週刊国際海洋情報(2022年1月22日号)

1.EU:ソマリア沖の海賊対策に関する任務が失効することを懸念

昨年12月に、国連安全保障理事会では、ソマリア沖のEU NAVFOR Somaria (Operation Atalanta)と米国が主導するCombined Joint Taskforce – Horn of AfricaとNATOが実施するOperation Ocean Shieldの3つの国際的な海軍の任務を3か月延長することが合意された。EU NAVFORは過去14年間にわたって、ソマリア沖の海賊の取り締まりに従事し、2011年以来着実に海賊の件数は減少してきたが、欧州委員会の担当者は、EU NAVFORに代わって長期的に同地域を安定させる構造を3か月で作り上げるのは困難と考えている一方で、ソマリア政府は同国領海内における国際的な海軍の活動を継続させることに否定的と報道されている。同国では大統領派と首相派の間で、政治的な緊張が続いており、このような国内情勢の不安定がイスラム過激派のAl-Shabaabの活動を活性化させ、Horn of Africa地区で海賊グループが再結成される可能性があるので、EU側は少なくてもあと9か月の任務の延長を望んでいるが、ソマリア政府は任務延長の条件として、同国の沿岸警備隊と海軍の強化を外国海軍が支援し、EU NAVFORの活動も海賊の取り締まりより、違法漁業や有害廃棄物の不法投棄の取り締まりに重点を置くことを望んでいる。
 
原文
The Maritime Executive (01/17)

2.中国政府:電力事業者への炭素排出枠削減幅を大幅引き上げへ

中国政府生態環境部は、2022年の電力事業者への炭素排出枠削減計画を立案し、大手電力事業者の削減率は、当初提案されていた1%を大幅に超える7.9%に、発電能力が300MW以下の小規模電力事業者にはさらに厳しい12%の削減が提案されることが非公式にわかった。昨年、中国政府が排出権取引市場を立ち上げた際には、電力事業者に対して過大な排出枠を割り当て、電力事業者は排出枠を使い切れないような状況だったが、2022年の排出枠が大幅に削減されることによって、電力事業者は排出権を購入するか、炭素火力発電への依存度を下げるかの選択に迫られる。21日現在の排出権価格はトン当たり57.46元だったが、排出枠の削減により、65元(約1170円)程度に価格が上昇すると専門家は予想している。
 
原文

Bloomberg Quint (01/17)


3.欧州港湾協会:EU ETSに対する意見を表明

1月24日発表された表記意見の概要は以下のとおり。①欧州港湾協会(ESPO)は海運をEU排出権取引制度(ETS)に含めることを支持する。②しかし、国際的に共通の市場原則に基づく措置の方が最も望ましい解決策である。③船舶はEU ETSの義務を逃れるために、EUに近接した非EU諸国の港湾に避航することが懸念され、EU ETSの有効性をそぐばかりか、海運全体としてのCO₂削減にもつながらない。④ESPOは現在の欧州委員会の提案によって発生しうる炭素(ビジネス)リーケージに関する完全な影響調査の実施を要求する。⑤法律的に可能であれば、解決策としては、ETS適用逃れのための非EU近隣港湾への避港を、EU域内の港湾への寄港とみなして、ETSの対象にすべきである。⑥EU ETSの海運への適用によって得られる収入については、欧州の海運事業の脱炭素化のために使われるべきである。
 
原文

ESPO (01/18)


4.英国大手投資機関:気候変動対策を取らない会社経営陣に対して圧力

2620億ポンド(約40兆円)の投資資産を持つ英国の投資運用会社であるAvia Investorsは投資を行っている30か国の1500社に企業に手紙を送り、持続可能性に従って経営を行わない経営者に対しては人事権を行使して退出を求め、或いは経営者の年棒も持続可能性の尺度に従って判断すると警告した。さらに「持続可能性」の定義を気候変動対策だけではなく、生物多様性・人権にも広げて、評価を行うと通告した。世界最大の投資ファンドであるBlackRockも投資先企業に、持続可能性を高める措置を実施しなければ、人事権を行使すると通告した。Avia社は、昨年1年間で、同様の圧力を投資先企業にかけて、280社の企業の経営方針を持続可能性に沿ったものに変更したが、他の投資家も同様の圧力を投資先企業にかけるべきとしている。
 
原文

BBC (01/18)


5.欧州議会:EU ETS(海運部分)の改正案を発表

欧州議会の報告者(Rapporteur)は、欧州排出権取引制度(EU ETS)に関する欧州委員会の提案に対する改正案を提案したところその概要は以下のとおり。①船舶から排出されるCO₂の排出に関する完全な報告義務が2025年から適用。②2028年までにIMOが船舶からのCO₂の排出に関して、国際的な排出権取引制度を創設しない場合は、非EU諸国とEU諸国との間の船舶の運航から排出されるCO₂の100%(現在の欧州委員会提案は50%)をEU ETSの適用対象とする。③「海運会社」の定義に「定期用船者」も含める。④最終的な排出権購入義務を必ずしも「海運会社」にあたらない「商業上の船舶運航者」に負わせる。⑤排出権取引の対象となるGHGの範囲をパリ協定の目的達成のため2026年以降拡大する。⑥海運脱炭素化・クリーンな燃料・内航海運・よりクリーンな港湾に関する研究開発の資金を負担する「海洋基金」の創設を勧奨する。
 
原文

Offshore Energy (01/19)


6.WSC:欧州議会のEU ETS(海運部分)改正案を非難

コンテナ船社の国際業界団体である世界海運協議会(WSC)は、欧州議会の報告者が発表したEU ETS(海運部分)の改正案を強く非難する声明を発表したところその概要は以下のとおり。①改正案では排出権の購入義務者の範囲を拡大し、船主が排出権購入の負担を回避することを許す一方で、「海洋基金」を通じ、船主がETSの収入からメリットを受けることができるシステムになっている。②この結果、EU ETS制度が「汚染者負担」の制度から、「汚染者が利益を受ける」制度に腐敗し、EU ETSによって海運の脱炭素化を促す効率性を大きく損なうものである。③船舶の技術革新のペースを自らコントロールできる船主が支払義務を必ずしも負わないEU ETSでは、EU Green Dealの目的は達成できないし、エネルギー転換のペースを鈍化させるものである。④非EU諸国とEU諸国との間の海運活動にEU ETSを100%適用するために、EUとの間の航路を持つ非EU諸国と二国間協定を締結するという改正案は、欧州委員会の原則である多国間主義を放棄し、IMOにおける世界的なGHG削減のための議論に悪影響を与え、海運脱炭素化のペースを遅らせ、GHGのleakageやEUの港湾の競争力の低下、貿易の歪曲といった結果をもたらす。
 
原文

World Shipping Council (01/19)


7.EU:専門家が天然ガスと原子力を持続可能エネに分類することに反対

欧州委員会は、EU Taxonomyにおいて、天然ガスと原子力を一定の条件のもとに、移行期における持続可能なエネルギーと認める案を発表しているが、具体的には、天然ガスについては、CO₂排出量が270g/kWh以下、または、20年間の年間CO₂平均排出量が550kg/kW以下であれば、2030年まで持続可能なグリーンなエネルギーと認めるとしている。この案に対し、欧州委員会に対し、グリーンな投資に関して助言する専門家グループは、条件をさらに厳格化して、CO₂排出量が100g/kWh以下の発電所に限って認めるべきと28日に正式に助言する予定。仮に、専門家の条件が採用されると、既存の天然ガス火力発電所は条件を満たすことができず、炭素回収貯留(CCS)技術の導入が必要となる。専門家は、原子力については核燃料廃棄物の問題も含め、欧州委員会の案では、原子力発電によって環境に悪影響が及ぼされない担保措置がなく、持続可能エネルギーと認めるべきでないと助言する予定。
 
原文

Reuters (01/20)


8.中国が2021年に洋上で発電し送電網に接続した電力が16.9GWに

中国の洋上風力発電の拡大は目覚ましく、2020年には新たに3060MWの洋上風力発電が建設され、洋上風力発電能力が98の合計が98MWに達していたが、この勢いは、2021年も拡大継続し、2021年中に新たに建設され、陸上の送電網に接続された洋上風力発電量は16.9GWに達し、送電網に接続されている洋上風力発電量は、2020年比で、171%拡大して、26798MWとなった。この結果、中国は、英国(2020年末で10206MW)を抜いて、建設電力量でも接続電力量でも、洋上風力発電能力で圧倒的な世界第1位となった。建設されかつ陸上の送電網に接続されている洋上風力発電施設の世界の合計発電量は現在、52.3GWだが、世界の過半数の施設が中国国内に存在することとなる。中国では全量固定価格買い取り制度(feed in tariff)の対象となるためには、昨年末までに送電網に接続する必要があり、この結果、12月25日には、わずか一日で、3.1GWの洋上風力発電施設が送電網に接続された。
 
原文

Offshore Wind (01/20)


9.メタノールが最も現実的な海運代替燃料

クリーンエネルギーに関する投資研究機関であるLongspur Researchは、海運代替燃料の中で、メタノールは代替性・供給可能性・エネルギー密度・CO₂削減効果の点で、最も現実的な代替燃料であるとする報告書を発表した。船舶からは、CO₂の他に、SOx・NOx・微細粒子などの大気汚染物質が排出されるが、メタノールを燃料として使用した場合、これらの大気汚染物質の排出を60%以上削減できるほか、天然ガスを原料として生産したグレーなメタノールでも10-15%、再生可能電力から生産されるグリーンなメタノールでは90%以上、従来燃料と比較してCO₂の排出を削減することができる。より具体的には、メタノール生産は技術的にも確立され、すぐにでも供給可能で、新造船ばかりでなく、既存船の機関の改修でも対応可能で、エネルギー密度も相対的に高いので、広い燃料スペースを確保するために貨物の積載スペースを大きく減じる必要もなく、燃料としての有毒性も低く、船舶から船舶への補給も可能で、価格的にも相対的に最も安い選択肢であるとしている。
 
原文

Offshore Energy (01/21)


10.EU:2020年の電力消費量の37%は再生可能エネルギー発電

EU統計局は1月26日、2020年のEU域内の電力消費量の37%は再生可能エネルギー発電と発表した。EU諸国の中では、再生可能発電比率が高い順に、オーストリア(78%)・スウェーデン(75%)・デンマーク(65%)・ポルトガル(58%)・クロアチア/ラトビア(53%)となった。再生可能エネルギーの内訳としては、風力発電が36%、水力発電が33%、太陽光発電が14%となっており、太陽光発電は2008年にはわずか1%だったので、成長率では群を抜いている。電力以外も含めたエネルギー全体で見ると、2020年におけるEUの再生エネルギー比率は22%となり、比率が高い順にスウェーデン(60%)・フィンランド(44%)・ラトビア(42%)となる一方、フランスは原子力発電の拡充を続けているので、再生可能エネルギー比率は19%にとどまっている。仏政府は裁判所から2022年末までにCO₂の排出量をピークアウトすることを求められている。
 
原文

Reuters (01/21)


その他のニュース

1.エネルギー転換
 (ア)原子力の取り扱い
  ①EU
   独副首相:原子力を持続可能なエネルギーに分類することに反対 原文1/20
2.再生可能エネルギー
 (ア)洋上風力発電
  ①英国
   英国政府:浮体式洋上風力の研究開発に4200万ポンド追加支援 原文1/20
 (イ)風力発電一般
  ①北欧諸国
   北欧諸国の風力発電量が過去最高を記録し、電力価格も低下 原文1/17
 (ウ)太陽光発電
  ①パネル価格の高騰
   太陽光パネル価格高騰は中国のサプライチェーンのリスクの象徴 原文1/18
 (エ)波力発電
  ①米国
   米エネ省:波力発電の研究開発・実証のために2500万ドルを支援 原文1/21
3.競争政策
 (ア)自動輸送
  ①インド
   インド:日本の海運会社に対して自動車輸送の価格カルテルで罰金 原文1/19
4.気候変動緩和対策
 (ア)排出権取引制度
  ①中国
   中国政府:電力事業者への炭素排出枠削減幅を大幅引き上げへ 原文1/17
5.航空の脱炭素化
 (ア)持続可能な航空燃料
  ①EU
   欧州議会:航空燃料を全量持続可能な燃料にすることを提案へ 原文1/18
6.海洋環境
 (ア)海洋プラスチックごみ
  ①途上国支援
   Plastic Bank: 途上国でプラスチックボトル20億本を回収 原文1/19
7.循環経済
 (ア)食品包装材のリサイクル・再使用
  ①EU
   EU: 2030年までにすべての食品包装を再使用・リサイクル可能に 原文1/21