国際海洋情報(2021年11月26日号)

1.再生可能エネルギーの導入によりエネルギーコストの大幅削減が可能

オックスフォード大学の「新たな経済思考」研究所は、現在のエネルギー別の分担割合を維持するのと比べて、迅速に再生可能エネルギーへの転換を図ることにより、全世界で2070年までに26兆ドルの経済コストの削減が可能であると9月に発表した。もし、太陽光発電・風力発電・バッテリー・水素電解装置について、今後10年間、指数関数的に増加する現在のペースを維持できれば、25年以内にほぼエネルギーの炭素中立化が実現できる。一方、上記の技術の増加のテンポが現在より鈍化すれば、炭素中立化のためのコストは増加し、原子力に依存した炭素中立化はさらに多くのコストがかかる。迅速なエネルギー転換に合わせて、農業などの非エネルギー分野からのGHG排出を管理することができれば、エネルギーコストの大幅な節約とパリ協定の1.5℃目標を共に達成することは可能である。

原文

September 14, 2021, Oxford University


2.EU:メタン排出規制(案)の概要

12月14日に、天然ガス規制関連パッケージの一部として発表される予定の標記規制の概要は以下のとおり。①石油・ガスの資源開発・生産・輸送・供給の過程で漏出するメタンと、操業中または既に閉山した石炭炭坑から発生するメタンなど、化石燃料から排出されるメタンが今回の規制の対象。(廃棄物や農業から排出されるメタンは対象外)②大気中にCO₂とメタンを放出する定期的なフレアリングと通気の禁止。③EU加盟国は、企業のメタン排出を監視し、規制違反者を処罰し、規制の実施を担当する監督官庁を決定する。罰金は、効果的・比例的・説得力があるもので、環境損害に対応するものと、違反状況が改善されるまで、定期的・継続的に事業者が支払わなくてはいけないものがある。④エネルギー事業者は、年間2回以上、メタンが漏出していないか検査点検を行い、500ppm以上の漏出が認められた時は修繕または交換を行わなくてはならない。⑤事業者は、監督官庁に対し、漏出源を特定したメタン漏出報告書と漏出検査・修繕計画書を提出しなくてはならない。

原文

November 25, 2021, Euractiv


3.デンマーク・オーフス大学:Cleaner Shipping(IMOへの勧告)

デンマークのオーフス大学の環境・エネルギーセンターが標記報告書を発表したところIMOに対する勧告は以下のとおり。①NOx/Tier III規則を2025年までにすべての新造船に、2030年までにすべての船舶に適用。②2025年にCO₂排出1トン当たり100ドルの炭素課税を導入し、その後、毎年30ドルずつ課税額を増額。③2024年から船舶の速度・出力制限を導入。④EEDIの削減率を2025年までに50%、2030年まで(技術的に可能であれば2028年まで)に75%に引き上げ。⑤船舶からのCO₂排出量を、1.5℃目標に合わせて削減。⑥海運からのCO₂排出量が世界の全CO₂排出量の3%を超えないことを決議。⑦CO₂・SO₂・NOx・微細粒子に関する標準化したラベリング制度の導入。⑧2025年から船舶からの前記排出物質に関するMRV制度を導入。⑨2025年から全海域におけるスクラバー洗浄水の排水を禁止し、2030年からスクラバーの使用を禁止。⑩2024年から北極海において、重油燃料の使用の禁止と煙道ガスから黒煙を除去することを義務付け。⑪2030年以降の新造船には、2020年におけるEUのトラック排ガス規制を適用。

原文

November 27, 2021, Aarhus University


4.MEPC 77:GHGの決着に関する現地(英国)一般紙(The Guardian)報道ぶり

IMOの現在のGHG削減戦略は、パリ協定の目標達成には極めて不十分な内容で、10月には国連事務総長が「不適切」と批判したが、MEPC 77においては、各加盟国に対し、IMO事務局長が「世界が我々の議論に着目している。」とし、斎藤議長が「COP 26の結果を踏まえ、すべての分野でGHG削減の努力を加速化させることが緊急に必要」と述べたが、次回会合において、具体的な戦略の改定案を提案できるとしつつも、戦略の見直しは2030年のMEPC 80まで先送ることが合意された。マーシャル諸島とソロモン諸島が提案した2050年までの海運脱炭素化に関する決議も、加・日・NZ・ウクライナ・英・米・バヌアツ・アイスランドが支持しただけで、EU諸国・ジョージア・韓・バハマ・ノルウェーは、2050年の脱炭素化目標には賛成したが、決議の採択は反対した。ブラジル・中・露・サウジは脱炭素目標自体に反対した。環境NGOの連合体であるClean Shipping Coalitionは1.5℃目標の達成のためには、直ちに大胆なCO₂排出削減策が必要だったとコメントしている一方で、IMO事務局関係者は、「より高い目標を立てる」ことに合意したことは、戦略見直しのための「重要な第1歩」であるとコメントしている。

原文

November 24, 2021, The Guardian


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