84か国となる。②海運から派生する環境被害の削減:船舶から排出される海中騒音・大気汚染物質・GHG・水生侵略性生物・残滓・油・船舶リサイクルの8分野について、22の欧州の船主が新たなGreen Marine Europeラベルを作成することに合意。③海洋プラスチックごみの削減:欧州復興開発銀行・欧州投資銀行・仏/独/伊/西の開発銀行が、海洋プラスチックごみを減らすためのClean Oceans Initiativeに対して、共同で2025年までに40億ユーロ(5280億円)を支援。
原文
仏大統領府 (02/08)
5.中国の洋上風力発電能力:2021年だけで約2.8倍に急増
世界洋上風力発電フォーラム(WFO)の年次報告書によれば、再生可能エネルギーへの世界的なシフトによって、2021年には、全世界で15.7GW分の洋上風力発電施設が新設されたが、その約8割にあたる12.7GWが中国で建設され、2021年末で中国国内の洋上風力発電能力の合計は、19.7GWと対前年比約2.8倍となり、世界第2位と3位の英国とドイツの洋上風力発電能力を合計した量とほぼ同じとなった。昨年中国でこのような洋上風力発電が急拡大した原因は、洋上風力発電事業者が、中国政府から0.75-0.85元(約14円)/kWhの固定価格(Feed-In Tariff)で20年間全量買い取ってもらうための洋上風力発電施設の電力網への接続期限が昨年末までだったためで、今後数年間は年間5GW程度のより安定した成長が続くと見込まれる。2021年末における他の諸国における洋上風力発電能力は、英国(12.2GW)・ドイツ(7.7GW)・オランダ(3GW)・デンマーク(2.3GW)・ベルギー(2.6GW)の順番となっており、世界全体で48.2GWで、中国は19.7GWなので、世界全体の洋上風力発電能力の41%を保有していることとなる。
原文
The Maritime Executive (02/09)
6.IPCC:気候変動の影響・適応・脆弱性に関する第2WG報告書の審議を開始
気候変動に関する国際パネル(IPCC)は、第6次評価書の前提となる気候変動の進行状況を分析した第1作業部会の報告書を2021年8月に発表したが、2月14日、IPCCは気候変動の影響・適応・脆弱性に関する第2WG報告書の審議を開始し、25日までに検討・承認する見込み。より具体的には、報告書の概要版である「政策決定者に対する要約」を1行ずつ、加盟国の政府代表が報告書を作成した科学者と協議しながら、要約が正確で、バランスが取れており、報告書本文中の科学的結論が明確に説明されているか確認する作業を行った後に、最終的に第55回IPCC総会で第2WGの報告書が承認されることとなる。パンデミックが継続していることから、第1WGの報告書の時と同様審議はオンラインで実施される。報告書は3.4万件以上の科学的研究をもとにして記述された。今後の作業スケジュールとしては、第3作業部会の報告書が4月初旬までに最終承認され、3つの作業部会報告書が統合された第6次評価書は9月までに最終化される見込みとなっている。
原文
IPCC (02/09)
7.米司法省:物流の混乱に乗じた反競争的共謀行為に対する取締を強化
世界的なパンデミックによって生じたサプライチェーンの混乱によって一時的に生じた物価の高騰がその後も継続していることにかんがみ、司法省の不公正取引部とFBIは、2月17日、サプライチェーンの混乱に乗じて、共謀して、価格カルテル・談合・市場の分割などの反競争的な行為に従事する者をあぶりだし訴追するキャンペーンを始めると発表した。不公正取引部は、既に開始されている調査を優先的に進める一方で、世界的な規模で行われている共謀行為の調査のために、豪・加・NZ・英の競争当局と連携して調査するための作業部会も設置する。輸送の制約・通常のビジネス実施の障害・原料調達の困難化などによって製品の製造や輸送コストが増加し、最終的には消費者物価を押し上げている。価格カルテル・談合・市場の分割に関する協定やその他の反競争的な行為に関する情報を持つ者はだれでも、不公正取引部の市民不平センターに届け出ることができる。
原文
米国司法省 (02/09)
8.NOAA:今世紀末までに米国沿岸の海面が平均60cm上昇
米国国土安全保障省・NASAなどの関連する米国政府機関が連携し、米国全土と米国の海外領における2150年までの海面上昇の見通しを米国海洋大気庁(NOAA)が「2022年海面上昇に関する技術報告書」として取りまとめられたところその概要は以下のとおり。①2020年から2050年までの間に、米国の海岸においては、過去100年分の海面上昇をしのぐ、平均して25-30cmの海面上昇が発生する。②この結果、台風や高潮によって発生する中規模の洪水が発生する頻度は、2050年には現在の10倍以上となる。③現在までに排出されたCO₂による温暖化効果によって、2100年までには60cmの海面上昇が発生し、もし、今後のCO₂排出削減に失敗すれば、同年までに1.1mから2.1m海面が上昇する。
原文
NOAA (02/10)
9.独:再生可能エネ発電の拡充のためには送電網への莫大な投資が必要
EUが2050年までに炭素中立を達成するためには、欧州のエネルギー供給に占める電力のシェアを現状の約2倍にする必要があると欧州委員会は試算しており、増加する風力や太陽光などの不安定な再生可能電力を受け入れるために、送電網の柔軟性を高める投資が必要となる。11月に発足した独の新連立政権の政策綱領によれば、2030年までに国内発電量の80%を再生可能電力で賄うと合意されているが、多くの風力発電施設はバルト海に近い独北部にある一方で、電力を多く消費する産業の多くは独南部に位置しており、北部から南部へ送電するために全長1.21万kmの送電網の建設が計画されているが、現在供用開始されているのは1800kmの高圧線のみで、建設中のものが700か所あるが、大多数はまだ計画段階で遅れが目立っている。高圧線の増設だけで2030年までに550億ユーロ(約7.2兆円)の投資が必要で、全体の送電網の強化のためにはさらに追加投資が必要となる。こうした高額な投資だけではなく、送電線を整備する地域の農民や野鳥保護団体からは、生物多様性の保全を理由として、送電網建設反対の法廷闘争が進められている。
原文
Euractiv (02/10)
10.CLECAT:欧州委員会競争当局にコンテナ海運に対する調査の開始を求める
欧州のフォワーダーの業界団体であるCLECATは欧州委員会の競争担当のコミッショナーに書簡を送り、コンテナ海運に対する競争の適用除外措置の見直し等を求めたところその概要は以下のとおり。①コンテナ海運会社は、輸送力を管理し運賃を上げ、利益を上げるだけでなく、物流の垂直統合を目指し、独立系のフォワーダーを差別し排除することによって、荷主や最終消費者も高い運賃を受け入れ、船社の選択権を奪っている。②EUの競争当局は直ちに調査に入って、物流の上流であるコンテナ海運輸送と、下流である貨物フォワーディングの分野において、寡占やカルテル行為の程度を明らかにすべきである。③欧州委員会は、コンテナ海運会社が競争法の適用除外・物流の垂直統合・合併・情報の管理などの要素を組み合わせることによって市場を支配していることについて、EU競争法やコンソーシアムに対する一括適用除外規定(CBER)の見直しの観点から、早急に調査を行うべきである。④コロナの蔓延期間中、コスト引き上げ要因が無いにもかかわらず、海運会社は運賃を急激に引き上げ、2000億ドルを超す利益を上げていることについても、欧州委員会は調査を開始すべきである。
原文
CLECAT (02/10)
その他のニュース
1.エネルギー転換
(ア)エネルギー価格の高騰
①欧州
欧州のエネルギー価格:2023年まで高水準かつ乱高下が続く見通し 原文2/9
2.海運の脱炭素化
(ア)港湾
①陸上電源の整備
Our Ocean Summit: 2028年までに主要港湾で陸上電源を整備 原文2/8
(イ)環境団体の考え方
①Transport & Environment
T&E: 2030年までにEUの船舶の1/4がLNG燃料船に 原文2/8
3.気候変動緩和対策
(ア)製造業のエネルギー効率の促進
①中国
中国の新たなエネ効率化5か年計画によって重工業の寡占化を促進 原文2/7
4.海洋環境
(ア)海中騒音
①海洋生物が発生する音声のデータベース
海洋生物の音声を収集した世界的なデータベース創設の必要性 原文2/10
5.海洋科学
(ア)海底地形図
①UNESCO
UNESCO: 2030年までに全世界の海底の80%の地図を作製 原文2/7