週刊国際海洋情報(2021年12月11日号)
- 1.米国は2022年末までに海洋プラごみ削減のための国家戦略を作成すべき
- 2.欧州港湾協会:代替燃料供給インフラに関する欧州委員会指令案に対する意見
- 3.DNV:Maritime Safety 2012-2021
- 4.米大統領令:米国政府の活動も2050年までに炭素中立を義務付け
- 5.デンマーク:ギニア湾で補足した海賊を自国で訴追することを検討
- 6.IMO総会:新たな理事国を選出
- 7.EU:天然ガスと原子力の扱いについて委員長が最終判断
- 8.ノルウェーで2024年にも水素燃料船が運航開始
- 9.UMAS:海運の脱炭素化を進めるためにはEU ETSの更なる強化が必要
- 10.海運労使がオミクロン対策として新たな検疫システムを創設
- その他のニュース
1.米国は2022年末までに海洋プラごみ削減のための国家戦略を作成すべき
原文
2.欧州港湾協会:代替燃料供給インフラに関する欧州委員会指令案に対する意見
標記意見の概要は以下のとおり。①海運の脱炭素化は優先事項であり、海運のエネルギー転換の実現のためには、船舶に対する投資のみならず、港湾インフラに関しても多額の投資が必要となる。②平等な競争条件の確保と無駄なインフラ投資を避けながら、「汚染者負担の原則」に基づき、目標を達成する具体的な手段については各自が自由に選べるgoal-based approachを取ることが、海運からのCO₂を削減する最も効率の良い方法である。③代替燃料インフラの整備に関する規則(AFIR)の見直し作業を進めるにあたっては、海運の代替燃料に関するFuelEU Maritime指令の改正に伴って、どのような代替燃料についてどれだけ需要が発生するかという点を踏まえて検討する必要がある。
原文
November 29, 2021, ESPO
3.DNV:Maritime Safety 2012-2021
DNVがLloyds List Intelligenceと共同で作成した標記報告書の概要は以下のとおり。①2012年から2021年にかけて、全世界で船腹量はDwTベースで46%、100GT以上の船舶の隻数で11.6万隻から13万隻と16%増加した。②船腹量の増加にもかかわらず、船舶の年間事故件数は1922件から1537件と20%減少した。事故による船舶の年間全損数も132件から58件と56%減少した。同時期に船舶の不具合で出港禁止命令を受けた船舶の数も60%減少した。③このような安全性の向上の原因としては、システムのデジタル化・船級規則の近代化・船舶の質の向上・取締当局の取締強化・安全文化の改善などがあげられる。④しかし、脱炭素化対策としての代替燃料の導入に伴う船舶火災・爆発のリスクやデジタル化の進行に伴うシステムの複雑化・データーセキュリティの問題など新たな安全性の問題に対処する必要がある。
原文
December 6, 2021, DNV
4.米大統領令:米国政府の活動も2050年までに炭素中立を義務付け
米国の最大の土地所有者・エネルギー消費者・雇用主として、連邦政府の購買力を活かして、民間部門の炭素中立の呼び水となるために、12月8日、バイデン大統領は標記大統領令に署名した。具体的には、①30万戸の連邦政府の建物は、2030年までに100%脱炭素化した電力を使用する。②同年までに、政府が使用する60万台の車両を電気自動車にする。③連邦政府が6500億ドルかけて調達する物資・サービスを2050年までに脱炭素化する。③政府の建物が排出するCO₂を2032年までに半減し、2045年までに脱炭素化する。
原文
December 8, 2021, AP
5.デンマーク:ギニア湾で補足した海賊を自国で訴追することを検討
11月24日、デンマーク海軍のフリーゲート艦は、ギニア湾で海賊取り締まり行動中、公海上で不審船を発見し、ヘリで空中から偵察したところ、不審船上に、はしごなどの海賊が乗り込みに使用する用具を発見したため、海上からボートを使用して、不審船に上船した際に、賊と銃撃戦になり、賊を4人射殺し4人を拘束した。デンマーク裁判所は、賊を拘束して12月22日までに本国に護送し、裁判にかけることを認めた。しかし近隣の西アフリカ諸国との間では犯罪人引渡協定がなく、航空機で国外に移送することができない一方で、これらの近隣国の法律で賊が裁かれる保証もないという状況で、これらの賊をデンマークに護送するのは、輸送上も外交上も容易でなく、船舶を用船して本国に移送する選択肢は残るが、実行するのは難しい。賊は、上空ヘのリコプターから発砲された威嚇射撃に応じて、自己防衛のために応戦したもので、賊からデンマーク海軍に攻撃を仕掛けたのではないと裁判では反論することが考えられる。
原文
December 9, 2021, The Maritime Executive
6.IMO総会:新たな理事国を選出
12月6日から、IMOでは第32回総会が開催され、2022年から2023年の間の新たな理事国を選出した。理事国は主要海運国によるカテゴリーA(10か国)、主要海上貿易国によるカテゴリーB(10か国)その他の国のカテゴリーC(20か国)の合計40か国で構成され、我が国はカテゴリーAで連続当選を果たしているが、他のカテゴリーA国は、中国・ギリシャ・イタリア・ノルウェー・パナマ・韓国・ロシア・英国・米国で変動なし。カテゴリーB国は、アルゼンチンが落選して、スウェーデンが新に当選し、残りは、豪州・ブラジル・カナダ・フランス・ドイツ・インド・オランダ・スペイン・UAEとなった。カテゴリーCは、クウェート・ペルー・南アが落選して、代わりにカタール・サウジアラビア・バヌアツが当選し、残りは、バハマ・ベルギー・チリ・キプロス・デンマーク・エジプト・インドネシア・ジャマイカ・ケニア・マレーシア・マルタ・メキシコ・モロッコ・フィリピン・シンガポール・タイ・トルコが引き続き当選した。なお、今次総会で、IMO条約の改正案が承認され、改正案が加盟国数の2/3以上の国に批准されれば、理事国数が40から52に拡大されることとなった。
原文
December 10, 2021, gCaptain
7.EU:天然ガスと原子力の扱いについて委員長が最終判断
EUは2019年12月に「持続的金融分類規則」を採択し、詳細な実施規則については、「委任規則(Delegated Act: DA)に委ねられ、DAによって、環境に良いグリーンな投資か、過渡期において暫定的に認められる投資か分類される。12月9日に、EUは2022年1月から適用される分類に関する規則の一部である、再生可能エネルギー・海運・自動車生産に関する投資についての環境基準を承認したが、天然ガスと原子力の取り扱いに関する最も重要な部分は含まれず、来週のコミッショナー会議(閣議のようなもの)に諮られる可能性がある。同会議では通常担当コミッショナーが提出する案を議論して、最終的に委員長が承認するが、本件については、その重要性から担当コミッショナーからではなく、委員長自らが会議に提案する可能性がある。仏は他の12か国と連携して、原子力をグリーンな投資に分類することを主張しているが、オーストリア等反対の5か国は、原子力をグリーンな投資に認めることがEUで決定された場合には、欧州裁判所で争う構えを見せている。
原文
December 10, 2021, Euractiv
8.ノルウェーで2024年にも水素燃料船が運航開始
ノルウェーのWilhelmsenのグループの海運会社であるTopekaは、ノルウェー政府から2500万ドルの支援を受けて、1000kWhのバッテリーと水素燃料電池を動力源とし、液体水素を燃料とする2隻のゼロエミッション船を建設する計画で、十分な量の液体水素の供給が可能となる2024年を目途に運航を開始することを目指している。2隻の船舶はオフショア産業の供給基地となっているノルウェーの西岸のStavanger/Haugesund/Bergenなどの沿岸都市を結ぶ定期航路に就航し、一般貨物の輸送をするほか、水素燃料供給基地にコンテナに積み込まれた液体水素を運搬することを予定している。水素燃料供給基地は、将来的に他の水素燃料船にも水素を供給することを目的としている。
原文
December 9, 2021, The Maritime Executive
9.UMAS:海運の脱炭素化を進めるためにはEU ETSの更なる強化が必要
IMOも良く使うロンドン大学付属海運シンクタンクのUMASが、欧州環境防護基金(EDF Europe)のために作成した報告書の概要は以下のとおり。①本報告書は、海運がEU排出権取引制度(EU ETS)の対象となった場合に、実際に国際海運から排出されるCO₂の削減にどれだけ効果があるか、脱炭素燃料への投資をどれだけ促進できるかについて検討した。②結論としては、単純に海運を現在のEU ETSに組み込むだけでは、海運からのCO₂排出を大幅削減できないし、商業的な規模の脱炭素燃料(Scalable Zero Emission Fuels)の投資も促進できないと考えられる。③EU ETS市場におけるこれまでの排出権の最高金額であるCO₂排出1トン当たり67.75ユーロ(約8700円)では到底、2050年までに海運を脱炭素化する目標を達成できず、UMASの試算では約200ドルの排出権価格が必要となる。④また、現在の欧州委員会提案ではEEAとEEA域外国との間の航海については、実際のCO₂排出量の半分しかETSの対象にならないが、100%をETSの対象とすれば、EEA域内の排出と併せて、ETSの対象となるCO₂の量を70%拡充することができる。
原文
December 2, 2021, UMAS
10.海運労使がオミクロン対策として新たな検疫システムを創設
世界各国がオミクロン株検疫対策として、船員交代のために国際的な移動が必要な船員も含めて、外国人に対する入国制限を強化する中で、船員の交代要員が安全・確実に乗船するのを担保するために、国際海事雇用者理事会(IMEC)・国際海運会議所(ICS)・国際運輸労連(ITF)の3者は、独自の国際的な船員検疫のネットワークであるThe Crew Enhanced Quarantine International Programme (EQUIP)を新たに創設した。EQUIPは船員が検疫期間中、安全に滞在できる信頼できるホテルのリストを作成し、各国政府の検疫の基準が変化し・強化されても対応できるように、最高の基準とベストプラクティスに基づいて、労使が一体となって、最高の船員検疫制度を確立し、2020年末に世界の船舶で40万人の船員が契約期間を過ぎても下船交代できなかったような最悪の状況の再現を防止することを目的としている。検疫のための船員待機施設は、このプログラムの公式外部監査者としてのロイズ船級協会の検査・認証を受ける必要がある。
原文
December 16, 2021, ICS
その他のニュース
1.気候変動緩和対策
(ア)CO2削減目標と実績
①英国
英国CCC:COP26の結果を踏まえた英国の今後の戦略 原文12/2
(イ)炭素回収貯留(CCS)
①大気からの直接回収
EU: 大気中から年間500万トンのCO₂を回収することを計画 原文12/1
2.海事環境
(ア)代替燃料
①比較検討
LR: First movers in Shipping’s Decarbonisation 原文12/9
3.エネルギー転換
(ア)世界エネルギー危機
①EU
EUエネルギー大臣会合:エネルギー市場改革について結論出ず 原文12/3
(イ)化石燃料一般
①海外への投資の停止
米国:海外における化石燃料関連新事業への支援を停止 原文12/11
アフリカ諸国が先進国による天然ガス開発に対する金融停止に抗議 原文12/7
4.気候変動
(ア)気温上昇
①北極圏
NOAA: Arctic Report Card 2021 原文12/4
5.安全保障
(ア)オセアニア
①パラオ
USCG: パラオ政府の要請を受けて中国の海洋調査船をけん制 原文12/10
6.海洋経済
(ア)海底資源開発
①採鉱開始のタイミング
国際海底機構:海底資源開発を早ければ2023年7月から許可 原文12/10
7.プラスチックごみ一般
(ア)農業起因のプラスチック汚染
①土壌汚染
農業におけるプラスチックの使用と持続可能性 原文12/7