週刊国際海洋情報(2022年2月5日号)
- 1.McKinsey:The net-zero transition報告書
- 2.ロッテルダム港:港内物流のCO₂を把握するデジタルプラットフォームを創設
- 3.世界を代表する25社の炭素中立目標の大半は不誠実
- 4.INTERCARGO:EU ETSに関する欧州議会の改正提案を注意深く歓迎
- 5.Wood Mackenzie:2022年のCCUSと水素開発の見通し
- 6.One Ocean Summit:仏CMA CGMがプラスチックごみの輸送停止へ
- 7.仏:新規原子炉6基を含む長期エネルギー計画を発表
- 8.米国ヴァージン諸島に新たな米国第2船籍制度が発足
- 9.デンマーク船主協会:EU ETSの適用範囲をGHG全般に拡大すべき
- 10.英国MCA:洋上風力発電施設要員の海上輸送に関し規制緩和を実施
- その他のニュース
1.McKinsey:The net-zero transition報告書
1月25日、マッキンゼーが標記報告書を発表したところその概要は以下のとおり。①脱炭素化のために効果的な行動としては、(i)エネルギー源を化石燃料から水素などの低炭素エネルギーに切り替えていく。(ii)生産業や農業の適応化を図る。(iii)エネルギー効率を向上させ需要の管理を図る。(iv)循環経済を促進する。(v)生産するのにあまりエネルギーを必要としない製品を消費する。(vi)炭素回収・活用・貯留(CCUS)技術の普及を図る。(vii)天然のGHG吸収源を強化する。②以上の炭素中立への転換は、それぞれのシステム・経済分野・国境を越えて、整合性を取りながら、大規模に取り組むことが重要である。③例えば、電気自動車の開発は、低炭素発電能力の向上と相まって初めて意味がある。④したがって、炭素中立を達成するためには、地球上のすべての産業分野と国々が参加する世界経済の変革が必要となる。
原文
McKinsey (01/31)
2.ロッテルダム港:港内物流のCO₂を把握するデジタルプラットフォームを創設
ロッテルダム港湾庁は、物流から発生するCO₂を把握する専門企業のBigMileと連携して、同港湾内の物流活動から発生するCO₂を管理するためのデジタルプラットフォームを立ち上げると2月2日発表した。AISの情報などをもとに、TNO計算モデルを利用して、物流から排出されるCO₂の量を正確に計算する。このプラットフォームの情報によって、参加企業は、自社のサプライチェーン全体でどれだけのCO₂が発生しているかが把握できるようになり、ロッテルダム港湾庁や参加企業が炭素中立目標を達成することを支援する。第1段階は、同港に寄港する外航船と内航船を対象にして試行的に実施され、第2段階として、同港に出入りするトラックや鉄道輸送も対象に含めることとなる。本年上半期に得られた試行データは、本年下半期に海運会社やターミナル運営会社にも共有される予定。
原文
ロッテルダム港湾庁 (01/31)
3.世界を代表する25社の炭素中立目標の大半は不誠実
2月7日発表されたCorporate Climate Responsibility Monitor 2022によれば、世界を代表する業種も国籍も異なる25の大企業の脱炭素化目標の透明性と具体的かつ短期的なCO₂削減目標に裏打ちされた有用な長期的なビジョンを持っているかという誠実性(integrity)の観点から評価したところ、わずかに1社(マースク)の脱炭素化計画が「妥当に誠実」、3社(Apple・ソニー・Vodafone)が「まあまあ誠実」、10社が「不誠実」、12社が「極めて不誠実」と評価された。調査対象のうち、13社は具体的なCO₂削減目標を持ったうえで炭素中立を宣言しているが、これら13社のバリューチェーン全体で見たCO₂の平均的な削減率は対2019年実績比で、わずかに40%削減にとどまった。残りの12社は、具体的なCO₂削減計画をいまだ立てていない。バリューチェーン全体のCO₂の90%以上を削減することを明確に約束しているのは、マースク・Vodafone・Deutsche Telecomの3社だけで、5社はバリューチェーン全体のCO₂排出量を考慮に入れないで自社のみのCO₂排出量をわずかに15%以下削減するとしか約束していない。
原文
New Climate (02/01)
4.INTERCARGO:EU ETSに関する欧州議会の改正提案を注意深く歓迎
INTERCARGOは2月4日、現在欧州議会で審議されているEU ETS(海運部分)の改正案についてコメントを発表したところその概要は以下のとおり。①海運の脱炭素化については、IMOにおいて世界共通の対策を議論すべきであり、EU ETSに海運が取り込まれることについては反対であるという基本的な立場を維持するものの、欧州議会において、報告者が提案している欧州委員会の提案に対する改正案は、欧州委員会の案と比較して、以下の点で正しい認識を示していると考える。②第一に、ばら積み貨物船の場合、船舶から排出されるCO₂の排出量に直結する燃料の種類を決定し、船舶の運航速度や経由港を管理するのは用船者であり、排出権の購入義務者の範囲を「汚染者負担の原則」に従い、用船者に拡大する提案を支持する。③第二に、海運分野から徴収されるETSの収益を、海運脱炭素化のための研究開発を支援する「海洋基金」の財源とする案も賛成する。③ただし、排出権購入費用を用船者が負担するという条項を用船契約の中に明文化するという提案については、実際に実行するのは難しいと考える。
原文
INTERCARGO (02/01)
5.Wood Mackenzie:2022年のCCUSと水素開発の見通し
標記報告書の概要は以下のとおり。①2021年は炭素回収・利用・貯留(CCUS)と低炭素水素に関する新技術開発事業計画の発表が相次ぎ、CCUS事業計画は1年間で7倍に、低炭素水素に関する事業は倍増(新規事業の75%はグリーン水素)した。事業規模的にはGWベースで豪の事業計画が世界をリードした。②2022年中に最終投資決定を目指す15のCCUS事業については、公的資金と民間資金併せて、さらに約180億ドルの投資が必要となる。③水素に関しては、2021年中に、研究開発からインフラまで、水素のバリューチェーンのあらゆる分野に、全世界で660億ドルが投資された。④2022年中に最終投資決定のレベルまで、水素生産事業を進めるためには、さらに35-220億ドルの追加投資が必要となる。⑤米国では昨年11月にインフラ投資雇用法が成立し、CCUSと低炭素水素事業の支援に合計で150億ドルの政府支援が実施され、Build Back Better法案が成立すれば更なる大規模投資が期待される。⑥グリーンアンモニアは既存のインフラを活用でき、取り扱いに必要な技術もすでにあるので、グリーン水素を輸送する手段として、最も経済的な方法として着目されている。
原文
Wood Mackenzie (02/02)
6.One Ocean Summit:仏CMA CGMがプラスチックごみの輸送停止へ
仏のコンテナ海運会社のCMA CGMはプラスチックごみを年間約5万個のコンテナで輸送しているが、本年の国連環境総会(UNEA 5.2)においてプラスチックごみ問題に関する条約交渉が始まる見通しの中、2月11日、仏で開催されたOne Ocean Summitにおいて、プラごみの分類やリサイクルが十分に実施されていない国に、プラスチックごみが輸出されるのを防ぐため、本年6月からプラスチックごみの輸送を停止すると発表した。
原文
Reuters (02/03)
7.仏:新規原子炉6基を含む長期エネルギー計画を発表
2月10日、仏のマクロン大統領は、2050年までに太陽光発電を10倍の100GW以上に、新規洋上風力発電ファームを50か所建設して40GW以上に、EPR 2原子炉の6基建設を含む長期エネルギー計画を発表した。同大統領は、「40%エネルギー消費を節約したとしても、今後30年間で石油・天然ガスといった化石燃料の使用を中止するためには、現在化石燃料によって供給されているエネルギーの一部を電化する必要があり、現在の発電量と比べて、60%多い発電量を確保する必要がある。脱炭素化され、安全で、自国で生産できる電力を発電するため、複数の戦略が必要で、再生可能エネルギーについては、地元合意を得たうえで、必要な規制緩和を行い、2030年までに再生可能エネルギーのシェアを10%増やし、年末までに最初の洋上風力発電を稼働させ、多くの新規雇用を創出する。」と語った。
原文
Euractiv (02/03)
8.米国ヴァージン諸島に新たな米国第2船籍制度が発足
マサチューセッツにあるNortheast Maritime Institute(NMI)は私立の海事大学であるが、同大学の海洋政策経済センター(COPE)が作成した「米国の海上貿易・商業・戦略的競争力再活性化計画」に基づき、2月1日、米国領ヴァージン諸島に新たな国際Open Registryが開設された。COPEが最近発表した報告書によれば、「同諸島に独立した国際open registryを新設することにより、米国・外国によって所有・運航される商船の責任ある透明性の高い管理が可能となり、米国が様々な国籍の商船を管理下に置くことによって、国際便宜置籍制度の見直しが可能となる。国際貿易に特化した米国の第2船籍制度を持つことによって、米国籍船・米国の海事労働力を大幅に増加し、船員の安全性に関する国際基準を保持し、世界貿易への影響力を増し、海運の脱炭素化を促進し、米国海運への金融・投資・所有を誘発することができる。」としているが、船員労働組合は、第2船籍制度の創 設を強く批判する共同声明を発表している。
原文
gCaptain (01/27)
9.デンマーク船主協会:EU ETSの適用範囲をGHG全般に拡大すべき
デンマーク船主協会は、CE Delftに委託して、EUの海運のGHG排出政策の2本柱であるFuelEU MaritimeとEU ETSの対象範囲の整合性を取るために、後者の適用範囲を前者に合わせて、EU ETSに対象をCO₂だけではなく、すべてのGHGを対象とし、適用の対象も船舶運航に伴い排出されるGHGだけでなく、well to wakeベースで燃料の生産時に漏出するメタンなども含むべきとする報告書を発表した。現在のようにCO₂の排出だけを規制するETSでは、well to wakeベースで生産時にメタン発生量が多いLNGの使用や、メタン漏出量の多い機関の使用を許すことになると指摘している。
原文
The Maritime Executive (02/04)
10.英国MCA:洋上風力発電施設要員の海上輸送に関し規制緩和を実施
英国海事沿岸警備庁(MCA)と洋上風力産業界は、増大する洋上風力発電施設へ要員の輸送問題について、昨年の夏から協議を続けてきたが、MCAは2月9日、洋上の風力発電施設へ海上輸送できる人数の上限を大幅に緩和すると発表した。これまでは、洋上風力発電施設に要員を輸送する際には、船舶の大きさに関わらず、通常の旅客輸送と同じ基準に従い、最大可能輸送人員は12名だったが、今回の規制緩和で一気に、60人までの同時輸送が可能となる。現在英国内では、洋上風力発電施設に要員を輸送する船舶が約46隻存在する。他の諸国においても同様の規制緩和が既に実施されている。
原文
reNEWS.BIZ. (02/04)
その他のニュース
1.エネルギー転換
(ア)天然ガスの取り扱い
①EU
EU Taxonomy: 天然ガス・原子力の扱いについて独が提訴を検討 原文2/1
(イ)化石燃料開発投資の中止
①米国
バイデン政権:アラスカの新規石油開発許可に対する支持を再考へ 原文1/31
2.再生可能エネルギー
(ア)洋上風力発電
①英国
英国:差額決済契約の競争入札を2年に1回から毎年に変更 原文2/2
(イ)発電コスト
①英国
英国:エネルギー価格の上昇でエネルギー政策見直し議論が活発化 原文1/31
3.海運の脱炭素化
(ア)市場原理に基づく措置:MBM
①EU/ETS
EU ETS: 欧州議会提案と海運業界の反応についてまとめ 原文2/3
4.気候変動
(ア)海面上昇
①海岸侵食
英国における海岸線の17%が海面上昇により深刻な浸食を受ける 原文2/2
(イ)大気中のメタン濃度の上昇
①原因
NOAA: 大気中のメタン濃度が産業革命前の3倍に 原文2/4
5.気候変動緩和対策
(ア)GHG排出に伴う社会・経済コストの算定
①米国
米連邦裁:オバマ時代の「気候リスク算定方法」の使用を禁止 原文2/3
6.生物多様性
(ア)沿岸域の保全
①保全状況の調査
世界の沿岸域で良好な環境に保たれているのは16%のみ 原文2/1
(イ)BBNJ
①High Ambition Coalition on BBNJ
One Ocean Summit: High Ambition Coalition on BBNJが結成 原文2/4