週刊国際海洋情報(2021年12月18日号)
- 1.欧州委員会:欧州ガス市場を脱炭素化するための規則案を採択
- 2.欧州で寒気が強まる中、エネルギー価格が上昇
- 3.BPとMaersk TankersがDrop-inバイオ燃料の試用に成功
- 4.米国農務長官と運輸長官が連名でコンテナ船社に農産物輸送の正常化を要請
- 5.米国の海上貿易と戦略的競争力再活性化計画
- 6.米国議会下院:海運会社に対する規制を強化する2021年外航海運改革法を可決
- 7.カリブ海諸国:コロナ患者が発生したクルーズ船の寄港を拒否
- 8.IMO:ノルウェー政府と途上国へバイオファウリング防止技術支援
- 9.北極海北航路:2021年の輸送量は昨年より増加
- 10.Wartsila:フィンランド政府の支援で海運脱炭素化研究開発事業を始動
- その他のニュース
1.欧州委員会:欧州ガス市場を脱炭素化するための規則案を採択
12月15日、欧州委員会は、水素を含む再生可能・低炭素ガスの導入の促進によりEUのガス市場を脱炭素化し、欧州のエネルギー安全保障を確保するための一連の規則案について採択した。また、欧州委員会はEUのメタン戦略に従い、欧州のエネルギー分野と国際サプライチェーンにおいてメタンの排出量を削減するという国際的な約束を実施する方法も明らかにしたところその概要は以下のとおり。①提案された規則は天然ガスからバイオメタンや水素などの再生可能・低炭素ガスに移行するための条件を設定している。②規則の主要目的の一つは水素の市場を創設し、水素に投資するための適切な環境を整備し、EU域外から水素を輸入することを含む水素供給に必要なインフラの整備を可能とする。③水素市場に関する規則は、2030年以前と以降の2段階に分かれて適用され、水素インフラへのアクセス、水素の生産事業と輸送事業の分離、水素の価格設定などについて定めている。④水素専用インフラの整備促進、国境をまたぐ各国の供給網の接続の調整、必要な細則の整備のために、新たにEuropean Network of Network Operators for Hydrogen (ENNOH)を創設する。
原文
December 13, 2021, 欧州委員会
2.欧州で寒気が強まる中、エネルギー価格が上昇
欧州では、例年より弱い風による風力発電量の不足と、仏の原発の一部停止によって既に電力需給状況はひっ迫しているが、今週に入って、欧州のいくつかの首都では気温が氷点下まで下降することが予測され、電力需給がさらにひっ迫する見通しである。さらに、ロシアが独向けの天然ガスの供給を制限し始めた影響で、今年に入ってからエネルギー価格は制御不能状態に陥っており、天然ガスの価格は600%も上昇した。エネルギー価格の上昇はインフレを助長しており、オミクロン変異株の拡大と並んで政治家の頭痛の種となっている。ロシアとウクライナの間の地政学的な緊張の高まりが事態をさらに悪化させており、もしロシアがウクライナに侵攻することになれば、エネルギー価格はさらに高騰すると考えられる。冬季の気温がさらに低下して電力需要が増加した場合、専門家は1月から2月にかけて、欧州は停電の危機すらあると指摘している。
原文
December 13, 2021, Yahoo Finance (Bloomberg)
3.BPとMaersk TankersがDrop-inバイオ燃料の試用に成功
舶用燃料の大手供給事業者であり世界で約300隻のタンカーを用船するBPと世界最大のタンカー運航会社であるMaersk Tankersはデンマーク海事庁の支援を受けて、BPに用船されている製品タンカー2隻を使用して、バイオ燃料を混合した舶用燃料の試用実験に成功し、海運から排出されるCO₂の削減のために、新たな低炭素代替燃料であるバイオ燃料を既存の機関でもそのまま使えるDrop-in燃料として使用できることが明らかにした。試験に使われたMarine B30バイオ燃料は、30%の脂肪酸メチルエステル(FAME)と70%の低硫黄燃料油(VLSFO)を混合して製造されている。FAMEはリサイクルされた調理油と再生可能な油原料から製造されるが、普通のディーゼル油と類似した物理的な組成を持つが、無毒かつ生分解性の燃料である。FAMEの原料は国際的に認証された基準に基づき、持続可能性が保証されている。
原文
December 14, 2021, BP
4.米国農務長官と運輸長官が連名でコンテナ船社に農産物輸送の正常化を要請
米国農務長官と運輸長官は連名でコンテナ船社に対し、米国農産物輸出事業者が影響を受けている海上輸送手段の混乱を緩和し、輸出貨物と輸入貨物を平等に扱い、サービスを向上することによって、パンデミックによって生じたサプライチェーンの混乱を修復するように求めた。コンテナ船社は米国の輸出農産物に使用されるコンテナの数量を減らし、運航日程をたびたび変更し、不当な追加料金を課金し、通常の輸出農産物の荷役を行わずに空のコンテナを送り返すような行動をとっている。多くの海運会社は農産物輸出港であるオークランド港を抜港することによって、農産物輸出事業者に劣悪なサービスを提供し、貨物の引き受けを拒否している。運輸省と農務省はコンテナ海運会社に対し、米国西岸のオークランド港・ポートランド港などの余剰能力を十分に活用して、サプライチェーンの混雑を解消するように求めている。
原文
December 14, 2021, 米国農務省
5.米国の海上貿易と戦略的競争力再活性化計画
米国北東海事研究院の海洋政策経済センター(COPE)が標記計画を提言したところ、同報告書の中で指摘されている米国海運の現在の問題点の概要は以下のとおり。①米国籍船は全世界の商船隊の0.4%を占めるにすぎず、過去5年間だけでも船腹量を12%減少させた一方、同期間中に中国は55%増加させた。②米国の海上輸送はほぼすべて外国の商船隊に依存しており、米国の輸入貨物のうち、米国が所有している船舶で運ばれているのが2%以下、米国籍船で運ばれているのは1%以下である。③米国は海軍力で見ると、世界最強だが、商船隊の規模では21位にすぎない一方、中国は海軍力・商船隊の規模とも2位につけている。④国防総省は、外国籍のタンカーに大きく依存している結果、戦闘が長期間にわたった場合など、国家安全保障のリスクを増やしている。⑤法律で決められた戦時の海上輸送に必要な海上輸送能力と現状の船員・船舶数を比較すると、約1800人の船員と60隻の商船が不足している。
原文
December 15, 2021, Center for Ocean Policy and Economics
6.米国議会下院:海運会社に対する規制を強化する2021年外航海運改革法を可決
米国議会下院は12月8日標記超党派法案を可決し、上院に送ったところ、法案の概要は以下のとおり。①米国の輸出を促進するために、連邦海事委員会(FMC)の所掌に相互貿易(reciprocal trade)の確立を加える。②海運会社に対し、世界の海運業界におけるベストプラクティスに沿った「最低限のサービス基準」を担保することを義務付ける。③海運会社と港湾ターミナル運用会社に対し、超過保管料金・返却遅延料金などのいかなる遅延課徴金も連邦規則に従って、請求していることの証明を求め、証明できなかった場合は、罰金を科す。④超過保管料金・返却遅延料金の妥当性に関する立証責任を荷主から海運会社に移転する。⑤FMCが新たに定める規則に従い、海運会社が適切な理由なく、米国の輸出貨物の引き受けを拒否することを禁止する。⑥海運会社は、四半期ごとに、FMCに対して、輸出・輸入量の総数と、米国に寄港したコンテナ船毎の荷物を搭載したコンテナと空コンテナの実績を報告することを義務付ける。
原文
December 15, 2021, Logistics Management
7.カリブ海諸国:コロナ患者が発生したクルーズ船の寄港を拒否
12月18日にRoyal Caribbean社のSymphony of the Sea号で48人のコロナ感染者が出てから1週間もたたないで、同じRoyal Caribbeanが運航し、18日にフロリダを出港したOdessey of the Seasで、ワクチン接種済みの55人の乗員・乗客がコロナに感染したと22日同社が発表した。患者発生後、同船は2つのカリブ海諸国から寄港を拒否され、同社がバハマに所有する島の港湾に停泊している。同船では20日に18人の乗員の感染が最初に発見され、21日には36人と日を追うごとに感染が船内で拡大した。同船は予定通り、26日にフロリダに帰港する予定。
原文
December 16, 2021, CNN
8.IMO:ノルウェー政府と途上国へバイオファウリング防止技術支援
国際海事機関(IMO)はノルウェー開発協力庁(NORAD)から約400万ドルの支援を受けて、2022年から2025年までの4年間、外来性侵略生物の防止と船舶のエネルギー効率の向上を目指して、途上国に対してバイオファウリングに関する環境に優れた技術の移転(Transfer of Environmentally Sound Technologies: TEST)事業を実施すると12月14日発表した。この新規事業は地球環境ファシリティ(GEF)と国連開発計画(UNDP)と連携して、IMOが実施している既存のGloFouling事業を技術的に保管するもので、水中における船底清掃のための遠隔操縦ロボットや、船底の抗バイオファウリング塗料の状況を観測するための水中カメラの使用などバイオファウリング管理のための最新の技術的手法に関して、途上国への技術移転を促進し、当該技術を活用する人材の育成も図る。
原文
December 16, 2021, IMO
9.北極海北航路:2021年の輸送量は昨年より増加
ロシアの北極海北航路(NSR)の輸送量は、今年は秋の海氷の凍結が速く11月には多くの船舶の身動きが取れないという事態を招いたにもかかわらず、12月半ばの時点で3350万トンとなり、通年では3400万トンを超える見通しで、2020年の年間輸送実績である3300万トンを超え、直近の5年間で輸送量は350%増加した。輸送量の大部分はロシア北極圏で生産されたLNGと石油を輸送するタンカーによるもので、交通量の伸びは、石油・天然ガス産業の成長に支えられている。一方、欧州とアジアを結ぶ通過貨物量も12月半ばで200万トンとなり、2020年の実績である130万トンを超えた。2018年の輸送量と比べると300%以上の増加で、3年連続の増加となった。今年通過運航を実施した92隻の船舶のうち、79隻がロシア以外の船で、NSRの国際的認知度が向上しているものと考えられる。ロシアは、2024年までにNSR を利用する貨物の総輸送量を8000万トンに、2030年までに1.1億トンに引き上げる野心的な目標を掲げている。
原文
December 17, 2021, The Maritime Executive
10.Wartsila:フィンランド政府の支援で海運脱炭素化研究開発事業を始動
Wartsila社は、フィンランド政府から2000万ユーロ(約26億円)の支援を受けて、約200社と共同で、4年を事業期間とするZero Emission Marine事業を開始し、アンモニア・水素・水素派生燃料などの経済性のある炭素中立代替燃料を使用する機関と貯蔵システムの開発を通じて、2030年までに海運から排出されるGHGを60%削減し、2050年までに炭素中立を目指すと発表した。炭素回収貯蔵技術やバイオ燃料の開発も実施する。事業に参加する200社は、脱炭素代替燃料・燃料技術・船舶自動化・船舶の運航の効率化などの技術を有する大企業や革新的な中小企業から構成されるとともに、業界団体・研究機関・大学とも連携して研究開発を進める。近日中に同国のバーサにSmart Technology Hubが開設される予定。
原文
December 17, 2021, Offshore Energy Biz
その他のニュース
1.エネルギー転換
(ア)世界同時エネルギー危機
①EU
欧州エネルギー危機救済のため米国から多量のLNGが急送 原文12/16
(イ)原子力の取り扱い
①EU
EU首脳会議:エネルギー問題について合意形成できず 原文12/14
②ベルギー
ベルギー:既存のすべての原子力発電所を2025年までに閉鎖 原文12/16
(ウ)財源
①EU
EC:ETS収入や国境炭素調整課税を独自財源化することを提案 原文12/17
2.再生可能エネルギー
(ア)Green Hydrogen
①ドイツ
独:グリーン水素の生産促進のために9億ユーロの基金を創設 原文12/17
3.気候変動
(ア)気温上昇
①全世界の実績
WMO: 2020年に北極で観測された38℃を史上最高記録として認定 原文12/15
4.パンデミック関連
(ア)クルーズ船の運航
①米国
世界最大のクルーズ船で48人がコロナに感染 原文12/14
5.海賊等個別事案
(ア)ギニア湾
①赤道ギニア
ギニア湾でコンテナ船から6人の船員が誘拐される 原文12/13
6.競争政策
(ア)国家助成
①EU国家助成ガイドライン
EC: 気候・環境保護・エネルギーの新国家助成ガイドライン決定 原文12/15
7.港湾
(ア)自然災害
①クラン港
マレーシアの洪水でクラン港の機能が麻痺 原文12/13