週刊国際海洋情報(2022年1月29日号)
- 1.米国西岸の港湾労働者の1月のコロナ陽性者数が昨年1年分を上回る
- 2.国際商工会議所国際海事局(ICC/IMB)
- 2021年海賊年次報告書を発表
- 3.プラスチックから水中に多くの有害物質が滲出
- 4.ギリシャ船主協会:欧州議会の海運に関するEU ETS改正提案を支持
- 5.LA・上海港が太平洋を横断するGreen Shipping Corridorの設定に合意
- 6.2021年には12年ぶりに北極海両航路とも海氷が無い日がゼロ
- 7.海水温の上昇により2080年までに海洋の中深層の70%で酸素欠乏状態に
- 8.米国ヴァージン諸島に新たな米国第2船籍制度が発足
- 9.米国で国連海洋法条約批准への議論が再燃
- 10.米上院でも「外航海運改革法案」が超党派で提出
1.米国西岸の港湾労働者の1月のコロナ陽性者数が昨年1年分を上回る
米国西岸の港湾における港湾労働者の、1月の月間コロナ陽性者数が約1700人となり、昨年1年間の同地域における感染労働者総数の1624人を一月で上回ったと、米国西岸29港湾の70の会社を代表して、国際港湾倉庫労連(ILWU)と交渉する太平洋海事協会(Pacific Maritime Association)が発表した。1700人のうちの約8割の陽性者は2大港湾であるLA/LB港で発生している。2大港湾は、昨年から続いている混雑を緩和すべく努力を続けているところだが、このような港湾労働者の感染状況もあり、混雑の状況は本年いっぱい続く見込みである。両港は船社に対して、コンテナターミナルに一定期間以上、放置されているコンテナに対して、罰金を科すことを予告しており、その結果、ターミナルに放置されているコンテナ数は減ったが、空いたスペースにアジア向けに送り返されるのを待つ空コンテナが積みあがっている。
原文
gCaptain (Bloomberg) (01/24)
2.国際商工会議所国際海事局(ICC/IMB): 2021年海賊年次報告書を発表
1月13日、標記報告書が発表されたところその概要は以下のとおり。①2021年にIMBの海賊報告センターに寄せられた海賊と武装強盗の総数は、132件で1994年以来最低の件数となった。②内訳は、115隻が賊に乗船され、11隻が未遂事件で、5隻が銃撃され、1隻がハイジャックされた。③ギニア湾では、国際的な海軍の出動と地域政府との連携によって、事件数は2020年の81件から激減して34件になった。船員の誘拐事件数も、対前年比55%減少したものの、全世界で発生した誘拐事件のすべてがギニア湾で発生しており、7件の誘拐事件で合計57人の船員が誘拐された。④シンガポール海峡では、2021年には対前年比50%増の35件の事件が報告され、1992年以来最大の事件数が報告された。具体的には、ほとんどが窃盗目的だが、33隻が賊によって乗船され、2件の事故では、船員が1名ずつ負傷した。13件で賊がナイフで武装し、2件が銃で武装していた。
原文
ICC (01/24)
3.プラスチックから水中に多くの有害物質が滲出
ノルウェー科学技術大学の生物学の研究者によれば、自然界において、プラスチックに含まれている多くの化学物質が水中に滲出していることが判明した。プラスチックには最大で2万種類の異なる化学物質が含まれているが、これらの化学物質の多くは有害であるものの、我々はまだプラスチックが人類の健康にどれだけ有害かわかっていない。プラスチックに含まれる化学物質は、プラスチックが環境に流れ出すことなく、プラスチックである限りは有害ではないが、自然環境の下で、10日間、24種類の良くあるプラスチック製品を水につけた後に、水に含まれる科学物質とその有害性について分析したところ、すべてのプラスチック製品から化学物質が水中に滲出し、いくつかの化学物質は酸化ストレスを通じて細胞を損傷し炎症や慢性疾患の原因となることがわかった。
原文
Norwegian SciTech News (01/25)
4.ギリシャ船主協会:欧州議会の海運に関するEU ETS改正提案を支持
1月28日発表された標記声明の概要は以下のとおり。①ギリシャ船主協会(UGS)は欧州議会の報告者が提出した海運に関する欧州排出権取引制度(EU ETS)に対する改正案を歓迎する。②報告書では、海運分野のETSから得られる収入の最低75%を独立した「海洋基金」に分配して、海運の脱炭素化に投資されるべきとされている。③大手コンテナ船社の団体である世界海運協議会(WSC)が、欧州議会の報告書に反対しているのは残念なことである。コンテナ船社は、ETSのコストを含む脱炭素化のコストを荷主に簡単に転嫁できるが、(UGSが代表するばら積み・不定期船業界ではそのようなコスト転嫁は容易でない。)④USGは海上貨物の85%を輸送するばら積み・不定期船の船主の団体であり、多くの中小船主が完全な競争下で事業をし、価格決定権も持っていない。従って、船舶の用船者が「汚染者負担」の原則のもとに、ETSの負担もすべきで、負担者の範囲を拡大する欧州議会の提案を支持する。
原文
The Union of Greek Shipowners (01/25)
5.LA・上海港が太平洋を横断するGreen Shipping Corridorの設定に合意
ロサンゼルス港・上海港・気候変動対策に取り組む世界の市長連合であるC40は、世界中でも、最も荷動きの多い航路である米国最大の港湾であるLA港と中国最大の港湾である上海港との間の航路において、Green Shipping Corridorを設立し2022年末までに、どのようにCO₂の排出を実削するかについて具体的な実行計画であるGreen Shipping Corridor Implementation Planを作成することに合意した。具体的には、①2020年代を通じて、低・超低・ゼロ炭素燃料船を段階的に投入し、2030年までに能力と意欲のある海運会社によって、世界初の脱炭素コンテナ船を就航させる。②本航路を利用するすべての船舶がCO₂排出を削減し、エネルギー効率を向上するためのbest management practiceを作成する。③両港と周辺地域の大気汚染を改善するため、港湾の運用に伴うCO₂の排出を削減する。
原文
C 40 Cities (01/26)
6.2021年には12年ぶりに北極海両航路とも海氷が無い日がゼロ
北極圏は地球の他の地域の2倍から3倍のペースで温暖化が進んだ結果、2020年には、北極圏は記録的な高温を記録して、ロシア側の北極海北東ルートでは、海氷が航路上に無い日数が88日間に達していたが、1月31日、Weathernews社が発表したところによれば、2021年における北極海の海氷の状況は、通常海氷が溶ける7月の気温が平年より低かったため、海氷があまり溶けることがなく、通常海氷の面積が最小となる9月の海氷の最小面積が461万㎢と過去7年間で最大の面積となった。この結果、北極海北東ルート(ロシア沿岸)では2009年に観測を開始して以来、北西ルートでは昨年に続き2年連続で、航路上に海氷が無くなる日がゼロという結果となった。
原文
Weathernews (01/26)
7.海水温の上昇により2080年までに海洋の中深層の70%で酸素欠乏状態に
Geophysical Research Lettersに発表された論文によれば、漁業の対象となる魚類の大半が生息する水深200mから1000mの中深層では、2021年から海水中に含まれる酸素濃度の不可逆的減少が、海水温の上昇によって始まっており、2080年までに海洋の70%が低炭素状態となって、海洋生態系と漁業に大きな影響を与えることが分かった。海水温が上昇すると、海水中に含まれる酸素濃度が低下するだけでなく、海水の循環が弱まり、海水の上層部のように大気や光合成から酸素を得ることができない中深層では、藻類が分解する際にも酸素が失われるので、海水の低炭素化が発生しやすい。地域的にみると、極圏に近い北部・西部太平洋や南極海において海水の低炭素化の影響が強く出る一方、熱帯でもともと海水中に含まれる酸素の量が少ない「酸素最低海域」の範囲も広がる傾向にある。
原文
Phys. org (01/27)
8.米国ヴァージン諸島に新たな米国第2船籍制度が発足
マサチューセッツにあるNortheast Maritime Institute(NMI)は私立の海事大学であるが、同大学の海洋政策経済センター(COPE)が作成した「米国の海上貿易・商業・戦略的競争力再活性化計画」に基づき、2月1日、米国領ヴァージン諸島に新たな国際Open Registryが開設された。COPEが最近発表した報告書によれば、「同諸島に独立した国際open registryを新設することにより、米国・外国によって所有・運航される商船の責任ある透明性の高い管理が可能となり、米国が様々な国籍の商船を管理下に置くことによって、国際便宜置籍制度の見直しが可能となる。国際貿易に特化した米国の第2船籍制度を持つことによって、米国籍船・米国の海事労働力を大幅に増加し、船員の安全性に関する国際基準を保持し、世界貿易への影響力を増し、海運の脱炭素化を促進し、米国海運への金融・投資・所有を誘発することができる。」としているが、船員労働組合は、第2船籍制度の創 設を強く批判する共同声明を発表している。
原文
gCaptain (01/27)
9.米国で国連海洋法条約批准への議論が再燃
中国に対抗して、米国の製造業の競争力を高めるために、2月3日に米国下院で承認された「米国競争法」の中に、国連海洋法条約の批准が含まれている。同法を推進する民主党議員は、インド・太平洋において、中国に対抗して「法の支配」の理論を強固に展開するためにも、今こそ米国が海洋法条約に加入するときであると主張している。米国海軍や沿岸警備隊は既に、艦隊運用方針として、国連海洋法に定める航海の原則に従っており、概ね国連海洋法の批准を支持しているが、一方で、国連海洋法に定める深海底資源開発の規定によって米国の主権が制限されること、さらに国連仲裁裁判所の中国と比の領海紛争に関する裁定を中国が無視していることからも、仮に米国が国連海洋法条約に加入しても、中国に法の支配を守らせるには役立たないと反対派は主張している。米国競争法は上院の法案と下院の法案が今後調整されるので、国連海洋法批准の部分も削除・変更される可能性があり、何より、条約批准のためには、大統領の支持と50対50に分かれている上院で67票以上の支持を得る必要があり、前途多難である。
原文
Breaking Defense (01/28)
10.米上院でも「外航海運改革法案」が超党派で提出
昨年12月に、米下院において超党派で「外航海運改革法案」が圧倒的多数で可決されたが、上院でも同様の法案が超党派で提出されたところその概要は以下のとおり。①コンテナの超過保管料金・返還遅延料金の請求が連邦規則に合致していることの証明を海運会社に要求。②超過保管料金・返還遅延金の妥当性に関する立証責任を荷主から船社に転換。③連邦海事委員会(FMC)の規則に従い、米国の輸出貨物の輸送を合理的な理由がなく海運会社が拒否することを禁止。④定期船海運会社に四半期ごとにFMCに対し、米国に寄港した船舶が輸送した輸出入貨物の量を報告することを義務付け。⑤FMCが独自に、定期船海運会社の業務慣行について調査を開始し、必要に応じて、法の順守を命じる権限をFMCに授与。
原文
gCaptain (01/28)
その他のニュース
1.エネルギー転換
(ア)天然ガスの取り扱い
①メタンの漏出
米国:家庭内のガスコンロから室内に継続的にメタンガスが漏出 原文1/24
(イ)エネルギー価格の高騰
①世界全体
IEA: 2022年第1四半期「天然ガス市況」報告書 原文1/26
(ウ)新たな化石用燃料の開発
①米国
米連邦裁判所:メキシコ湾の石油開発のリース権競売を無効と判決 原文1/25
2.気候変動
(ア)海水温の上昇
①海表面の温度上昇
世界の過半数の海表面の温度が歴史的な平均水温より上昇 原文1/27
(イ)氷河・海氷の減少
①ヒマラヤ
2000年かけてできたエベレスト山の氷河が25年間で融解 原文1/27
3.再生可能エネルギー
(ア)電力消費量に占める再生可能エネルギーの割合
①EU
欧州:再生可能エネルギーの拡大が天然ガスへの依存を減らす 原文1/26
4.気候変動緩和対策
(ア)家庭におけるエネルギー効率化
①電化製品・ボイラーのエネルギー効率の向上
過去の家庭のエネルギー効率向上で光熱費が年間1000ポンド減少 原文1/25
(イ)メタン排出削減
①メタン漏出源の把握
石油・ガス田から大規模にメタンが漏出しているのを衛星から確認 原文1/28
5.航空の脱炭素化
(ア)排出権取引制度
①EU ETSの適用範囲拡大
格安航空会社がEU域外との航空路線もETSの対象とすべきと主張 原文1/28
6.海運経済
(ア)クルーズ観光
①CLIA
CLIA: 2022 State of the Cruise Industry Outlook 原文1/24