国際海洋情報(2021年12月10日号)

1.UMAS:海運の脱炭素化を進めるためにはEU ETSの更なる強化が必要

IMOも良く使うロンドン大学付属海運シンクタンクのUMASが、欧州環境防護基金(EDF Europe)のために作成した報告書の概要は以下のとおり。①本報告書は、海運がEU排出権取引制度(EU ETS)の対象となった場合に、実際に国際海運から排出されるCO₂の削減にどれだけ効果があるか、脱炭素燃料への投資をどれだけ促進できるかについて検討した。②結論としては、単純に海運を現在のEU ETSに組み込むだけでは、海運からのCO₂排出を大幅削減できないし、商業的な規模の脱炭素燃料(Scalable Zero Emission Fuels)の投資も促進できないと考えられる。③EU ETS市場におけるこれまでの排出権の最高金額であるCO₂排出1トン当たり67.75ユーロ(約8700円)では到底、2050年までに海運を脱炭素化する目標を達成できず、UMASの試算では約200ドルの排出権価格が必要となる。④また、現在の欧州委員会提案ではEEAとEEA域外国との間の航海については、実際のCO₂排出量の半分しかETSの対象にならないが、100%をETSの対象とすれば、EEA域内の排出と併せて、ETSの対象となるCO₂の量を70%拡充することができる。

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December 2, 2021, UMAS


2.NOAA:Arctic Report Card 2021

米国海洋大気庁(NOAA)が標記報告書を発表したところその概要は以下のとおり。①2020年の10月から12月は、1900年以来最も温かい秋となった。報告書の観測対象期間(2020年10月から2021年9月)の北極圏の地表温度は、過去7番目に高い気温で、北極圏は地球の他の地域と比べて引き続き2倍以上速いペースで温暖化が進んでいる。②ユーラシア北極地方における2020年夏の雪が降らなかった期間は、1990年の観測開始以来最も長かった。③グリーンランドの氷床は安定した時期が続いていたが、1998年からほぼ連続して氷床が減少している。8月にはグリーンランドの山頂において、歴史上初めて雪の代わりに雨が降った。④冬季の終わりの4月における海氷の量は、2010年の観測開始以来最も少なくなった。生態系を維持するうえで重要な多年生の古い海氷の夏の終わりにおける面積が、1985年の観測以来2番目に狭い記録となった。

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December 14, 2021, NOAA


3.海運労使がオミクロン対策として新たな検疫システムを創設

世界各国がオミクロン株検疫対策として、船員交代のために国際的な移動が必要な船員も含めて、外国人に対する入国制限を強化する中で、船員の交代要員が安全・確実に乗船するのを担保するために、国際海事雇用者理事会(IMEC)・国際海運会議所(ICS)・国際運輸労連(ITF)の3者は、独自の国際的な船員検疫のネットワークであるThe Crew Enhanced Quarantine International Programme (EQUIP)を新たに創設した。
EQUIPは船員が検疫期間中、安全に滞在できる信頼できるホテルのリストを作成し、各国政府の検疫の基準が変化し・強化されても対応できるように、最高の基準とベストプラクティスに基づいて、労使が一体となって、最高の船員検疫制度を確立し、2020年末に世界の船舶で40万人の船員が契約期間を過ぎても下船交代できなかったような最悪の状況の再現を防止することを目的としている。検疫のための船員待機施設は、このプログラムの公式外部監査者としてのロイズ船級協会の検査・認証を受ける必要がある。

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December 16, 2021, ICS


4.西アフリカ諸国が西側諸国による天然ガス開発に対する金融停止に抗議

COP 26において、米・加・西欧諸国などの20か国(日・中・韓・豪は参加せず)と世銀などの5つの国際開発金融機関が、CCSを用いない海外の化石燃料事業に対する金融支援の停止に合意したが、ナイジェリア・セネガルなどの西アフリカ諸国は「天然ガスは炭素中立達成の過程における「転換期の燃料」として重要であり、西側諸国による金融支援の停止は、大きな打撃になる。」と反対を表明した。一方、中国は53のアフリカ諸国首脳を集めた首脳会合で、再生可能エネルギーに加えて「一定の基準を満たした天然ガス発電所」の建設支援を約束したが、中国の支援はインフラ建設工事に必要な労働力を中国から持ってくるため、アフリカ諸国にとっては実利の薄い事業となりやすい。先進国が過去において経済成長のために天然ガスを活用してきたのは事実としても、アフリカ諸国としては、環境的に見て先進国と同じ過ちを繰り返す必要はなく、再生可能エネルギーに直接転換することにより、より安く・よりクリーンで・より早く経済成長することができると、天然ガスを転換期の燃料として認めることに反対する人々は主張している。

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December 7, 2021, Climate Home News


Webinar情報

1.CEFIA Japan Seminar 2021
December 17, 15:00-17:00
https://www.cefia-dp.go.jp/2021japan-event

2.Economist Impact: 7th Annual Sustainability Week
March 21-24
https://eventsregistration.economist.com/event/794ae119-be9a-4185-b2cd-83bad6be3146/regProcessStep1?rt=2doYuLJDI0mALmn_Ydi3Dg