週刊国際海洋情報(2021年12月4日号)

1.MEPC 77:コンテナ船社の団体である世界海運評議会(WSC)のコメント

標記コメントの概要は以下のとおり。①COP 26で海運の脱炭素化について高尚な声明を行ったのと同じ政府が、具体策を決めるIMOで前進できなかったのは残念。②コンテナ海運に関わる荷主や金融機関が求めているように、化石燃料からの脱却を可及的速やかに進め、気候変動に悪影響を与えない効率的な貿易を実現することは、コンテナ海運業界に働く者にとって、道義的責任である。③我々の業界にとって当面の課題は、脱炭素に転換するのに必要な技術や代替燃料がいまだ実用化されていないことであり、代替燃料が世界の主要港湾で補給できるインフラを整備するために、前進する必要があり、IMO加盟国がIMRB/IMRFの設立承認に逡巡しているのはとても危険。④IMRB/IMRF構想は、既に国連気候変動枠組条約参加の「緑の気候基金」から支援を取り付ける約束を得ており、構想を支持する加盟国数は増えたものの、MEPC 77で承認が得られなかったのは残念で、WSCはMEPC 78に向けて前向きな政府を支援していく。
 
原文
November 26, 2021, World Shipping Council

2.豪議会:洋上風力発電開発のための基本法を承認

11月25日、豪議会は、洋上風力発電施設と送電ケーブル敷設の枠組みを定める法律を承認した。現在最も開発計画の進んでいる事業としては、ビクトリア州沖の総発電規模2.2GWのStar of South事業と、Northern Territory準州で太陽光で発電した電力を海中ケーブルでシンガポールに送電する事業がある。Star of South事業はデンマークのCopenhagen Infrastructure Partners社が主導し、3000人の直接雇用を創出する見込み。現在計画中の洋上風力発電施設は、いずれも現在は石炭火力に電力を依存している工業地域のそばに立地する。ビクトリア州政府は、Star of Southを含む3つの洋上風力発電事業に4000万豪ドル(約320億円)の資金支援を実施する。洋上風力発電によって発電された電力によって「グリーンな」鉄鋼・アルミニウム・水素・アンモニアを生産することにより、2050年までに3330億豪ドル(約27兆円)の「グリーンな」輸出が可能となると見込まれている。
 
原文

November 25, 2021, Reuters


3.DNV:船舶の遠隔運航管理センターのオペレーターの能力認証基準を発表

人工知能に裏付けられたソフトウェアと船舶と陸上運航管理センターの接続性の強化によって、船舶の遠隔・自律運航の発展が可能となり、無人運航船の運航が近い将来に実現することが期待されている。こうした技術の可能性について、人々の信頼を得て認知度を広めるためには、遠隔・自律運航船について既存船と同等の安全性を確保することが重要であるが、これらの技術に対応した機器があっても、これらの技術を実際に活用して船舶の運航を監視・支援・管理するオペレーターの資格基準が存在してこなかった。そこで、DNVはKongsberg Maritime/ Wilhelmsen/ ノルウェー海事庁などと協力して、船級協会では最初となる船舶遠隔運航管理センターのオペレーター(Remote Control Centre Operators: RCCO)の能力認証基準と船舶運航支援のために奨励される行動基準(supporting recommended practice)を作成し、11月29日発表した。
 
原文

November 29, 2021, DNV


4.欧州委員会委員長:2030年までに緑色水素のコストが灰色水素を逆転

再生可能エネルギーから製造されるグリーン水素のコストはキロあたり6ユーロ(約770円)と、天然ガスから生産されるグレイ水素のコスト2ユーロ(約260円)/kgの約3倍もするが、最近の天然ガス価格の急上昇により、価格的にもグリーン水素が灰色水素と競争しうる状況になってきたと欧州委員会委員長は発言した。EU排出権取引市場における排出権価格も最近史上最高値を記録し、エネルギー多消費型の産業にとって、化石燃料から脱却するインセンティブが増えており、このこともグリーン水素の需要を増やすことによって、規模の経済による生産コストの削減になりうる。委員長はグリーン水素の生産コストを2030年までに1.8ユーロ(約230円)/kgまで削減することが可能であり、グレイ水素のコストを逆転することが可能と発言した。
 
原文

November 30, 2021, Euractiv


5.IEA:Renewables 2021

国際エネルギー機関(IEA)が発表した標記報告書の概要は以下のとおり。①2021年中に全世界で290GWの再生可能エネルギーの新たな発電施設が建設され、年間増加量としては史上最高となり、増加分の約半分は太陽光発電だった。⓶2020年から2026年までの6年間で、再生可能発電の総量は60%増加して、4800GW以上となり、現在の化石燃料と原子力の発電量を合計した量に匹敵する。今後5年間の世界の再生可能エネルギーの増加分のうち、中国が43%を占める予定で、これに、欧州・米国・インドが続き4者で再生可能エネルギーの増加分の約80%を占める見込み。③中国は、2060年の炭素中立を目指して、2030年までに風力と太陽光併せて1200GWを発電するという目標を立てているが、この目標は2026年にも達成される見込み。④欧州もFit for 55計画の資金支援を得て、国家エネルギー気候計画(NECPs)に立てている2030年までの目標を達成できる見込み。⑤インドは、2030年までに再生可能発電能力を500GWまで増加させる目標を立て、太陽光を中心として、2015-2020年の間の成長速度の倍の速度で再生可能発電を増やしている。⑥米国も2021-2016年の間の5年間に、前の5年間と比べて、65%速いペースで再生可能エネルギーの整備の速度を速める見込み。
 
原文

December 1, 2021, IEA


6.中国がインドネシアに係争海域での石油試掘を中止するように要求

インドネシアの国会議員によれば、中国政府はインドネシア政府外務省に対して、南シナ海の南端に位置するインドネシアのEEZ内にある北Natuna海のTuna海域においてインドネシアが6月30日から開始した石油ガスの試掘を直ちに中止するように初めて要求した。中国は同海域が九段線の内側で中国の主権下にあると主張している。中国はインドネシアにとって最大の貿易相手国であり、2番目の投資国でもあるので、同国の首脳は事を荒立てないために、中国の要求については公表していない。中国は、インドネシアが8月に米軍と実施した2009年以来毎年続けている恒例のほとんど陸域における軍事訓練についても、同国政府に対して初めて、同地域の安定を脅かすとして抗議を申し入れた。6月30日以来、同海域では、インドネシア船と中国の海警局の巡視船が至近で対峙を続けているのが、米国のCSISのアジア海事透明化イニシアティブ(AMTI)の衛星写真からも確認できる。
 
原文

December 1, 2021, Reuters


7.ECSA:ギニア湾におけるさらなる保安体制の強化を要請

欧州船主協会(ECSA)は、最近のナイジェリア南方海域における、海賊船とデンマーク海軍との間の交戦で死者が出た事件に関連し、依然としてギニア湾における海賊の脅威が高いことに対して、12月2日、改めて懸念を表明した。2021年1月から開始されたCoordinated Maritime Presence (CMP)は、ギニア湾における参加国の海軍力を調整し、ギニア湾沿岸のアフリカ諸国と連携し、海賊に対処する能力を増強する前向きな一歩であると評価する。ギニア湾において商船が安全に運航するためには、海軍の存在が不可欠であり、さらなる保安活動の強化が必要であることを、今回の事件は示している。ECSAはいくつかのEU加盟国が既に空軍と海軍をギニア湾に展開させていることを評価し、引き続きEU加盟国がCMPを優先事項として重視し、ギニア湾における海上保安を強化するために、適切な軍事力を展開することを希望する。
 
原文

December 2, 2021, ECSA


8.MEPC 77:北極海におけるBlack Carbon (BC)排気削減のための自主措置に合意

MEPC 77において、北極海における船舶から排出されるBlack Carbon (BC)の削減に関する法的な拘束力のない決議が採択された。決議では、船舶の旗国は、自国籍船に対して、重油燃料の使用を段階的に停止して、BCや煤の排出が少ないきれいな蒸留油を使用するよう奨励することが求められている。ノルウェーは2020年から、同国のスヴァールバル諸島周辺海域において、重油燃料の使用と輸送を既に禁止している。BCは雪や氷の表面に付着すると、太陽熱の反射率を落とし太陽熱を吸収して、雪氷を融解し、北極圏の温暖化を促進するが、北極海の海氷が減少して、船舶の交通量が増加した結果、2015年から2019年にかけて、北極海における船舶から排出されるBCの量は85%も増加した。船舶燃料を重油から蒸留油に切り替えるために機関の改造は必要なく、すぐに切り替えることが可能で、BCの排出量を50%から80%減少することができ、GHG削減と比べて、温暖化防止に即効性がある。
 
原文

December 3, 2021, High North News


9.ICS:各国政府にオミクロン対策として過剰な移動規制を実施しないよう要請

世界保健機関(WHO)が、オミクロン株を「懸念すべき変異ウィルス」に指定して以来、わずか1週間で、少なくても56か国が異なるレベルの旅行制限を導入しているが、WHOと世界労働機関(ILO)は、このような様々な制約が、運輸労働者や世界的なサプライチェーンに与える影響について協議し、勧告するために12月6日に緊急会合を開催する予定である。国際航空輸送協会(IATA)・国際海運会議所(ICS)・国際道路輸送組合(IRU)・国際運輸労連(ITU)は、各国政府に対し、過去2年間の教訓を生かして、性急で統一性のない入国規制を再導入して、国際的な運送に従事する労働者の移動の自由を制限しないように要請する。クリスマスの繁忙期で既に疲弊している世界の運輸労働者を支援し、サプライチェーンの制約を緩和するため、世界の首脳は共同で整合性のある決断力を持った行動をとるべきである。
 
原文

December 3, 2021, ICS


10.Kongsberg:世界初のフル規格の水素燃料電池で動くフェリーを開発

ノルウェーのKongsberg社は2013年からEUの補助を受けて、水素を燃料としたフェリーなどの船舶のための電動推進システムを開発するHySeas事業を、スコットランド・デンマーク・スウェーデン・イングランドの企業などとともに進めてきた。今回この事業の第3期目の最終段階として、水素を燃料とする燃料電池を使用した実物大の電動推進システムを作成し、水素を燃料とするRoPaxフェリーの最終設計のために、今後4か月間試験運転を実施し、水素燃料電池が既存の舶用ハイブリッド推進システムとうまく統合できるか検証を行う。試験運転で得られた情報をもとに、フェリーの設計を来年3月までに完了する予定で、燃料となる水素はフェリーの母港にある風力発電施設から供給される再生可能電力をもとにグリーン水素として供給される。
 
原文

December 2, 2021, Kongsberg


その他のニュース

1.気候変動緩和対策
 (ア)CO2削減目標と実績
  ①EU
   EUROSTAT: 四半期ごとの域内GHG排出量を定期的に発表へ 原文11/29
2.海事環境
 (ア)船舶解体
  ①EU
   EU: 船舶の解撤に再びバーゼル条約を適用へ 原文12/1
3.エネルギー転換
 (ア)原子力の取り扱い
  ①EU
   欧州委員会エネルギー担当委員:原発への投資強化の必要性を強調 原文12/2
4.再生可能エネルギー
 (ア)潮流発電
  ①英国
   英国政府:潮流発電事業に年間2000万ポンドの差額補助を実施 原文11/24
5.気候変動
 (ア)海水温の上昇
  ①サンゴ礁の白化
   GBR保全には気温の上昇を1.5℃以内に抑制する必要 原文11/16
 (イ)永久凍土の解凍
  ①建物・インフラへの影響
   2025年までに露北極圏に約140か所の永久凍土解凍観測点を設置 原文11/30
6.海賊等個別事案
 (ア)ギニア湾
  ①外国海軍とナイジェリアの主権
   ナイジェリア:デンマーク海軍による海賊射殺事件に疑義を表明 原文11/30
7.航空のCO2排出削減対策
 (ア)持続可能燃料
  ①米国
   United航空が持続可能な航空燃料100%の試験飛行を初めて実施 原文12/2
8.プラスチックごみ(一般)
 (ア)各国のプラごみ対策
  ①米国
   米国:方向性が定まらないプラスチックごみ対策 原文11/24
 (イ)途上国に対する支援
  ①インド
   UNDP: インド国内100都市におけるプラごみ管理強化を支援 原文12/3