国際海洋情報(2022年1月13日号)
1.交通と環境:EU/ETSの適用除外となる船舶の排気が気候に与える影響
NGOの「交通と環境(T&E)」が標記報告書を発表したところその概要は以下のとおり。①EU排出権取引制度(ETS)の適用除外となる船舶から排出されるCO₂の量は、年間25.8Mtで、デンマークが2020年に排出したCO₂の量である26.2Mtにほぼ匹敵する。②具体的には、5000GT以下の船舶から19.7Mt、オフショア船・軍艦など船種として適用除外を受ける船舶から排出される16.1MtがETSの対象とならない。③欧州委員会は、5000GT以上を対象とした理由として、事務的な負担を上げており、5000GT以下の船舶は隻数ベースでは、全体の45%だが、CO₂排出量では10%(T&E調べでは15%)の適用除外にすぎないと主張している。④T&Eは、オフショア船をETSの適用対象とし、ETS適用の範囲を400GT以上としたうえで、前年のMRVの結果、CO₂を1000GT以下しか排出していない船舶はEU/ETSから除外することを提案している。
原文
Transport & Environment (01/13)
2.IEA:Electricity Market Report January 2022
1月14日発表された標記報告書の概要は以下のとおり。①急速な経済回復と平年より寒い冬の気温により、2021年の電力需要は対前年比6%増と、世界金融危機から回復した2010年以来、最も大きな増加率を記録し、増加量は1500TWh以上と過去最大の伸びとなった。②中国・欧州・インドでは、急激な電力需要の増加に加えて、天然ガスと石炭の供給不足が重なって、エネルギー価格が高騰した。③中国では、電力需要が対前年比10%拡大する一方で、下半期には石炭の供給不足によって、停電が頻発した。④全世界的に電力価格が急騰したため、家庭や事業者が大きな打撃を受け、社会的・政治的な不安定要因となった。⑤再生可能エネルギー・エネルギー効率化・原子力などの低炭素技術への投資の増加に加え、安定したスマートグリッドを拡充することによって、現在のエネルギー危機を早急に脱する必要がある。
原文
IEA (01/13)
3.欧州のエネルギー価格の高騰が消費者と経済を直撃
2020年にユーロ圏の欧州諸国における平均的な家庭の年間電気ガス料金は1200ユーロ(約15.7万円)だったが、2021年には、地政学的な緊張によって天然ガスの供給が減り、再生可能エネルギーの発電量が十分でなかったため、平均的な年間の電気・ガス料金は1850ユーロ(約24.2万円)に上昇した。また、2021年中に多くの安売り電力小売事業者がエネルギー価格の高騰のため廃業したため、消費者は以前の安価な電力価格の2倍から3倍高い価格の電力事業者から電力を購入せざるを得ない状況となった。ユーロ圏におけるエネルギー関連消費が家計に占める割合は、今までは、6%程度だったが、エネルギー価格の高騰により、この割合が8-10%に上昇しており、他の消費を圧迫している。欧州中央銀行は、2022年は、コロナ回復後に個人消費が5.9%拡大して、経済も4.2%成長すると昨年末には予測していたが、エネルギー価格の高騰がこの予想を危うくしている。
原文
Reuters (01/13)
4.独新政権:化石燃料を原料とするブルー水素の生産支援に否定的
鉄鋼や化学産業の様なエネルギー集約型の産業にとっては、完全な電化は困難であり、水素が脱炭素化の切り札となり、欧州委員会も2050年には全世界のエネルギー供給の24%は水素が担うと予測している。独の新政権は、先週新たな水素戦略を発表し、グリーン水素を生産するために必要な電解槽の能力を現在の5GWから2030年には10GWに倍増し、必要な法改正のパッケージを復活祭までに準備すると副首相が言明した。副首相は、80億ユーロ(約1兆円)をかけて、グリーン水素の生産を「欧州共通の利益のための重要事業(IPCEI)」と位置づけ、グリーン水素への投資リスクをなくすための「差額保証制度(Carbon Contracts for Difference)」を導入すると表明した。一方で、化石燃料を原料とし、水素生産時に発生するCO₂を回収貯蔵するブルー水素の生産については、政府として支援は行わない考えを表明した。こうした独新政権の方針はブルー水素を推進したい石油・ガス業界の反発を呼ぶのは必至で、欧州委員会ですら、グリーン水素が十分に生産できるまでのつなぎとして、ブルー水素は必要と認めている。
原文
Euractiv (01/13)
Webinar情報
1.Economist Impact: Beyond Supply Chains: Look at visibility and sustainability
January 26
https://eventsregistration.economist.com/event/3cd485b3-d80b-4da4-9851-469a74881bbb/regProcessStep1:9585f1e8-c365-4aaf-a592-c008adcc6e6a?rp=d3a55e4b-b045-4ed7-90aa-e859db8b8c74
2.Economist Impact: 7th Annual Sustainability Week
March 21-24
https://eventsregistration.economist.com/event/794ae119-be9a-4185-b2cd-83bad6be3146/regProcessStep1?rt=2doYuLJDI0mALmn_Ydi3Dg