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週刊国際海洋情報(2022年1月4日号)

1.EU:炭素国境調整課税制度の導入を最終決定

EU議会とEU理事会は12月13日、徹夜の交渉の結果、鉄鋼やセメントなどのエネルギー多消費型製品を対象に、EUよりCO₂排出規制が緩い国で製造された製品がEUに輸入される際に、CO₂排出規制のコストを負担しているEU域内の企業の同様な製品が競争上不利にならないように、CO₂排出削減コストに匹敵する炭素国境調整課税を導入することで正式合意した。対象製品は欧州委員会が提案した鉄鋼・セメント・肥料・アルミニウム・電力に加えて、欧州議会の要請で水素が追加された。EUの対象業界は、現在国際競争力を維持するため、EU ETSの下で、一定の無料CO₂排出枠が与えられているが、炭素国境調整課税制度が実施されると、WTOの規則を遵守するため、無料排出枠は段階的に廃止しなくてはいけないので、同制度をいつから適用するかは、ETSの見直し案の合意と併せて今週後半に合意される予定。

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Reuters (12/15)


2.液体有機水素キャリアの輸出入でスコットランドとロッテルダム港が連携

EUは2030年までに約10GWの水素を輸入することを目指している一方、スコットランド政府は同年までに5GWの水素を生産することを目標としており、現在欧州のエネルギー輸入の13%を取り扱い、欧州の水素ハブとなることを目指しているロッテルダム港は、スコットランドの再生可能エネルギーで生産された脱・低炭素の水素の液体有機水素キャリア(LOHC)を利用して、ロッテルダム港に輸入するためのコンソーシアム(日本の千代田化工も参加)を結成したと12月14日発表した。コ ンソーシアムの正式名称はLOHC for Hydrogen Transport from Scotland (LHyTS)で、LOHCとしては具体的には大規模輸送に適したメチルシクロヘキサン(MCH)を使用する。

原文

ロッテルダム港(12/15)


3.Poseidon Principles:金融機関の海運事業者に対する投融資の透明性が拡大

Poseidon PrinciplesはGlobal Maritime Forum(GMF)の支援の下、金融機関の海運業界への投融資がCO₂削減目標に従って実施されているか、分析し公表するために、Citi/Societe Generale/DNBなど11社によって2019年に創設され、現在では世界の海運金融の70%以上をカバーする30の金融機関がメンバーとなっているが、12月15日、2021年における融資先海運会社のCO₂削減実績をまとめたPoseidon Principles Annual Disclosure Report 2022が、UMASの支援を受けて、GMFによって発表されたところその概要は以下のとおり。①本年は28の金融機関(昨年は23)から報告書が提出され、そのうち7の金融機関が、2050年までに海運から排出されるCO₂を50%削減するというIMOの目標に適合していた。②昨年度までは、各金融機関の全体の実績しか開示されてこなかったが、今年は、14の加盟金融機関から、旅客船と貨物船に分けた個別の貸し出し実績が公表された。③本年9月には、加盟金融機関はIMOの目標ではなく、パリ協定に従い今世紀末までの地球の気温上昇を産業革命以前と比較して1.5℃以内に抑制するという新たな目標に従って、海運金融を実施することに合意したが、新目標達成のための具体的な道筋について合意されていないため、今年の報告書では、新目標と各金融機関の投融資実績の比較は実施されていない。

原文

Poseidon Principles (12/18)


4.IMO:2025年5月から地中海が硫黄酸化物排出規制海域(SECA)に

2025年から地中海に硫黄酸化物排出規制海域(SECA)を設置することについては、2021年12月にバルセロナ条約のCOP22で合意され、6月のIMO/MEPC78でも承認されていたが、MEPC79において、2025年5月から地中海SECAを設定することが正式に決定された。これによって、地中海を航行する船舶の使用する燃料に含まれる硫黄分が、現在の0.5%以下から、0.1%以下に引き下げられることとなる。バルト海・北海・北米沿岸には2015年から同様のSECAが設置されている。SECAが実行されれば、燃料に含まれる硫黄分が0.1%以下の舶用ガスオイルを使用するかスクラバーを使用するか、硫黄分ゼロのLNGを燃料として使用することになるが、多くの船舶が既にスクラバーを装備していることから、2015年に初めてSECAが導入されたときと比較して、影響は相対的に大きくないものと見込まれる。

原文

Ship & Bunker (12/19)


5.EU ETS Maritime:欧州理事会と欧州議会の実質合意の概要

EU ETSの海運に関する欧州理事会と欧州議会の実質合意内容の概要は以下のとおり。①ETSを経過措置として、海運から排出されるCO₂総量のうち、2024年から40%、2025年から70%、2026年から100%完全適用される。②5000GT以上のほとんどの大型船は以上のスケジュールが適用されるが、5000GT以上の大型洋上作業船については、MRV(Monitor, Reporting and Verification)が2025年から適用され、ETSは2027年から適用される。400から5000GTの一般貨物船と洋上作業船については、MRVについては2025年から適用されるものの、EU ETSの適用については、2026年に検討される。③例外措置として、小島嶼で使用される船舶、Ice classの船級を持つ船舶、海外領土と本土との間の航海に従事する船舶、官庁船などについては、経過措置が提案された。④海運会社を多く保有するいくつかの海運国に対しては、排出権取引収入上限(ceiling of the auctioned allowances)の3.5%が追加的に国内対策として配分される。⑤CO₂以外のGHGであるメタンと一酸化二窒素(N₂O)については、2024年からMRVの2026年からETSの対象に含めることが合意された。

原文

欧州理事会 (12/26)


6.EUエネルギー閣僚会合:天然ガスの上限価格制度の導入に合意

EUは12月19日開催されたエネルギー問題担当閣僚会合で天然ガスの価格を引き下げるために上限価格制度を導入することに合意した。具体的には、来年2月15日以降、欧州の天然ガス価格の指標であるオランダのTTF価格が3日間連続で180ユーロ(約2.5万円)/MWhを上回り、かつ同期間中のLNG価格評価より35ユーロ(約4900円)高くなることによって、上限価格制度が発動され、1か月先、3か月先、1年先の先物取引価格が、LNGの標準取引価格より35ユーロ高い範囲内に抑制される。但し、上限価格制度によって、EU域内で天然ガスの供給が不足した場合、TTF取引量が減少した場合、天然ガス使用量が急増した場合、天然ガス取引市場参加者のmargin callsが急増した場合などには、上限価格制度は停止されるという安全担保機能が付け加えられたことにより、最高価格制度の導入により、世界市場からの天然ガスの購入が制約されるとして当初反対していた独も賛成に回った。

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Reuters (12/26)


7.EUにおける海運脱炭素化に関するこれまでの合意内容と今後の展望

標記概要は以下のとおり。①EU ETS MaritimeはEU域内の航海についてCO₂排出量の100%、EU域外との航海については、CO₂排出量の50%に適用される。②メタンや窒素酸化物などの他のGHGに対しても、2026年からETSの対象となる。③FuelEU Maritimeは、海運事業者が重油燃料に代わる代替燃料を使用することを促進するものだが、航空分野の同様な燃料規制であるReFuel Aviationと異なり、使用すべき燃料油を指定せず、輸送単位当たりに排出されるCO₂の量を段階的に削減し、CO₂排出のための手段については、海運事業者の自由な選択にゆだねるという「技術中立」の立場を採用する結果、LNGの使用を許容するとして環境派は反対している。④年明けに合意されることが予定される案をもとに、2回目の欧州議会と欧州理事会の交渉が12月8日に開催された。

原文

Euractiv (1/2)


8.EU:比人船員の訓練方法の問題点に対応する措置を3月末までに決定

独紙の報道によれば、比国内における船員訓練の方法が、長年にわたって、IMOのSTCW条約に定める要件を満たしていないため、EUは、EU籍船における比人船員の雇用の禁止を検討しており、実際にこの禁止が実現すれば、世界最大の船員供給国で、世界全体の船員数の約1/4に当たる38万人から40万人の船員を供給している比に対しては大きな打撃となる。欧州海上安全庁(EMSA)は2006年から、比人船員の訓練方法の問題点を比政府に対し指摘し、比政府は指摘された問題点を改善することを約束しているが、比政府は船員の訓練を民間訓練機関に任せる一方で、民間船員訓練機関がEMSAの指摘に従って船員訓練を改善するために十分な政府支援を与えていないと指摘されているが、比大統領は、欧州委員会の担当者に対し、EMSAに指摘された改善点に対応して、船員の訓練の仕方を改善し、EMSAの規制を遵守すると約束した。比政府は、EMSAによる監査で指摘された問題点に関し、既に詳細な回答を欧州委員会に提出済みで、委員会の専門家がこの回答を精査中で、2023年第1四半期末までに、欧州委員会としての最終対応を決定する予定。

原文

The Maritime Executive (1/2)


9.P&I Clubs:1月1日からロシア・ベラルーシ・ウクライナ海域の戦争保険を停止

ウクライナ戦争の影響で、多くのP&I Clubが、1月1日からロシア・ベラルーシ・ウクライナ海域における戦争保険について、リスク回避のための再保険を得られないので、引き受けを停止している。この結果、用船社には、戦争保険料金の高騰や、保険なしで船舶を運航するという影響を受けている。このような状況の中で、エネルギー需要が高まる冬季に、ロシア極東のサハリン2事業によって生産される天然ガスの輸入を維持するために、日本の保険会社は、今後最低3か月間はLNG輸送船に対して、ロシア海域における沈没や徴用といった戦争リスクに対する保険の提供を継続することを決定した。

原文

Safety4Sea (1/4)


10.独:再生可能エネルギー拡大にもかかわらずCO₂排出削減は足踏み

1月4日、気候変動問題に関する独のシンクタンクのAgora Energiewendeが発表した2022年中に独国内で排出されたCO₂総量に関する分析の概要は以下のとおり。①エネルギー価格の高騰、温暖な気候、露による天然ガス供給停止に対応した政府による国民への省エネの呼びかけによって、2022年における独国内のエネルギー消費量は、対前年比4.7%の減少と東西ドイツ統合以来最低の量となった。②独国内のエネルギーミクスにおいて、再生可能エネルギーの比率が過去最大の46%に拡大したにもかかわらず、CO₂排出量は目標とであった7.56億トンを超える7.61億トンとなり、1990年排出実績比40%減という2020年の目標量よりも多かった。③独は2045年までに炭素中立を達成するために2030年までに1990年実績比でCO₂排出量を65%削減することを目標としているが、ロシアによるウクライナ侵攻によって、エネルギー安全保障の観点から、石炭・石油の使用量が増えたために、2022年は削減目標に達しなかった。④個別にみると、エネルギー部門と産業部門は削減目標を達成したが、交通部門と建物部門が削減目標を達成できなかった。

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Reuters (1/4)


その他のニュース

1.エネルギー転換
 (ア)新たな化石燃料開発
  ①英国
   HSBC銀行が石油・天然ガスの新たな開発への投資中止を表明 原文 (12/15)
 (イ)石炭の取り扱い
  ①石炭需要の増加
   IEA:2022年の全世界の石炭の消費量が過去最高に 原文 (12/18)
2.気候変動
 (ア)異常気象に伴う損害
  ①全世界
   2022年世界最大の自然災害はHurricane Ianで1000億ドルの損害 原文 (1/4)
 (イ)異常低温
  ①北米
   北米の寒波と欧州の記録的な暖冬が1月も継続 原文 (1/4)
3.気候変動緩和対策
 (ア)炭素回収貯留
  ①回収したCO₂の海上輸送
   アントワープ港:欧州委がCO₂の液化・輸出ハブとして支援 原文(12/19)
 (イ)排出権取引制度
  ①EU
   欧州理事会と欧州議会がEU ETSの見直しについて実質合意 原文 (12/26)
 (ウ)エネルギーの節約・効率化
  ①EU
   エネルギー効率の向上に関する基準引き上げ交渉の現状 原文 (1/2)
 (エ)国際的な連携
  ①Climate Club
   G7:エネルギー転換のための国際的なClimate Clubを創設 原文 (12/15)
4.航空機・航空燃料の環境問題
 (ア)持続可能な航空燃料
  ①EU
   航空脱炭素化に関するこれまでの合意内容と今後の展望 原文 (12/28)
5.生物多様性
 (ア)絶滅危険性予測
  ①南極
   皇帝ペンギンなど南極固有種の2/3が世紀末までに絶滅の危機 原文 (12/26)