週刊国際海洋情報(2022年1月15日号)
- 1.コロナによる港湾労働者不足でNY/NJ港でも待機期間が3倍に
- 2.マースク炭素中立目標を2050年から2040年に繰り上げ
- 3.欧州委員会:現代重工による大宇造船海洋の買収を承認しないことを決定
- 4.DNV:Leading Maritime Cities Report 2022
- 5.ICS:IRENAとパートナーシップ協定を締結
- 6.スコットランド:浮体式を中心に25GW分の洋上風力発電事業を認可
- 7.交通と環境:EU/ETSの適用除外となる船舶の排気が気候に与える影響
- 8.独新政権:化石燃料を原料とするブルー水素の生産支援に否定的
- 9.韓国公取:コンテナ海運の価格カルテルに対し23社に8100万ドルの罰金命令
- 10.中国の化石燃料依存度引き続き高水準を維持
- その他のニュース
1.コロナによる港湾労働者不足でNY/NJ港でも待機期間が3倍に
原文
2.マースク炭素中立目標を2050年から2040年に繰り上げ
マースクは科学的目標達成イニシアティブ(SBTi)による地球温度の上昇を1.5℃以内に抑制する行程に従って新たなGHG削減目標を立て、炭素中立達成目標を従来の2050年から2040年に繰り上げると発表した。2030年までの短期目標も、コンテナ輸送1個当たりのGHG排出量を対2020年実績比で半減し、同社が完全に管理するコンテナターミナルから排出されるGHG排出量も70%削減する。今後の海上輸送量全体の伸びにもよるが、以上の措置によって、マースクの物流チェーン全体のGHG排出量を2030年までに年間500万トン減らし、対2020年実績比で35%から50%削減することができるとしている。さらにグリーンな輸送を希望する同社の顧客に対応するため、海上輸送に使用する燃料の25%をグリーンな燃料とし、航空輸送については、貨物の30%を持続可能な航空燃料(SAF)を使用し、倉庫などの契約事業者や保冷物流については、最低90%をグリーンなオペレーションとする。
原文
Maersk (01/07)
3.欧州委員会:現代重工による大宇造船海洋の買収を承認しないことを決定
欧州委員会は、申請された買収によって、大型LNG輸送船の造船市場で寡占が生じるとして、1月13日、買収申請を承認しないと決定したところその理油の概要は以下のとおり。①2社の合計市場占有率は、過去10年間拡大を続け、少なくとも60%以上の極めて高い水準にある。②市場で第3位の大手造船事業者のシェアだけでは、市場において競争を維持するのは困難で、第4位の造船事業者は、LNG輸送船については力を入れておらず、国内市場に注力しており、欧州の発注者にとって、2社以外の造船所を選ぶ余地が少なくなる。
③大型LNG輸送船は、高度に洗練された特別な船舶で、複雑な造船技術を必要とするため、新たな企業が市場に参入するのは非常に困難で、過去数年間で逆に何社かが撤退し、寡占が進み、発注者にとっては、造船企業を選択する余地や価格交渉能力が限られている。④欧州委員会は2社に対して、懸念する事項を伝達したにもかかわらず、2社からは、委員会の懸念に対応した買収案の見直し提案がされなかった。
原文
欧州委員会 (01/11)
4.DNV:Leading Maritime Cities Report 2022
標記ランキングの概要は以下のとおり。①シンガポールは、海事技術、魅力・競争力の2部門で1位となり、総合で2019年の前回ランキングに続き1位となった。②ロッテルダムは、港湾・物流の部門で2位になり、総合でも2位に入り、③ロンドンは、海事金融・海事法と魅力・競争力の2分野で2位となり、総合で第3位に、④上海は港湾・物流部門で1位となり、総合で4位に、⑤東京は海運と海事金融・海事法の2分野で3位となり、総合で5位となった。⑥その他では、アテネが海運部門で1位、NYが海事金融・海事法部門で1位、オスロが海事技術部門で2位、釜山が同部門で3位、コペンハーゲンが魅力・競争力部門で3位にそれぞれ入賞した。
原文
DNV (01/11)
5.ICS:IRENAとパートナーシップ協定を締結
国際海運会議所(ICS)と国際再生エネルギー機関(IRENA)は、1月17日、パートナーシップ協定を締結し、今後2年間、再生可能エネルギーに関する技術を活用して、海運分野の脱炭素化を支援するための枠組みについて合意した。海運分野に関わるエネルギーの需給状況や各国政府や海運業界によるグリーン水素やアンモニアなどの代替燃料に関する戦略について、両機関は定期的に情報交換を実施する。両機関は、特に後進国が先進国と同様海運のエネルギー転換を進められるよう、途上国の人材の育成支援にも力を入れる。COP26においてICSは海運分野におけるゼロ炭素燃料の研究開発には約50億ドルが必要であると表明し、IRENAは舶用燃料を再生可能エネルギーから生産される水素・アンモニア・電力に置き換えることによって、2050年までに海運から排出されるGHG の8割を削減することが可能と表明している。
原文
ICS (01/12)
6.スコットランド:浮体式を中心に25GW分の洋上風力発電事業を認可
英国王室領である大陸棚を管理するCrown Estate Scotlandは洋上風力発電のための大陸棚の開発利用権の競争入札の結果を、1月17日発表した。競争入札の対象となった15海域(8600㎢)に対して、74件の入札があったが、17の事業計画(合計海域7000㎢、合計発電量25GW)について、特定海域の大陸棚において洋上風力発電施設を建設・運営する権利を与える選択協定締結権を認めると発表した。許可された25GWの事業計画のうち、浮体式洋上風力発電事業が15GWと過半数を超えるのが注目される。開発事業者は開発権の見返りとして、選択料金(Option Fee: OP)を支払う必要があるが、最近英国(イングランド)で行われた第4次入札の時の様な高額のOPを設定すると、巡り巡って最終的には電気を利用する消費者の負担が増すので、再生可能電力の価格を適正なものとするため、スコットランドでは、OPの上限を10万ポンド(約1570万円)/㎢と低く設定してある。
原文
Wind Europe (01/12)
7.交通と環境:EU/ETSの適用除外となる船舶の排気が気候に与える影響
NGOの「交通と環境(T&E)」が標記報告書を発表したところその概要は以下のとおり。①EU排出権取引制度(ETS)の適用除外となる船舶から排出されるCO₂の量は、年間25.8Mtで、デンマークが2020年に排出したCO₂の量である26.2Mtにほぼ匹敵する。②具体的には、5000GT以下の船舶から19.7Mt、オフショア船・軍艦など船種として適用除外を受ける船舶から排出される16.1MtがETSの対象とならない。③欧州委員会は、5000GT以上を対象とした理由として、事務的な負担を上げており、5000GT以下の船舶は隻数ベースでは、全体の45%だが、CO₂排出量では10%(T&E調べでは15%)の適用除外にすぎないと主張している。④T&Eは、オフショア船をETSの適用対象とし、ETS適用の範囲を400GT以上としたうえで、前年のMRVの結果、CO₂を1000GT以下しか排出していない船舶はEU/ETSから除外することを提案している。
原文
Transport & Environment (01/13)
8.独新政権:化石燃料を原料とするブルー水素の生産支援に否定的
鉄鋼や化学産業の様なエネルギー集約型の産業にとっては、完全な電化は困難であり、水素が脱炭素化の切り札となり、欧州委員会も2050年には全世界のエネルギー供給の24%は水素が担うと予測している。独の新政権は、先週新たな水素戦略を発表し、グリーン水素を生産するために必要な電解槽の能力を現在の5GWから2030年には10GWに倍増し、必要な法改正のパッケージを復活祭までに準備すると副首相が言明した。副首相は、80億ユーロ(約1兆円)をかけて、グリーン水素の生産を「欧州共通の利益のための重要事業(IPCEI)」と位置づけ、グリーン水素への投資リスクをなくすための「差額保証制度(Carbon Contracts for Difference)」を導入すると表明した。一方で、化石燃料を原料とし、水素生産時に発生するCO₂を回収貯蔵するブルー水素の生産については、政府として支援は行わない考えを表明した。こうした独新政権の方針はブルー水素を推進したい石油・ガス業界の反発を呼ぶのは必至で、欧州委員会ですら、グリーン水素が十分に生産できるまでのつなぎとして、ブルー水素は必要と認めている。
原文
Euractiv (01/13)
9.韓国公取:コンテナ海運の価格カルテルに対し23社に8100万ドルの罰金命令
2018年7月に、木材輸入事業者が韓国公正取引委員会(KFTC)に対し、コンテナ海運会社が一斉に韓国=東南アジア間の運賃を引き上げたと申し立てを行ったのを受けて、KFTCが調査を開始し、2020年5月に、同委員会は海運会社に対して合計で6.72億ドルの罰金を課すと通告した。この通告に対して、同国海洋水産部・韓国船主協会・韓国船員組合・中国政府などは、このような多額の罰金はコロナ後のコンテナ海運船社の収益改善を水泡に帰してしまうとして反対し、この結果、罰金額は減額された。同年10月には韓国議会で、KFTCから海運会社を守るために海運法が改正されたが、KFTCは法改正は遡及適用されないし、海運法では船社による共同行為は条件付きで認められるものの、本事例ではその条件が満たされておらず、海運会社はあくまで罰金を支払うべきとの立場を崩していなかった。この結果、1月18日、KFTCは高麗海運(KMTC)をはじめとする韓国国内船社と、マースクなどの外国船社の合計23社に対して、2003年から2018年までの間の、韓国=東南アジア間の価格カルテル行為に対して、総額8100万ドルの罰金の支払いを命じた。
原文
The Loadstar (01/14)
10.中国の化石燃料依存度引き続き高水準を維持
中国は世界で最も積極的に再生可能エネルギーの開発を進めている一方で、2021年に石炭火力と天然ガス火力が全発電量に占めるシェアは71%と2020年と同水準になった。この原因としては、中国の2021年の経済成長率は8.1%で、拡大する電力需要に応えるためには、再生可能発電の拡充だけでは足らず、すべての火力発電所をフル稼働させる必要があったためである。特に昨年後半は、前例のない電力不足に見舞われ、中国政府は国内石炭生産量と石炭輸入量を増加せざるを得ず、また、石炭火力からLNG火力に移行させるという長期戦略に従い、化石燃料である天然ガスの使用量も過去最大となった。この結果、中国と同様に石炭に依存するインドと組んで、昨年のCOP 26では、炭素回収装置がない石炭火力発電所を「撤廃」する合意を、「縮小」にとどめることに成功した。
原文
The Straits Times (01/14)
その他のニュース
1.エネルギー転換
(ア)エネルギー価格の高騰
①世界全体
IEA: Electricity Market Report January 2022 原文1/13
②欧州
欧州のエネルギー価格の高騰が消費者と経済を直撃 原文1/13
(イ)天然ガスの取り扱い
①EU
国際機関投資家:天然ガスをEU Taxonomyから除外することを要求 原文1/11
2.気候変動
(ア)山火事
①米国
バイデン大統領:コロラドの山火事は地球温暖化のCode Red 原文1/7
(イ)2021年の気象分析
①Copernics
Copernicus: 2021年は史上5番目に暑い年に 原文1/7
3.再生可能エネルギー
(ア)グリーン水素
①インド
インドが国際再生エネルギー機関と戦略連携協定を締結 原文1/11
4.海賊
(ア)アジア地域
①ReCAAP
ReCAAP ISC: 2021年年次報告書 原文1/14
5.生物多様性
(ア)海洋保護区
①ガラパゴス
エクアドルがガラパゴス諸島周辺の海洋保護区を大幅に拡大 原文1/12
6.船舶の安全性
(ア)コンテナの荷崩れ
①事故事例
ONE: コンテナ船の荷崩れにより大西洋上で60個のコンテナを喪失 原文1/12
7.気候変動緩和対策
(ア)排出権取引制度
①英国
英国政府:ETS価格の高騰に対して市場介入しないことを決定 原文1/14