週刊国際海洋情報(2021年12月25日号)
- 1.オミクロン株によってカリブ海・米国西岸のクルーズが影響を受ける
- 2.Poseidon Principles for Marine Insuranceが発足
- 3.スペインのバレアレス諸島などでクルーズ船の寄港制限
- 4.オミクロン感染拡大による労働者不足が国際物流の混乱を助長
- 5.米CDCに登録された111隻のクルーズ船の約2/3でコロナ感染が確認
- 6.(論説)メタノールとアンモニアが舶用代替燃料の本命か
- 7.船員交代問題:状況は改善するも依然として改善が必要
- 8.CDC:警戒レベルを最高に引き上げ、旅行者にクルーズ旅行自粛を勧告
- 9.米エネルギー省:再生可能燃料の生産拡大について情報提供を要請
- 10.独:既存の6基の原子力発電所の半分の3基を運転停止
- その他のニュース
1.オミクロン株によってカリブ海・米国西岸のクルーズが影響を受ける
米国でワクチンが効かないオミクロン株の感染が拡大するにしたがって、クルーズ船における小さい感染クラスターが発生し、カリブ海・米国西岸クルーズの運航に支障をきたしている。Holland America社が運航するKoningsdam号では、21名の乗員の感染が判明したため、太平洋に面するメキシコのプエルト・バヤルタ港の港湾管理当局は、旅客にも感染が広がっている可能性があることから寄港を拒否したため、同船は母港であるサンディエゴに戻って、すべての乗客を下船させた。Carnival Cruise LineもCarnival Freedom号で乗客を含む少数の感染者が確認され、カリブ海諸国から寄港を拒否された。フロリダ州では、デルタ株の感染ピーク時の5000人をはるかに超える3.3万人の新規感染が確認されている。
原文
December 20, 2021, The Maritime Executive
2.Poseidon Principles for Marine Insuranceが発足
海運業界のエネルギー転換を支援し、海運会社によるCO₂削減の透明性を高めるために、有志の金融機関がGreen Financeを進めるPoseidon Principles を設立しているが、その海上保険版として、12月15日、Gardをはじめとする6つの海上保険会社が、Poseidon Principles for Marine Insurance(PPMI)を結成した。PPMI参加保険会社は、自社が保険を引き受けている海運会社のCO₂削減実績を把握し、その情報を公開することにより、炭素中立保険連合(Net-Zero Insurance Alliance: NZIA)の目標である保険会社自身が2050年までに保険引受先の企業のすべてを炭素中立化するという目標の実現に資する。
原文
December 20, 2021, Poseidon Principles
3.スペインのバレアレス諸島などでクルーズ船の寄港制限
近年過剰な観光、特にメガクルーズ船が環境等に及ぼす影響に対する批判が強まっていることに加え、多くの観光地では、メガクルーズ船の日帰り観光客より、従来型の陸上の観光客の方が地元経済にメリットがあることから、クルーズ船の寄港を制限する動きが世界各地で進んでいる。例えば、スペイン領の地中海のバレアレス諸島では、大手クルーズ船社とクルーズ船国際協会(CLIA)との合意が成立して、バレアレス諸島の首都であるマヨルカ島のパルマ港では、2022年からの5年間クルーズ船の寄港を制限することとなった。この合意によって、対2019年実績比で、クルーズ船の総寄港回数が約14.5%減少することとなる。仏領ポリネシアでも、2022年から収容乗客数2500人以上の大型クルーズ船が寄港できる港が3港に制限され、美しいラグーンで有名なボラボラ島では1日当たりのクルーズ船観光客数の上限を1200人に設定し、乗客数3500人を超える大型クルーズ船の寄港を禁止し、乗客数700人以下の地元の小規模クルーズ船を優先させている。
原文
December 21, 2021, The Maritime Executive
4.オミクロン感染拡大による労働者不足が国際物流の混乱を助長
オミクロンの感染が拡大し、世界各国が様々な制限を強化する中で、世界中の物流事業者は、世界的な大手企業から地域の中小企業まで、物流労働者の十分な確保が困難な状況になっている。国際道路輸送組合(IRTU)によれば、物流事業者が平常時に比べて高い賃金を提示しているにもかかわらず、オミクロンの影響で、トラック輸送に従事する運転手の数は20%減少している。Drewry社は、2022年も年間を通じて、労働者の不足と健康問題への懸念が続くと予測しており、海運においては、Neptune Declaration Crew Changeによれば、当初の雇用期間を超えて船上で継続して働かなくてはいけない船員の比率は、7月半ばに9%に達したのをピークに、現在は5%以下に減少したものの、海運企業はこうした長期間労働を経験した船員が船に戻ってこないという問題に直面している。
原文
December 21, 2021, AJOT
5.米CDCに登録された111隻のクルーズ船の約2/3でコロナ感染が確認
米国疾病対策予防センター(CDC)には、111隻のクルーズ船が登録されており、来年1月15日まで有効な「条件付き運航命令」に従い、乗客・乗員にコロナの感染(疑いも含む)者が出た場合は、CDCに報告することが義務付けられている。過去1週間でCDCには、75隻のクルーズ船から感染者に関する情報が報告されており、CDCの基準では、感染者が出た場合でも乗客総数の0.1%以下で、乗員に感染者が出ていない場合には、さらなる感染防止のための経過観察で済まされるが、この基準に合致したのは、75隻中9隻のみだった。残りの66隻については、CDCにより、乗客の健康管理手続きが適正に行われていたかなどについて、調査が既に行われ、または今後実施される予定となっている。CDCは現時点で感染対策の強化などを打ち出していないが、クルーズ船における感染事例の多発によって、寄港国側の政府は、カリブ海諸国やメキシコの寄港拒否に加えて、プエルトリコが新たにクルーズ船乗客の入国(上陸)条件の厳格化を発表している。
原文
December 28, 2021, The Maritime Executive
6.(論説)メタノールとアンモニアが舶用代替燃料の本命か
現状では、LNGが唯一のCO₂排出削減のための実用可能な代替燃料であり、LNGのための施設は将来的に炭素中立の合成・バイオガスにも使用できる。2050年までに海運の炭素中立化を実現するための代替燃料としては、国際エネルギー機関が5月に出した報告書によれば、アンモニアと水素が有力で、それぞれ、2050年には全バンカーの45%と15%のシェアを占めると予測している。但し、大型の外航船の燃料としては、高いエネルギー密度が必要で、既存の重油燃料と比べると液化アンモニアと液化水素のエネルギー密度は、それぞれ30%と22%しかなく、3.3倍と4.5倍の燃料タンクが必要となる。さらに、液化水素を貯蔵するためのタンクは重くて場所を取るので、長距離航海には向いていない。以上を検討すると、水素に比べてメタノールとアンモニアの方が、貯蔵・輸送時の取扱温度などの面で容易であり、取扱経験も豊富でより現実的な代替燃料と言える。但し、現状においてはアンモニアも化石燃料から製造され、再生可能なグリーンアンモニアを使用する場合、製造コストが課題となる。長距離を運航する大型船にとっては、まず化石燃料から生産したメタノールを使用し、長期的には水素から製造される水素に切り替えていくのが現実的で、メタノールを使用するために機関を改修する必要があるが、長期的にはコスト的に効率的な選択肢と考えられる。
原文
December 28, 2021, Standard & Poor’s Global
7.船員交代問題:状況は改善するも依然として改善が必要
国際海運会議所(ICS)などの支援を受けて、ロサンゼルス・ロングビーチ・ロッテルダム・シンガポールなどの拠点港湾においては、船員に対する無料のワクチン接種が実施され、The Neptune Declaration Crew Change Indicatorによれば、船員交代ができず、船上で当初の労働契約期間を超えて働き続けている船員の比率は、11月の7.1%から12月には4.7%に改善した。しかし、世界の約150万人の船員のうち、ワクチン接種を既に受けることができた船員は約1/4と想定され、この結果、船員交代のために国境を越えて移動する多くの船員は、オミクロン防疫体制を強化している各国の国境において、依然として困難に直面している。例えば、シンガポールと中国では、ウィルスの流入を防ぐために、船員の下船を許可する条件として、10日間の隔離とワクチン接種証明を要求している。本年9月の時点で、174のIMO加盟国のうち、船員を「基幹的な労働者(essential worker)」と認定している国は、わずかに60か国のみで、認定している国でさえ、現場の係官の扱いはまちまちで、多くの空港・港湾・国境で船員が優先的な取り扱いを受けておらず、優先的な取り扱いを証明する証書も交付されていない。
原文
December 29, 2021, The Maritime Executive
8.CDC:警戒レベルを最高に引き上げ、旅行者にクルーズ旅行自粛を勧告
米国疾病対策予防センター(CDC)は、コロナの警戒レベルを最高に引き上げ、クルーズ旅行について以下の勧告を発した。①ワクチン接種の如何に関わらずクルーズ観光に参加しないこと。②複数回ワクチン接種を受けた人でもコロナにかかり、感染を広げるリスクがあること。③船上の人々が近接している環境では、オミクロン株に簡単に感染するので、ブースターワクチンの接種を受けた人でも、クルーズ船上で感染するリスクは非常に高いこと。④クルーズ船上におけるコロナ感染拡大事例が報告されていること。⑤もしどうしてもクルーズ観光をするなら、ブースター接種を受けること。⑤クルーズ船に上船する旅客は、ワクチン接種の状況や症状の有無にかかわらず、乗船前3日以内と下船後3日以降5日後までに、検査を受けること。⑥ワクチン接種を受けていない旅客は、検査を受け、さらに下船後5日間は自主隔離を行うこと。⑦クルーズ船の共有空間では、乗客乗員は、マスクを着用すること。
原文
December 30, 2021, CDC
9.米エネルギー省:再生可能燃料の生産拡大について情報提供を要請
12月23日、米国エネルギー省(DOE)は、バイオ燃料の製造事業者や技術開発事業者から、持続可能な航空燃料(SAF)・再生可能ディーゼル・再生可能舶用燃料の生産規模の拡大について、現状でどの程度準備ができているかについて、意見を募集する「再生可能燃料の規模拡大・実証に関する課題の克服」に関する情報提供要請(Request for Information: RFI)を開始した。DOEは、第1世代のエタノール製造事業者などの既存の事業者が、バイオ燃料生産のための低コストの原料やインフラをどうすれば提供してくれるのか等の情報も聴取したいとしている。収集した情報をもとに、DOEの「バイオエネルギー技術室(BETO)」が、再生可能エネルギー生産拡大のための課題を把握し、2030年までの米国内における再生可能エネルギー生産計画を作成し、バイオ燃料生産関係者の技術開発を支援し、基礎技術を実証レベルに引き上げるために、DOEの果たすべき役割を検討する。
原文
December 23, 2021, 米エネルギー省
10.独:既存の6基の原子力発電所の半分の3基を運転停止
独政府は2011年に日本で発生した東京電力福島原子力発電所の事故の後、原子力発電の段階的廃止に取り組んできたが、12月31日、稼働中の原子力発電所の半数にあたる3か所の原子力発電所の運転を停止した。独における2021年の発電分担率は、再生可能発電が約41%、石炭火力が28%、天然ガス火力が15%、原子力が約12%となる見込み。独政府は、再生可能発電のシェアを2030年までに80%まで引き上げることを計画しており、残りの3か所の原子力発電所も2022年末までに運転を停止する予定。原子力発電所の解体コストは1か所あたり11億ユーロ(約1440億円)で、放射性廃棄物の包装・清掃コストも含めると全体で94億ユーロ(約1.2兆円)のコストとがかかり、解体処分作業は2040年までに終了する見込み。
原文
December 31, 2021, Reuters
その他のニュース
1.気候変動緩和対策
(ア)CO2削減目標と実績
①G7
独新首相:G7議長国としての新年所感を発表(環境部分等要約) 原文12/31
(イ)Green Finance
①中央銀行による低利資金の供給
中国人民銀行がCO₂削減のための低利資金を供給 原文12/21
2.海事環境
(ア)代替燃料
①FuelEU Maritime
2022年:EUにおける航空・海運分野でのCO₂削減に関する論点 原文12/21
(イ)SOx排出規制
①SOx排出管理海域
韓国のSOx排出管理海域(SECAs)が2020年から実施 原文12/20
3.再生可能エネルギー
(ア)洋上風力発電
①独
独新政府:洋上風力発電能力を2030年までに30GWに拡大へ 原文12/29
4.気候変動
(ア)気温上昇
①北極圏
アラスカで19.4℃の異常高温を記録 原文12/29
(イ)海岸浸食
①ロシア北極圏
北極海の海氷の消失により毎年ロシアの海岸が7000haずつ浸食 原文12/20
5.パンデミック関連
(ア)クルーズ船の運航
①カリブ海
バハマ:MSCのクルーズ船にプライベートビーチへの寄港を禁止 原文12/31
6.海賊等個別事案
(ア)全体の状況分析
①2021年の総括
2021年に発生した海賊・武装強盗数は1994年以降最低 原文12/29
7.海運経済
(ア)EEXI規制・CII指標適用の影響
①LNG輸送船
EEXI/CIIの適用開始によってLNG輸送船の1/3に深刻な影響 原文10/15