週刊国際海洋情報(2021年11月27日号)

1.MEPC 77:加盟国がGHG削減戦略修正案を次回会合に提出へ

マーシャル諸島等が提案した2050年までの海運炭素中立化目標については、米国などが支持表明した一方で、サウジ・中国などの過半数の加盟国の反対で却下された。斎藤議長は、COP 26の合意結果に基づき、GHG削減当初戦略を強化すべきというコンセンサスが加盟国にあるとして、既に決定されているように2023年に実施される戦略の再検討の場で、現在のGHG戦略に対する修正提案がされるべきと取りまとめた。最終的に、加盟国は2022年に開催されるMEPC 78に戦略の見直し案を提出することとなった。

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November 25, 2021, Ship & Bunker


2.北極海北航路で15隻の船舶が海氷によって2週間閉じ込められる

過去数年間は、地球温暖化の影響を受けて、10月下旬から11月の上旬は、北極海北航路を船舶が砕氷船の伴走なしで航行できる状況だったが、今年は、10月の末の段階で航路上の大部分の海域が海氷に覆われ、現在では、ラプテフ海と東シベリア海の大部分が30cm以上の厚さの海氷に覆われ、特にウランゲリ島と大陸の間の海峡部分には、厚さ1m以上の多年生の海氷が航路を封鎖している。このような状況下で、北極海では15隻の船舶が、2週間以上動きが取れない状況になっている。
こうした状況に関わらず、11月の半ばまでは、1隻の原子力砕氷船のみが、動きが取れなくなった船舶の救出・伴走にあたっていたので、手が回らない状況であったので、最近もう1隻ディーゼル砕氷船が投入されたが、問題状況は完全に解消されていない。

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November 16, 2021, The Barents Observer


3.MEPC 77:ICSが失望を表明

11月26日に終了したMEPC 77の結果について、国際海運会議所(ICS)が失望を表明したところその概要は以下のとおり。①今回のMEPC 77は海運の大規模な脱炭素化の前提となる迅速なゼロエミ船の開発を加速化させるのに必要な様々なGHG排出削減措置を進めるための機会であったが、COP 26で表明された各国の約束が、IMOにおいては実際の行動として実現しなかったことに失望している。②50億ドル規模の国際海事研究開発基金(IMRF)の創設と炭素課税は、2050年までに海運の脱炭素化を実現するための唯一の方法であり、ICSは引き続き提案の実現に向けて各国政府と協議を続ける。③多くの加盟国が脱炭素化のための研究開発投資の大幅増額の必要性を認識していたにもかかわらず、IMRFに関する審議に十分な時間が確保されなかったのは残念である。④海運業界は、脱炭素化のために他の業界のように政府から補助金を欲しいと言っているわけではなく、業界の資金で必要なことをやらせてほしいと言っているだけである。⑤IMRFはすぐにでも実現できる唯一の提案であり、この提案が迅速に承認されなければ、IMOは海運の脱炭素化問題について真剣に主導する意思がないとみなされて、他の機関がこの問題に介入することを懸念する。

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November 26, 2021, ICS


4.ロイズ船級協会:MEPC 77結果概要(議題7:船舶からのGHG削減)

標記概要は以下のとおり。①ISWG-GHG 9の結果概要:燃料のライフサイクル分析(LCA)に関するガイドライン、揮発性有機化合物(VOC)排気管理に関するMARPOLの改正の必要性、メタン漏出に関しては、引き続きISWGで検討。②ISWG-GHG10の結果概要:GHG削減のための中期的対策については、現在のIMOの当初戦略に従い2050年までにGHG排出を半減するだけでなく、炭素中立目標を達成するために検討されるべきと多くの国が表明したものの、中期的対策に関する提案と具体的な討議はISWG-GHG 12で実施。③2050年までのGHG削減目標の見直し:小島嶼国(SIDS)等によって、2050年炭素中立を目指す決議案が提案・討議されたが、十分な支持が得られず、2023年春のMEPC 80までに、戦略の最終改定案が検討されることとなった。④国際海事研究開発基金:基本的にはMEPC 76と同じ議論が繰り返され、Common but Differentiated Responsibilities and Respective Capability (CBDR-RC)原則などに関する指摘を踏まえて、提案を再考し、ISWG-GHG 12で継続協議。⑤IMO情報収集制度(DCS)の改正:EEXIやCIIの評価をDCSに加えることなどについては、議論をISWG-GHG 12に先送り。船上のCCSで回収されるCO₂についてEEDIとEEXIに反映させる提案等については、MEPC 78に議論を先送り。

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November 26, 2021, Lloyd’s Register


5.韓国政府が2022年中にHMMを民営化へ

2016年に、韓国政府は倒産の危機に瀕していた現代商船に対し、韓国産業銀行を通じて、救済措置を実施した結果、同銀行と韓国海洋事業公社は、同社の多量の転換社債に加えて、合計で同社の株式の40%以上を保有している。もしこの転換社債をすべて株式に転換すると、韓国政府はHMM社の株式の70%以上を保有していることとなる。2021年に入ってから、HMM社は他のコンテナ海運会社と同様に高収益を上げ、経営が安定化してきたので、韓国政府は政府保有株式の売却の検討を始めていた。11月23日、韓国海洋水産部の副大臣は、記者会見で同社の株式を2022年上半期末までに売却をする計画を公表し、国内の財閥を中心に株式の売却先を選定すると発表した。HMMは韓国政府の支援を受けて、保有船舶を最新式の低コストの大型コンテナ船に置き換えることにより、年間1.7億ドル以上の収益を上げることを目標としていたが、現在ははるかに多くの収益を上げている。

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November 26, 2021, The Maritime Executive


6.スリランカの港湾でさらに支配力を増す中国

11月23日、スリランカ政府は、閣議で、インドと日本と共同で整備を進めていたコロンボ港東コンテナターミナル(ECT)の第2期建設工事を中国港湾工程(CHEC)に受注させることを決定した。ターミナルの運営自体はスリランカ港湾庁が行う。CHECは中国の国営企業である中国交通建設(CCCC)の子会社で、コロンボの有名なseafrontであるゴール・フェイスの近くに10億ドルをかけて建設されるColombo Port Cityやコロンボの郊外を結ぶ10億ドルの4車線の高架型高速道路など、スリランカの戦略的なインフラ建設を既に受注している。中国招商局港口控股はスリランカ南部のハンバントータ港とコロンボ国際コンテナターミナルの支配権を既に有しており、今回のECT開発事業への参入でスリランカの港湾に対する支配力がさらに強化された。

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November 24, 2021, The Hindu


7.比:セカンド・トーマス礁に関する中国の要求を拒否

セカンド・トーマス礁は比のパラワン島から195km沖にあり、比のEEZに含まれる一方で、中国の主張する九段線の内側に位置するので、比と中国が領有権を争っており、比海軍は同軍が所有していた旧米海軍の揚陸艇を意図的に同礁に座礁させ、その船に小部隊を1999年から駐留させて、同礁を実効支配している。先日も同部隊に食料を補給するための比軍の補給ボートが、中国の海警局の巡視船に放水されて追い返されるという事件が発生し、両国関係が緊張したばかり。中国外交部の報道官は、中国政府が比政府に対して、「約束を守って」不法に座礁させた揚陸艇を同礁から移動させるように要求していると、11月24日の会見で明らかにしたが、この発言に対して、比の防衛大臣は、11月25日、そのような約束はしていないし、揚陸艇を移動させるつもりはないとして中国政府の要求を拒否した。

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November 26, 2021, Reuters


8.EU:メタン排出規制(案)の概要

12月14日に、天然ガス規制関連パッケージの一部として発表される予定の標記規制の概要は以下のとおり。①石油・ガスの資源開発・生産・輸送・供給の過程で漏出するメタンと、操業中または既に閉山した石炭炭坑から発生するメタンなど、化石燃料から排出されるメタンが今回の規制の対象。(廃棄物や農業から排出されるメタンは対象外)②大気中にCO₂とメタンを放出する定期的なフレアリングと通気の禁止。③EU加盟国は、企業のメタン排出を監視し、規制違反者を処罰し、規制の実施を担当する監督官庁を決定する。罰金は、効果的・比例的・説得力があるもので、環境損害に対応するものと、違反状況が改善されるまで、定期的・継続的に事業者が支払わなくてはいけないものがある。④エネルギー事業者は、年間2回以上、メタンが漏出していないか検査点検を行い、500ppm以上の漏出が認められた時は修繕または交換を行わなくてはならない。⑤事業者は、監督官庁に対し、漏出源を特定したメタン漏出報告書と漏出検査・修繕計画書を提出しなくてはならない。

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November 25, 2021, Euractiv


9.デンマーク・オーフス大学:Cleaner Shipping(IMOへの勧告)

デンマークのオーフス大学の環境・エネルギーセンターが標記報告書を発表したところIMOに対する勧告は以下のとおり。①NOx/Tier III規則を2025年までにすべての新造船に、2030年までにすべての船舶に適用。②2025年にCO₂排出1トン当たり100ドルの炭素課税を導入し、その後、毎年30ドルずつ課税額を増額。③2024年から船舶の速度・出力制限を導入。④EEDIの削減率を2025年までに50%、2030年まで(技術的に可能であれば2028年まで)に75%に引き上げ。⑤船舶からのCO₂排出量を、1.5℃目標に合わせて削減。⑥海運からのCO₂排出量が世界の全CO₂排出量の3%を超えないことを決議。⑦CO₂・SO₂・NOx・微細粒子に関する標準化したラベリング制度の導入。⑧2025年から船舶からの前記排出物質に関するMRV制度を導入。⑨2025年から全海域におけるスクラバー洗浄水の排水を禁止し、2030年からスクラバーの使用を禁止。⑩2024年から北極海において、重油燃料の使用の禁止と煙道ガスから黒煙を除去することを義務付け。⑪2030年以降の新造船には、2020年におけるEUのトラック排ガス規制を適用。

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November 27, 2021, Aarhus University


10.MEPC 77:GHGの決着に関する現地(英国)一般紙(The Guardian)報道ぶり

IMOの現在のGHG削減戦略は、パリ協定の目標達成には極めて不十分な内容で、10月には国連事務総長が「不適切」と批判したが、MEPC 77においては、各加盟国に対し、IMO事務局長が「世界が我々の議論に着目している。」とし、斎藤議長が「COP 26の結果を踏まえ、すべての分野でGHG削減の努力を加速化させることが緊急に必要」と述べたが、次回会合において、具体的な戦略の改定案を提案できるとしつつも、戦略の見直しは2030年のMEPC 80まで先送ることが合意された。マーシャル諸島とソロモン諸島が提案した2050年までの海運脱炭素化に関する決議も、加・日・NZ・ウクライナ・英・米・バヌアツ・アイスランドが支持しただけで、EU諸国・ジョージア・韓・バハマ・ノルウェーは、2050年の脱炭素化目標には賛成したが、決議の採択は反対した。ブラジル・中・露・サウジは脱炭素目標自体に反対した。環境NGOの連合体であるClean Shipping Coalitionは1.5℃目標の達成のためには、直ちに大胆なCO₂排出削減策が必要だったとコメントしている一方で、IMO事務局関係者は、「より高い目標を立てる」ことに合意したことは、戦略見直しのための「重要な第1歩」であるとコメントしている。

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November 24, 2021, The Guardian


その他のニュース

1.エネルギー転換
 (ア)水素生産の拡大と需要見通し
  ①EU
   EU天然ガス市場見直しに関する欧州委員会提案(非公式案) 原文11/23
 (イ)各国の計画
  ①独
   独連立新政権:2030年までに石炭火力発電を廃止 原文11/25
 (ウ)経済効果
  ①Oxford大学
   再生可能エネの導入によりエネルギーコストの大幅削減が可能 原文9/14
2.再生可能エネルギー
 (ア)洋上風力発電
  ①デンマーク
   デンマーク:ベルギーと独に洋上風力電力を供給 原文11/23
 (イ)再生可能エネルギー一般
  ①電化率の向上
   再生可能エネルギー価格の低下が電化の推進に与える影響 原文11/25
3.海洋環境
 (ア)ごみの不法投棄
  ①兵器
   海洋に投棄された武器による環境汚染・爆発のリスク 原文11/26