国際海洋情報(2021年11月24日号)

1.再生可能エネルギー価格の低下が電化の推進に与える影響

ポツダム気候影響研究員の研究者たちが、11月25日、Nature Energy誌に発表した研究の概要は以下のとおり。①太陽発電・風力発電技術の更なる向上に加えて、パリ協定の目標達成のために炭素税を導入した場合、化石燃料と比べて、電力の方が安いエネルギー源となる。②さらに、電気自動車やヒートポンプの導入と言ったエネルギーを使用する側の技術革新が進むと、エネルギーの最終需要がほとんど電力で賄われるというエネルギーシステムの抜本的な転換を誘発する。③バイオエネルギーと炭素回収技術が限定的にしか利用できないとしても、最終エネルギー需要に占める電力の割合を、現在の3倍の66%に引き上げれば、地球の気温上昇を1.5℃以内に抑制することは可能である。④このように高い比率の電化が進めば、バイオエネルギーへの依存度が下がる結果、バイオエネルギー生産に必要な土地や水資源の利用の削減につながる。

原文
November 25, 2021, Nature Energy

2.独連立新政権:2030年までに石炭火力発電を廃止

11月24日、独の新たな連立政権の政策合意が発表されたが、石炭火力発電については、現在の廃止目標の2038年から2030年に大きく前倒しされた。このため、2030年までに新たに太陽光発電を200GW、洋上風力発電を30GW整備することにより、最終エネルギー需要に占める再生可能エネルギー比率の目標を現在の65%から80%に引き上げる。化石燃料への依存の脱却を促すため、炭素課税を強化し、電力以外の代替燃料として水素燃料の開発・普及を加速する。原子力発電については、これまでの予定とおり、2022年末までに廃止する。排出権取引制度については、EUで最低取引価格に合意できない場合、独として最低価格をトン当たり60ユーロ(約7700円)に設定し、排出権取引の対象範囲を暖房と交通にも拡大する。以上の発表を受けて、EU ETSの取引価格は、24日に、これまでの最高値を更新し、73.18ユーロ(約9418円)となった。

原文

November 25, 2021, Reuters


3.MEPC 77:ICSが失望を表明

11月26日に終了したMEPC 77の結果について、国際海運会議所(ICS)が失望を表明したところその概要は以下のとおり。①今回のMEPC 77は海運の大規模な脱炭素化の前提となる迅速なゼロエミ船の開発を加速化させるのに必要な様々なGHG排出削減措置を進めるための機会であったが、COP 26で表明された各国の約束が、IMOにおいては実際の行動として実現しなかったことに失望している。②50億ドル規模の国際海事研究開発基金(IMRF)の創設と炭素課税は、2050年までに海運の脱炭素化を実現するための唯一の方法であり、ICSは引き続き提案の実現に向けて各国政府と協議を続ける。③多くの加盟国が脱炭素化のための研究開発投資の大幅増額の必要性を認識していたにもかかわらず、IMRFに関する審議に十分な時間が確保されなかったのは残念である。④海運業界は、脱炭素化のために他の業界のように政府から補助金を欲しいと言っているわけではなく、業界の資金で必要なことをやらせてほしいと言っているだけである。⑤IMRFはすぐにでも実現できる唯一の提案であり、この提案が迅速に承認されなければ、IMOは海運の脱炭素化問題について真剣に主導する意思がないとみなされて、他の機関がこの問題に介入することを懸念する。

原文

November 26, 2021, ICS


4.ロイズ船級協会:MEPC 77結果概要(議題7:船舶からのGHG削減)

標記概要は以下のとおり。①ISWG-GHG 9の結果概要:燃料のライフサイクル分析(LCA)に関するガイドライン、揮発性有機化合物(VOC)排気管理に関するMARPOLの改正の必要性、メタン漏出に関しては、引き続きISWGで検討。②ISWG-GHG10の結果概要:GHG削減のための中期的対策については、現在のIMOの当初戦略に従い2050年までにGHG排出を半減するだけでなく、炭素中立目標を達成するために検討されるべきと多くの国が表明したものの、中期的対策に関する提案と具体的な討議はISWG-GHG 12で実施。③2050年までのGHG削減目標の見直し:小島嶼国(SIDS)等によって、2050年炭素中立を目指す決議案が提案・討議されたが、十分な支持が得られず、2023年春のMEPC 80までに、戦略の最終改定案が検討されることとなった。④国際海事研究開発基金:基本的にはMEPC 76と同じ議論が繰り返され、Common but Differentiated Responsibilities and Respective Capability (CBDR-RC)原則などに関する指摘を踏まえて、提案を再考し、ISWG-GHG 12で継続協議。⑤IMO情報収集制度(DCS)の改正:EEXIやCIIの評価をDCSに加えることなどについては、議論をISWG-GHG 12に先送り。船上のCCSで回収されるCO₂についてEEDIとEEXIに反映させる提案等については、MEPC 78に議論を先送り。

原文

November 26, 2021, Lloyd’s Register


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