週刊国際海洋情報(2021年11月20日号)

1.Yara:世界初の電動コンテナ船の初航海を実施

肥料メーカーのYara/Kongsberg/海運会社のWilhelmsenは、世界で初の完全電動コンテナ船Yara Birklandを、政府系の再生可能エネルギー促進企業であるEnovaから1.3億NOK(約17億円)の支援を受けて開発してきたが、11月19日無事、初航海を実施し、2022年から商業運航を行う。Yaraは、港湾と工場の間の原料・製品の輸送を従来はトラック輸送していたが、同船の就航により、年間4万回のトラック輸送と1000トンのCO₂排出を削減することができる。同船は今後2年間で、自律運航の試験運航を実施し、最終的に完全電動・自律運航コンテナ船として認証を受ける予定。Yaraは肥料メーカーとして、これまでアンモニアを原料として使用してきたが、今後は、船舶燃料としての再生可能エネルギーから生産されるグリーンアンモニアの開発生産にも取り組む。

原文
November 19, 2021, Yara

2.ABS:米エネルギー省の支援で小型原子炉の商船への使用を検討へ

米国エネルギー省は、850万ドルを投じて、舶用原子炉を含む小型のモジュール炉の研究開発を支援し、その一環として、米国船級協会(ABS)に80万ドルを資金支援して、商船の動力として小型モジュール炉を使用する際の課題を検討させる。従来型の加圧水型原子炉は長年にわたって、軍事用船舶に使用されており、ロシアでは砕氷船など民間船にも導入されているが、今までは商船で原子力の使用は検討されてこなかった。
海運業界がゼロ炭素燃料の開発を急ぐ中で、原子力の利用が選択肢の一つとして浮上しており、小型モジュール炉を使用すれば、高いエネルギー密度によって、長距離運航が可能で、採算性も確保できる可能性がある。さらに、原子力電池を活用したマイクロ原子炉を使用すれば、従来型の加圧水型原子炉に比べて、単純で高度の安全性が保証される。

原文

November 19, 2021, The Maritime Executive


3.ロイズ船級協会:IMO第32回総会で採択される予定の主要決議の概要

標記決議の概要は以下のとおり。①Port State Control(PSC)の手順(PSC検査官のためのCode of Good Practice)に関する2021年決議: 現在のPSC手順に関する決議採択後に改正・発効した新たなIMOの条約・規則を踏まえて手順の内容を見直し。②「検査と証書の調和システム(HSSC)」に関する検査のガイドライン:1993年に総会決議されて以来、新たな規制の導入に応じて逐次見直されてきており、今回の決議はMSC 96から98までに導入された新たな規則に対応して見直し。③IMO規則実施コードの対象となる規則:MEPC74/75、MSC 101/102の結果を踏まえて追加。④パンデミックにおける船員の困難に対する包括的な行動に関する決議:加盟国に対し、船員を「基幹労働者」と位置づけ、陸上許可・船員交代のための出入国許可・ワクチンの優先接種・医療行為の提供の促進を要請。

原文

Lloyds Register


4.中国が大型砕氷船と半潜水式重量物運搬船の建造を計画

中国交通運輸部は、同国の拡大する海洋活動を支援するために、大型砕氷船と半潜水式重量物運搬船を建造するための入札仕様書を10月に公表した。大型砕氷船は、一帯一路構想の一部である2018年に発表されたPolar Silk Road構想における捜索救難活動に従事する予定で、重量物運搬船とともに2025年までに設計を終了することが求められている。中国は「北極海近隣国」として、同国の企業に対して、北極海北航路の利用を奨励しており、2022年までに衛星を打ち上げて、北極海北航路と海氷の動きを監視する予定。中国は、南極でも積極的な活動を続け、既に4つの観測基地を持っているが、現在5番目の基地を建設中。このような中国の積極的な活動が、米国やロシアとの間で地政学的な緊張関係をもたらしている。中国は既に2隻の中型砕氷船を保有しており、2019年にフィンランドの支援を得て中国で建造された砕氷研究調査船は、前進・後進両方向で2-3ノットの速度で厚さ1.5mの海氷を砕氷できる。

原文

November 13, 2021, South China Morning Post


5.INTERTANKO:2050年炭素中立目標支持を表明

国際独立タンカー船主協会(INTERTANKO)の理事会は、IMOにおいて、海運からのCO₂削減目標を引き上げ、2050年までに炭素中立を図ることを支持すると11月18日表明した。同協会は、この目標を達成するためには、乗組員の安全確保が重要であり、新たな技術や代替燃料の取扱いについて、乗組員の訓練を実施していくとしている。また、この目標を達成するための技術は現状において未開発であり、IMOにおいて国際海事研究開発基金(IMRF)の設置が速やかに承認され、研究開発を進める必要があると強調している。また、市場原則に基づく排出抑制促進措置(MBM)としては、国際的な燃料課金制度が、簡素で透明性が高く経済的にも妥当な選択肢であるとして支持を表明した。

原文

November 18, 2021, INTERTANKO


6.CCSを利用した化石燃料から作られるブルー水素の問題点

豪国立大学(ANU)の研究者がApplied Energy誌に発表した標記研究の概要は以下のとおり。①天然ガスまたは石炭から水素を生産した場合、炭素回収貯留(CCS)を使用しても多くのGHGを排出する。CCSによる炭素回収率を上げようとすると多額のコストがかかり、CCSを用いて生産したブルー水素に、CCSを用いないで生産したブラウン水素と比較して経済的に競争力を持たせるためには、排出されるCO₂1トン当たり22-46ドルの課金が必要となる。②各国の或いは国際的な水素戦略を作成する際に、ブルー水素生産時のメタンなどの漏出ガスについては十分考慮に入れられていない。③近い将来、再生可能電力と電解槽を用いて生産されるグリーン水素の生産コストの方が、ブルー水素の生産コストより安くなる見通しで、化石燃料とCCSの組み合わせで、水素の供給網を構築することは、脱炭素化の効果が低く、かつ経済的な競争力のない使われない施設を作ることとなる。

原文

November 17, 2021, Applied Energy


7.MEPC 77:ICSが国際海事研究開発基金の承認を強く求める

国際海運会議所(ICS)が国際海事研究開発基金(IMRF)の承認を求める声明を11月22日発表したところその概要は以下のとおり。①IMRFは外航海運に従事する船舶が消費する燃料1トン当たり、2ドルを海運会社が負担して、年間50億ドルを基金として積み立て、大型の外航船で使用可能なゼロ炭素燃料の技術的準備レベル(Technology Readiness Level)を早急に向上させるために使用される見込みで、加盟国政府や国民の税金は一切使用しない。②今回のMEPCで承認されれば、2023年までに運用開始が可能で、2050年までの炭素中立実現のために、2030年までに多くのゼロ炭素船を実現できる。③IMRFは2019年に提案され、デンマーク・ギリシャ・日本・パナマ・シンガポール・英国などの海運主要国に加えて、リベリア・ナイジェリア・パラオなどの途上国からも支持を既に得ている。④IMRF導入に伴う包括的な影響評価もすでに終了しており、各加盟国の経済に対するマイナスの影響はほとんどないことが分かっている。⑤MEPC 77でIMRFが承認されるか否かは、COP 26において各政府が誓約した炭素中立化が、実際に実現されるかどうかを試す最初の「リトマス試験紙」である。

原文

November 22, 2021, ICS


8.EU:「持続可能な炭素循環」に関する戦略案

12月14日に正式公表予定の標記戦略案の概要は以下のとおり。①本年初めに承認された欧州気候法によれば、一部の産業や農業から排出される2050年までに排出削減できない残存CO₂については、大気中からCO₂を回収することによって相殺される必要があり、この改修を進めて、2050年以降にCO₂の回収量が排出量を上回るnegative emissionの実現を目指す。②この戦略は、大気中からCO₂を回収し、長期間にわたって貯留する方法を拡充することを目的とし、自然をベースにした生態系を利用する方法と、人為的・技術的に回収する方法を共に活用する。③直接大気からCO₂を人為的に回収する(DAC)方法によって、2030年までに、年間500万トンのCO₂を回収する必要がある。④廃棄物等から回収したCO₂をプラスチックや燃料の原料として採用するのも有力な選択肢で、例えば、回収したCO₂をメタノールに転換すれば、化石燃料を原料としないプラスチック・冷却材・樹脂を製造することが可能で、2030年までに化学工業・プラスチック製造業で使用される炭素の最低20%はこのような再生炭素を原料とする。

原文

November 23, 2021, Euractiv


9.ロイズ船級協会:人工知能技術に関する認証業務を開始

人工知能(AI)技術は、ハードウェアとソフトウェアから構成される技術で、人間の監視・理解・決定能力を代替するものだが、海事分野においてもDigital Twins (DT)/Virtual Commissioning/自律運航システムなどの分野でどんどん活用されている。信頼できるAI技術とAI技術提供事業者をリスクなく最小のコストで海事関係者が見つけられるように、またAI事業者が既存の技術を簡単に市場から導入できるように、ロイズ船級協会(LR)は、AI技術提供事業者とAI技術自体に対する海事産業では初めてとなる認証業務を開始した。例えば、DT技術については、その完成度に応じてDT Ready/ DT Approved/ DT Commissioned/ DT Liveというように段階的に認証を行い、また個々のAI技術によってどのようなことができるか、どんなメリットがあるのか、どのようなapplication/機能に用いることができるかなどの情報も提供する。

原文

November 22, 2021, Lloyds Register


10.使用期限を迎える大量の老朽太陽光パネルの再利用の問題

現在世界中で大量の太陽光パネルが老朽化し、2050年までに約40億枚・7800万トンの太陽光パネルが廃棄される見込み。しかし、これらのパネルは、再利用可能な素材を簡単に取り出せるように設計されていないため、貴重な資源の再利用ができず、将来の太陽光パネルの生産の制約にもなりかねない。仮に以上の廃棄されるパネルから再利用可能な素材を回収することができれば、150億ドルの経済価値があり、20億枚の新たな太陽光パネルを生産することができ、新原料から生産するのに比べて、70%のGHG排出量を削減することができる。2020年には1000億トンの鉱物が採鉱されたが、そのうち、8.6%しかリサイクルされず、2019年には全世界で5360万トンも電子廃棄物が発生している。英国だけでも、2019年に1.6mtの電子廃棄物が出て、その中には1.48億ポンド(約228億円)の経済価値がある37.9万トンの希少金属が含まれていたと予測される。現状では、採鉱されている30種類の希少金属の平均再使用率は全世界で1%にも至っておらず、リサイクルのための技術開発が必要となっている。

原文

November 25, 2021, The Conversation


その他のニュース

1.気候変動緩和対策
 (ア)排出権取引制度
  ①EU
   EU排出権取引価格最高額を更新し71ユーロ超え 原文11/23
2.海事環境
 (ア)船舶から排出されるGHGの削減
  ①2050年までの炭素中立化
   MEPC 77: 第1日目の議論(2050年炭素中立化)の速報 原文11/22
  ②環境団体の意見
   環境NGOs: 海運のCO₂排出を2030年までに半減することを要求 原文11/19
3.エネルギー転換
 (ア)石油消費量の削減
  ①中国
   中国の石炭を消費する主要産業は2024年までに消費量を減少へ 原文11/17
 (イ)石油・ガス開発の拒否
  ①英国
   スコットランド首相:同国沖の新海底油田開発に対し反対を表明 原文11/17
4.海運経済
 (ア)カボタージュ規制の緩和
  ①中国
   中国:上海からのコンテナカボタージュ規制を一部緩和 原文11/19
5.海賊等個別事案
 (ア)ギニア湾
  ①各国海軍による連携
   ギニア湾でデンマーク海軍が海賊と交戦し海賊4人を射殺 原文11/25
6.海洋環境
 (ア)海洋プラスチックごみ
  ①新たな協定
   米:国連環境総会でプラごみに関する国際協定交渉開始を支持へ 原文11/19
7.IMO一般
 (ア)海洋環境保護委員会
  ①MEPC77
   ロイズ船級協会:MEPC 77の主要議題の概要(見通し) 原文
   MEPC 77: 2050年炭素中立を目指す決議案は承認されず 原文11/23